リアクション
* * * 『DW―C1から、ダークウィスパー全機へ。状況が変わった。ここからは指揮官機を狙うよ!』 DW―C1、天王寺 沙耶(てんのうじ・さや)とアルマ・オルソン(あるま・おるそん)が乗る【ドラッケン】から、ダークウィスパー小隊へ通達がいく。 それまでは、敵の連携を崩すために、ケッテ編成で臨んでいた。 【ドラッケン】の指揮下には、十七夜 リオ(かなき・りお)とフェルクレールト・フリューゲル(ふぇるくれーると・ふりゅーげる)のDW―E1、【シュヴァルベ】、高峯 秋(たかみね・しゅう)とエルノ・リンドホルム(えるの・りんどほるむ)のDW―E3、【ジャック】。 DW―C2、イングリッド・ランフォード(いんぐりっど・らんふぉーど)とキャロライン・ランフォード(きゃろらいん・らんふぉーど)の【アトロポス】の指揮下には、DW―E2、狭霧 和眞(さぎり・かずま)とルーチェ・オブライエン(るーちぇ・おぶらいえん)の【トニトルス】、DW―E4、山田 桃太郎(やまだ・ももたろう)とアンナ・ドローニン(あんな・どろーにん)の【PEACH】。 そして、アンジェラ・アーベントロート(あんじぇら・あーべんとろーと)とグラナート・アーベントロート(ぐらなーと・あーべんとろーと)が搭乗するDW―C3、【アーベントロート】が二つの分隊の支援攻撃を行うという態勢で戦闘を行っていた。 結果的に、それによって他小隊もそれぞれの役割を遂行しやすくなったのは確かである。 それまで要塞の前で防衛ラインを張っていた、小隊長機――シュバルツ・フリーゲもシュメッターリングとともに前線に出始めている。 だが、その中で学院のイコンを次々と圧倒しながら戦場を飛び回る敵機があった。 その機体が今度は、ダークウィスパー小隊に向かってくる。 「あの実剣……この前の奴ッスか!」 和眞がぎりっ、と歯を強く噛んだ。 だが、敵はそれだけではない。 二機のシュバルツ・フリーゲと、四機のシュメッターリング――エヴァン機を除く――がダークウィスパー小隊の前にいる。 『また会ったな』 敵機からの通信が入る。その低い男の声は忘れもしない。 『グエナ・ダールトン……!』 イングリットがその名を呟く。 『覚えてくれていて何よりだ』 強敵の出現に、小隊に緊張が走る。 『行くぞ』 多くを語ることはない。 グエナ・ダールトン率いる部隊と、二度目の小隊戦を挑む。 『DW―E2、DW―E4へ。牽制を行う。左右ではなく、上下から敵機を挟み込む!』 ここは空の上だ。 360度を見渡し、その全ての状況を踏まえた上で最適な陣形をとる。 まずは、「場」を把握だ。 (お姉ちゃん、敵はこちらと同じ編成で来るですぅ) キャロラインが精神感応で伝える。 三機に対して三機。 そして、一機が全体のフォローを行う。 違うのは、ダークウィスパーが長距離砲撃によって援護するのに対し、敵はその一機が縦横無尽に駆け回り、切り込んでいくところにある。 (偶然か必然か……まるで私達が試されているみたいだ) イングリットがビームキャノンを放った。 グエナ達に対する、最初の牽制。 (ならば、超えてみせる!) 前の戦いでグエナに言われた言葉をこの三日間で反芻し、自分なりに考えた。 たったの三日ではあるが、このわずかな時間の中で、少しでも技術を上げるための訓練を行った。 後方から、前衛の二機に対して正確で早い援護を心がける。 『DW―E4へ。オレ達は下から攻めるッスから、上は頼むッスよ』 【トニトルス】がシールドを前面に出しながら飛び込んでいく。 タイミングは、【アトロポス】の砲撃の直後。 ビームライフルを射出しながら、接近する。 『DW―E4、了解!』 【PEACH】もまた、同じようにビームシールドを構えて敵機に向かう。 (山田、少しDW―E2より速い。合わせるぞ) 二機のイーグリットが速度を合わせる。 レーダー、目視の両方をもっても、360度全方位を完全に把握するのは難しい。その死角を突くために、連携しているのである。 シュメッターリングが、それぞれの機体に狙いを定めてきた。 (来るぞ。左だ) 回避行動に移る。 だが、大げさに動く事ことはしない。