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リアクション
実家を守れ!
ヤクザが地球出身のパラ実生の実家を襲っている──。
その話しを聞いた御弾 知恵子(みたま・ちえこ)は、とても複雑な気持ちになった。
様子を見に行ったほうがいいのか、それとも関係ないとそっぽを向いたほうがいいのか。
(これは、今まで調子に乗ってたツケか? 契約して、力を手に入れたりなんかしないで、ふつうにしていればこんなことにはならなかったか?)
親不孝者、という言葉が知恵子の脳裏に浮かんだ。
「ケジメ、つけに行く」
フォルテュナ・エクス(ふぉるてゅな・えくす)にそう告げて、知恵子は地球の実家へ戻ることを決めた。
地球のヤクザに自分の存在がバレないように、とフルヘルメットで実家に近づいた知恵子は、顔を隠してきて良かったと心底思った。
家にはちょうど柄の悪い男達が三人押しかけているところで、知恵子の両親を口汚く罵りながら扉を蹴りつけている。借金の取立てのようだ。
見える部屋の窓にはぴったりとカーテンが閉められていた。
知恵子の両親が家にいるのかはわからない。
が、いてもいなくても関係なかった。
「アンタら、近所迷惑だよ」
チンピラ達の背後に立った知恵子は押し殺した声で言うと、一番声の大きかった男の尻をこれでもかと蹴り上げた。
情けない悲鳴をあげて尻を押さえてうずくまる男を、フォルテュナが「邪魔邪魔」と玄関先から放り投げる。
「何だテメェら!?」
「迷惑だっつってんの、ほら!」
凄んできた一人を往復ビンタで黙らせ、もう一人はフォルテュナが鳩尾に一発入れて撃沈させた。
知恵子は三人を道の端に並べると、尋問を始める。
「アンタらの事務所、教えてもらおうか。……言わないんなら、アンタらの家族もこうなるよ」
ベコンッ、と音を立てて三人が乗ってきたと思われる車がフォルテュナのフランキスカによって真っ二つにされた。
目を剥いて顔面蒼白になるチンピラ達。
三人は事務所の場所を吐いた。
「お、教えたんだから、もういいだろ!?」
解放しろ、と訴える。
「ふん、どこへでも行っちまえ」
軽く蹴飛ばすと、三人は転がるように逃げていった。
知恵子はそれを見送ると、ポケットから手紙を一通取り出し、家のポストに差し込んだ。
謝罪の言葉が記されてある。
手紙を落としたポストをじっと見つめる知恵子の背中を見ていたフォルテュナは、わずかに罪悪感を覚えていた。
オレが、チエを不良にしちまったかな、と。
迷惑そうに自分を見ていた知恵子の家族を思い出す──。
知恵子の家は、ごく普通の中流家庭だ。そして彼女は大切な一人娘。
両親の期待に応えようと、真面目な知恵子は一生懸命に勉強に励んでいた。周りからガリ勉と囁かれても。
フォルテュナが知恵子に初めて会った時、彼女は『ガリ勉』らしい、三つ編おさげにメガネのおとなしい女の子だった。今とは大違いだ。
もし、今ここで家の扉が開いて両親が出てきても、フルヘルメットを抜きにしても、自分達の子だと気づかないだろう。
それほどに、雰囲気も何もかも変わってしまっていた。
情に厚くて純情なところは変わっていないが。
フォルテュナと契約して特殊な力を手に入れた知恵子は、自分でも気づかなかった抑圧されていた心を解放した。
パラミタへと飛び出した。
「さて、あいつらの事務所へ行くとするか。……どうした? シケたツラして」
「何でもない。行くか。ブッ潰してやろうぜ!」
小さな罪悪感を知恵子に打ち明けたところで、怒りのクロスファイアが飛んできそうだ。
だから、フォルテュナはいつも通りに強気な笑みで応えた。
「もう二度と来るんじゃねぇぞ!」
ボコボコにされて逃げていくチンピラの背中を怒鳴りつける姫宮 和希(ひめみや・かずき)。
周りで十数人のパラ実生が馬鹿笑いした。
地球出身のパラ実生の実家がヤクザに襲われていると聞き、生徒会長として黙っていることなどできずにやって来た和希は、最初は一人だった。
手元にあるのは種モミの塔を攻めることを優先したパラ実生の実家の住所。
家族を見捨てたわけではない。彼らなりの苦しい選択だった。
その彼らの心配事を少しでも減らしたかった。それだけだ。
