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【ろくりんピック】欲望と陰謀の聖火リレー?!

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【ろくりんピック】欲望と陰謀の聖火リレー?!

リアクション




聖火リレー ヒラニプラ

 聖火は空京を抜け、ヒラニプラへ向かう。
 ここでは鉄道を特別に止めて、空京と本土を結ぶ鉄橋の上をランナーが走る事になっているのだ。
 命綱をつけるとは言え、鉄橋の無骨な鉄柵や枕木の向こうには、雲海が広がっている。数千mを落ちた先、世界の境界面を越した下には太平洋がある。ここに落ちれば、命は無いだろう。
 ここを走るランナーに、立候補がいないのも当然だ。
 この区間を管轄するシャンバラ教導団は、自校生徒からランナーを選出する事にした。
 白羽の矢が立ったのはルカルカ・ルー(るかるか・るー)
 教導団きっての天然ボケ……ではなく、「最終兵器乙女」との呼び名も高い使い手だが、本人としては、その呼び方に不満があるらしい。
 ともかく、ランナーに選ばれた栄誉にルカルカは高揚していた。
 ろくりんピックのお祭り騒ぎにあわせ、彼女は西のユニフォームに琴音の猫耳と猫尻尾つけている。猫の仮装で走るらしい。
「猫じゃないもん。女豹だもん」
 ルカルカは誰にともなく言いながら、聖火のトーチを空京最後のランナーから受け取った。
「ルカルカ、出撃します!」
 託されたトーチを高く掲げ、ルカルカは鉄橋の上へと勢いよく走りだして行った。


 風が吹きすさぶ鉄橋の上で、秋野 向日葵(あきの・ひまわり)が声を張上げる。向日葵やカメラマンは、複数人乗りの小型飛空艇に乗っていた。
「さーあ! 聖火リレーはついに、コースきっての難所、デンジャラスデスゲートであるヒラニプラ鉄道の鉄橋にやってきたよー!」
 ヒラニプラ鉄道からクレームが来そうだ。
「この超危険な地獄の橋を渡るのは……ご存知、最終兵器乙女ルカルカ・ルーさん!」
「だから、最終兵器乙女って誰のことよっ。……えっ、これ、映ってるの?」
 トーチを持って走っている最中に、追いついてきた飛空艇から急にカメラで写されて、ルカルカは焦る。
 向日葵は憎いほどの笑顔で答えた。
「うん! 世界中の人が、今テレビを通して、あなたを見ているよ」
 鉄橋の高さを物ともしないルカルカも、これには混乱してしまう。
 そんな状態なのに向日葵は「今回の抱負は?」などとマイクをつきつけてくる。
「あ……東西統一への第一歩として、聖火を繋ぎたくて……」
 教導団員として恥ずかしくない答えをしようと思うが、自分の声が遠くから聞こえてくる。ルカルカの思考回路がショートする。
(ええと……ルカルカ、何してるんだっけ? 何でマイクがあるんだっけ? マイク、マイク……あ、そっか! マイクがあるなら、歌わなきゃだね!)
「あっ、ちょっと?!」
 ルカルカは走りながら、併走して突きつけられた向日葵のマイクを奪い取った。
「ルカルカ、教導団校歌、歌います!」
 マイクで校歌を熱唱しながら、ルカルカは鉄橋の上を走る。