【PEACH】は、機体をわずかに傾け、反らすことで速度を維持したまま攻撃をかわしていく。 着弾地点予測を聞き、実際に弾を確認するよりも早く機体を操作する。 「さすがに、そう上手くはいかないか」 少しずつコツを掴んでいくが、機体を数発がかすめていく。 直撃は避けられたが、無理にこの方法にこだわる必要はない。ビームシールドによる防御と組み合わせることで、シールドへのダメージも軽減する。 中距離から、間もなく近距離に入る。 『弾幕を張る。そして、二機の配置を変える』 そのタイミングで、【アトロポス】が機関銃の引鉄を引く。同時に、ここからの作戦を伝える。 弾幕を張る。だが、それだけではない。 (一瞬でも、隙を作れば……!) ミサイルを射出する。 弾幕と合わせ、両肩から発射されたそれは同じ編成の敵部隊へと引き寄せられていく。 シュメッターリングが、それらを撃ち落そうと、二機が一時的に接近する。 そして、連携して機関銃による掃射でミサイルを撃ち落す。だが、そう行動するであろうことが狙いだった。 「ミサイルを落とすことで煙幕代わりにするか。しかも、その瞬間に前衛二機をクロスさせ、配置換えか」 さらに、煙が晴れてはいないがまだ機関銃による弾幕援護は続いている。 敵機の対応は早い。 即座にレーダーで二機の位置を確かめたらしく、飛び込んでくる予測地点に銃口を向けていた。 『DW―E4、ここからは時間差でいくッスよ!』 イーグリット二機が重なった。 そこから【PEACH】が降下、【トニトルス】が上昇して完全に配置換えが行われる――と見せかけ、左右に分かれて敵機を挟み込む。 「フェイントか。だが、まだ甘い」 シュメッターリング二機の銃口は、それぞれのイーグリットに向いていた。 だが、 『不味い、回避しろ!』 次の瞬間、敵機に向かってビームキャノンの砲撃が来た。 完全に不意をつき、さらにシュメッターリング同士の距離が近かったこともあり、二機まとめて被弾させることに成功した。 それぞれ、左腕、右腕が消し飛び、片方は主要武装である機関銃を失った。 「なるほど……一杯食わされた」 ビームキャノンを放ったのは、【アトロポス】だ。 だが、弾幕を張りながらビームキャノンを撃つことは出来ない。 「成功ですわね」 そう、コームラントは一機でイーグリットを援護していたわけではなかった。 【アーベントロート】が前衛の二機が交差する、そしてミサイルによる煙が上がる瞬間に【アトロポス】の前に出て、弾幕援護を引き継いだのだ。 配置を入れ替えたのはイーグリットではなく、コームラント方だった。 そして、ほんのわずかに【アトロポス】が後退し、ビームキャノンを放つ。引鉄を引く瞬間に、【アーベントロート】は弾幕を張ったまま機体を上昇させる。 少しでもタイミングを間違えれば、自機も直撃するという状態だった。むしろ、そのくらいでなければグエナという男に読まれてしまっただろう。 「まだ気は抜けませんよ。敵が二機編成に移ります」 機関銃を失った機体が戦線を離脱し、シュバルツ・フリーゲと小破したシュメッターリングが組む。 「あまりわたくし達は一箇所にいてはいけませんね。ここからは援護に戻りますわよ」 「領海です」 「……肝心なところで誤字ってますわよ」 ミサイルと機関銃を放ちながら【アトロポス】の後方へと移動する。 『見事だ。こちらの読みの先をゆくとはな』 グエナが感心していた。 『これが私達の覚悟だ』 全員が呼吸を合わせ、そして強い意志を持っていなければ、成功し得なかっただろう。 『なるほど。少しは自分達なりの「答え」に近付いているわけか』 欠けているものがある。グエナがそう言い放ったわけだが、彼女達はまだそれが何か、というのを見つけたわけではない。 だが、わずかであっても近付きつつあると、敵の指揮官たる男は感じているようだ。 もう一つの分隊もまた、激戦を繰り広げていた。 「沙耶、相手の連携を崩すよ」 【ドラッケン】がミサイルを放つ。 グエナではないとはいえ、シュバルツ・フリーゲのパイロットである以上、自分達の前の機体も手強い相手だろう。 「行くよ、フェル!」 【シュヴァルベ】が【ドラッケン】の攻撃に合わせて、敵機へと飛び込んでいく。