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世界を再起する方法(第2回/全3回)

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世界を再起する方法(第2回/全3回)

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「来たわ! あれね!」
 いくらゴーレム達が足が遅いと言っても、どこをどう追いかけたら追い付くのか解らなかったので、アピス・グレイス(あぴす・ぐれいす)は巽からの情報を色々経由して入手し、パートナー達と共に巽に合流してゴーレムを待ち構えていた。
 暫く待って、ゴーレムを見付ける。
 町から随分離れているせいか、グロスも油断しているのか、光学迷彩を解いているので一目瞭然だ。

「どれが、硬いやつ!?」
 ミルディア・ディスティン(みるでぃあ・でぃすてぃん)がハルバードを構える。
「何だ、貴様等!?」
 一体のゴーレムの上に、グロスの姿が見えた。
 誰何してから、グロスはしまったっ、と声を上げた。
 光学迷彩を解いていなければ、見つからずに逆に奇襲をかけてやれたのに、と思ったのだ。
「よおっし! それじゃあ、やるわよっ!」
 色々難しいことは解らない。
 でも、だからこそ、あのでかいの全力でボコってくるから! と、ゴーレムに向かって行ったミルディアを、宣言するなり鉄砲玉のように飛び出してここへ来たミルディアに慌てて付いて来たパートナーの和泉 真奈(いずみ・まな)がはらはらと見守る。

「みんな、ちょっと待って!」
と、ティアがゴーレムに雷術の魔法を撃った。
 あの中で、攻撃が通用しない硬化ゴーレムを見定める為だ。
 しかし攻撃魔法は、狙った場所と別のゴーレムに向けて、軌道を変える。
「あっ、”避雷針”……!?」
 グロスへの攻撃を逸らす為の仕掛けだ。これらのゴーレムにも付けていたのだ。
 攻撃を受けたゴーレムも、通常より頑丈に作られているのか、特にダメージらしいダメージは受けていないようだ。

「じゃあ、あたいがやるよっ!」
 シリル・クレイド(しりる・くれいど)が、六連ミサイルポッドを撃ち放つ。
 ゴーレムの群れにミサイルが撃ち込まれた。
「右端のが怪しい!」
「よしっ!」
 ミルディアが、言われたゴーレムに向かう。
 シリルに一番近いところにいたゴーレムが、向きを変えて向かってきた。
「貴様はそいつを相手にしていろ!」
 グロスは一体を犠牲にして、その他のゴーレムを引き連れて、先に進んで行こうとする。
「……行かさないよッ!」
 ミルディアが、果敢に攻撃を仕掛けながら、硬化ゴーレムを落とし穴に誘導した。

「こっちは、私達が!」
 硬化ゴーレムでない方のゴーレムを、アピス達が請け負う。
 元々、守護像や門番などとして使われる用に造られたゴーレムだ。
 生半可な攻撃であっさりやられるようには造られていない。
「それでも、止めるわ!」
 腕を振り回して攻撃を仕掛けてくるゴーレムの動きを見極めながら、アピスはランスを振り回して、ゴーレムに攻撃を仕掛ける。
「ボクもっ……!」
 アピスのもう1人のパートナー、ネヴィル・パワーズ(ねう゛ぃる・ぱわーず)も、機晶姫の身体を戦闘モードに変えて、アピスの援護をする。
「もういっちょ! 2人とも離れて! くっらえ――!」
 シリルが、エネルギーのチャージを終えて、機晶キャノンを発射した。
 ズシン、とバランスを失ってゴーレムが倒れる。
「やった?」
 一瞬顔を輝かせたアピスだが、ゴーレムは、すぐにむくりと起き上がった。
 一部損傷しているが、動けないほどではないようだ。
「……しぶといっ」
 アピスが眉をひそめる。
 硬化ゴーレムでない、通常のものでもこんなに手強いのなら、硬化ゴーレムの方はどうなのだろう。
 アピスはちらりとミルディア達の方を見る。その時だった。


「もおー! 大人しくこっちに来なさいよ――!」
 ミルディアと真奈が、必死で硬化ゴーレムを誘導するが、そう簡単には行かなかった。
 ゴーレムの攻撃は重く、まともに受けたら潰れてしまう。
 武器を持っていないのがせめてもの救いだ。
「ほんっとにこっちの攻撃効かないし! 何なのよ――!」
 口では文句を叫びつつも、身体は絶対に諦めない。
 真奈の援護を受けながら、ゴーレムを誘導する為にその足元に飛び込む。
 その時、ふっとゴーレムの動きが変わった。
「!? 何?」
 止まったわけではない。だが目に見えて鈍くなった。
「よぉっし! あたしにはラッキーの神様がついてる!」
 叫びながら、硬化ゴーレムの前を走る。
 さっきまでよりもかなりスムーズに、ゴーレムが誘導に乗ってきた。
 その場所を、ズシリ、と踏み込む。
 身体が傾いて、巽の造った落とし穴に落下した。
 全身が落ちる広さと深さは間に合わず、腰の上までが埋まる程度だったが、巽とティアがすかさず走り寄って、穴に速乾性セメントを流し込む。
 ゴーレムは暫くセメントの中でもがいていたが、やがてミシミシと上半身を前後に動かすだけになった。
「破壊できなくても行動を封じる方法など、いくらでも考えつきますよ」
 それを見て、巽が呟く。
 ティアが、地上に出ているゴーレムの上半身にセメントの残りをぶちまけた。

