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ゴチメイ隊が行く5 ストライカー・ブレーカー

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ゴチメイ隊が行く5 ストライカー・ブレーカー

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「突然送信機器が復旧した!? すぐに原因を調べて。それから、何、その浮遊島の話。詳しく聞かせなさい」
 メカ小ババ様による妨害電波が消えたラジオ・シャンバラでは、シャレード・ムーンが一気に元気を取り戻していた。
 急いで戻ってきたアーサー・レイスからあわただしく情報を引き出し、放送用原稿にまとめていく。
「まったく、なんで、その情報源をここへ連れてこなかったのよ。大失態よ!」
 叱責しながらも、シャレード・ムーンは事件の全体像を再構成していった。
 空京を何かで攻撃する計画があるのだとしたら、このサイバーテロは陽動であり、迎撃システムの無力化を狙っているに違いない。現在の空京は、情報の孤島と化している。はたして、情報を整理して迎撃態勢を敷くだけの時間的余裕があるだろうか。イコンだって、まだ空京には正式配備されていないのだ。頼ることはできないだろう。
「すぐに街宣車を再び用意して。避難誘導と、迎撃可能な者への通達、急ぐわよ!」
 アーサー・レイスの手を引いて走りだしながら、シャレード・ムーンが叫んだ。
 
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「いたっ! 吹き飛ぶのだよ!!」
 メカ小ババ様を見つけた毒島 大佐(ぶすじま・たいさ)が、一片の躊躇もなく敵をサンダーブラストで吹き飛ばした。いや、もはや敵と言うよりも、獲物と言った方が近い。
「空大の中にいたメカ小ババ様は誘爆して全滅したみたいだけど、結局は潰しても潰しても現れるのだな。小隊長みたいなコアになる奴が見つかればいいのであるがな。手間はかからんし、一気に吹っ飛ばせる爽快感が……」
 ふっふっふっと、次の獲物を探しながら毒島大佐がほくそ笑んだ。
 なにしろ、今は大義名分はこちらにある。メカ小ババ様を潰すことは正義だ。何を躊躇する必要があろう。いずれにしろ、意味もなくいるはずがない。おそらくは、この通信障害を引き起こしているのはメカ小ババ様であろう。
「いたっ!」
 携帯電話の中継局らしきアンテナの付近で、毒島大佐が新たなメカ小ババ様を発見した。通信妨害しているのであれば、通信施設の近くに敵がいるのは自明の理だ。
「潰れるのだ!」
 メカ小ババ様を人差し指で指し示した毒島大佐が、サイコキネシスで圧殺しようとした。だが、一瞬早くメカ小ババ様が炎を叩きつけられ、クルリと一回転して倒れてから自爆する。
「誰なのだ、我の得物を横取りする虚け者は!!」
 美味しいところを持っていかれた毒島大佐が叫んだ。
「そんなことを言っている場合ではないじゃろう」
 爆炎波でメカ小ババ様を倒した織田 信長(おだ・のぶなが)が答えた。
「どうやら、このちっちゃいロボットみたいなのが、空京の通信網を停止しているらしいのよ」
 メカ小ババ様の自爆した後に何も残っていないのを確認しながらノア・アーク・アダムズ(のあ・あーくあだむず)が言った。
「どうも、何か巨大な敵をこの空京に呼び込むために、防衛能力を麻痺させているらしいんだ。さすがにこれは見捨てておけないだろうが。今は、誰が倒したかなんて二の次だろ」
 桜葉 忍(さくらば・しのぶ)が、正論を吐く。
「空京も守るのは、我も賛成であるな。だが、あれは我の獲物。ちなみに、一匹も逃がすつもりはない。殲滅なのである!」
 言うなり、毒島大佐が次の獲物を先に探しだそうと駆けだしていった。
「浮遊島が迫ってきているという話もあるし、時間はそれほどないわ。雑魚はああいうのに任せて、私たちは大元のコントロールシステムを潰そうよ」
「そうだな。敵の足取りを追ってみようぜ」
 ノア・アーク・アダムズの言葉に、桜葉忍が言った。
 
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「皆さん、落ち着いて移動してくださいです。あわてずさわがず、ゆっくり急いでなのです」
 空京から大陸へと繋がる大橋にむかう人々を誘導しながら、レオポルディナ・フラウィウス(れおぽるでぃな・ふらうぃうす)が叫んでいた。
「ふむ。今のところは、混乱は最小限に抑えられているようですな」
 大通りに面したオープンカフェに座って、落ち着き払ってお茶を飲みながら道明寺 玲(どうみょうじ・れい)が冷静に感想を述べた。かたわらにおいたラジオからは、再開されたラジオ・シャンバラの緊急放送がずっと流れている。
「玲さん、いくらなんでも落ち着きすぎですよ」
 ちょっと怒ったように、レオポルディナ・フラウィウスが道明寺玲に言った。
「それがしらまであわててどうするのですか。まったく動じない者たちもいる。それでこそ、パニックも起きにくくなるというものです」
「そうでしょうか」
 避難する人々の列を見て、レオポルディナ・フラウィウスはちょっと懐疑的だ。
 どうやら、天沼矛も動いていないらしく、脱出路はヒラニプラ鉄道のある大橋に限られている。とはいえ、鉄道によるピストン輸送と、個人の乗り物による移動で、極端な混乱は起きていない。小型飛行艇や空飛ぶ箒などの普及のせいもあるだろうが、離島に閉じ込められているというような閉塞感は希薄だ。そのへんが、いかにもパラミタの民というところだろうか。危なっかしいのは純粋な地球人たちだけであるが、逸早く事態を把握し始めた学生たちが、安全な避難誘導を開始していた。当然、事態を打開しようと浮遊島にむかった者たちもいる。幾度とあった危機を乗り越えた者たちは、冷静にこの事態に対処している。これこそ、パラミタに各学校を作った本来の成果が出ていると言えよう。
「すでに浮遊島にはココさんたちが行っているという話もありますし、ゴチメイが関わって無事だった物は少ないですから、じきにその島も粉微塵でしょう」
「そううまくいけばいいのですけれど」
「いかないのであれば、そのときこそ、それがしらの出番になるというだけです」
 この程度のことと安心しきってみせる道明寺玲を、レオポルディナ・フラウィウスは信じていいのだろうか、いや信じなくてはいけないと強く思った。
 
