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続・冥界急行ナラカエクスプレス(第1回/第3回)

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続・冥界急行ナラカエクスプレス(第1回/第3回)
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第3章 ゴーストライダー・イン・ザ・スカイ【3】



 第二車両。
 駆けつけた飛鳥 桜(あすか・さくら)の目に、粉砕された扉と床に伏した紅凛が映った。
 それは正義のヒーローガールとして到底捨て置けない光景だった。
 傷つき倒れる仲間……、破壊された文化遺産……、大勢で攻めてくる敵……、正義のホノオを燃やすのに問題ナシ。
「許さないぞ、悪の秘密結社め!」
 割れた窓から、遠くそびえる勝利の塔を見る。
「あんなものがあったら世界なんて軽く吹っ飛ぶ。絶対に破壊しなきゃ……、僕たちの世界に撃ちこませてたまるか!」
「……ふん、同意見になるなんてな」
 不服そうに顔をしかめ、アルフ・グラディオス(あるふ・ぐらでぃおす)は言った。
「はっはーっ! 流石はヒーローの相棒なんだぞ! 今日もまた同意見になるなんて冴えてるじゃないか!」
「いや、意味分かんねえし。普段意見揃わねえし。つか、何でヒーローに繋がるんだ……はっ」
 何かデジャブが……、これ何回言ってるんだろう、俺……。
 愕然とする彼をよそに、桜は不敵に人差し指を振る。
「そりゃあ勿論、正義のHEROモードだからさ☆」
「ああ、なんか聞いたことあんな、こんな台詞……。うん……」
 ますます不服だが、勝利の塔を放置してはおけないという点で、意見の一致を見せたのも事実だ。
 ……認めたかねぇけどしかたねぇ。現世には家族や仲間がいる。また大事な物を失ってたまるか!
「ところでさ……、あれクルードじゃないか?」
「ん?」
 視線の先、先頭車両の屋根に黒衣の剣士クルード・フォルスマイヤー(くるーど・ふぉるすまいやー)が見えた。
 傍らではよくなついた三匹の狼が、彼を守るようににらみを利かせている。
「クルード、君も列車に乗っていたのか!」
「……桜か……、あのような大量破壊兵器を無視するわけにもいかないからな……」
「うんうん、ヒーロー的には避けては通れない道だよね。よしじゃあ、僕と一緒に戦おう!」
「……こちらの事情には疎い……それもいいかもな……、よろしく頼む……」
「話がまとまったところで、クルード、このクソ犬をなんとかしてくれ」
 そう言ったのは、アルフ。彼は三匹の狼の一匹『デュラン』とにらみ合っていた。
 どうも彼らはそりが合わないらしく、ケンカをすることもしばしばである。
「ぐるるるるる……!」
「この犬野郎! なんだその目つきは……!」
 ため息を吐くクルード。
「……ケンカはあとにしろ……」
 まずは……と言って、車両に取り付くゴーストライダーを見回す。
「……こいつらの排除が先決だ……」
 ペガサスの『ティア』に股がると、三匹の狼を引き連れてクルードは飛び出した。
 力に優れるデュランは突進を。『ヴィラン』は速さを生かした連撃を。『フィル』には動きで撹乱を。
 それぞれ命じ、その間隙を縫って自身も空中戦を仕掛ける。
 冷たく煌めく月閃華が一閃。青白い火花を散らして騎兵の尖槍と二度三度と斬り結ぶ。
「……一騎、二騎……全部で八騎か……。俺ひとりに大層な歓迎ぶりだ……」
 包囲する殺気に気を払い、善戦する狼達にも目を向ける。冥界の騎士の相手はいささか荷が重そうだ。
 その時、後方から迫る槍がクルードに襲いかかった。
 ためらうことなく腕で受け軌道を逸らす。
「………!」
 裂けた袖口から除くのは龍鱗化した肌。
「……ふむ……、冥界の戦士もなかなかに使う……、だが敵は俺だけではないぞ……」
