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薄闇の温泉合宿(最終回/全3回)

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薄闇の温泉合宿(最終回/全3回)
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第1章 会議

 ヒラニプラの東、ヴァイシャリーの南に存在する岬では、各地で起きている争いなど無縁なように、ゆっくりと時が流れていた。
 龍騎士団が訪れるという話も届いてはいたけれど、捕らえた賊も龍騎士も一緒に合宿をしたらどうかなどという意見が、合宿参加者の口から出てくるくらいに。
 合宿が始まってからもう随分と経つが、大きな揉め事も、戦闘もここで発生することはなかった。
「随分集まりましたね。中身は殆ど読めないから、分類に迷うわ」
 マリル・システルース(まりる・しすてるーす)は、増築された部屋の中で、本の中身をイルミンスールの魔法考古学研究部顧問であるグレイス・マラリィンと共に、確認していた。
 ただグレイスは今、金庫の調査に出てしまっている。
「同じ単語が沢山出てくるものは、似た書物である可能性が高くないか」
 高月 芳樹(たかつき・よしき)も、読むことは出来ないが、本を開いて単語を確認していく。
「そうそう。印をつけたいところだけれど、本を汚すわけにはいかないから……書き出していくね。マリル、チェックお願い!」
 アメリア・ストークス(あめりあ・すとーくす)は、本をぱらぱらと開き、よく出てくる単語を紙に書き出していき、シャンバラ古王国時代に生きていたマリルに見せて、確認してもらう。
「うーん……魔法関係の用語ね。私達の時代に魔術師の間で使われていた文字に似てる」
「では、この本とこの本には『魔法関係』と付箋を貼っておくのじゃ。後で辞書を借りて、内容を軽く見ておこう」
 伯道上人著 『金烏玉兎集』(はくどうしょうにんちょ・きんうぎょくとしゅう)が、本に付箋を貼った後、芳樹に渡す。
「魔法関係だな。ダンボールにも書いておこう」
 芳樹は本をダンボールに入れた後、紙に魔法関係とマジックで書き、ダンボールに貼り付けておく。
「ここで全て解読するのは無理があるからな……。研究ノートなどは、先生が調べてくれてるし、その他有益そうな本がありそうなら、それも分けておかないとな」
 ダンボールの中に、本を入れていきながら、芳樹は捲って中身を確かめる。
 文字は読めなくても、図や挿絵から、多少判ることもある。
 汚れや傷みが激しく、内容を読むことが難しそうなものも、一応保管しておく。
「慎重に扱うのじゃ、捲った途端ぼろ……うわわわっ」
 玉兎が本を開いた途端、ボロッと、本が二つに割れてしまった。
「もはや本とは言えないわね」
「中も読めそうもないしね……」
 マリルとアメリアが覗き込む。
「んー、それでも一応とっておこう。本の再生が出来る魔術なんかも、魔法学校にはあるかもしれないしな」
「そうじゃの」
 芳樹の言葉に頷いて、玉兎は慎重に本を閉じて『損傷が激しい本』とラベルの貼られたダンボールに、その本を入れていく。
「ノートに記しておくわね。どこに何が入っているのか分かるように」
 アメリアはノートに、ダンボールごとに、どんな本が入っているのかを記していく。
「よし、わらわの考察なども書いておくのじゃ」
 玉兎もそのノートに自分の考えを書き記す。
「僕はもっと簡単に纏めておくな」
 芳樹は一枚の紙に、ペンを走らせて目録を作っておくことにした。
「先生が調査中の本はここに入れてもらって……。イルミンスールに戻るまでにこっちで目を通しておく必要があるのは、こっちだな」
 部屋がが片付けられ、少しずつ広くなっていく。
「金庫の方も進んでいるかな……。そっちも気になるけど、僕達はこっちに集中しよう」
 芳樹の提案に、パートナー達は笑顔で頷く。
 金庫が開けば、また新たな物が見つかるだろう。
 その後の調査をスムーズに進めるためにも、こういった整理は欠かせないのだ。