最初の家を訪ねると、チンピラが数人でインターホンで家の中の住人に凄んでいた。
「やめろ」
と、和希は止めに入ったが、当然のごとく軽くあしらわれる。
「やめないと、少々痛い目を見てもらうぜ」
「威勢のいいガキだな。おい、つまみ出せ」
チンピラのリーダーらしき男が言うと、凶悪な目つきの派手な男がニヤニヤしながら和希に近づく。
荒野でのヤクザの強さを知っている和希は、彼らより格下に見えるチンピラにも油断せず身構え、男の繰り出した素早い拳を、軽身功を使ってそれ以上の速さでかわし、反撃できないようにドラゴンアーツで威力をつけた力で殴り飛ばした。
──予想以上に飛んだ。
衝撃を殺すために自ら飛んだか、あるいは大げさだがレビテートや空飛ぶ魔法↑↑かと思うほどに。
見ていたチンピラ達もポカンとしている。
そして。
「うわああああ! 怪力女だーッ!」
「人ってあんなに飛ぶのか!?」
「改造ゴリラー!」
ブッ飛ばされた仲間を置き去りに、チンピラ達は小学生のような暴言を残して逃げていった。
「誰が改造ゴリラだ!」
和希の怒りの声が虚しく響く。
その後、和希は姉がいかがわしいアイドル事務所に連れて行かれたと、玄関先でうなだれているパラ実生と共に事務所に乗り込んで姉を助け出したり、ありもしない借用書を破り捨てに向かったり、家庭不和を招こうとする工作をブッ壊しに走ったり……とにかく、リストの住所を片っ端からあたった。
途中、家族のために地球に戻っているパラ実生と出会って解決のために協力しているうちに、数を増していったのだった。
自然、生徒会や和希自身への人望が高くなっていく。
「会長、少し休んでください」
ついてきているパラ実生の一人が缶ジュースを差し出して休憩を勧めてきた。
和希は礼を言って受け取ったものの、その場で飲み干しただけで休むことは良しとしなかった。
「ここまでやり合ってわかったが、喧嘩になれば俺達が圧倒的だ。けど、法律がらみでこられたら太刀打ちできそうもない。ややっこしいことになる前に潰さねぇと」
誰一人、見捨てたりしねぇ、と言う和希の決意にパラ実生達は心を打たれ、最後まで和希と共に戦うことを誓った。
「ところで会長、俺ら以外にもヤクザと戦ってる奴がいるらしいんですよ。確か、おハジキのチエとか何とか……」
「あたいを呼んだかい?」
噂をすれば何とやら、本人がひょっこり現れた。
あの後、知恵子は事務所をメチャクチャに壊し、さらに彼らのボスの名まで聞きだしていた。
「大和田組だ。思った通りだよ」
大和田道玄が指示を出したのだろう。
「そうか……それでも、俺はやめない」
「どうせなら、大元を懲らしめてやろうか」
「仲間達を助けたら行ってみよう」
この後、パラ実生徒会長とおハジキのチエはヤクザに目を付けられることになる。
一方こちら。
家族のためではなく、自分のために地球に降りてきた二人組。
「むっきぃ〜! 首領・鬼鳳帝イメージキャラクター☆キャンティちゃんの計画が水泡に帰しましたわ〜!」
古風な門構えの屋敷の前で地団駄を踏むキャンティ・シャノワール(きゃんてぃ・しゃのわーる)。
その様子に、はて、と首を傾げる聖・レッドヘリング(ひじり・れっどへりんぐ)。
「……お嬢様の『恋の予感』では、なかったようでございましょうか?」
蓮田レンにずいぶん親しげに話しかけていたキャンティを見ていた聖には、彼女についてきたものの感情の在り処がいまいち掴めないでいた。
「グッズもみんな万引きされてしまいましたし……今頃、蛮族の間で大流行ですぅ」
怒っていたかと思えば何やら夢見がちに目をキラキラさせている。
やはり聖にはよくわからなかったが、レンの名がいっさい出てこないことはわかった。
そして、続くキャンティの発言で、ようやく彼女の目的を理解できたのだった。
「首領・鬼鳳帝のスポンサーに、直接慰謝料を請求しなければですわ〜」
というわけで、蓮田組の門前である。
重厚な木の門は固く閉ざされている。
門だというのに圧倒されそうな空気を漂わせていた。
が、それをものともせずに力いっぱい門を叩くキャンティ。
「たのもー!」
呼びかけ、数回叩いたが誰も出てこない。
キャンティは再び拳を叩きつけた。
「誰かいませんですの〜!」
ガコンガコンガコン!
