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まほろば大奥譚 第二回/全四回

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第七章 幽閉3


 その頃、大奥へと続く広敷の塀越しに悪態をついているマホロバ人御壇多 ギン衡(ごたんだの・ぎんちか)がいた。
 しかし、かなりの長身で大男であるが故、今日も塀越しに大奥の庭を眺めるのみであった。
「まったく、つまらんな。大奥が戦場というなら、もっと気概をみせい。睦姫の態度には、呆れるばかりだ」
「今の暴言、睦姫様のお供として聞き捨てならぬぞ。取り消して謝罪するなら、聞かぬ事として見逃してやる」
 英霊久坂 玄瑞(くさか・げんずい)は奥医師となっていたが、広敷から大奥へ向かう途中でギン衡に出くわした。
 そしてこの暴言である。
 玄瑞はこれでも譲歩していたのだが、ギン衡のプライドを酷く傷つけたらしく、玄瑞に襲いかってきた。
「くだらんといって何が悪い。何をしに大奥まできたのか、大名の姫が聞いて呆れるわ。金魚の世話係でもあるまいに!」
 玄瑞がこれを返り討ちにしたこところを、オルレアーヌに見咎められたのであった。
「睦姫様、こんな戯れ言、お気になさらないでくださいね……睦姫様?」
 オルレアーヌは睦姫の様子がおかしいことに気がついたが、すでに遅かった。
 彼女は思い詰めたような表情で言った。
「……その者がいうことは正しいわ。私は使命を果たすために大奥へ来たのだから。何事も成さずして、なにが瑞穂の姫か」
 それだけ言うと玄瑞の制止も聞かず、御根口を通り抜け広敷へ上がり込んだ。
 そして役人達を突き飛ばし、長い御鈴廊下を走り抜け、将軍の居る中奥まで駆け上ったのである。
「貞継様、今宵は必ず紫光の間へおいでください。でなれば、睦はこの場で舌を噛みます!」
 睦姫は息を切らせ、顔を真っ赤にして叫んだ。
 将軍をはじめ家臣達は、この睦姫の行動にただ呆然としていたという。
 そしてその夜、鈴の音が紫光の間まで鳴り響くようになる。