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「御空、あのビルの上です」
 光る箒に乗って上空から警戒していた白滝 奏音(しらたき・かのん)が叫んだ。
「そこ、どいてくれるかなあ!」(V)
 小型飛空艇アルバトロスに乗った天司 御空(あまつかさ・みそら)が、曙光銃エルドリッジでビルの上の携帯用アンテナ近くにいるメカ小ババ様を狙撃する。
 ピンポイントで中央を撃ち抜かれたメカ小ババ様が、ビルの上から落ちて空中で自爆した。
「大丈夫ですか、皆さん。危険は、俺たちが排除します。安心して避難してください。現在空京大橋で避難活動を行っています。信じてください、空京は滅びませんし、皆さんきっと無事に帰れます」
 大橋近くのメカ小ババ様を排除しながら、天司御空は避難民を誘導していった。
「御空、次点の目標を発見しました。攻撃しますが構いませんか?」
 目視でメカ小ババ様を上空から探している白滝奏音が、天司御空に訊ねた。最初はディテクトエビルで周囲を探査していたのだが、メカ小ババ様には反応しないと気づいて途中から目視による探査に変更している。ラジオからの情報で、通信施設近くにいるらしいと分かったので、発見は順調だった。
「もちろんだよ。まだまだ気を抜くな。最後まであがく諦めの悪さを敵に見せつけてやろうぜ」
 自信をもって、天司御空が答える。地道な作業でも、敵の数を減らしていけばいつかは通信も復旧するだろう。なにしろ、戦っているのは自分たちだけではない。
「了解です」
 サイコキネシスでメカ小ババ様を宙高く放りあげた白滝奏音が、魔道銃で敵を破壊した。
 大橋では、飛行手段をもたない人々が歩いて大陸へと渡っている。対岸では簡易結界を広げて、避難所が作られ始めていた。
「目につく敵は一応排除したか。歩くのが大変な方は、お運びします。申し出てください」
 最終的な警戒を白滝奏音に任せると、天司御空は、他の者がすでに始めているピストン輸送に加わっていった。
 
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「えらいことになっているようなのだな」
 ラジオに耳をかたむけていた讃岐院 顕仁(さぬきいん・あきひと)が、軽く顔を顰めた。
「まったくや。まさか、こんなことになるやんてなあ」
 みごとにはめられたと、大久保 泰輔(おおくぼ・たいすけ)が眉間に皺を寄せた。
 空京大学のコンピュータ室でリリ・スノーウォーカー(りり・すのーうぉーかー)が何かしでかしてしまったようなのだが、それがこの結果だとしたら、それを防げなかった彼らにも幾分かの責任があるのではないだろうか。仮にウイルスをばらまいてしまったとしても、プログラマではない大久保泰輔たちには駆除する術はない。だとしたら、別な方法で事件にアプローチしなければと情報収集していたら、讃岐院顕仁が聞いていた携帯ラジオからとんでもない情報が流れてきたというわけだ。
「この雲海をそんな物が飛んでくるとしたら、一応誘導などをしているんじゃないでしょうか」
「そうやな、どれ、顕仁、ラジオ貸してみ。こいつ改造したって、電波探知機に……」
 レイチェル・ロートランド(れいちぇる・ろーとらんと)の言葉を受けて、大久保泰輔が讃岐院顕仁からラジオを取りあげようとした。そうされてたまるかと、讃岐院顕仁が身を挺してラジオをかばう。
「それは難しいんじゃないかなあ。音、特に音波とか電波とかいう物には周波数帯という物がありますから。そのラジオだと、中波しか受信できませんよ。携帯電話などは極超短波ですし、誘導波などでしたらマイクロ波やレーザーガイドとか、単純に目視とかいろいろありますから」
 そんな簡単にラジオの改造とかで探知機なんかできないとフランツ・シューベルト(ふらんつ・しゅーべると)が意見した。
「うーん、誘導波があったとしたっても、その種類が分からんとわやだということやな。だったら、そのメカ小ババ様ちゅうのをやっつけたってけば、その巣みたいなとこを叩けるんとちゃうんやろか」
 ちょっと考えてから、大久保泰輔が言った。
「泰輔ー、前むきだなー。そんな所を探したら、この悪巧みを仕組んでる御一行様ともれなく戦闘になるよ?」
 フランツ・シューベルトが、変に感心する。
「それでいいんとちゃうんか?」
 あっけらかんと大久保泰輔が答えた。
「やってみるか? 何か今の状況の打開になるかもしれぬぞ」
「そうですね。本拠地を探しだして破壊を……」
 讃岐院顕仁とレイチェル・ロートランドも同意する。
「さて、ほなら、いっちょうやりまひょか」