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イルミンスールの日常~新たな冒険の胎動~

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イルミンスールの日常~新たな冒険の胎動~
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「あっ、ルーレンさん。フィリップ君がこっちに来てると思うんだけど……」
「んー? ああうん、多分リンネちゃんと訓練中じゃないかなー。
 ……それにしては時間かかってるような。迎えに行こうかなー」
「じゃあ、私も一緒に行っていいですか?」
「いいよー」
 
 その頃、ルーレン・カプタフレデリカルイーザが修練場に向かおうとしていた矢先、その修練場で大きな衝撃が発生する。
「ちょ、ちょっと何なの!?」
「! フィリップ!」
 すぐさま、ルーレンが一対の羽を展開して修練場に飛び荒ぶ。
「あっ、ま、待って!」
 慌てて後を追うフレデリカとルイーザが辿り着いた先では、大きく地面がえぐれ、その中心で地面に突っ伏すカレンと、やれやれといった表情のアーデルハイトがいた。
「ハイジ様!? これは一体――」
「おお、おまえか。いや、私としたことがつい、模擬戦で力を出してしもうたわい」
 聞けば、カレンの魔法を相殺するのに、魔力をちょっと開放したらごらんの有様だよ、ということであった。
「アーデルハイトさん、気をつけてくださいー。私が皆さんを避難させなかったら、皆さん痛い目に遭ってましたよー?」
 そこへ、パッ、と豊美ちゃんが姿を見せる。話では、リンネとフィリップ、マイト、歌菜と羽純は安全な場所に避難できたとのことであった。
「いやいや、すまんのう。後のことは私が責任をもって処理しよう。このままでは他の者が修練を行えぬでな」
 アーデルハイトの言葉に、一応の納得を見せたフレデリカや豊美ちゃんたちが、避難させた者たちのところへと向かっていく。
「……少し、油断しておったの。私も今後は、生徒への対応を変えねばならんかもな。
 ……今日はよく頑張ったの」
 魔力不足で昏倒状態のカレンへ、アーデルハイトが労いの言葉をかける。
「今からカレンを私の部屋へ連れて行く。おまえも来い。……なに、安静にしとれば今日中には目を覚ます、心配そうな顔をするな」
 カレンの容態を気遣う表情を浮かべていたジュレールへ、アーデルハイトが言葉をかける。その言葉に、ジュレールがやや安堵した表情を見せる。
「おお、そうじゃ。マイト、おまえも私と一緒に来い。
 部活の件、試験的にじゃが認可しよう。手続きをしてもらうぞ」
「っしゃあ! 話が分かるぜ大ババ様!」
「誰が大ババ様じゃ!」
 やって来たマイトへゲンコツを食らわせて、カレンに付き添うジュレールと共に、アーデルハイトがテレポートを行使する――。
 
「いたた……うぅ、あとに残らないといいなぁ」
「少しの間だ、我慢しろ。
 歌菜、今日はいつも以上に力が入ってたな。……どうした?」
 羽純に治療を受ける歌菜が、問いに真面目な表情をして答える。
「私、強くなりたいんだ。
 もう、自分の力が足りないせいで……大事な人、大事なもの、失くしたくないの」
 それは、歌菜の心からの言葉でもあった。
 それを受け止めた羽純が、頷いて、そして歌菜の目を見て口を開く。
「そうか。……ただ、これだけ、覚えておけ。
 お前は一人じゃない。仲間が居る。……そうだろ?」
 羽純が視線を向けると、そこにパッ、と豊美ちゃんが現れる。
「歌菜さんは立派な心を持っていると思いますー。その心を大切にしてくださいー。
 そうすればきっといつの日か、私の先を行けるようになるかもしれませんねー」
「豊美ちゃん……はい、ありがとうございます!」
 ぺこり、と頭を下げる歌菜に微笑んで、豊美ちゃんがパッ、と姿を消す。
「……えへへ」
「……? どうして急に笑うんだ?」
 羽純の問いに、歌菜が答える。
「私は一人じゃない、って分かったから。皆がいて、皆と一緒だから、私は頑張れる。
 それと、やっぱり……羽純くんが居てくれるから、私は私で居られるんだな……って、そう思うよ」
 歌菜の、飾らない素直な言葉に、羽純が思わず、笑みを浮かべる。
「……それは、光栄だな」
「うんっ」
 
