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リアクション
どこかの放送局の人が残した言葉は、風に乗って瞬く間に荒野に広まった。
もちろん、このキマク商店街にも。
今日もここに通ってきた志位 大地(しい・だいち)がその噂を耳にしたのは、親魏倭王卑弥呼が大量の食材を買い込んだことによる、カネの流れの一つについて話している時だった。
首領・鬼鳳帝は潰れたがバックにヤクザがいるかぎり油断はできない、むしろこれを機にヤクザが積極的に動き出すほうが脅威かもしれない、と大地は考えた。
チーマーとヤクザが種モミの塔でパラ実生を迎え撃つことに手一杯になっている今、経済的優位に立つチャンスである。
「これまでは部族ごとにバラバラでしたが、キマクを一つの身内として考えてみてください。身内から奪うのではなく、外から奪って自分達を繁栄させるんです」
大地の説明に店長達は「うーん」と唸る。
部族ごとに少しずつ違う掟、中にはまったく違う風習を持つ部族もいる。
時には繋がりを持ち、時には戦った。
そんな他部族を自分の所属する一族と同じ身内と認識するのは難しかった。
だが、外の奴から奪って自分達の糧にする、というのはとてもわかりやすい。
さらに卑弥呼の件。
「戦争は、儲かるのか……!」
店長達は未知の世界を発見したような顔をしていた。
もっとも、この結論に至るまでに、
大地「まずは、身の回りの出来事にアンテナを張り巡らせてください。そして、何が必要とされているのか感じ取るのです。それがわかったら、そこが商売の始まりです」
店長1「そのアンテナはどこに売ってるんだ?」
などという間抜けなやり取りがあったのだが。
しかし、たどり着いた結論も危険な方向であった。
「ええ、まあ、そういう面もありますが……その方向に走るのは危険ですよ。流動的ですから。やはり、地に足をつけた産業がいいと思います」
そう言って大地は、離れたところで農作業をしているパラ実イコンを見やる。
酒杜 陽一(さかもり・よういち)のある計画のために持ち出した数機のモヒカンやリーゼントのイコンだ。
農具を作ったのは酒杜 美由子(さかもり・みゆこ)で、どこからか集めてきた鉄くずなど、あり合せの材料でイコンサイズのものだ。
陽一は、バイオエタノールの原料となるパラミタトウモロコシの大規模農場を作ろう、と店長達に持ちかけた。
「そりゃかまわねぇが、肝心の機械がないぜ?」
「その辺は考えてある……」
店長達の疑問に陽一が披露した計画というのは、彼女と繋がりのある新日章会にパラミタトウモロコシを良質エネルギー資源として売り込み、日本やそこの大企業と取り引きをするということだった。
急に大きくなった規模に店長達は唖然するしかなかった。
正直なところ、何を言われたのかわからない。
彼らの反応から陽一もそれを察したのか、パラミタトウモロコシを国に売るんだ、と簡潔に言ってやっと理解されたのだった。
国や大企業はパラミタトウモロコシを得る代わりに資金や機材を貸す。
明日明後日に結果が目に見えるわけではないが、うまくいけば双方の大きな利益になると陽一は熱心に話した。
「ま、まあ……言いたいことはわかったがよ、途方もない話だな。それに、今のシャンバラ的にうまくいくのか? めんどくせー話だが、俺達は東シャンバラ国で、日本は西シャンバラ国側だろ? 詳しいことは知らねぇがあんたもパラ実生だし、大丈夫かい?」
堂々とでかい取り引きできるのか、という店長達の懸念はもっともだった。
ところで、現在とはまったく違う状況にあった過去、石原肥満が大規模な開発を計画していたことがあった。記憶喪失になったり闇龍の出現やその後逮捕されたりで頓挫しているのだが。
「けど、でかい商売はやってみたいなぁ」
店長の一人の言ったことは、集まった店長達の本音でもあった。
「とりあえず、パラコシ作ってみるかァ? 陽一の伝手でいけりゃァいいが、別のとこが買ってくれるかもしれねぇし。なけりゃ、ゆる族に高値で売るとか」
「そりゃもったいねぇだろ!」
陽気に笑いながら、彼らは種モミの塔にも向かわず暇を持て余しているパラ実生を呼んで、パラ実イコンに乗せて農作業を始めさせたのだった。
豪快に土を耕していくパラ実イコンの傍らで、ソラ・ウィンディリア(そら・うぃんでぃりあ)とメアリー・ブラッドソーン(めありー・ぶらっどそーん)が応援歌をうたっている。
今日はチアリーダーの衣装にポンポンを持っての活動だ。
♪見渡す限りの大荒野 カラカラ乾いた大荒野
根を張る俺も カラカラさ
そうさ俺はパラコシ パラコシなのさ
見てておくれよおっ母さん 待っててくれよおっ母さん
嗚呼 男パラコシここにあり パラコシ人生ここにあり
しゃにむになって 畑こさえてみたものの
乾いた土じゃ 育たねえ
俺には足りない水っ気が 厳しいだけじゃ駄目なのか
思い出したよおっ母さん 教えてくれたねおっ母さん
嗚呼 親子パラコシここにあり パラコシ人生ここにあり♪
忙しいなか、【ふたりはブルブラ】のために美由子が作った歌である。もちろん振り付けも。
パラ実イコンは、ソラとメアリーの歌声に合わせて鍬を下ろす。
いつしか一緒に歌う者も現れた。
美由子はその様子を眺めながら、
「すんませ〜ん、壊れちまったっス〜」
と、器用に頭をかきながら刃の部分が外れた農具を持ってきたリーゼントイコンを見上げる。
あり合せの材料のせいか、彼らの扱いが乱暴なのか、しょせんボタン一個の操縦に繊細な力加減などできないのか、ともかく美由子は農具の修理と生産に追われていた。
「直すからそこに置いといてね。新しいのはそっちにあるわ」
美由子はグッとため息を飲み込んで言った。
いずれ実るだろうパラコシ(パラミタトウモロコシのこと。長いので陽一が略した)をどうするのか。シャンバラの状況はどうなるのか。
『パラコシ親子道』を聞きながら、美由子は店長達と話し合う陽一をぼんやりと見つめた。
そこから少し離れたところで、氷月千雨ことメーテルリンク著 『青い鳥』(めーてるりんくちょ・あおいとり)がノートパソコンと睨めっこをしていた。
【亜魔領域】のサイトの商品注文フォームから送られた注文票を確認した後、彼女はシャンバラ教導団と首領・鬼鳳帝の関係について調べていたのだ。
もしも首領・鬼鳳帝のバックに教導団がいたとなれば大問題だ。
しかし、そのような背後関係は見つからなかった。
氷雨はかなり危ないところまで入り込んでみたが、両者にはなんの繋がりもなかったのだ。
地球各地から空京に運ばれたさまざまな貨物は、そのほとんどがヒラニプラ鉄道でヒラニプラへ送られる。
教導団はそれら貨物が賊に襲われないよう警備をしていただけだった。
ふと、差した影に千雨が顔をあげると、そこにいたのはやはり大地で、彼は身をかがめて画面を覗き込む。
「お仕事してただけでしたか……」
「何の関係もなさそうね」
つまらなさそうな顔をする千雨の、眉間に寄ったしわを大地が指でぐりぐりとさすると、その手は冷たく払われた。
「そんな顔しないでください。とりあえずお疲れ様でした」
千雨はゆっくり吐き出す息と共に、凝り固まった肩の力を抜いていった。
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