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冥界急行ナラカエクスプレス(第3回/全3回)

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冥界急行ナラカエクスプレス(第3回/全3回)
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第5章 チャンドラマハルの死闘【紅蓮編】(2)



「一度戦って解った、お前は強い。だが、その力はこんなことに使うものじゃない」
 ロイヤルガード葛葉 翔(くずのは・しょう)が、ガルーダの前に立つ。
 肋骨数本と内蔵を痛める重傷を負った満身創痍の状態だが、それでも彼の心を折ることは出来なかったようだ。
「俺にはお前が必要だ! だから俺と契約してくれ!」
 一見すると完全なる告白であるが、ちょっと意味合いは違う。
 正確には『俺(がロイヤルガードとしてシャンバラを護る)にはお前(のその実力)が必要だ!』となる。
「……頭に虫でも湧いてるのか?」
 鼻で笑うガルーダ。
 しかし、翔もまた不気味に笑う。
 ああ言う『自分最強』とか思ってるタイプの女性は、自分より強い奴に負けるとそいつに惚れやすいって話だ。あと、意外とストレートな告白にも弱いらしいな。この間読んだ漫画にそう描いてあったから、ほぼ間違いないハズだぜ。
 これが俗にいう漫画脳である。
 その時、のぞき部長弥涼 総司(いすず・そうじ)のフンマンやるかたない声が響いた。
「お……、オレを騙したなぁ!!」
 前回、エロスのダークサイドを体現する暗黒卿として、猛威を振るったようなそうでないような総司である。
 敵側に付いたと記憶しているが、彼は今噛み付かんばかりの勢いでガルーダを責めている。
「こいつがどう言うことなのか、ハッキリ説明してもらおうじゃねぇか!」
 携帯で『冥界急行ナラカエクスプレス(第3回/全3回)』のシナリオガイドを突きつける。

 >彼はルミーナ・レバレッジ(るみーな・ればれっじ)様の身体に憑依していたことが判明しました。
 >彼は


「はうあっ!?」
 思わず翔も自分の携帯でガイドをチェック。
「野郎がルミーナさんをいいようにしてるのも許せんが、女将軍的イメージを抱いてたオレの妄想はどうなる! 見た目は女、頭脳は男、その名は、冥界の炎の使い手にして未来を視る奈落人ガルーダ・ガル……って長ぇよクソが!」
「知るか! 貴様の妄想にまで責任が持てるか!」
 二人が口論する中、翔はガイドを見たまま呟く。
「身体はナイスバディなのに心は男……、有り……、全然アリ。逆にそう言うのが俄然燃えるって言うか……」
 漫画脳ここに極まり。
 この二人だけでも、空気がコメディになってきたと言うのに、更に駄目押しの人物が登場する。
「くだらねぇ言い争いはその辺にしときなっ!」
 パラ実のリーサルウェポン、S級四天王がひとり、パンツ番長国頭 武尊(くにがみ・たける)だ。
「のぞき部部長がそんな小せぇこと気にしてんじゃねぇ! 中身よりパンツのほうが重要だろうが!」
「む……、確かにパンツは重要な問題だが、それはそれ、ことはモラルの問題だ。女の身体に男がだなんて……」
 何故か会話が成り立つ二人である。
 あと、この人達はモラルと言う言葉を口にするの禁止。
「……扉絵を見た時からずっと気になってたんだ。何故パンティーラインが見えないのかってな」
 グラサンを外し、武尊はクワワックワワワッと目を見開き、ガルーダの股間を凝視。
「考えられるのは二つ。(1)ラインが見えないように紐パンを履いている。(2)何も履いていない。パンツに執着する者として、オレには真実を確かめる義務と責任がある。幾千幾万のパンツ愛好者に成り代わり、真実を確かめるぜ」
 シリアス度が100下がった。
「……貴様、本当にそれを確認するためにここまで来たのか?」
「当たり前だ! 冥界にまで来る価値はあるっ!」
 迷いねぇ。
 しかしこう灰汁の強い三名が揃うと、なんともはや共闘と言う空気ではなくなってくる。
「何がパンツだ、ふざけるな! そんな理由で俺の恋物語を邪魔するんじゃないっ!」
「ふざけてるとはなんだ、コラ! もしかしたら羞恥心のあまりルミーナさんが覚醒するかもしれねぇだろがっ!」
 睨み合う翔と武尊。
「確実に他のやり方があるだろが! と言うか、俺の嫁にそんなセクハラは許さん!」
「知らねぇよ! 女はくれてやる……、だが、パンツはオレのもんだ!」
「おまえら二人で話を進めてんじゃねー! オレなんてどっちも欲しいんだからなっ!」
 どうなってんの、このキャンペーン。変な人しかいないんですけど。
 ガルーダを嫁にしたいもの。ガルーダに憤慨するもの。パンツしか目に入らないもの。
 想いは三者三様、本当に協調性がない。


