リアクション
* * * 「敵の数が多いな」 月島 悠(つきしま・ゆう)が、確保された道を進んでいく。 要塞内部の敵は黒い装甲服だけではない。傭兵として雇われたと思しき者達が多数ひしめいていた。 彼らには統一性がない。 種族も、武器も、何もかもバラバラだ。間に合わせで用意した、といえばそうなのかもしれないが、「反シャンバラを謳う組織」にパラミタ出身者が紛れているというのには違和感を覚えざるをえない。 「傭兵達はこちらで引き受ける。超能力者は天御柱の皆、頼むぞ!」 悠は機関銃を手に、敵と対峙する。 元々は地面に設置して使う大型機関銃ではあるが、パワードアームとヒロイックアサルト『怪力』とドラゴンアーツによって自らの力を高めることで、強引に手で持って運用している。 敵の武器も様々だ。 「悠くん、援護するよ!」 麻上 翼(まがみ・つばさ)がガトリング砲型の光条兵器を構える。 そして、弾幕援護を行う。 それによって、味方部隊の突破口を作り、さらには悠が攻撃する際のフォローにもなった。 敵の傭兵にも同じような契約者がいる。 神速を使い、機関銃の弾幕を突破しようとしてきた。 (速い!) だが、シャープシューター、スナイプで狙いを定めて撃ち抜こうとする。 機関銃も、弾が無限なわけではない。 「翼!」 ここからは、光条兵器のガトリング砲だ。 それを振り回し、乱射する。 同じ契約者が、一人、また一人と倒れていく。 それでも、傭兵達は悠に向かってくる。 (今度は魔法か) サンダーブラストを繰り出してきた。さらに、氷術で足場を固め、こちらの動きを封じようとする。 それを予測し飛び退く。 敵は魔法中心に攻撃形態を変えた。 (ならば……) クロスファイアだ。 ガトリング砲による乱射によって、確実にダメージを与えていく。 その間にも、要塞の内部は徐々に制圧されていった。 「指令室は、どこでしょうか?」 メイベル・ポーター(めいべる・ぽーたー)達は、要塞内の司令室を目指していた。 外観によらず、実際に中に入ってみれば、それほど複雑な造りではない。だが、その分通路の幅は広く、それによって、敵が陣形を組んで待ち構えているような場所もあるくらいだ。 「メイベル、来るよ!」 セシリア・ライト(せしりあ・らいと)が殺気看破でその気配を感じ取る。 同時に、メイベルとともに轟雷閃を繰り出した。 「やはり、この前の……」 フィリッパ・アヴェーヌ(ふぃりっぱ・あべーぬ)が姿を現した敵に対して、斬りかかる。 黒い装甲服の兵士達が、行く手を阻んでいた。 しかし、ここで立ち止まっていては要塞を制圧することは出来ない。 彼女達は他の部隊、特に超能力の扱いに慣れた天御柱学院の生徒達のサポートをしながら、敵と戦っている。 「数が多いですね」 ステラ・クリフトン(すてら・くりふとん)がライトニングブラストを放つ。 敵はフォースフィールドを展開させているが、装甲服そのものは電撃に弱い。敵の迷彩を無効化するには、それが一番有効だ。 四人が雷電属性攻撃を行いながら、敵を牽制していく。 そして、強化人間対強化人間の戦いが繰り広げられる。 連携してナイフを構えて駆け回る敵に対し、天学強化人間部隊も、通路全体――天井や壁も含め、そこを一つのフィールドとして駆け回っている。 「こちらですわ!」 強化人間が少ない方の通路へ、彼女達は進んでいく。 「そういえば、ここ最近傭兵の話が出てたけど、やっぱり強化人間以外の敵はそれなのかな?」 「……そのようです。しかし、なぜ寺院だと知っても協力しているのでしょうか?」 この混戦の中で、要塞から逃亡することだって出来るだろう。 しかし、そうするものは少ない。 「敵です!」 ステラが眼前の敵に気付いた。 傭兵として雇われた契約者が、彼女達を止めようとしてくる。 「少し、話を聞かせてもらいたいですね」 メイベル達は、傭兵を捕縛しようと試みる。とはいえ、相手は同じ契約者のようだ。 敵の中には、契約者を持たないパラミタ出身の種族もいるが、なぜ彼らがあえて反シャンバラに加担しているのかも、話を聞ければ分かるかもしれない。 二人の傭兵に向かって、メイベルとセシリアが轟雷閃を繰り出す。だが、一回では倒れない。 続いて、ステラがライトニングブラストを繰り出す。殺すことが目的ではないため、彼女達は致命傷を避けるように攻撃を仕掛けていく。 そして、動きが鈍くなったところで、フィリッパがロープで捕縛する。 「どうする?」 「これで逃げることは出来ません。話を聞きたいところですが、今は占拠を優先しましょう」 メイベルは顔を見たが、見知った人物ではなかったため、胸を撫で下ろす。 とはいえ、もしかしたら知り合いがいる可能性もある。東シャンバラで募集が行われている以上、百合園女学院の生徒が紛れているかもしれないのだ。 複雑な心境でありながらも、彼女達は司令室を目指して要塞の中を駆けていった。 * * * 「イコンの格納庫はどこでしょう?」 杵島 一哉(きしま・かずや)はアリヤ・ユースト(ありや・ゆーすと)とともに、イコンハンガーを探していた。 目的は、敵のイコンの情報を引き出すことにある。 寺院製イコンの詳細は天御柱学院の生徒、特にパイロット科の生徒はほとんどが基礎教養として今は知っているが、教導団の彼にはまだそれらの情報はない。 戦いの中を掻い潜りながら、なんとかそれっぽい場所の扉まで辿り着いた。 「中に敵兵がいないといいですが……」 アリヤが不安そうな声を出すが、パネルを操作して扉を開く。 その中は、誰もいないイコンハンガーだった。 要塞のイコンはほとんど外へ出撃している。残っているのは、大破したために、修理途中となっているものだけだ。 「コンピューターがありますね」 それを操作し、中にある情報を取り出そうとする。 しかし、中には何の情報もない。 見れらないのではなく、完全に消去されていた。 「どういうことでしょう?」 もしこの制圧戦に敵が勝利した場合、データが残っていないと不味いのではないか。 だが、別に不思議なことではない。 「私達が入る前に、この要塞に残っていた誰かが消したのでしょう」 内部に侵入された場合、直ちにデータを消去していても不思議ではない。 機密を敵の前に堂々とさらしている意味などないからだ。 |
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