「フィリップ君、はい、これ。
 ここには、今日のハイジ様の講義内容と、私が知っている限りの情報が載ってるわ。
 よく読んでおいて。……きっと、フィリップ君も無関係じゃないはずだから……
「あ、はい、ありがとうございます、フレデリカさん」
 フレデリカからレポートを受け取るフィリップへ、ルイーザの言葉が続く。
「くれぐれも取り扱いには注意してくださいね。そこには機密情報も混じっていますので」
「そ、そんなに重要なものなんですか?」
 慌ててコクコク、と頷くフィリップに背を向け、フレデリカの横に並び、小声で話しかける。
「本当によかったんですか? 万が一にでも悪用されでもしたら……」
「フィリップ君はそんなことしないわ!」
 ルイーザの疑念は、フィリップの両親がいわゆる『死の商人』という噂から来ている。フィリップは両親の話をしたがらないため、真偽の程は定かではないが、もしそうなら、敵に塩を送る結果になりかねない。
「ですが私はフリッカのことを――ああ、そんなに睨まなくたっていいじゃないですか!」
 結局、フレデリカの癇癪を起こすのは得策でないと判断したルイーザが身を引くことで、事態は収束を見たのであった――。
 
●訓練場
 
 修練場よりも格段に広い空間を誇る、アルマインの訓練場に辿り着いたライカは、そこで十数機のアルマインを目の当たりにする。
「……す、凄いわ! やっぱ実際に見ると迫力が違うわね!」
 感嘆の声を上げるライカの目の前で、これからアルマインの実戦形式の訓練が行われようとしていた――。
 
「訓練を行うにあたり、皆さんが二手に分かれての紅白戦を行うというのはいかがでしょう?」
 集まった参加者を前に、高月 芳樹(たかつき・よしき)が訓練方法についての提案を行う。どちらかと言えば個人行動の多い魔法使いがあまりやって来なかったチームプレイをやってみようというものであった。
「片方のチームにはリンネさんたちの『魔王』に入っていただき、その方を守備側として、一定時間内に『魔王』を追い詰めることが出来れば攻撃側の勝利、守り切れば守備側の勝利、といったところでしょうか。
 一戦ごとに攻撃側と守備側を入れ替えて、各自が攻撃側と守備側の両方を体験するようにすれば、訓練により成果が出ると思われますが……いかがでしょう?」
「うーん、リンネちゃんはそれでいいと思うよ〜」
「はい、僕もそれでいいと思います。……では、人選の方はどうしましょう?」
 リンネとフィリップが頷き、話は人選の方へと進む。
「それは、アーデルハイト様に一任したいと思っていたのですが、先程までいらっしゃいませんでしたか?」
「ババア様なら戻ったよー。呼べば来るんじゃないかなー? おーいババア様ー」
 ルーレンが空に向かって呼びかけると、何も無いところからゲンコツがルーレンの頭を直撃する。
「いたいっ!!」
「誰がババア様じゃと!? まったく、おまえもザンスカール家次期当主としての立ち振る舞いをじゃな――」
「あーはいはい、お説教は後にして、ちょっとメンバー決めお願いしたいんだけどー」
 テレポートで出現したアーデルハイトの説教をスルーして、ルーレンが人選決めをアーデルハイトに頼む。
「……まあ、よかろう。アルマインの調子も見たいと思っとったしの。
 ちゃっちゃと決めてしまおうか――」
 
「その話、ちょーっと待ったーっ!」
 
 飛んできた声に皆が振り向くと、如月 玲奈(きさらぎ・れいな)とその隣には何と、ニーズヘッグの姿があった。
「おい……オレはザインに呼ばれてんだけどよぉ」
「いいじゃない、思いっきり身体を動かせるいい機会なんじゃない? それに校長には許可もらってるわ」
 玲奈の発言の顛末は――。
 