 歌いきると、ようやく頭が冷静になってくる。同時に自分がやっている事に気付いた。向日葵やテレビクルーがぽかんとして彼女を見ている。
(あああぁぁ、やっちゃったよおおぉぉ……!)
 ルカルカは全身の血の気が引く。
 マイクを押し付けるように向日葵に返すなり、ヒロイックアサルトを発動させ、脚力のすべてを解放した。ドップラー効果が発生する程の勢いで逃亡……走り去る。
(こうなったらもう、一刻も早く次の人に繋ぐしかない!)
 ルカルカが猛スピードで走ると、相対的にただでさえ強い風が、暴風となってトーチの聖火にあたる。
「ダメ! とにかく火は消えないで!」
 上官から「何があっても火を消すような醜態を晒してはならぬ」と厳命された事をルカルカは思い出す。
 炎の聖霊を呼び出し、それが消えてもファイアーストームに凍てつく炎……とにかく炎に関するスキルをありったけ使いまくって、聖火が消えないように尽くす。のだが。
 今のルカルカは焦りまくって、魔法が制御できていない。
 鉄橋を爆走するルカルカは、巨大な炎の塊となって突き進んでいく。なお本人は、炎への耐性を高めた装備なので無事だ。
 唖然として見ていた向日葵が、自分の仕事を思い出す。
「これは凄い! まるで炎の弾丸が鉄橋を突き進むようです! まさに炎の弾丸ランナー・ルカルカ!」
 テレビ画面的に実に迫力のある映像になった。
 もっともルカルカ本人は、ただただ恥ずかしくて激走していく。


 次のランナーはリース・バーロット(りーす・ばーろっと)だった。
「お疲れ様です。ここからは私にお任せくださいな」
 ルカルカから受け取ったトーチを掲げて、リースは走り出す。
 アンジェラ・クリューガー(あんじぇら・くりゅーがー)戦部 小次郎(いくさべ・こじろう)少尉とその部下が、透明のポリカーボネートシールドを構えて伴走する。
 アンジェラが右で、小次郎が左にときっちりとフォーメションを取って警護する。もちろん各員、禁猟区等の敵に備えたスキルを使用している。
 透明なシールドを使用している為、沿道の観客やテレビ中継の視界を遮るのも最低限に抑えられていた。

 小次郎はこれより前に、きっちりとミーティングも行なっている。
「今回の敵側の意図としては、ろくりんピックを失敗させて各陣営に亀裂や不協和音を発生させる事が一番の目的と考えられる。
 そこで単純に考えると、形上味方になった東側諸国で何かを起こすのはあまり得策ではなく、敵となる西側陣営で起こすのが一番利益となる。
 その中で軍事力を一手に引き受け、且つ信頼が低下している教導団を狙うのが、今後の戦争を視野に入れた場合、一番利益になる可能性が高い」
 あえて口には出さないが、彼が言う「敵」は、パラミタの某北の大国であるのは間違いない。
 小次郎としては、面白半分の襲撃を減らす為に、ランナーをすべて男性だけにしたいくらいだ。
 本当ならリースの代わりに小次郎がランナーを務めたいくらいなのだが、盾を扱う能力や見栄えから、リースがランナーを務める事になったのだ。
 ちなみに「ランナーすべてを男性」という案に賛成するのは、薔薇の学舎校長ジェイダス・観世院(じぇいだす・かんぜいん)くらいだろう。
 彼は自校の体育祭の折、古代オリンピックにならって生徒が全裸で競技を行なう事を提案したくらいだ。もっとも教師やイエニチェリ、生徒の反対でそうはならなかったようだが。

