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砂上楼閣 第二部 【前編】

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砂上楼閣 第二部 【前編】

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タシガンの民と薔薇学の文化交流を、会談で提案したひとりである、瑞江 響(みずえ・ひびき)は思う。
(俺達に与えられたチャンスを活かしたい。
文化祭を成功させなければ……)
響は、パートナーのアイザック・スコット(あいざっく・すこっと)とともに、
文化祭の準備を行っていた。
訪れてくれたタシガンの住人達が楽しめるように。
校舎を綺麗に清掃し、
華やかに飾りつけ、わかりやすい案内板の設置などを行ったのだった。
もちろん、響とアイザックだけですべてを行うことはできなかったが、
呼びかけ人である響に賛同して、薔薇学生の多くは、真面目に準備をしてくれた。

「本日は、ようこそお越しくださいました」
丁寧な口調と態度で、響は来場者に接する。
蒼薔薇を差し出され、タシガンの人々は顔をほころばせる。
「この、地球の蒼薔薇は、人の手が作り出したものなのです」
響は解説する。
蒼薔薇には、アイザックがあらかじめリボンを結んで、来場者への感謝を示している。
「蒼い薔薇を見たいという、人々の情熱が、これを作り出したのです。
 会談でセシリア・ライト(せしりあ・らいと)さんが
 ハイサム外務大臣に言っていたらしいですが、
 花言葉は、『奇跡、神の祝福』です。
 俺達、地球人と、パラミタの皆さんが手を取り合って、
 神……女王の祝福の元、ともに暮らせる日を実現させるのも、不可能ではないと思います」
蒼薔薇について説明する響は、礼儀正しく、微笑みを絶やさない。
さらに、響とアイザックは、薔薇の紅茶を配って回る。
「薔薇の学舎で育てた薔薇で作っています。香りをお楽しみください」
「リラックスして楽しんでいってくれよな」

一方、サトゥルヌス・ルーンティア(さとぅぬるす・るーんてぃあ)は、文化祭を盛り上げるために、
軽食の屋台を出していた。
(僕、戦闘とか本来苦手なんだよね。
だから周りでいろいろな問題があるのは知ってるけど今は気にしない。
僕は文化祭を盛り上げることに集中するよ)
サトゥルヌスの用意したメニューは、プリン、ザッハトルテ、ベーグルサンド、紅茶とコーヒーであった。
「これはなんですか?」
「プリンは定番のカスタードプリン。
 ザッハトルテは少し甘めで、その隣に無糖の生クリームを添えてある。
 生クリームと一緒に食べてほしい。ちょうどいい甘みになるからな。
 ベーグルサンドは、
 クリームチーズ&生ハム、ローストチキン、アボカド&スモークサーモンの三種類がある。
 お好きなのを選んでくれ。
 紅茶はストレート、ミルクティー、レモンティーの三種類、
 コーヒーはアイスとホットの二種類だ」
人見知りのサトゥルヌスは、調理に集中し、カーリー・ディアディール(かーりー・でぃあでぃーる)が接客をする。
カーリーは、男装して、髪は高い位置でポニーテールにし、胸は晒で押しつぶしている。
(男口調は難しいわね)
そんなことを考えつつ、カーリーは、怪しい人物が通りかかったら、
警備担当者に報告できるように注意する。
ナイト・フェイクドール(ないと・ふぇいくどーる)は、会計を担当する。
(いっぱいがんばったらプリンいっぱいくれるってサトゥルヌスさんが言ってたのです!
 楽しみなのです〜♪)
人型時には、狼の耳と尻尾が常にある獣人のナイトは、尻尾をふりながら、
大好物で「主食」といっても過言ではないプリンをもらえることを期待していた。

佐々木 弥十郎(ささき・やじゅうろう)も、同じく、食べ物の屋台を出していた。
(警備でぎちぎちというのは文化交流として相応しくないよね。
 ワタシは真面目に文化祭をやろう)
「ジェイダス料理会」の料理人でもある弥十郎は、
地球の料理とシャンバラの料理を出店して、
食文化の違いを実際に見てもらうつもりだった。
地球の料理を何にするか迷った結果、弥十郎が選んだのは、うどんであった。
「これは基本となるうどんの種類以外のトッピングは、
 好きなものをセルフで取っていき、最後にあわせて清算する方法だよ」
食べ盛りの学生や、お財布への優しさも考えて、
弥十郎は、メニューを選んだのだった。
「これが、ふつうのかけうどん。これは肉うどん。こっちが冷やしうどんだよ。
 トッピングは、さつま揚げ、海鮮かき揚げ、ゆで卵、温泉卵の四種類。
 こっちのわかめと、青ネギと、テンカスと、おろし生姜は無料だから、
 好みで使ってね♪」
うどんの汁は昆布ベースの関西風にし、
冷やしうどんにはたまり醤油を使い、酸味が欲しい人用にスダチを添えている。
サトゥルヌスの屋台も、弥十郎の屋台も、珍しい地球の料理を提供しているということで、
タシガンの民が多く立ち寄っている。
「よーし、負けないよ!
 こっちはタシガンの郷土料理の『ツプチャプ』だよ。
 地球のうどんと食べくらべてみてね」
弥十郎のパートナー、真名美・西園寺(まなみ・さいおんじ)は元気に呼びかける。
「ツプチャプ」とは、クスクスのような麺を茹でた後、
その上に挽き肉を炒めたものや、
香辛料で焼いた肉などをトッピングし、
魚介系のスープを注いで混ぜて食べる料理である。
トッピングとして、
挽き肉の炒め物、肉の香辛料焼き、
タシガンで取れた魚のオイル漬けと茹でた野菜のペーストを用意したほか、
無料のトッピングで、好みでかける香草や辛い香辛料もある。
(屋台って楽しいね。
 料理人がお客さんたちと直に接することができるし)
西園寺は思う。
普段は兄弟のような関係ながら、
弥十郎を一人前にするために日々努力している西園寺だが、
お菓子作りでは超えられてしまい、うれしいけれど、ちょっとモヤモヤする日々である。
今回も、「屋台」という発想はなかったので、
シャンバラ料理では弥十郎に負けないよう、はりきっているのだった。