「……ふぅ、ようやく振り切ったわ。師匠が悪いわけじゃないけど、もう少し寛容になってもいいと思うのよね。
 私は追い込まれてから力出すタイプなんだからさ」
 レーヴェ・アストレイ(れーう゛ぇ・あすとれい)の『今日中に宿題を終わらせなさい』というプレッシャーと監視の目を盗んで抜けだした玲奈が、一息つこうとカフェテリアに足を運ぶと、昼寝から覚めたエリザベート(もちろん傍には明日香がいた)とはちあわせる。
「校長、あけおめでーす。校長も息抜きですか?」
「違いますよぅ、ちゃんと仕事してましたぁ。ニーズヘッグに用がある生徒のために何もしないのが私の仕事ですぅ。
 ……あれぇ? そのニーズヘッグはどこ行きましたかぁ?」
「生徒さんに呼ばれて、イナテミスへ向かうと言っていましたよ、エリザベートちゃん」
 明日香の言葉に頷くエリザベートを見、そういえば、と玲奈が思う。
(そう、ニーズヘッグ! 思えば契約してからこっち、なんだかんだで忙しくて構ってあげられなかったっけ。
 ……あれ? 確か今日、アルマインの訓練をするとか言ってなかったっけ?)
 直後、玲奈の頭にピコーン! と閃くものがあった。
「ねえ校長、ニーズヘッグをアルマインの訓練に参加させてもいい?
 ほら、たまには思いっきり身体を動かせる機会を与えてあげるのも、契約者としての務めじゃない?」
「そうですねぇ、いいんじゃないですかぁ。
 どうせイルミンスールの中ですし、生徒たちもたくさんいるはずですし。あなたに任せるですぅ」
「さっすが、話が分かるわ! んじゃ、行ってくるわね!」
 エリザベートと明日香に別れを告げて、カフェテリアを出た玲奈は、早速ニーズヘッグへ携帯で連絡を取る――。
 
 ――というわけである。ちなみに、人の姿を初めて見た玲奈が、主に胸について絶望に近い敗北感を抱いたのも事実である。
「まあ、私もおるしの。……よかろう、おまえたちも加わるがよい。
 向こうの機体と同様、旗手を務めてもらうぞ」
「さっすが、話が分かるわ! さ、ニーズヘッグ、行くわよ」
「……オレの意向は無視かよ。けっ……ま、適当に付き合ってやんよ」
 
 こうして、ニーズヘッグ+玲奈と『魔王』を軸として、チーム編成が組まれる。
 
 赤組:
 旗頭:リンネ・モップス・フィリップ・ルーレン
 緋桜 ケイ(ひおう・けい)悠久ノ カナタ(とわの・かなた)
 ナナ・ノルデン(なな・のるでん)ズィーベン・ズューデン(ずぃーべん・ずゅーでん)
 ファタ・オルガナ(ふぁた・おるがな)ローザ・オ・ンブラ(ろーざ・おんぶら)
 ルカルカ・ルー(るかるか・るー)ダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)
 十六夜 泡(いざよい・うたかた)レライア・クリスタリア(れらいあ・くりすたりあ)
 
 白組:
 旗頭:ニーズヘッグ・玲奈
 芳樹・アメリア・ストークス(あめりあ・すとーくす)伯道上人著 『金烏玉兎集』(はくどうしょうにんちょ・きんうぎょくとしゅう)マリル・システルース(まりる・しすてるーす)
 朝野 未沙(あさの・みさ)
 赤城 花音(あかぎ・かのん)リュート・アコーディア(りゅーと・あこーでぃあ)
 四条 輪廻(しじょう・りんね)アリス・ミゼル(ありす・みぜる)
 ジガン・シールダーズ(じがん・しーるだーず)
 月詠 司(つくよみ・つかさ)ウォーデン・オーディルーロキ(うぉーでん・おーでぃるーろき)月夜夢 篝里(つくよみ・かがり)
 
「まあ、こんなところじゃろ。
 訓練じゃ、まずは操作に慣れ、自らの思うように動いてみよ。
 装備のヴァリエーションを試したい場合も、可能な限り配慮しよう。……不都合が起きるかもしれぬが、それは自己責任じゃぞ?」
 アーデルハイトの言葉を受けて、生徒たちがそれぞれ自機に搭乗する――。