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砂上楼閣 第二部 【前編】

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砂上楼閣 第二部 【前編】

リアクション

「皆様お疲れ様でした。まずは次に行く前に皆さんの治療を」
エレーナ・アシュケナージ(えれーな・あしゅけなーじ)は、出撃前の天魔衆の治療を行う。
「信長公をちゃんと治療しないと、どこかの眼帯さんに怒られますからね」
エレーナは、特に、織田 信長(おだ・のぶなが)の治療を入念に行って送り出す。
(私としては後で信長公と戦うのに、
治療して万全にするのはどうかと思うのですが、
レオンさんがお互いベストコンディションで最後に戦いたいっていう望みを、
イリーナが叶えたいそうなので、仕方ないですわね)
そんな内心は見せずに、エレーナは真面目に治療を行ってみせたのだった。

天魔衆が飛空挺で去った後、イリーナ・セルベリア(いりーな・せるべりあ)
遺跡の入り口に罠を仕掛ける。
天魔衆の退路を断つために、遺跡を「逆制圧」するよう、レオンに言われているのだ。
準備が終わったところで、侵入者を警戒し、
黒髪ポニーテール、ブラックコートの変装を続けたままのイリーナは言う。
「さて、調査を開始するとするか」
スナイパーを目指すチューリップのゆる族、
トゥルペ・ロット(とぅるぺ・ろっと)は、光学迷彩を使用して遺跡の入り口に立ち、見張りをする。
あい じゃわ(あい・じゃわ)さんは前回、信長公にくっついてきたようでありますが、危険すぎであります。
 無事、薔薇学生と一緒に脱出できたからよかったものの……。
 もし、遺跡に潜伏していたら、お説教した上で逃がしてあげていたところであります)
トゥルペは思う。

フェリックス・ステファンスカ(ふぇりっくす・すてふぁんすか)は、古王国語の特技を生かして、遺跡の調査をする。
緋桜 ケイ(ひおう・けい)とパートナーの悠久ノ カナタ(とわの・かなた)も、
イリーナ達と一緒に調査を行う。
「前は薔薇学との争いやメニエス・レイン(めにえす・れいん)の放火で、
 調査どころじゃなかったからな……。
 落ち着いた今がチャンスだろう。
 まずはもう一度遺跡の最深部にある壁……扉を調査してみよう」
「同感だ。飛空艇を落とすほどの力がどこかにあるわけだから、調べておかないとな」
ケイにイリーナは答える。
「あの時点でアディーンは目覚めてなかった。
それに花嫁が大河を呼んだなら、
なぜ天魔衆の飛空艇まで同じ力で落とされたのが説明がつかない。
そうすると、遺跡の力だ。
国頭を弾き飛ばした扉とか……遺跡自体に意志があるんだろうか」
マッピングをしながら、イリーナは言う。
「殲滅塔が壊された今、何かしらの力あるもの、闇龍に対抗できる物があるなら良いが」
イリーナは、そんなことも考えていた。
ケイは、また、別の可能性を考えていた。
「俺は最初、あの扉は何らかの魔法による
 トラップやギミックで守られているものだと思っていたが……たぶん、そうじゃない。
 考えてみれば、この遺跡に封印されていたのはアディーンたち剣の花嫁だ。
 剣の花嫁……光条兵器は、元々ポータラカのテクノロジーによる産物。
 それはアディーンたちが、人を傷つける機能を持たないという、
 何か特殊な光条兵器を持つ剣の花嫁だったとしても変わらないはず。
 つまり、この扉も光条兵器のようなポータラカから伝わった、
 何らかの高度なテクノロジーで閉ざされている可能性が高い。
 光って浮かびあがる紋章も光条兵器に近いものを連想させる」
カナタは、周囲を見回す。
「ポータラカの代表的な技術は光条兵器だけではない。
 他には機晶姫もある。
 あの扉のギミックが、もし機晶エネルギーで動いておるのであれば、
 機晶石が扉やその周辺の近くに取り付けられておるはず。
 もしまだ扉を守る機能が生きておるようであれば、
 それを壊すか、取り外すかさえすれば、その機能も停止するかもしれぬ。
 光条兵器にしろ機晶姫にしろ、その技術は高度なもの。
 一見、扉は苔むした石造りの壁だが、
 もしこの扉がそれらに近い技術で作られているものだとすれば、
 何か目で見て判るような、もっと機械的な部分が近くにあるのではないか。
 例えばエネルギーを走らせているラインのようなものといったものよ。
 よく見て探してみなければな……」

フェリックスは、古王国語で扉の前に但し書きがあるのに気づく。
フェリックスは皆にわかるよう、読んで聞かせる。
「ここは女王陛下の寝所なり。
 我ら、女王の愛した物を、剣の花嫁に封ず。
 剣の花嫁を目覚めさせる者、寝所に立ち入れる者は純粋な者のみ」

「アディーンの羽扇は女王の愛用品、ということか?」
イリーナは言う。

「これは?」
ケイとカナタは、扉に刻まれた溝に気づく。
「ポータラカ製の防犯装置、みたいだねー」
フェリックスが言う。
ケイとカナタが、防犯装置のエネルギーラインを魔法で破壊して停止させると、寝所の扉が開く。

扉の奥は、大きな寝所であった。
「この魔方陣のようなものは、なんだ?
 それに、これは、血痕……?」
イリーナは、「女王の寝所」にそぐわない、まるで何か禍々しい実験が行われたかのような痕跡を発見する。

突如、一行の頭の中に声が響いた。

「神子を目覚めさせよ。
 この地に集いしは、神子の力に関わる者なり」

遺跡そのものに意志があるかもしれないと予想していたイリーナだったが、
まさに、遺跡が語りかけてきているのだと、一行は確信した。
「この遺跡に天魔衆も落とされたのは、神子の力に関わる者がいた可能性があるからってことか?」
「神子に関わる者がこの遺跡に呼ばれた?」
イリーナとケイは顔を見合わせる。
遺跡は肯定するかのように一度、光ると、告げる。

「神子を見出す者は、タシガンの地に」

そして、遺跡からすべてのエネルギーが失われ、ただの石造りの建物になる。
それ以上調べても、何か力が作動することはないのだった。