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精霊と人間の歩む道~イナテミスの精霊祭~

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精霊と人間の歩む道~イナテミスの精霊祭~
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リアクション

 
「さあ、氷結の精霊長、カヤノ・アシュリング様も大絶賛! 雪だるま王国印のかき氷ですよ」
 そんな売り込みで、鬼崎 朔(きざき・さく)が『雪だるま王国』の勧誘を兼ねつつ、街の人たちにかき氷を提供していく。
「ふーん、これが雪だるま王国っていうのか。それってシャンバラ王国と関係あるの?」
「今は自警団といった所でしょうか。ですが、カヤノ様も所属なされていますし、精霊も人間も、種族問わず受け入れてくれる素晴らしい所です。これからイナテミスでも活動していきたいと思っていますので、もし何か困ったことがあれば、連絡をください。すぐに駆けつけますよ」
 質問をしてきた人へ、朔が宣伝および勧誘の言葉をかけていく。
「よくやるわね……そうそう、結局雪だるま王国ってどこで活動してんの?」
 見送る朔へ、カヤノが生み出した氷と言葉を投げる。
「……蒼空学園の一部の土地、あとは、とある氷室、それだけだ。先程は自警団と説明したが、実際は傍迷惑集団の一つと捉えられているだろう。だから、雪だるま王国を実質的に支援してくれる人々、それにより多くの土地が欲しい。精霊長であるカヤノさんが入国してくれたことで、実現への道が開けたのだ。後は行動を起こすだけだ」
 受け取った氷を製氷機で砕きながら、朔が受け取った言葉に答える。
「……ま、言い方悪いけど、あたいをダシにイナテミスと関係を結びたいわけね。街を守るタテマエを掲げて。……怖い目で見ないでよ、別に非難してないわ。似たようなことしてるあたいたちに、あんたたちを非難する権利なんてないしね」
「……どういうことだ?」
 訝しがる朔に、カヤノが『精霊指定都市』成立に潜む動機と思惑を告白する。エリュシオンの精霊のことなどを、朔は真剣な眼差しで聞き入る。
「ま、そういうわけだから。どうせならいっそ『土地が欲しいです』って言ってみたら? なんなら氷雪の洞穴とその近くくらいなら、あたいが用意してあげるわよ」
「……いや、申し出は有り難いが、これは私の独断専行でもあり……」
「そうなの? なら、『女王』に話をつけてくればいいわね。ミオ、来てるんでしょ? あたいが行って話してくるわ」
 言うが早いか、カヤノが最後の氷を朔に投げて飛び去る。
 受け取った氷が掌で溶けていくのも構わず、朔は小さくなるカヤノの背中を見送っていた。

