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冥界急行ナラカエクスプレス(第3回/全3回)

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冥界急行ナラカエクスプレス(第3回/全3回)
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序章 チャンドラマハルの死闘【胎動編】



 奴隷都市の荒廃した町を見下ろすように、象牙色の美しい宮殿がそびえ立つ。
 チャンドラマハルと呼ばれる宮殿は奴隷都市の支配者達が代々君臨する居城だ。
 玉座の間は、大理石で作られた純白の空間、ガラス張りの天井から不気味なナラカの空が見える。
 重厚な扉が勢いよく開き、二人の奈落人が慌ただしく入ってきた。
 大蛇の下半身と四つの腕が生えた妖艶な女性の上半身を持つ【タクシャカ・ナーガラージャ】
 そして、ミミ・マリー(みみ・まりー)の身体を支配する【羅刹兄弟クベーラ】だ。
 その肩には、縄でグルグル巻きにされた御神楽 環菜(みかぐら・かんな)の姿もあった。
「放しなさい……!」
「ええい、ジタバタ動くなデコ助! この小さき身体では支えるのが難しいのだ!」
 クベーラは眉を寄せる。
「遅かったな……」
「むっ!?」
 不意の声にタクシャカは目を細める。
 玉座には先客……、奈落人の【ガルーダ・ガルトマーン】が腰を落ち着けていた。
 負傷した腕を差し出し、配下の死人達に治療を施させている。
「ほう、随分と手ひどくやられたようじゃな……、貴様ほどの奴に手傷を負わせる者もおるか」
「面白くなってきた。この血がたぎるのも数千年ぶりだ」
 言葉を交わす二人に、環菜は表情を強張らせる。
「ルミーナ……!?」
 ゆるやかに波打つ髪、透き通るような白い肌、そして、美しい六枚の翼。
 パートナーのルミーナ・レバレッジ(るみーな・ればれっじ)の身体は今やガルーダの支配下にあった。
「ふん、貴様もこの身体の知り合いか」
 興味なさげに言う。
 姿こそ同じだがその態度や表情はまるで別人、ルミーナとは似ても似つかない。
 ガルーダは立ち上がると、今度は環菜を玉座に座らせた。途端に鋼鉄の手枷足枷が締まり、細い手足を完全に拘束する。それと同時に椅子の周りに大型のスーパーコンピューターが床からせり出し、墓石のように立ち尽くした。
 それから、椅子の背面に設置されたヘッドカバーが持ち上がり、環菜の小さな頭をゆっくり覆っていく。
「何を……?」
「クベラッハクベラッハ! 知れたことよ、貴様の頭の中身をこいつで吸い出すのだ!」
 椅子は深紅に輝き鳴動する。
「くぅ………!!!」
 ほとばしる赤い光はまるで稲妻のよう。するりとダイブし、頭の中を駆け巡る。彼女の持つ計り知れない才能、これまでに経験した様々な出来事……、そして、大切な人とのかけがえのない思い出、光は全てを踏みにじって流れる。
 装置の画面では情報剥奪までのカウントダウンが始まった。
「これでいい、もうしばらくすれば全て終わる」
 その時、配下の死人戦士が玉座の間になだれ込んで来た。
「報告致します! 敵列車が宮殿前の駅に到着、現世人の一団がこちらに向かってきているとの知らせです!」
「クベベベベ……、まことしつこい奴らだ」
「どうせ間に合うまい。奴らが辿り着いた時には、小娘は抜け殻になっていることじゃろうて……」