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イルミンスールの大冒険~ニーズヘッグ襲撃~(第3回/全3回)

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イルミンスールの大冒険~ニーズヘッグ襲撃~(第3回/全3回)
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リアクション

 
 速度の問題で出遅れる形になった『アルマイン・マギウス』も、少しずつ数を揃え始める。機敏な動きがブレイバーに比べて難しい分、彼らは低空を飛び、何かあった時に森に隠れられるようにしていた。
 それは、森を傷つける一面もあるが、迂闊に空中に出て撃墜でもされようものなら、余計に森に被害を与えることに繋がる。
 アルマインは、もしそういうものがあるとしたらの話だが、魔力タンクを背負った魔法使いでもある。当然、攻撃を受ければ魔力が暴発して、周囲に甚大な被害をもたらしかねない。
(……大きな力は時に、自身を滅ぼすことがある。まさに今、私は大きな力を背負ってこの場にいる)
 マギウスに搭乗する本郷 涼介(ほんごう・りょうすけ)が、出来る限り仲間機との連携を取ることを念頭に置きつつ、自分が強大な力を行使しようとしていることを自覚する。
(しかし今は、仲間を、友を、そして帰る場所を守り助けるため、この力を使おう。
 相手は誇り高き龍騎士の一柱、ならば私も誇りを賭けて戦おう)
 既に、ブレイバーで先行した仲間がアメイアへ対話を試み、不調に終わったことは涼介機にも伝わっていた。話したいことがないわけではなかったが、既に戦闘となった今は、ただ互いの誇りを賭けて戦うのみ。
「ブレイバーは全機、アメイアへ接触してるみたい。マギウスの方はまだ、アメイアを射程に捉えてない機体がいるよ」
 涼介の背後、右側から、主に通信担当のクレア・ワイズマン(くれあ・わいずまん)の声が届く。
 ブレイバーの方が最高速度が速いこと、機体を手に入れてからぶっつけ本番で戦闘に投入していることが、互いの足並みが乱れている諸原因と考えられた。
『えっと、これでいいのかな? こちら遠野 歌菜、聞こえますか?』
 そこへ、同じくマギウスに搭乗する遠野 歌菜(とおの・かな)からの通信が入る。
『単独で撃つよりも、効果的にタイミングをずらして撃った方が効果があると思うんです』
「ああ、私も同感だ。ここは互いに連携して攻撃に移ろう」
『了解です! では私と羽純くんが先に仕掛けますので、隙が出来たところを当てちゃってください!』
 通信が途切れ、歌菜と月崎 羽純(つきざき・はすみ)が乗るマギウスが涼介たちの前方に移動する。
「アメイアさんはもう、機動兵器からは離れてるんだよね?」
「ああ、そのようだな。俺達の前に一戦闘あったらしいが、ともかくこれで対策は取りやすくなる」
 歌菜の問いに、触れた水晶を通じて周囲の状況を映し出した羽純が答える。
 リンネたちが乗っている機動兵器と、アメイアとの距離は少しずつ離されていくのが、立体的に映し出された地図から判明する。
「俺が左のカノンを制御する、歌菜は右のカノンを頼む。俺も出来る限り歌菜のサポートをする、思い切り行け!」
「うん! アメイアさんの好きにはもうさせない、今が逆襲の時だよっ!」
 言い放つ歌菜の見つめるモニターの中で、アメイアの姿が徐々に大きくなっていく。
 校長室とのやり取りを通じて、カノンの射程はおおよそ判明しており、後はこれまで戦ってきた中で培われた感性が、一撃の命中率を左右する。
(アメイアさんは龍騎士だから、私よりたくさん戦ってきたはず。
 ……だけど、それだけが勝敗を決定しない! イルミンスールを守ろうとする想いなら、私は絶対負けない!)
 カノンを発射するイメージを思い描き、絶対に負けない、という強い決意を胸に、歌菜がアメイアを射程に捉える。
 左のカノンから魔力弾が発射され、アメイアの脛を狙うが、それは避けられる。
「いっけーーー!!」
 歌菜の声に合わせ、今度は右から魔力弾が放たれる。飛び荒ぶ弾は今度はアメイアを打ちはするが、直前に避けられた分効果的なダメージとはなっていないように見えた。
 だがそこへ、背後から二つの魔力弾が飛び、今度はアメイアの右脛へと命中する。
 服が抉れ、出血する様はアメイアが巨大化しても生物であることを教えていた。
(……これが、もし機械のような相手だったら、私はどう思っただろう。
 アメイアが生物的であったことは、感謝すべきことかもしれない。
 私と同じであり、おそらく痛みも感じているだろうと思えるからこそ、私はこの大きな力に振り回されずにいられるのだから)
 カノンの斉射を命中させた涼介が、その結果に嬉しがることなく、火器管制を担当するエイボン著 『エイボンの書』(えいぼんちょ・えいぼんのしょ)に問いかける。
「報告では情報を得られているが、実際どう感じる?」
「はい、何と言いましょう、思ったより軽く撃てる感じです。数秒間の溜めがあって、次が撃てる感じですわ」
 エイボンの言葉では、発射間隔は数秒で、弾数も十数〜数十発はある感じだとのことであった。
「もちろん、無駄弾はこちらの消耗に繋がるでしょう。そのことを忘れず、わたくしは火器管制を続けますわ」
「私は情報担当を続けるよ! 今のように少しでも連携して攻撃できるように、頑張るよ!」
 エイボンに続いて、クレアも決意を口にする。
「ああ、頼りにしている」
 パートナーへの信頼を口にして、涼介も全力を尽くすことを心に誓う。
(アルマインよ、私の魔力はいくらでも渡そう。今は友を助けるため、その力を貸してくれ)
 
