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まほろば大奥譚 第一回/全四回

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第五章 鬼の祠3

 暗い祠から外へと続く道を、鬼鎧を押しながら戻るのは大変なことであった。
 一同は何度も休憩を挟みながらようやく地上へと戻る。
 戦うより骨の折れる作業だった。
「やっと外へ出れたか」
 魔剣士杵島 一哉(きしま・かずや)が安堵の言葉を吐いた。
「思ったほど、大した戦闘もなかったからよいものの」
 一哉はなんとなくひっかかる。
「冷たい空気って、この鬼鎧からじゃないでしょうか」
 一方で、彼に従う機晶姫アリヤ・ユースト(ありや・ゆーすと)は鬼鎧を調べて言った。
 祠では暗くてよくわからなったが、日の下でみると確かに鬼鎧はキラキラと輝いていた。
 氷の彫刻のようだ。
「本当だ。これはもっとよく調べてみないと……何!?」
 一哉に向かって突然パワードアームが振り下ろされる。
 寸前のところでかわすと、その主はくくっと笑った。
「皆、ご苦労。その鬼鎧、こちらに渡してもらおうか」
 ジャジラッド・ボゴル(じゃじらっど・ぼごる)である。
「おまえ、どういうつもりだ」
 霧雨 泰宏(きりさめ・やすひろ)が身構えるが、ボゴルは高圧的な態度を崩さない。
「きこえなかったか。鬼鎧はオレのものだと言っている。鬼鎧は力そのもの。オレにこそふさわしい……」
 ボゴルのセリフに応えて、先ほどのマホロバ人雷桜が既に鬼鎧に手をかけていた。
 雷桜はボゴルと義兄弟を交わしている間柄だ。
「そうよ、勝手なこと言わないでよ。独り占めなんて許さないわよ。何だったら、私が鬼の代わりにあなたの四肢をバラバラにしてやってもいのよ!」
 エリザベート・バートリの英霊月美 芽美(つきみ・めいみ)がボゴルに襲い掛かった。
 彼女の狂気が一撃となる。
「女が……沈め!」
 二人が戦い始めたときだった。
 武装した軍馬の一群が周囲を取り囲んだ。
 数は数十……数百はいる。
 瑞穂藩ののぼり旗が見えた。
「仲間割れかい。いいねえ、もっとやってくれな!」
 銀髪に眼帯をした侍、瑞穂藩士 日数谷 現示が馬上からあざ笑った。
「おっさん、多勢に無勢だろ。俺たち瑞穂藩が手を貸してやる。一緒にこねえか」
 ボゴルには現示が信用できる人物か思案する暇は無かった。
 もとより、瑞穂藩が将軍家にとって変われば良いと思っていたのだ。
 渡りに船とはこのことだった。
「……いいだろう。オレをおまえたちのところへ連れて行け」
 その言葉を聞きくなり、現示は片手を上げる。
 瑞穂藩士から一斉に弓と銃が引かれた。
 アナスタシア・ボールドウィン(あなすたしあ・ぼーるどうぃん)たちはハイナを庇いながら、当たらないようにするだけで精一杯だ。
 魔剣士棗 絃弥(なつめ・げんや)は被弾覚悟で突進する。
「やらせるかよ!」
 しかし、いつの間にか現示がウダと鬼鎧の間に入っていた。
 刀をウダに突きつける。
「おい、兄さん。それ以上近付くんじゃねえよ。この糞鬼がどうなってもいいのか」
「おまえ卑怯だぞ!」
「戦いに卑怯も糞もあるか。勝たなきゃ意味ねえよ」
 現示はそのまま刀をウダの背に突き刺した。
 鬼は咆哮を上げ、倒れながらも鬼鎧を掴んで離さない。
「ウダ!」
 ハイナが血にまみれたウダを抱き抱えようとする。
 彼女たちを守るためには鬼鎧を諦めるより仕方なかった。
 英霊源 義経(みなもと・よしつね)は弓矢を軽身でかわしながらじりじりと後退し、退路を探す。
「瑞穂の軍事力はマホロバ一ってことだ。よく覚えときな」
 現示と瑞穂藩士は軍馬に鬼鎧くくりつけ、引きずりながら去っていった。

卍卍卍


 鬼の祠の一件は、余すことなく報告された。
 鬼鎧が瑞穂藩に奪われたことも伝えられたが、将軍家や瑞穂、葦原を含んで政情を悪くする恐れがあるとして暫く伏すことになった。
「将軍様はとてもがっかりしてたみたい」
 ノア・アーク・アダムズ(のあ・あーくあだむず)は語った。
 そして、貞継は一時体調を崩したらしいとも言った。
「この程度で情けない。天下人ならば己の力で切り開けば良いものを、葦原に頼ろうとするからこうなるのだ」
 織田 信長(おだ・のぶなが)の言う事はもっともだ。
 もともとは鬼鎧一千機を率いてマホロバの天下をおさめたのは鬼城家でなかったか。
「でも、この間の鬼鎧は瑞穂藩にとられたままだし、ウダは半死半生だし。復活ってどうしたら……」
 桜葉 忍(さくらば・しのぶ)は将軍に許可をもらい、鬼鎧を別に復活する方法を探していたが、さっぱり見当が付かなかった。
「どこかにもう一機、鬼鎧があるといいんだけどな」
 そこへ、沈痛な面持ちでハイナがやってきた。
 彼女は静かに言った。
「ウダが……死んだ。最期に、鬼鎧には自分の血を使えといったでありんす。そして、鬼鎧はまだ他にもあると……」
 ハイナは涙をこぼす。
「ウダ殿は鬼ながら誠の武士でありんす。無駄にしちゃあいけない。わっちらがカタキを取るでありんす……!」