その後ろに重なるようにして、【ジャック】が追従する。 『まずは指揮官から、あの二機を引き離すよ!』 リオが【ジャック】に向けて通信を送る。 前を行く【シュヴァルベ】はビームシールドを構え、ビーム式の汎用機関銃で弾幕を張る。 (やっぱり、機動力は落ちるか) 機関銃はイーグリットにも装備出来るようになったとはいえ、やはり重量はある。機動力が削がれるのはやむを得ない。 (アキ君、DW―C1、DW―E1と射線が一致したよ) (分かった。ここからは狙っていくよ。応えてくれ、ジャック・オルキヌス!) ビームライフルを【シュヴァルベ】の弾幕の後ろから放つ。 敵の関節部に狙いを定め、トリガーを引いていく。 『エネルギーチャージ完了。DW―E1、DW―E3へ。援護するよ!』 【ドラッケン】が、ビームキャノンを撃つ。 光が敵の分隊に向かっていく。 (絶対に、当てる!) 回避行動に出たシュメッターリングの動きを予測し、【ジャック】が銃撃を行う。敵機のうち、一機のジェネレーターに被弾し、動きを鈍らせる。 それを見計らい、【シュヴァルベ】が機関銃を放つ。 即座に、後方から指揮官機の援護射撃が来るが、それをシールドを使いながら払っていく。 その機体の前に、残った方のシュメッターリングが躍り出る。 (そこだ!) 敵の正面に回り、狙いを定めるのとほぼ同時に、トリガーを引いた。 前の戦いでグエナがやっていた、銃口に狙いを絞った正確な射撃。 【ジャック】のビームライフルから放たれた光が、吸い寄せられるように敵機の銃口へと入っていき、武器が暴発した。 現在、ダークウィスパーと対峙している敵の中で戦えるのは、残り四機だ。 『調子乗ってんじゃねーぞ、ガキが』 次の瞬間、一機のシュメッターリング――エヴァンの機体が急接近した。 ジグザグに、しかも急上昇、急下降をしながら接近してくる。 それだけ無茶な操縦をすれば、機体だけでなくパイロットの身体にも相当な負担がかかるはずだ。 「それ以上、近づけさせませんわ!」 【アーベントロート】がミサイルを射出する。 だが、それを剣と頭部バルカンだけで落としていく。しかも、敵機はまったく勢いが衰えない。 「常に機体の限界速度で移動しているというのか」 前に戦ったときより、確かにその速度は落ちている。敵の機体が完全ではない証拠だろう。 それでも、驚嘆せざるを得ない操縦技量だ。 『ったく、この前痛い目に遭ったのに、まだ力の差ってもんが分かんねーのか、あ゛ぁ!?』 挑発的な態度を取ってくるエヴァン。 『確かに僕らには、崇高な理念なんてないし、操縦技術も経験も敵わない。けど、それがなんだ! 叶えたい夢があって、敵わない壁をあの手この手で突破するのが技術屋だ!』 エヴァン機と対峙しようとする、リオ。 『なんだ、この前のお嬢ちゃんか』 『お嬢ちゃんじゃない! 十七夜 リオだ――覚えとけ!』 敵機に向かって飛び込んでいく。 そして、それまで装備していた機関銃を思いっきり投げつけた。 『フェルクレールト・フリューゲル。忘れないように脳に蛍光ペンでくっきり書いときなさい』 すぐにビームサーベルを握り、接近戦に持ち込む。 『へえ……威勢のいいこった』 機関銃を真っ二つに切り裂き、すぐにビームサーベルを避ける。 そして、剣を振り下ろしてきた。 即座に、それをビームシールドで受け止める。 「く……!」 一度は受け止めたが、次に食らえばシールドはもたない。 エヴァン機は旋回し、再び斬撃を繰り出してきた。 「チィ!」 だが、機体を捻って【シュヴァルベ】から離れる。 【ジャック】が、アサルトライフルでエヴァン達を狙ったからだ。 『援護するよ。これ以上、好きにはさせない!』 二機で敵機に向き直る。 『頼むよ、秋くん』 エヴァンが再び動いた。 『……来るよ、リオ』 すぐにビームサーベルを構え直す。 『フェル! 僕らは二人じゃない! 僕とフェルとこの子の、二人と一機でシュバルベだ!』 二つの刃が空中で交差する。 【シュヴァルベ】のシールドが破れた。 そして、ビームサーベルは敵機の脚部に傷をつけた。 『……やってくれるじゃねーか』 かすめた程度とはいえ、確かに当たった。 