「はー、つっかれたあ――」
 ミルディアが座り込む。
「お疲れさま、ミルディ」
 回復を施しながら、真奈が労う。
「こっちも、終わったの?」
「うん、そっちも?」
 アピスが歩み寄り、ミルディアが頷く。
「途中で、突然ゴーレムの動きが悪くなったの。
 そこからは、何とか上手く行ったわ」
「うん、こっちもよ。何かあったのかな?」
 アピスの言葉に、ミルディア達も頷く。
「とにかく、先に行ってしまったゴーレムも何とかしなくては……」
「でも、一番手強いのを倒しちゃったもんね、あとは後続が応援に来てくれれば、もう楽勝よ!」
 シリルが笑う。
 倒したわけではないのですが、と、巽は思ったが、確かに、後続が来てゴーレムにとどめを刺し、あとは残りのゴーレムを片付ければ決着だ。



 戦闘の混乱に乗じて、鬼崎 朔(きざき・さく)は『隠形の術』を用いてひっそりとグロスに近づいた。
 隙がある、と感じた瞬間、迷わず奇襲をかける。
「!!?」
 一撃は、狙いを外さずグロスの腹部を抉った。
「ぐぼっ……!」
 朔はグロスの襟を掴まえると、ゴーレムの下に投げ、すぐさま自分も飛び降りて、グロスを拉致してその場を離れた。

 グロスは、ゴーレムの扱いに関しては常軌を逸するほどだというのに、それ以外については、呆れるほど弱い、と、朔は思った。
 恐らく、それ1つの能力に特化する為に、他の能力は捨てたのだろう。

「目的は、何です?」
 グロスへ攻撃した武器には、毒が塗ってあった。
 それの効果が現れ始め、腹部の負傷もあって、グロスの顔色がどんどん悪くなっていく。
「今更……何を言ってやがる……。
 神子を抹殺し、女王器を手に入れれば、俺は幹部になれるんだ!
 貴様、この俺様にこんなことしやがって……ただじゃすまないぞ!
 今なら許してやる。このロープを解いて俺を治せ!」
 この状況下でも不遜な物言いに、朔はグロスの腹部に蹴りを入れる。
 悲鳴を上げて、グロスが転がった。
「自分には、それの解毒はできませんよ。方法を知りませんから」
「何……だと……!?」
 これ以上知っている情報はなさそうだと見て、朔はそう教える。
 蹲っていたグロスが、蒼白として顔を上げた。
「きっ……貴様……! 早く、早く俺を放せ!
 解放すれば、いいことを教えてやるッ」
「情報が先です」
 冷たく言い放った朔に、口を開きかけてグロスはげほげほと血を吐いた。
「神子っ……神子のことだっ……!
 あのガキは、神子じゃない……。
 み、こ……を……みいだ、す、目を、持つ、も」
 激しい咳を繰り返しながら、グロスが、最後の一言まで口にすることは、ついにできなかった。



 混戦の中、グロスの姿を見失った。
 巨大ゴーレム達は動いて、他の仲間達と戦っている。
 クルードとアシャンテ達は、逃げたのか、隠れているのか、グロスの姿を探し、暫くしてようやく発見した。

 だが、見つけ出したグロスは、既に死んでいた。
「…………」
 ふーっ、と、クルードは目を閉じて、長い息を吐く。
 少しずつ緊張を体から逃がさないと、気が緩んで倒れてしまいそうな気がしたからだ。
「……くっ」
 アシャンテは何かを振り払うように頭を振って、ラズを見た。
「この男が死んだなら、ゴーレムも止まりますか」
「戻ろう」
 クルードがアシャンテを促す。

「動いてる……」
 アシャンテは声を漏らした。
「何故だ?」
 操る人物を失ったはずのゴーレムは全く変わらず動いていて、クルードは目を見張る。
「あいつの生死は関係ないというのか……」





「……おかしいわね、電話繋がらないわ」
 グロスと連絡を取ろうとしたメニエスは、暫く続くコール音に首を傾げた。
「誰かにやられちゃったのかしら」
「どうします?」
「ほっとくわ。別に何の義理もないしね」
 ミストラルの言葉にそう返して、メニエスは携帯の通話を切った。

◇ ◇ ◇


 もしも巨大ゴーレムが町に入って来た時の、市民の避難誘導の導線、町の巡回、女王器に関する情報の収集。
 クイーン・ヴァンガードの一員として、ホームタウンを護る為に、あらゆる可能性を考えて、脳内でシミュレートしていたのだが。

 最終防衛ライン、として、ツァンダまで戻ってきていたアリア・セレスティ(ありあ・せれすてぃ)は、それが杞憂に終わったという連絡を受けて、
「出番がなくなっちゃったわね。良かったんだか、悪かったんだか」
と肩を竦めた。
 稼動しているゴーレムはまだあるが、ツァンダへ行く前に何とかできるだろう。
「……良かったのよね」
 ツァンダに被害が及ばずに済んだ。
 そう、最終ラインである自分の出番があるようではまずかったのだ。
 ちょっと肩透かしを食らった気分なのは否めないけれど、犠牲が出なかったことにアリアはほっとした。