 しかし警戒とは裏腹に、襲撃のないままリースは走り終えた。
 次の走者は朝霧 垂(あさぎり・しづり)だ。西シャンバラのユニフォームに、男子教導団員の上着を赤く染めたものを羽織っている。
 朝霧 栞(あさぎり・しおり)は聖火受け渡しの際がもっとも狙われやすいのではないか、と、いつでも魔道銃を撃てる状態で、周囲を警戒する。
 垂が走り出すと、小次郎達が引き続き伴走して警備を行なう。
 さらに伴走するライゼ・エンブ(らいぜ・えんぶ)が垂に言う。
「僕がサポートするから、安心して走ってね〜。パワーブレス、ヒール、幸せの歌とそろってるから」
 周囲のものものしい様子やライゼの言葉に、垂は走りながら苦笑する。
「走るのなんて訓練で慣れっこだぜ。ゆっくり走るんだし、教導団相手にガチ戦闘しかけてくる奴なんているのかねぇ」
 垂に、沿道の向こうから聞き覚えのある声がかけられた。
「笑顔が足りないですよー! お祭りなんだから、スマイルスマイル」
 声の主は騎凛 セイカ(きりん・せいか)。彼女をかついた数人の生徒が、沿道を聖火リレーに併走している。
「俺たちのセイカはこっちだ!」とする有志生徒が集まって開いている騎凛セイカリレーだ。
 彼らにはグスタフ・アドルフ(ぐすたふ・あどるふ)が念のために、伴走しながら警護をしている。聖火リレー妨害を考える者が、セイカリレーを利用しようとする可能性もあるからだ。
 垂は横目にそれらを確認し、つぶやく。
「本当にやってるよ……。まぁ、セイカが喜んでるみたいだし、良いか……」
 垂はそのまま感情を抑えながら走り続ける。
 だが、しばらくして、こんな声が聞こえてきた。
「私を押さえるのはいいから、どんどん先に進んでください」
「お、おー」
 垂が見ると、セイカリレーの騎馬役達は彼女の太ももや足の感触を楽しむように、べたべたと触っている。
 それを見た瞬間、それまで真面目に走っていた垂も、我慢の限界に達した。
「ライゼ、パス!」
「ほえ?」
 垂はライゼの手に、聖火のトーチを押し付けた。そして仲間の護衛と観客をかきわけ、セイカリレーへと突進。セイカを不埒に触るかつぎ手に猛然と襲いかかった。
「その汚い手をセイカから離しやがれ!!」
「ぎゃー!! お許しをー!」
「これが許せるか!」
 実力の差と愛の力で、垂はかつぎ手をボコボコに叩きのめした。
 唖然としている同僚の中で、ライゼが笑う。
「あは〜。そりゃ〜目の前で騎凛先生に対してあんな事をされたら垂は怒るに決まってるよ」
 乱闘の様子を見守っていたセイカが、あらあら、というように叩きのめされてノビている連中を見る。
「騎馬がいなくなってしまいましたね」
 セイカリレーは早くも、これで終了か。
 しかし垂は、彼女をひょいと抱き上げた。
「よっしゃ、いくぜ! セイカ!!」
 垂はセイカを肩車すると、再びコースへと戻る。
「はい、騎凛先生!」
 聖火を灯したトーチを持って待っていたライゼが、セイカにトーチを渡す。
「?」
 不思議そうなセイカ。垂は照れまじりの笑みを浮かべる。
「これでWせいかリレーだ。……お祭りだし、な」
 先ほどのはしゃいだ様子のセイカを思い出し、垂は言った。彼女を肩車する垂には見えなかったけれど、セイカはとても嬉しそうに、にっこりと微笑んだ。
「それではWせいかリレー、出発です!」
 セイカは凛々しく道の先を示して言う。
「応!」
 垂は威勢良く応じると、聖火を掲げた騎凛セイカをかついで走り始めた。

 事態を静観していた小次郎は、内心頭を抱えながらも、垂とセイカの警護を行なう。
 現場の事後処理は、セイカリレーに随伴していたグスタフが行なってくれるだろう。
「これだけのスキに敵が動かなかったという事は、周囲に潜伏していないのかもしれませんが……それも策かもしれません。油断はされないように」
 小次郎は観衆に聞こえないよう、共に警護にあたる者たちに囁いた。

 垂の次のランナーは、男性兵士だった。
 二人で一本のトーチを差し出す垂とセイカに、笑みをもらす。
「おっ、まるでキャンドルサービスだな」
「バ、バッカ野朗! 何、言ってんだ!」
 垂は焦って、兵士をどつき飛ばした。
 リレーを終えたセイカに、向日葵が走り寄る。
「セイカ先生! ぜひ私たちと一緒に中継をしましょう! すべては視聴率のために!」
「……はい?」
 どうやら先ほどの騒動で、視聴率が上がったが為の勧誘らしい。
 これ以降、騎凛セイカは聖火リレーの解説者として、聖火リレー中継に同行する事となった。