『DW―C1からダークウィスパー全機へ。ここから全機総がかりで――エヴァン、グエナに挑むよ』 沙耶が指示を出す。 「敵機の配置が変わったよ。二機が後衛に回った」 エヴァンとグエナが前衛になる。 正確には、エヴァンは前衛というわけでもないのかもしれないが。 * * * 「グっさん、ヴァンちゃんが……」 「お前もアイツの、いやアイツらの強さは知っているはずだ。単純な操縦技量だけならば、確かにナンバー2といえる。だが、アイツの本質はそこではない」 グエナが無線を取る。 『エヴァン。これまで通り、お前のやりたいようにやれ。だが、こちらも適宜援護はさせてもらう』 『ああ。任せるぜ』 もう一機の指揮官機に対し、下手にエヴァンを刺激しないようにも通達する。 「エヴァン達は追い詰められるほど、その力を発揮する。アイツには、絶対に負けられない理由があるからな」 「この前とは違ぇ。アイツら、吹っ切れたか」 「んー、きっとダーさんの言葉が響いちゃったんだろーねー」 非難するような言い方ではない。 むしろ、その言葉を今日の戦いに生かしていることに感心しているようだ。 「ただの坊ちゃん嬢ちゃんじゃねーってことか。ふん」 「あー、ロッちゃん。さっき勝手にフォローするって言ったけど、訂正。うん、ロッちゃんの腕は信じてるから基本全部任せてるわけだけど……ちょっと、今回はアンリも参加したくなっちゃったんだよねー」 「まだ必要ねーだろうが……せっかくだ、本気の本気ってのを拝ませてやっか」 「ほんと、素直じゃなんだからー」 ここからは、れっきとした「敵」として相手をしよう。 (大したガキ共だ。だが、オレは負けらんねーんだよ。アイツを助けるためにも……) * * * 『お前達の覚悟は伝わった。はっきりと自分の意志で戦っているのだな。ここに、お前達は真に我々の「敵」となったわけだ――行くぞ』 本気だ。 もはやこちらを試すわけではなく、潰しにかかるつもりだ。 (山田、気圧されるな) グエナの機体は、決して速度が出ているわけではない。だが、静かに迫ってくる様が相手の威圧感を増長している。 (分かってるさ、アーニャ) (安心しろ、てめえがビビってようが、あたしが傍にいる) (はは、頼もしいね。だけど、男は度胸! こんなところで負けてられないよ) 完全に強がりだろうが、果敢にもグエナに挑む。 (イコンもパートナーなんだ、三人で一つだよ) 彼はイコンを文字通りのパートナーにしようと、契約出来ないかと考えたが、イコンは種族ではない。 だが、パートナーだと思うことは何もおかしなことではない。 (さあ、僕達も飛ぼう) 背後からは、【アトロポス】が援護射撃をしている。 それに合わせ、射撃距離を維持したままグエナ機に向かう。 「そこだ」 敵の機関銃が火を噴く。 それを、最小限の動きでかわそうとする。 「グっさん、敵は下降します。おそらく、海面ギリギリから急上昇――この機体の真下から狙ってきます」 「なるほど、そうきたか」 小さな動きから一転、速度を一機に上げて急降下する。そしてグエナ機の真下からビームシールドを構えて一機に上昇する。 「そのまま墜ちよ」 集中砲火。 ビームシールドが吹き飛ぶが、それでも腕を前に出して突撃する。 だが、限界が来る。 (ダメージ、レッドに到達。山田、脱出だ!) 【PEACH】が大破する。 二人は機体から脱した。 今度は、【トニトルス】がグエナ機に向かっていく。 「ルーチェ! 【トニトルス】! 気合入れろよ!」 ビームライフルで牽制しながら、距離を詰める。 「旋回後、後方から長距離攻撃がきます」 「それに、上から一機だろう」 【トニトルス】の撹乱は読まれていた。 さらに、【ジャック】が射撃体勢に入ろうとしていることも。 「アサルトライフルか。だが、武器が良ければいいというものではない」 銃声は一発。 (ジェネレーターに被弾!) (まだだ……!) それでも、グエナ機に向かって放つ。 タイミング的には、ちょうどコームラントのビームキャノンが放たれてからだ。 なるべく、後方に誘導しようとしたが、あろうことか敵は前進してきた。 「さあ、撃ってみろ!」 