 ◇◇◇


 そして戦いは再開する。
「本当にこんなんでいいのかなー?」
 最終決戦の在り方に疑問を抱きつつ、翔の相棒アリア・フォンブラウン(ありあ・ふぉんぶらうん)は煙幕を展開する。
 天眼にさらされなければこちらの行動は読まれないはず。
 更にファイアプロテクトをかけて、ガルーダの炎に一度だけでも耐えられるよう支援を行う。
 考えることは同じで、総司もまた煙幕ファンデーションを焚き、自分の身を隠す。
「おまえのおっぱいだけを感じて戦うとしよう」
「く……、こいつらの相手をしているとオレの威厳が損なわれていく……!」
 ガルーダの魂の叫びだった。
 一寸先も見えない煙の中、先陣を切ったのは翔。
 重傷を負った身体はそう長くは持たない。一撃に全てを託し、うっすらと見えるガルーダの影に迫る。
 バーストダッシュで上空に飛び、大剣を寝かせた腹の部分でスタンクラッシュを放つ。
「もらった!」
 ……と鼻先まで迫った瞬間、それがガルーダではないことに気付いた。
 よく見りゃ、光条兵器のライトセーバーを振り回しこちらに突っ込んでくる総司である。
「うわっ! 避けろ!」
「ちょ、ちょっと待て……!?」
 総司は咄嗟に飛び退こうとしたが、何故か地面が凍結していて踏ん張れない。
 それもそのはず、武尊のパートナー猫井 又吉(ねこい・またきち)が冷線銃の冷凍ビームで地面を凍らせているのだ。
「予知能力だか天眼だか知らねーが、俺と武尊をなめんじゃねーぞ」
 相棒の攻撃を支援するため、地面をツルツルにしているようである。
 ガルーダが滑って転べばパンツを奪うチャンスが出来る、全てはパンツのため、世界の合い言葉はパンツ。
「……それにしても体が重いな。なんか調子も悪いしよ。自己診断でもしてみるか?」
 それはセルフモニタリングするまでもなくデスプルーフリングがない所為である。
「なんか上手く狙いが定まらねぇ。つか、それ以前に煙幕で何も見えねぇ。ま、適当でいっか」
 その結果、スタンクラッシュが総司の脳天を粉砕し、ライトセーバーが翔の傷口に深々と突き刺さった。
「う、うぐぐぐ……!!」
「い、い、いてぇ……!!」
 苦悶する二人。
 そこにダブルラスター血煙爪を掲げた武尊が突っ込んでくる。
「くそー! 前が見えねぇ! どこだー、ガルーダ! 神殺しの血煙爪で、(衣装を)バラバラにしてやるぜー!」
 チェインスマイトで振り回される血煙爪が、ちょうど目の前でうずくまっていた二人を斬り裂く。
 幸い光条兵器の特性を使って衣服以外は斬らないようにしてあったため、取り返しのつかない大怪我は避けられたが、二人とも公衆の面前で服をバラバラに引き裂かれ全裸になると言う……、別の意味での大怪我を味わうこととなった。
「な……、つ、つまらんものを斬っちまった。野郎のまっぱに興味はねぇ、ガルーダはどこだ!」
「こんなにしといて酷い……」
 翔は泣いた。それは人として当然の恥じらいの涙であった。
 だが、総司のほうは特に我が身の恥部を隠そうともせず、パンツ番長のしようとしていることに興味を示した。
「まさか……、ガルーダの服をそいつで斬ろうとしているのか!?」
「ったりめぇよ!」
 シンパシーを感じる蒼学の暗黒卿。
 その時、彼のトレジャーセンスにおっぱいの反応があった。
「……パンツ番長、上だ! 手柄を譲るのは悔しいが……、オレ達の未来をその血煙爪で切り開いてくれーっ!」
「部長……! そうだよな……、学園は違うけど、俺たちが目指すものは大概同じだよな……!」
 空から奇襲をかけるガルーダにラスター血煙爪が一閃。
 ガルーダの衣装の腰の辺りにピッと裂け目が生じた、全男子のフロンティアへ続く神秘の裂け目が。
 パンツの申し子は血煙爪を捨て、右腕を突き出す。サイコキネシスで一気に引き破るつもりだ。
「パンツ力(ちから)全開!! 破れろ!!」
 未来をこの手に掴むまであとわずか……、もう少しで手が届く……。
 しかしその瞬間、どこからか飛来した稲妻が、武尊の後頭部を激しく直撃した。
「ほぎゃああああ!!」