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嘆きの邂逅~離宮編~(第5回/全6回)

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嘆きの邂逅~離宮編~(第5回/全6回)

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〇     〇     〇


 宮殿の地下は薄暗かった。
 非常灯のような明かりが僅かに灯っているだけだ。
「退路のない暗闇ならば、かえって単純明快だ……」
「拙者、狼でござるから、夜目はいいほうでござる」
 四条 輪廻(しじょう・りんね)とパートナーの大神 白矢(おおかみ・びゃくや)はライトもつけずに階段から廊下へと下りた。
「出来ることは多くない、前へ、ただひたすらに前へ……だぽん」
「周囲の警戒は任せ……ぷふっ」
「あっ、こら、笑うなぽん」
「いや、だって……ぽん、って、ぽんって」
「今はそんな場合じゃないぽんっ」
 輪廻は少し膨れながら、歩みを進める。
 超感覚を使うと、語尾に何故かぽんがついてしまう。
「はは、少しくらい肩の力抜けたほうがいいでござるぽん……あ」
「はは、お前も写ったぽん……計算どおり……ぽん」
 ぽんぽん言い合って、2人は顔を合わせて軽く笑いあう。
 とはいえ、決して安全な場所ではない。
 この宮殿地下で眠っているという騎士ジュリオの解放は、攻略隊の重要な任務だ。
 塔の確保に向ったメンバーも、こちらへと向ってくる筈である。
 輪廻と白矢は慎重に進みながら、塔に近い階段の方へと足を進めていく。
「輪廻君、いますか!?」
 ばたばた駆け下りる音がして、中央の階段の方から人物が現れる。
「こっちだぽん!」
 答えると輪廻と白矢は一気に廊下を駆け抜ける。
 通り抜けた部屋の中から、光条兵器使いが現れて、2人を追ってくるが今は合流が先だった。
 宮殿正面玄関の下辺りで、輪廻、白矢、声をかけたエメ・シェンノート(えめ・しぇんのーと)、パートナーの片倉 蒼(かたくら・そう)。それから、比島 真紀(ひしま・まき)サイモン・アームストロング(さいもん・あーむすとろんぐ)は合流を果たした。
 蒼が上の階、白矢が来た廊下、サイモンが反対側の警戒に当たり、現れる光条兵器達を倒していく。
 その間に残りのメンバーで、情報の交換と方針について簡単に決めていく。
「気配が沢山あります。特にこの下から感じるのですが下の階への階段がありません」
「この戦況からして、騎士ジュリオは敵の制圧下にあると思われます。解放にも十分注意すべきであります」
 エメ、真紀がそう言う。
「通っただけだが、こちら側の通路には下へ続く階段や特に怪しい部屋はなかったぽん」
 ぽんがついてしまうことに恥ずかしさを感じるが、超感覚を解くわけにも行かず真面目な顔で輪廻は説明をする。
「下に行く道を探しましょう」
「奥から更に嫌な感覚を覚えます」
 エメと真紀も真面目に答える。
「奥へ行くぽん!」
 輪廻がそう声をかけて、光条兵器使いを振り切って一行は北に続く通路を走る。
「ジュリオの居場所として、可能性が高いのは、中央部分あたりだと思うんだ。その辺りに階段があればっ」
 サイモンが銃で光条兵器使いを倒しながら言う。
「ありました。階段です」
 真紀が声を上げる。裏口に近い辺りに、細い階段がある。
「行かせ、ない。行かせ、ない」
 同じ言葉を繰り返しながら、光条兵器使い達が光の武器を手に斬り込んでくる。
 エメは盾で受けて、ブライトグラディウスで光条兵器使いの腹を貫く。
「私はここで退路の確保に努めます。必要なようでしたら、救援に向いますので連絡を……!」
 言いながら、次の敵に向かい、エメは武器を繰り出していく。
「畏まりました」
 通信機を持っていないため、パートナーの蒼もやむを得ずエメを残して皆に同行をする。その際に、エメと輪廻に禁猟区を施す。
「無理するなよ……ぽん」
 輪廻が言い、階段へと走る。
 残りのメンバーも退路確保をエメに任せて、一列になって、階段を駆け下りる。
 その先は真っ暗だった。
 ライトで明かりをつけると、下りた先にドアが1つだけあった。
「開けるよ」
 サイモンがピッキングでドアを開けて、中に入り込み銃を部屋に向ける――。
 動いている生物はいなかった。
 他のメンバー達も部屋へと入り込む。
 何も無いその部屋の中央は、祭壇のようになっており、そこに30代半ばくらいの男性が横たわっていた。
 腰に長剣。額にはサークレット。首に銀のネックレス、右腕に金の腕輪。指には指輪が2つ嵌められている。
 身分の高そうなヴァルキリーの男性だ。
 特に封印されているようではなく、ただ眠っているだけに見えた。
「封印の石は……ご本人が持っているようですね」
 真紀はジュリオと思われるその男に近づいて、腹の前で組まれた手の中にオレンジ色に光る石があることを確認する。
 彼の状態には、少し不自然さを感じる。
「罠などはないようだぽん」
 輪廻がそう言い、頷いて真紀は男に接近した。
「起こしましょう……いえ、その前に」
 真紀は少し迷った後、彼の手からまず封印の石に手を伸ばした。
 途端、男の身体がピクリと動いた。
「危険を感じます。気をつけて下さい」
 禁猟区に反応があり、蒼が声を上げる。
 真紀は強引に男の手から玉を確保し、即後方に跳んだ。
 直後に、男は手から光の弾が飛び出し、真紀へと飛んだ。背に強い衝撃を受け、真紀は壁に身体を叩きつけられる。
「……っ」
「ここは狭い。とりあえず上に行こうっ」
 サイモンが真紀の腕を引っ張って、引き摺るように部屋から飛び出す。
 男が身体を起こし、腰の剣を抜いた。
「返、せ……」
「早く行け!」
 輪廻がトミーガンで威嚇攻撃をする。
 その間に、真紀は玉を服の中に入れて、サイモンと共に階段を駆け上がる。
「ジュリオ、でござるか……!?」
 白矢はそう問うが、男は答えず斬り込んでくる。
 やむなく、忍び短刀で受ける。受けた途端に、強い光の攻撃を受けて、白矢はドアの外へと吹っ飛んだ。
「く……っ」
 輪廻が白矢を支えると、共に階段を駆け上がる。
 後方からの光の魔法攻撃が2人の背を打っていく。
「エメさん!」
 傷つきながら、一行はエメと合流をする。
 光条兵器使いは溢れるように次々に現れる。
 階段を上って現れたヴァルキリーの男はこう声を上げる。
「我はジュリオ・ルリマーレン。眠りを妨げし者に女王の裁きを!」
 パッと光が瞬いて、契約者達の身体に強い衝撃が走った。

