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冥界急行ナラカエクスプレス(第2回/全3回)

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冥界急行ナラカエクスプレス(第2回/全3回)

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第5章 カレーが好きな奴に悪い奴はいない・その3



 食べ物の恨みとはまこと怖いものである。
 毒を盛られたことよりも、ガネーシャは不味いものを食わされたことに怒るタイプだった。
 また明日ここに来てください、本物のリンゴをご覧に入れますよ、と誰かが言わねばおさまりのつかない空気。
「まあまあ、大将。そんなに興奮してもハラぁ減るだけだぜ。ホラ、みかんでも食って機嫌直してくれよ」
 冥界の暴君を飄々となだめるのは、自他ともに認めるロクデナシ東條 カガチ(とうじょう・かがち)だ。
「貴様ぁ! 余がそんなものに釣られるとでも!」
 とか言いつつも、みかんを投げ入れてやると、ガネーシャはもしゃもしゃ食べ始めた。
 さらにパートナーの東條 葵(とうじょう・あおい)が酒を勧めると、たちまち上機嫌である。
「落ち着いたところで、僕からもひとつふたつ訊いても良いだろうか?」
「何を知りたい?」
「神話であれば、ガネーシャは富と学問を司るそうだが、こちらの方もそうなのかしらん?」
「余を見れば一目瞭然であろう」
 葵は無言で見つめる。
 富はありそうだが学問はどうだろう……、烈火の如き怒りを見ると、理知的なものからほど遠く感じる。
 カレーにまつわる蘊蓄をアカデミックなものと判断するなら、あるいは学問に該当するかもしれない。
「……ちなみにだが、あなた方の前に現れた接触者、その者も富や学問を求める方なのだろうか?」
「余に祈ったところで金が降ってくるわけでなし、とたんに頭が良くなるわけでなし、そんなものを求めて訪れる者などおらん。それに、あやつの正体は余にもわから……おっと、そうはいかん。奴の話は余をここから出してからだ」
 ガネーシャはそう安く情報を売るつもりはないようだ。
「しっかりしてるねぇ、大将」
 ポンと葵の肩を叩き、カガチがガネーシャの前に立つ。
「けどあんた、そいつが環菜を狙ってる理由は知ってんのかい? つか、そもそも環菜のことは知ってんのかい?」
「そのカンナと言う娘のことはよく知らぬ。余は奴との取引には応じなかったからな、詳しいことは聞いておらん」
「ふむ……」
 葵は口元に手を当て考える。
 もしや環菜本人が接触者かと想像していたが……、どうやら違うようだ。
 となれば、怪しいのは蒼空学園を狙う空大のアクリト学長だろうか。
「……ただ、奴は取引を持ちかける時にこんなことを言っていたぞ、邪魔な奴の始末を手伝って欲しい、とな」
「邪魔な奴……?」
 カガチはポリポリと頬を掻く。
「そうなると、例のナントカ帝国とかなんとか寺院の仕業かねぇ。ちと当たり前過ぎてつまんないが……」
「何言ってるんです、カガチさん。そもそも、その可能性が一番大きいじゃないですか」
 ソア・ウェンボリス(そあ・うぇんぼりす)が言った。
「だって、環菜さんはドージェさんと同じく、シャンバラの神の1人ですよ。パラミタにおいて、神の数はその国家の軍事力も意味してます。つまり、『何者か』の正体は、シャンバラの力を削ごうとする人達になるじゃないですか」
「ソアちゃんの言う通り、たしかにそう考えるとスジは通るんだけどねぇ……」
 やはりそれでは面白くないと、カガチはため息を吐く。
 それから、ガネーシャにちきんと挨拶をして、ソアはズバリ単刀直入に尋ねた。
「あなた達に接触したのは、エリュシオン帝国の人ですか?」
「いや、そんな話は聞いておらん。奴がここを訪ねてきたときはひとりだったしな」
「ひとり……、組織ではなく個人で取引を持ちかけたってことですか?」
「うむ、もっともどこかの組織と通じている可能性はあるが」
 続いてソアの相棒、雪国 ベア(ゆきぐに・べあ)が尋ねる。
「折角だから、俺様はこの赤の扉を……じゃなかった、俺様も質問させてもらうぜ」
「上から来るかもしれないから気をつけつつ質問するがよい」
「俺様が気になっているのは、ろくりんピックで環菜を暗殺したチャクラムのことだ。なんでも、操る者の姿も見えないまま自在に空中を飛び回り、環菜の首をかき斬った後、忽然と消えたらしい。なにか心当たりはないか?」
 しかし、ガネーシャは首を振った。
「そうか、なにか知ってるかと思ったんだが……。あともうひとつ訊いていもいいか?」
「なんだ?」
「ガルーダがよぉ、携帯電話で誰かに連絡取ったあと転送されたらしいんだが、そんな装置がナラカにあるのか?」
「転送……? ナラカとパラミタを行き来する装置ということか?」
 不思議そうに首を傾げる。
「いや、そんなものはない。と言うか、アブディールじゃ携帯は使えんはずだぞ?」
「そんなはずねぇだろ。トリニティが言ってたぜ、電波塔が出来たから通じるようになったって……」
「電波塔!? 余が幽閉される前はそんなものなかったぞ?」
「え……?」
 しんと静まり返る。
「そうなると……、ガルーダ達の転送云々は例の黒幕が関わってるってことになるわけだよねぇ」
「校長暗殺のときも、襲撃したチャクラムがどっかに消えた。もしかしてあの消失も……」
 カガチとベアは顔を見合わせ頷いた。
「ここに来た接触者と校長を襲った犯人は同じ奴ってことか……」