「わーい、お父ちゃんに取ってもらったでー! ありがとな、お父ちゃん!」
「ああ! ネラの嬉しい顔が見れて、俺も嬉しいぜ!」
 射的で手に入れたうさぎのぬいぐるみを頭の上に掲げて、ネラがぴょんぴょんと飛び跳ねるのを森崎 駿真(もりさき・しゅんま)が笑顔で見つめる。意気揚々と挑んだものの、体格の影響で悔しい思いをしたネラの『お父ちゃん』として、駿真がリベンジの末手に入れたのであった。
「すみません、こういうのってあまりしたことがなくて……どうしました?」
「……あ、いや、な、なんでもない! 大丈夫、俺に任せとけって」
 隣では、お揃いの石を用いたアクセサリーの装着に手間取っていたセリシアにキィル・ヴォルテール(きぃる・う゛ぉるてーる)が手を貸そうとしたものの、流れる髪の間から覗く首筋のラインにキィルが見惚れ、声をかけられて慌てて平静を装う光景が展開されていた。
(皆、元気に賑やかで何よりだね。これからまだまだ考えなければいけない事も色々あるだろうけど――おっと、今日は気にしないんだった)
 駿真とネラ、キィルとセリシアの交流を見届けつつ、セイニー・フォーガレット(せいにー・ふぉーがれっと)が意識を別の所へ振り向けるべく周囲に視線を運んでいくと、そこに一つの光景を見つけた。
「あの、どう……ですか?」
「ええ、作った方の思いが感じられて、とっても美味しいですわ。……わたくし、こうしてあなた方におもてなしを受けるのは初めてでしたわね。共に力を合わせた方と、平和を祝い、これからも願う祭を開くことが出来て、改めて嬉しく思いますわ」
「そう、ですね。あの、ありがとうございます。お代わりなど気軽に申し出てくださいね」
 もてなしの席を用意した関谷 未憂(せきや・みゆう)が、セイランに賞賛の言葉を受けて表情を綻ばせつつ、給仕に戻っていく。
「はむはむ……うーん、ゼリーが冷たくておいしー!」
「もう、リン、つまみ食いもほどほどにね?」
 冷やした桃のゼリーにご満悦のリン・リーファ(りん・りーふぁ)に釘を刺して、未憂がほっ、と息をつく。
「まさか、精霊長のセイランさんが来るなんて思わなかったわ。プリム、緊張し過ぎたりしてないかしら?」
「うーん、同じ光輝の精霊同士、リラックスできてるんじゃないかなぁ?」
 未憂とリンが視線を向ける、セイランと同席のプリム・フラアリー(ぷりむ・ふらありー)は、普段と変わらない様子で未憂の用意したお茶を啜っていた。
「あなたも、良きパートナーと巡り会えましたね。これからもその繋いだ手を離さず、真っ直ぐに前を見て歩みなさい」
「……はい、セイラン様……」
 未憂のことを誉められて、プリムがまるで自分のことのように、笑みを浮かべる。その表情の変化はごく僅かなものではあったが、未憂とリンにはちゃんと分かって、そして二人でよかったねと微笑み合う。
「おーい、売り子さんや。緑茶とせんべいは無いのかね?」
 そこへ、高崎 悠司(たかさき・ゆうじ)のだらけたような声が聞こえ、未憂がふふっ、と吹き出すように笑いながら答える。
「高崎先輩、オジサンみたいですよ。……ごめんなさい、ちょっと用意してないんです」
「いーんだよ別に。そっか、ま、次回はそういうのも用意しといてくれな。やっぱメニューのバラエティってのは豊富じゃないとねぇ」
「それ、高崎先輩個人の希望ですよね? 精霊さんは緑茶とか飲まれるんでしょうか?」
「せっかく異文化交流とか言ってんだし、いいんじゃねーの? 精霊にも色々いんだろうしさ」
 そんなやり取りを交わしていたところへ、セイランとプリムの下へ駿真とネラ、キィルとセリシアが訪れる。
「お初にお目にかかります。光輝の精霊長、セイラン・サイフィード様でいらっしゃいますね? あちらからお姿が見えましたので、ご挨拶にと参りました。……少々賑やかになってしまいますが、ご一緒してよろしいでしょうか?」
「ご丁寧な挨拶、ありがとうございます。ええ、構いませんわ。プリム、失礼するわね」
 セイニーの挨拶に答えて、セイランとプリムが一行のための席を空ける。
「わ、今度はセリシアさんまで来たわ。忙しくなりそう。リン、手伝ってくれる?」
「うん! キンキンに冷やしたゼリーとアイスティーでおもてなしするよー!」
「高崎先輩も、お願いしていいですか?」
「あー? まー、未憂がそう言うなら、手伝ってやらんでもないぜ」
 新たな客の来訪に応えるべく、未憂がリンと悠司とでお茶とお菓子を用意し、一行の下へ向かっていく――。

