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まほろば大奥譚 第一回/全四回

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第一章 御輿入れ2

「葦原……なぜこうも邪魔しやがる」
 流れるような銀髪に眼帯をした若い侍がつぶやく。
 彼の視線は一点に注がれていた。
「あんたになんの恨みはないが、睦姫様の御為。ここで引き返してくんな」
 銀髪の侍は連れの男たちに合図を送った。

卍卍卍


 葦原藩の輿入れの行列は、華やかで豪勢なものとなった。
 途中、宿などで休息をとりながら、マホロバまで進んでいく。
 蒼空学園生徒八神 誠一(やがみ・せいいち)は輿入れの行列の先頭に立ち、万が一に備えて常に気を張っている。
 彼は葦原明倫館の人間ではないが、エリュシオン帝国を嫌って葦原を訪れた。
 そこで房姫の輿入れを知ったのだ。
「マホロバという国が、どこぞの属国のようにされるのを見ておれないのでね」
 この誠一の率直さに、房姫は同行を許し先頭を任せたという。
「せっかくマホロバ旅行をと思ったのにがっかりだよ」
 パートナーオフィーリア・ペトレイアス(おふぃーりあ・ぺとれいあす)も慣れない着物で歩きながら、侍女として房姫の輿についていた。
 不満は言っても、オフィーリアの心内は誠一と同じだ。
 マホロバが大国に飲み込まれるのを傍観する気はない。
「房姫様、もう少しで今宵の宿でござる。いま少し、辛抱召されよ」
「……」
 葦原明倫館生の忍者秦野 菫(はだの・すみれ)は輿の中の房姫を何度となく気遣う。
 輿の中の房姫は小さく返事をしていた。
 日が暮れる前になんとか宿入りしたい。
 しかし、行列が宿場に近付く峠にさしかかった時のことである。
 行列は、みすぼらしい成りをした何人もの男たちに囲まれた。
 誠一は身構え、叫ぶ。
「何者だあ!」
 この問いかけに、集団の中でリーダーと思しき銀髪に眼帯をした男が応えた。
「俺たちは名乗る名もねえ、しがない強盗だ。おとなしくお宝を渡して帰んな」
「盗賊だと……断る」
「じゃあ、しょうがねえな」
 銀髪男は腰の刀を抜くと誠一に斬りかかった。
 あっという間に間合いを詰める。
「冗談言うな。そんないい刀を持つ盗人がどこにおるか」
 一刀斎先生こと伊東 一刀斎(いとう・いっとうさい)が助っ人に出る。
 しかし、二人を相手にしても男はひるむどころか、ぐいぐい押していた。
 銀髪男の太刀筋は荒っぽく、まるでめちゃくちゃだが筋は通っている。
 どこかで剣術を会得したものでなければ、ここまで刀は振るえないだろう。
「房姫様! お逃げください!」
 危険を察知した菫が房姫を逃がそうとする。
 ……が、男たちが回りこんだ。
 手輿を奪おうとした瞬間、強烈な一撃が男の顔に炸裂した。
「あら、ごめんあそばせ」
 手輿の中からは、房姫そっくりの着物を纏った梅小路 仁美(うめこうじ・ひとみ)が顔を覗かせる。
 仁美は伸びて倒れている男を見て、まあまあと口を手で押さえる。
「まったく、私に影武者役をやらせるなんて菫さんたらいけずなんだから」
「偽者!?」
 気づいた男たちは浮き足立った。
 その隙を突いて反撃に出る。
「くそっ……引くぞ」
 銀髪男は合図を送り男たちは撤退を始める。
 その引き際は見事だった。
「本当にヤツラ盗賊かよ」
 オフィーリアは感心していた。



「じゃあ、一刀斎先生お願いします」
 捕まえた自称盗賊は、一刀斎によって葦原藩に送られることになった。
 だが間も無く、戻ってくる。
 その捕虜は、葦原藩邸に送る途中で舌を噛み切って自害したという。
「武士ならともかく、ただの盗人風情が捕まったぐらいで舌を噛むなどありえない……」 一同に重苦しい雰囲気が漂っていた。