「サトゥルヌスさん、サトゥルヌスさん、
ボク達もがんばりましょうです!」
「うん、うどんやツプチャプを食べた人が、
 デザートを食べにきてくれたりするとちょうどいいかな。
 軽食がいい人にはベーグルもあるしね」
ナイトとサトゥルヌスは仕事の合間に会話する。
シャンバラ教導団からやってきた道明寺 玲(どうみょうじ・れい)は、
サトゥルヌスの店のベンチで、珍しい薔薇学の様子を楽しく見学する。
「それがしは女ですので、薔薇の学舎では男装せねばならないかと思っておりましたが、
 タシガンの一般の方々が大勢来られているし、
 その必要はなかったようですな」
(噂どおり、綺麗な容姿の方が多いですな。
 喫茶店で優雅で美しい給仕姿が見られるのは、
 心ときめきますな。
 良いものが見れれば自分の糧にもなるというものです)
玲は思う。
うどんの屋台を切り盛りしている弥十郎だが、
タシガンの住民にとっては珍しい料理に行列ができ、
大変そうなのを見て、玲は歩み寄る。
「それがしは執事です。
 できることがありましたら、お手伝いしますよ」
「どうもありがとう」
弥十郎は、玲に屋台を手伝ってもらうのだった。
玲のパートナーのイングリッド・スウィーニー(いんぐりっど・すうぃーにー)は、
サトゥルヌスの喫茶店でくつろいでいる。
美形で妖艶なカーリーに接客してもらい、
イングリッドはクールな態度を装いつつも、
うれしい気持ちでいた。
(綺麗になる秘訣というのは、やはり教えてもらえないのであろうな)
イングリッドは、そんなことを考える。
(しかし、文化祭とはいえ何か物々しい雰囲気がするのは気のせいであろうか?)
警備を担当している学生達を見て、イングリッドは思う。

そんな中、響は、周囲に提案する。
「一緒に地球のダンスを踊りましょう。
 タシガンに伝わる踊りもありましたら、ぜひ教えてください」
響は、フォークダンスなど、地球のさまざまなダンスに誘う。
「これは、若者の間で流行った踊りなんですよ」
ダンスが一通り終わった後で、響はパラパラを教える。
「よーし、俺様に続け!」
アイザックは、場を盛り上がるため、率先してダンスを踊る。

アイドルコスチュームを着て、騎沙良詩穂の指輪キャンディーを身につけた、
ノア・セイブレム(のあ・せいぶれむ)は、ステージに上がり、呼びかける。
「秋葉原四十八星華の一人のノアでーす!
 パラパラ盛り上がってるみたいですね!
 皆さん、私の歌に合わせて、踊ってくださいねー。
 精一杯唄っちゃいます☆」
ノアのパートナーのレン・オズワルド(れん・おずわるど)は、
地方の営業活動に来たプロデューサーを名乗り、特別コンサートを企画したのだった。
「なかなかにぎやかなことになっているね」
ジェイダス・観世院(じぇいだす・かんぜいん)がやってきて、レンに言う。
「パラパラは予想外だったが……。
 これは案外、警備として有効かもしれないな。
 一緒に踊りを楽しまずに、不審な動きをしている者がいたら、
 かなり目立つのだから」
レンは、周囲に聞こえない声でジェイダスに言う。
冒険屋として、各学校の校長とコネを作ろうとしているレンは、
堂々と警備をするのではなく、薔薇学生達にも自分達の正体を伏せて、
警戒を行うことを、ジェイダスに申し出ていた。
警備担当者の中にも、襲撃を行おうとしている者がいるかもしれないことを考えてのことであった。
「私もこれには驚いたよ。
 しかし、君のパートナーは実際にアイドルユニットのメンバーなのだから、
 ステージに立つのはごく自然なことだ」
「ああ、ごく自然なことだろう」
明らかに面白がっているジェイダスに対して、レンは、笑みを浮かべる。
(あくまで俺達はトランプの伏せカード。
切られない限りは伏せたままの状態でいさせてもらおう)
レンは考える。
(レンさんは色々考えているようですけど、せっかくのイベントです。
私の唄を聴きに来てくれた人の為に……)
「あなたの行く手に、いつも魔法と奇跡がありますように!」
ノアに向かって歓声が上がり、
タシガンの民、薔薇学生、見学に来ていた他校生がひとつになって、パラパラを踊るのであった。