「うるせぇ! 何者だ!」
「キャンティちゃんですぅ! 呼んだらすぐ出てくるですぅ」
いかにもな男が木戸から出てきたがキャンティの態度は変わらない。
彼女はふんぞり返って首領・鬼鳳帝で起こったことを話し、要求を突きつけた。
男は最後まで話しを聞いていたが、
「そんなこと知るか」
と、吐き捨て、木戸の向こうに戻ってしまった。
「こらぁ!」
「まあまあ、お嬢様。少し落ち着いて」
キャンティが振り上げた拳をやんわりと押さえる聖。何か考えがある目をしている。
「少し調べたいことがございます」
「慰謝料をふんだくる計画ですの?」
「そうなるかもしれませんね」
曖昧な返事に不満そうにしつつも、キャンティは聖についていくことにした。
適当に歩きながらも、聖は一般家庭に絡んでいるヤクザを探していた。
すると、十分ほど歩いた先の公園でパラ実生の集団を見つけた。
チンピラ相手に喧嘩の真っ最中のようだ。
ちょうどいい、と聖は近づいていく。
ボコッと蹴られて転がってきたチンピラの襟元を掴むと、
「蓮田組についてお聞きしたいことがございます」
底冷えのする笑顔で言った。
チンピラは顔色を悪くさせたが、見栄を張った。
「てめぇらに話すことなんか何も……」
言いかけた時、スゥッと頭上から影に覆われた。
視線を巡らせれば、和希に知恵子、他強面のパラ実生達にがっちり囲まれているではないか。
「どうやらお仲間はみんないなくなってしまったようでございますね」
チンピラはうなだれて観念した。
聖が彼に聞いたのは、蓮田組の現在の状況についてだった。
知っていることがあまりにも少ないから。
逃げられないと思った男は、知る範囲で質問に答えた。
そこから聞き出したことは。
・現在の蓮田組を仕切っているのはレンの母親であること。
・組長は死んだと言われているが、どうやら生きているらしいこと。
・その組長は、金を貸していた町工場の人達に人工衛星を作らせていたらしいこと。
・レンは組長の実の子ではなく、どこかで拾ってきた子らしいこと。
・レンは幼い頃から強運の持ち主として知られていて、一時期は下火だった蓮田組が今の勢力を取り戻したのはレンのご加護のおかげと言われていること。
噂程度のものもあったが、彼自身、噂で聞いたことなのでそれ以上のことは知らない。
「ありがとうございました。では、おやすみなさい」
聖に殴られ、気が遠くなっていきながら「話したのに……鬼か悪魔か……」と漏らしたチンピラに、聖は変わらない冷えた微笑で、
「鬼でも悪魔でもなく、執事ですよ」
と答えておいたが、聞こえていたかどうか。
聖の父親は、友人の保証人になり莫大な借金の取立てを苦に自殺している。その後、母親も借金返済の苦労がたたり早世しているため、今回のヤクザのやり方を強く嫌っていた。
はっきりと表には出ていないものの、滲み出る何かをこのチンピラは感じたのかもしれない。
「よし、このまま蓮田組へ特攻だ!」
「それは少し待ったほうがいいかもしれませんね」
意気込むパラ実生を聖は止める。
「相手はしたたかなヤクザです。社会的制裁で来られたら厄介でございますよ」
どこの誰と繋がってるかわからない連中だ。
それに、話しを聞き出したチンピラは蓮田組の者ではなく大和田組の者だった。
まだ蓮田組に手を出す時ではなさそうだ。
今できることは、身に覚えのない理由で嫌がらせを受けているパラ実生の家族を助けることだけということだった。
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