前の戦いでは慎重なグエナ機なだけに、意表を突かれた。 すれ違いざまに敵の機関銃の銃弾を浴びる。が、こちらもアサルトライフルで応戦する。 「全弾……落とされた!?」 真正面から、【ジャック】の銃撃を全て機関銃で弾いたのだ。 「射線が予測出来れば、どうということはない」 敵機が振り返り、【ジャック】の両腕の関節を破壊した。 「さあ、銃は使えない。どうする?」 そこへ、【トニトルス】がビームライフルを放とうとする。 『おい、グエナ。ボサっとするなんてらしくねーぞ』 『柄にもなく熱くなっていたようだ』 【トニトルス】とエヴァン機が向かい合う。 (兄さん、相手の武器は剣です。ここからは私が攻撃を行います) (頼む、ルーチェ) ビームサーベルに換え、エヴァン機に斬りかかる。 「それで勝てると思ってんのか?」 空を切る。 すぐに、エヴァンの斬撃が来るが、頭部バルカンで牽制する。 「勝てるかてないの問題じゃない! 絶対に勝つんだ!」 引いたと見せかけ、エヴァンに向かって突っ込む。 「甘え!!」 敵機はゼロ距離まで詰め、頭突きをしてきた。 そして、一気にビームサーベルを持った腕を肩口のブースターから斬り落とした。 (バランスが……崩れるッス) だが、まだシステム上はオールイエロー。航行はギリギリ可能だ。 ビームライフルに装備を戻し、離脱する。 「ロッちゃーん、カメラぶっ壊れたー」 「カメラもバルカンも、必要ねーよ。『感じろ』アンリエッタ」 一見すると、ダメージをエヴァンは被ったように見えた。 (フェル! こっちを気にせず思う存分やりな! リベンジだ!) そして、【シュヴァルベ】と向かい合う。 敵は剣を構え、その場に止まった。 「上から機関銃、次に左からビームキャノン。避けたら多分ミサイルくるから、フレア散布しながら上昇。位置的に、あのサーベルの相手は下から来ることになるから、フェイントで下降すればいい感じかもー」 次の瞬間、エヴァン機が動いた。 上空からの【アーベントロート】による機関銃の射程から外れ、左に飛び、あえてビームキャノンの前に出る。そしてそれを剣で切り裂きながら、【アトロポス】に接近する。 (来たですぅ!) (だが、剣ならこちらにもある) エヴァン機の剣を、実体剣で受け止める。 「ハッ!」 だが、それは弾かれる。 (まだだ!) 至近距離からバルカンと、さらにはミサイルを発射する。 だが、ミサイルは外れ、バルカンの射程からも即座に離脱された。 装備を機関銃に切り換える。 「何!?」 その瞬間、エヴァン機は機関銃に剣を投げた。 その刃が銃身に刺さる。 敵機は投げると同時に急接近し、それを掴んで一気に斬り上げた。 「聞こえんだよ。武器を換える音が」 直後、【シュヴァルベ】が接近する。 「そこだ」 斬り上げた状態から、今度は刃を振り下ろす。 「――――ッ!!」 ビームサーベルでは受け止めきれない。 機体を捻り、【シュヴァルベ】はなんとかかわす。 「負けて、たまるか! 僕らは失敗してなんぼの先駆者で開拓者だ! 失敗だって踏み台にして前に進むだけだ!」 その体勢から、強引に斬撃を繰り出す。 しかし、それを敵は咄嗟に片腕を伸ばし、握った。 当然、ビームサーベルの光条部分を握ったらマニピュレーターは使い物にならなくなる。 「腕くれーくれてやる!」 そのまま、【シュヴァルベ】を殴りつける。 さらに、実体剣でその腕を切断し、 「墜ちろ!」 勢いをつけて、かかと落としを繰り出してきた。 「く……!」 頭部バルカン、センサー類を破壊されたが、なんとか海面にぶつかる前に止まる。 「アイツは、この状態で戦っているのか!」 エヴァンは目視を行うことが出来ない。 だが、機体や武器の「音」、そしてレーダーだけで、こちらの動きを完全に読んでみせた。 リオは同じ状態になって、相手の真の実力を実感した。 「やはり、強いですわね……!」 相手も今回は無傷というわけではない。 だが、相手からは底知れぬ執念染みたものを感じ取る、 苦しい戦いがまだ続く、そう思った矢先のことだった―― |
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