〇     〇     〇


 機械を操作しているソフィアの側で、その様子を見守りながらふとはソフィアの腕にはめられている金色の腕輪に目を留めた。
 ソフィアは常にその腕輪を嵌めている。彼女の肌に吸い付くかのようにぴったりと嵌められたその腕輪は彼女の一部でもあるようで……それなのに円は違和感をも感じていた。
「その金の腕輪さ、似合わないよ」
 ソフィアの手が一瞬止まるが、直ぐに作業に戻る。
「ソフィアくんの趣味じゃないでしょ、たぶん誰かのプレゼントだろうとおもうけど。ソフィアくんをみて選んだんじゃないね、たぶん」
 眉をぴくりと揺らして、ソフィアは円に目を向けた。
「その人がソフィアくんを考えずに送ったものだと思う、自分で買ってつけようとは思ないでしょ?」
「これは彼への忠誠の証。気に入ってるのよ」
 ソフィアはそうとだけ答えた。
「その彼って、好きな人のことだよね」
 ソフィアは答えなかったが、円は言葉を続けていく。
「ボクね、ソフィアちゃんについていくって言ったじゃん。だからさ、ソフィアくんの理想のあの人に直接会って話を聞きたいんだ」
 ソフィアは円の言葉を聞きながらモニターを眺めている。
「正直理想の世界がどうこう言われてもわかんないからさ。今から、その人一緒に会いに行こうよ」
「……会いに行かなくても、来てくれるわ」
 ソフィアは軽く笑みを浮かべた後、モニターを指差した。
 そこには宮殿の屋上が映し出されている。ソフィアがパネルを操作して上空の映像を拡大していく。
 キメラと飛空艇の姿が在った。
 屋上にいる契約者からの攻撃が飛空艇に向った直後に、飛空艇の姿だけ消える。
 テレポートだ……と思った瞬間、後方に音が響き、円は振り向いて思わず身構えた。
「お疲れ様です、ヒグザ様」
 ソフィアは円をそっと後ろに庇いつつ、飛空艇に乗っていた男にそう言ったのだった。
「そんなガキと契約するとはな。それほど切迫していたのか」
 不機嫌そうな顔で、男は肩の傷を拭った。
「信用させるためには契約をしてみせる必要がありました。人質にもなりますし。彼女はヒグザ様にとって邪魔になる存在ではありませんから」
 ソフィアは早口で説明を続けていく。
「勿論、彼女のことを私が気に入ってしまったからというのもあります。私の言動が怪しいと教えてくれた人でもありますから。ご覧のとおり私達の邪魔をするつもりは全くないようですから、大丈夫です」
「説明というより、言い訳だな。まあいい。首尾はどうだ」
「概ね順調です。北塔付近に兵を集めました。キメラが揃い次第、本格的な掃討作業に移れると思います」
「そうか。だが、地上側は良い状況とはいえない。キマクの研究所は捨てることになった。研究所の殆どのキメラをこちらに向わせてはいるが、数はあまり期待しない方がいい。ヴァイシャリー側も意外に素早く迎撃に動いている。俺はここで休憩を入れつつ、地上側からキメラを送ることに専念することになる。部隊はクリス・シフェウナかお前に率いてもらうことになるだろう。御堂晴海については把握しているか?」
「いえ、分かりません。クリスさんへ連絡はいっていませんか?」
「無いようだ。不測の事態が発生した可能性もあるな」
 ヒグザは眉間に皺を寄せながら、簡単にソフィアと互いの状況を確認していく。
 5分ほどそうして話し合った後、ギラリと目を光らせて、ヒグザはテレポートでどこかに飛んでいった。
「……円」
 その後、ソフィアは円の方に目を向けて、軽く笑みを浮かべた。
「彼が私の大切な人よ」
「あんまり良い印象じゃないな」
 彼が消えた空間を見ながら円は言う。
「ボクはソフィアくんは気に入っているし、友達だと思うよ」
「ありがとう。でも彼のことを悪く言わないで。私にとって唯一無二の大切な人だから。でも……円も、私からすると友達というより、やっぱり大切な人かな」
 そして、ソフィアは小さく息をついた。
「……お願いね、円」
 声のトーンを下げてそう言って、ソフィアは円から目を逸らした。