シャンバラ教導団へ

百合園女学院

校長室

薔薇の学舎へ

嘆きの邂逅(最終回/全6回)

リアクション公開中!

嘆きの邂逅(最終回/全6回)
嘆きの邂逅(最終回/全6回) 嘆きの邂逅(最終回/全6回)

リアクション

 地下に下りた潜入班は更に下の階へと向っていた。
 携帯電話の電波が届かない場所である可能性が高いと踏んでのことだ。
「これ以上階段はありませんわ。きっとこちらに……」
 ロザリィヌが一気に駆け出す。素早さを上げている小夜子もリーアからの連絡を受けながら、共に走っていく。
「貴様ら……!」
 振り向いた警備の男を突き飛ばし振り払ってロザリィヌと小夜子は先に進むことを優先し、ロザリンドが武器を繰り出して、男の口を塞ぐ。
「部屋の中にも沢山気配がするよ。牢屋みたいだね」
 超感覚で探り、メリッサが言った。
「捕まっている人が他にもいるのかもしれない……だけど」
 危機に瀕していると思われるファビオが最優先だと、ケイは歯を食いしばり先を急ぐ。
「ファビオ様!」
 ロザリィヌはピッキングでドアを開けて中を確認していく。
「このあたりのはずです」
 言いながら、小夜子も片っ端ら確認をする。
「こちらの部屋の中に、更に扉があります」
 エノンが大きな扉のある部屋を発見する。
 ロザリィヌ、小夜子が突入し、ピッキングで開錠しようとするが開かないかない。
 直ぐに、ロザリィヌがクレセントアックスを振り上げて、叩き下ろす。
 強引に扉を叩き壊して、中に侵入する――。
 その部屋は研究室のような部屋だった。
 ガラスの向うに、横たわる男性の姿がある。
 携帯電話は持たされるかのように、持っていた。
 体は鎖やベルトでベッドに固定され、頭からはコードが延びている。
「ファビオ様……? 頭のサークレット、あんなものはしておりませんでしたわ!」
 ロザリィヌがそう言い、ガラスに斧を叩きつける。
 ひびが入ったところを、小夜子がブロウガン、ロザリンドがソードブレーカーを打ち付けて、必死に砕いていく。
 かなり強固な強化ガラスだった。
「ファビオ!」
 大きくガラスが砕けた途端、ケイが大声で呼びかける。
 ロザリィヌは傷つくのも厭わず、割れたガラスに手をかけて、中へと飛び降りる。服が裂けて、皮膚から血が流れ落ちる。
「酷く痩せて……やつれていますけれど、間違いありません。ファビオ様ですわ!」
 ロザリィヌがコードを引きちぎって、斧で金属を叩いていく。
 サイレンが鳴り響き、シャッターが下りていく。
「早く、身柄を……!」
 ロザリンドは下りてくるシャッターを肩で受けようとする。
「早く頑張って」
 メリッサも両手をあげて、シャッターを受ける。
「急いでください」
 小夜子はガラスを取り除き、運び出せるだけの空間を確保する。
「ベルトは切りました。金属は……ベッドの方を破壊します!」
「そうですわね!」
 エノンとロザリィヌはベッドに攻撃を加えて破壊し、ファビオの体を確保する。
「息はあるわ。しっかり!」
 エノンがファビオに近づいてヒールをかける。
「デカイ……抱えるのは無理かッ」
「わたくしも!」
 ケイがファビオを起こして彼の腕を肩に回した。ロザリィヌがもう1方の腕を自分の肩に回す。
 不本意だが引き摺りながら、シャッターの外へと歩き出る。
 シューッと音を立てて、気体が部屋に流れ込んでくる。
 仲間達を逃がした後、ロザリンドとメリッサも一緒にシャッターを離して扉の方へと跳んだ。
 音を立てて、シャッターが落ちる。
 休んでいる時間はない。直ぐに皆その場を離れる。
「しっかりしろよ、絶対助ける……連れて帰る」
 自分にも言い聞かせるように言いながら、ケイはファビオを連れてロザリィヌと一緒に出口を目指す。
 時々、建物が揺れる。地上階で激しい戦闘が行われているようだった。
「皆さんが引き付けてくれています。私達は脱出だけを目指しましょう」
 ロザリンドが言いファビオの前に立ち背に庇う。
 皆それだけを、ファビオを連れ出すことだけを考えて、階段の方へと走る。
「奥の階段の方が良いかもしれぬ」
 階段付近で待機していたカナタが言う。上階から戦闘音が響いてくる。
「では奥へ。大丈夫ですか?」
 ロザリンドがケイとロザリィヌに確認する。
 2人は強く頷いた。
 奥の階段を駆け上がり、無線で状況を確認しつつ、手薄な部屋や通路を通って、裏口を目指す。
「窓から出よう。大丈夫だ」
 窓を開けると、ケイはファビオを抱えて地獄の天使で生やした翼をはためかせて窓から飛び出す。
 皆も後に続いて、窓から外へ飛び出す。
 狭い裏庭を通り、一行は裏門から飛び出す――。

 裏門の外では、白百合団員と協力者達が工場から逃げ出した者達の捕縛に務めていた。
「ファビオ……?」
 掃除という名の掃討を行っていた野々が潜入班に気付く。
「ああ、生きてる。大丈夫だ、きっと」
 ケイが野々にそう答える。
 野々はこくりと首を縦に振って、デッキブラシをまた振り回し始める。
 聞きたいことが幾つかあるけれど、聞く機会はまたいつか訪れるだろうと信じて。
 暖かな光が辺りを包む。
 鈴子が神聖魔法で皆を癒していく。
「全員ガスを少し吸い込みました。念のため解毒もお願いします」
 ロザリンドが鈴子に報告し、鈴子は直ぐに解毒魔法を皆にかけた。
「地下に捕らえられている人がいる可能性があります」
 小夜子は無線機でリーアに地下の状況について説明をしておく。
「こちらへ。病院へ急ぎましょう」
 鈴子は手配してあった馬車の方へ、皆を誘導する。
「……っ」
 ファビオが小さな声を上げた。
「大丈夫か? ミクルの為にも頑張ってくれ」
 すぐに、ケイが声をかける。
「ファビオ様」
 ロザリィヌも、彼に囁きかける。
「離宮に下りるのなら一緒に向いますわ。わたくしも……以前アレナ様に酷い事を言ってしまったことを……謝りに行きたいのですわ」
 声をかけても反応を示さない。この状態ではファビオは少なくても離宮に下りることは無理なようだ。
 ロザリィヌは瞳を揺るがせながら、ケイと共にファビオを馬車へと運ぶ。
「それから、アユナ様のことを……此処まで来れたのは、あなたの事を想ったからですわ……? わたくしと違って強い子ですわ……一言でも……褒めてあげくださいませ……」
 彼にそう言い、ロザリィヌは馬車に残らずその場に残った。