 地下室では、発見された本を持ってグレイスが、生徒達と共に金庫の開錠を試みていた。
「翻訳は一部分しか出来てないけど、開くといいなあ」
「弱気ですね。金庫の中、見たいですよー!」
 高務 野々(たかつかさ・のの)は、グレイスの荷物を持ちながら、今日はメイドとして彼の側に控えていた。
「遺物や遺跡……興味があるんですよね」
 野々はちょっと物思いに耽る。
 野々はシャンバラ古王国に興味があった……そう、古王国に興味があるのであって、その時代に生きていたパートナーのことが気になるとか、知りたいわけんじゃないのだ。
 そんなことを思いながら、彼女はグレイスと共に金庫の方へと歩く。
「どうしても開かなかったらどうするの? ほっといたら、合宿終わった後に、誰かが壊してもっていっちゃうかもしれないよね」
 祠堂 朱音(しどう・あかね)は、今日はなにやらバスケットを抱えている。
「そうだね……。壁を壊してでも、中のものを持ち帰りたいって思ってるよ」
「破壊は避けたいですぅ〜! 中の物が心配ですぅ」
 神代 明日香(かみしろ・あすか)は、中に入っているものが傷つくことを心配して、破壊には消極的だ。
「仕組みが分かれば、中身を傷つけずに壊すことが出来ますわ」
 神倶鎚 エレン(かぐづち・えれん)は、壁に近づいて金庫になっていると思われる場所を調べていく。
 エレンの有する先端テクノロジーや機晶技術では、構造を理解することが出来なかったが、それ故に、機械的な技術は一切用いられていないことが判る。
「地球のネット回線を利用して調べてみましたが、模様については見つかりませんでしたわ。ただ、仕組みについては、壁が開くタイプというより、壁をすり抜けるタイプの扉と思えますわね」
 携帯電話が繋がる場所ならば、ユビキタスで所属学園のパソコンにアクセスしたり、イルミンスールに問い合わせることも出来たが、ここからでは電波を受信できる場所で地球のサイトを閲覧するので精一杯だった。
「探索を行うための準備が足り無すぎるような気もいたしますけれど……だからこそ、関われることが出来ましたしね」
 エレンはパートナー達に目を向ける。
「そうなのだ。プロクルは記録するのである」
 プロクル・プロペ(ぷろくる・ぷろぺ)は、グレイスからパソコンを預かり、記録したデータの入力や、撮影を担当している。
「そうですわね〜。何か頂けますかしらね〜」
 エレア・エイリアス(えれあ・えいりあす)も、壁に近づいてみる。魔鎧の彼女には、人と鎧の姿がある。同じように、この壁もいくつかの姿があってもおかしくはない。
 ただ、壁からは意思のようなものは感じられなかった。
「開け方間違っても、爆発したりはしないよね?」
 アトラ・テュランヌス(あとら・てゅらんぬす)は、壁の近くに置かれていたテーブルや置物を遠くへ移動しながら、尋ねてみる。
「絶対ないとは言えないなー」
 グレイスの言葉に「ええっ?」とアトラは驚きの声を上げた。
「その時は、こちらもすぐに魔法を使って、抑えるから大丈夫。頼りになる娘ばかりだし」
 グレイスがくすりと笑ってそう言い、アトラはほっと息をつく。
「ピッキングで開きそうな鍵じゃないですよね。お掃除しても鍵穴出てきませんし。ずっと閉ざされていたといっても、長い年月が経っていますし、中も汚れているでしょうね」
 シルフィーナ・ルクサーヌ(しぃるふぃーな・るくさーぬ)は雑巾や掃除道具と手に、念入りに周囲を磨いていく。
「金庫……これで出て来たのが昔の人のラブレターとか日記だったりすると……可哀想だけど面白いわ……」
 須藤 香住(すどう・かすみ)がそんな言葉を漏らすと、グレイスが首を大きく縦に振った。
「それは面白い。是非拝見したいな」
「罠があるかもしれないし、俺が開錠担当するよ。立候補しなくても任されるだろうけど」
 ジェラール・バリエ(じぇらーる・ばりえ)がそう言った直後に、朱音が「勿論」と声を上げる。
「ジェラールにお任せだよ♪ 頑張ってねー」
 朱音はバスケットを抱きしめながら、好奇心あふれる目で、見守っている。
「私も、張り切って見学しますよー。あ、もしもの時には、応急手当くらいはできます。中が汚れていた時には勿論お掃除もしますよ」
 野々は、パタパタはたきを振りながら、応援をする。