 その後は、セリシアとセイランを中心に、これまでの出来事を振り返りつつも基本的には楽しげな会話が交わされていた。
「そーいや、エリュシオン帝国にも精霊っているのかい?」
 しかし、悠司がその質問を口にすると、セイランとセリシアの表情が曇り、キィルは言い辛そうに頬を掻き、プリムはセイランをじっと見つめていた。
「……お? 俺もしかして、聞いちゃいけねぇ事聞いたか?」
「……いえ、いずれお話しなければならないこと、ですものね。申し訳ございません、少々、わたくしのお話にお付き合い頂けないでしょうか」
 セイランの申し出に、駿真、セイニー、未憂、リン、そして悠司が真剣な面持ちで応える。
「……ありがとうございます」
 一礼して、そしてセイランが言葉を紡いでいく。エリュシオンの精霊のこと、彼らとシャンバラの精霊の関係、そして、異文化の交流の裏にあるシャンバラの精霊の思惑などが、セイランの口から語られていく。
「精霊指定都市成立という光の影には、無力なわたくしたちがあなた方をエリュシオンの精霊との争いに巻き込むことに繋がる闇がある……わたくしたちを迎えてくださったあなた方を利用するようで、言葉もないのですが――」
「ま、今回のことを精霊がどう思ってんのか分かって、俺は一つすっきりしたってとこだな。未憂、お茶。とびきり濃いの」
「あっ、はい」
 言い放った悠司が、濃く淹れられたダージリンティーを一息に飲み干して、言葉を続ける。
「利用してる利用されてる、んな考えは温度差に繋がってお互いろくなモンにならねぇ。困ってるヤツに手ぇ貸す、貸されたモンは返す、それでいいじゃねーか」
 悠司に続いて、未憂も自らの思いを吐露する。
「精霊長の皆さんが考えて、納得して出した答えが私達と共に歩むことなら、私達はそれに応えたい。このつないだ手を離さないように、一緒に歩いて行きたい」
 未憂がプリムの手を取ると、プリムも確かな感触を返してくる。
「難しいことは任せたー! みゆうとプリムと一緒に、あたしもがんばるよっ!」
 リンが二つの手に自分の手を合わせて微笑む。
「イルミンスールは、ネラと会えた大切な場所だ。それを守るために協力が必要ってんなら、喜んで協力するぜ!」
「お父ちゃん、頼もしーなー! よっしゃ、うちもねーさんとちびねーさん連れて、力貸したるでー!」
 駿真とネラが握り拳を作って答える。その他の者たちも、事情を知れたことへの感謝と、何かあった時は協力しようという思いに満ちているようであった。
「……本当に、わたくしたちは良きパートナーを得たと、心の底から感じますわ。……セリシアがここで楽しく過ごしているのを知った時に、既に分かっていなくてはいけませんでしたわね」
「セイランさん……ですが、今分かったことは、決して遅くはないと思います。私たちはまだ、一歩を踏み出したに過ぎないのですから」
 セリシアが差し出したハンカチを受け取って、セイランが目尻に浮かんだ涙を拭う。再び上げた顔からは、光輝の精霊長らしい光が感じられるようであった。
「皆さん、ご静聴ありがとうございます。さあ、祭はまだ始まったばかり。楽しい時間を共に過ごしましょう」
 セイランが、注がれたお茶を小さく掲げ、それに皆が続いてお茶に口をつける。賑やかな会話が生まれるのはそれからすぐのことであった。

「沢山の人と精霊ね。これだと、以前に会った人と会うのは難しいかな?」
「きっと会えますわ〜。あっ、アリアさん、あれは何でしょう〜」
 出店が立ち並ぶ街の路地を、アリア・セレスティ(ありあ・せれすてぃ)ファリア・ウインドリィ(ふぁりあ・ういんどりぃ)があちこち見て回りながら歩いていく。一通り出店を楽しみ、それぞれがかき氷を手にしたところで、アリアがおもむろに口を開く。
「ねえ、これからファリアはどうするの? 今でこそ東西の交流は続いているけど、この先どうなるか分からないわ。イナテミスには精霊が集まってるみたいだし――」
「私は、アリアさんと共に在りますわ〜。仲間達からは離れることになりますけど、きっと分かってくれますわ〜」
 アリアの言葉を遮って、ファリアが特に悩んだ素振りもなく答える。
「私とアリアさんの様に、異なる種族が手を取り合っているんですから、同じパラミタの民が手を取り合えないはずはないですわ〜」
「……そっか。ありがと、ファリア。これからもよろしくね」
「こちらこそですわ〜」
 アリアとファリアが、視線を合わせて微笑み合う。
「聞いたか? この街に魔法少女が来てるらしいぜ」
「マジかよ!? おいどこだよ、一度見てみたかったんだよなー」
 若い男性二人が、そんなやり取りを交わしながら走り去っていく。
「……そう、私、魔法少女だしね。みんなの笑顔を守るのに、西も東もないわ」
「アリアさん、お忘れですか〜? アリアさんがこれまでどのような目に合われたか〜」
「わ、私は気をつけてるつもりなの。でも見えざる力が――きゃっ!」
 ファリアの心配するような言葉に反論しかけたアリアが、歩いてきた人とぶつかる。
「お〜!? なんだ、前が見えねぇぞぉ〜」
 拍子に、頭に被っていた布がずれてしまったようで、男性がふらつく足取りでアリアに迫ると、伸ばした手を身体のあちこちに這わせる。
「ちょっと、放し……ふぁあん!?」
「おい、何が起きてんだぁ!?」
 どうやら酔っているのか、男性がさらに激しく手をアリアの身体に伸ばす。
「悪気がないとはいえ、不埒な真似はさせませんわ〜」
 そこへファリアが小さな電撃を男性の足元へ撃ち、転ばせた隙にアリアの手を取って逃げ出す。
「あ、ありがとうファリア……」
「さっそく不安ですね〜。……あら、アリアさん、あちらにセリシア様とセイラン様がいらっしゃいますわ〜」
 走った先、二人の視界にセリシアとセイラン、それに多くの生徒の姿が集まっているのを発見する。二人はそこへ混じり、楽しい時間を過ごしたのであった。