「ふふ、我がマスターはいつも通り素敵なことに遭遇していらっしゃるようで、大変安心いたしました。
 象に群がる蟻のように踏み潰されに往くんですね、なんて素晴らしいんでしょう……」
「違うわ。地下で手酷くやられた分、一矢報いさせてもらうとするぞ。そのためにおぬしを喚び出したのじゃからな」
「成程、承知しました。……ですが、神の代理と称されることもある機動兵器に、悪魔が乗っていいものやら」
 ファタ・オルガナ(ふぁた・おるがな)に喚び出されたローザ・オ・ンブラ(ろーざ・おんぶら)が、そんなことを口にしつつ一対の水晶に触れる。拒絶されないところを見ると、別に構わないらしい。ちなみに、魔鎧が乗っても(人間の姿に限定されるが)大丈夫らしい。
「んふ、この機体はいいのう、何でもできる気がするわ。せっかくじゃし、愛称でもつけようかの」
 自身の乗るアルマイン・マギウスに、ファタが『プシュケ』の名を贈る。
「マスターは随分とこの機体がお気に入りのようですね。……おや、見えてきたようですよ」
 周囲の哨戒に当たっていたローザが、既に戦闘に入っている数機のアルマイン・ブレイバーと、巨大化したアメイアを捉える。
 アメイアはリンネたちの乗る機動兵器から引き剥がされ、近付こうにもブレイバーの抵抗にあい、近付けずにいる状態のようであった。
「んふ、いいザマじゃのう。どれ、わしも嫌がらせに加わらせてもらおうかの」
 不敵な笑みを浮かべ、ファタが水晶を通じてカノンを発射する命令をマギウスに送る。マギウスがその通りに、カノンを両脇に構えアメイアへ狙いをつける。万が一攻撃の目がこちらへ向けられた時に直ぐに反応できるよう、感覚を研ぎ澄ませる。
 ブレイバーが射線を通り過ぎていくのが見えた直後、ファタの乗るマギウスから、カノンの魔力弾が発射される。
 片方ずつ斉射された二発の魔力弾は、一発目は回避されるが、二発目は防御姿勢を取った脚に命中する。傷つく脚が、しかし人間離れした再生力をもって復元されていく。
「巨大化に再生能力、ここまでくると笑えてくるのー。ま、ちまちま牽制しとくかの」
 アメイアの狙いを挫ければそれで満足とばかりに、他の機体の様子も見つつ、ファタが攻撃を加えていく――。