 呟く彼の目に、通り抜ける光の雨が映る。
 閃光に射抜かれた騎兵達は、誘われるように走る地面に飲み込まれていった。
 光条兵器『輝銃黒十字』を構えた桜が列車から弾幕を張る。
「ゾンビは撃つものって決まってるのさ、さあ援護は僕に任せて!」
「あんま調子に乗んなよ、ヒーロー馬鹿。ホラ、敵がこっちにも来やがったぞ」
「むむっ! 列車には近付かせないぞ! ヴァルキュリアキーック!!」
 彼女は何を思ったのか、落ちたら即死の空に全力でジャンプした。
「……ば、馬鹿野郎!」
 伸ばしたアルフの手が空を掴む。
 唖然とするパートナーをよそに、そのまま武器の聖化を脚に纏わせ、必殺の飛び蹴りをお見舞いする。
 反動でまた高く飛び上がる桜だが空中は攻撃の的、すぐさま騎兵達が槍を上空に向ける。
「手間かけさせやがって!」
 アルフは足下から火柱を吹き上がらせ、騎兵をばらばらに散開させた。
 それから光の翼を広げて自ら敵前に切り込むと、乾坤一擲の剣を振り上げて爆炎波を頭上に叩き込む。
「灰に……なれっ!!」
 激しく爆発。
「アルフ、ナイスタイミング! 連携奥義……ギルティーストライクだぁっ!!」
 荒れ狂う炎を吹き飛ばす輝銃黒十字の乱れ撃ち。
 標的となったゴーストライダーは、甲冑の破片を散らかしながら後方に転がっていった。
「これが正義の力だ! どんなもん……んっ!」
 地面すれすれのところを、アルフが抱きかかえた。
「こ、このトコロテン頭! 死ぬ気か!」
「ごめん、助かったよ。ありがとう、アルフ」
「む……」
 腕の中で微笑む彼女に、アルフの心臓はドキドキと高鳴った。
 死神グラディオスの異名を持つ元傭兵も、大好きな女の子の笑顔を前にしては言葉をなくしてしまう。
「……不純だ」
 車内で迎撃を続ける青葉旭は窓の外の二人に眉を寄せた。
「ナラカエクスプレスの一大事に、頬を染めるなど健全な蒼空学園生にあるまじき行為じゃないか!」
「旭くんはカタブツなんだから……。いいじゃない、別に」
「何を言うんだ。学校外だからこそ気を引き締めて健全な行動をだな……」
 山野 にゃん子(やまの・にゃんこ)はパートナーに呆れつつ、車内アナウンスのセッティングを行う。
『あーテステス』
「何をする気だ?」
「戦う皆を鼓舞させようと思ってね」
 にゃん子はマイクに向かって声を上げた。
『聞こえる、皆? 先頭車両に群がる敵はあらかた片付いたみたいよ。ナラカの精鋭部隊と言ってもワタシ達の敵じゃないってことね。だから恐れる必要なんてないわ。地球には『針の穴に象を通すより難しい』という慣用句があったけど、ナラカには『15人枠にガネーシャを通すより難しい』という慣用句があるそうね。でもここに集った勇士達は、その関門を潜り抜けた幸運の持ち主達よ! 自分達の幸運を信じて頑張れ〜!』
 そして奇しくも、ここにいるのは全て抽選参加のメンツであった。
「嬉しいこと言ってくれるじゃないか……、よーし、奪われたものは皆で全部取り返そうぜ!」
 同じく車内で迎撃にあたる渋井 誠治(しぶい・せいじ)がへへへっと笑う。
「大丈夫! それぞれ自分に出来る事をやれば、絶対成功するって!」
「おっ、前向きで結構なことだにゃ」
「何せ、オレにはカレーラーメンを完成させる夢があるんだ。ナラカにはちったぁ落ち着いてもらわないとな」
 そう言って、迫るゴーストライダーを星輝銃で迎撃する。
 騎乗戦闘に長ける騎兵を正面から狙うのは困難だが、その下の馬を狙うとなると幾分容易かった。
 鼻先をかすめるだけでも馬は驚き動きを鈍らせる。
「ええと……、光輝耐性は結構利くんだよな。一応、他の属性も試しておくか……」
 後学のため轟雷閃と爆炎波で属性を付加した銃撃を加えた。
 手応えとしてはどちらも普通……と言ったところだろうか。特に弱点でもないようである。
「誠治……」
 ふと、ヒルデガルト・シュナーベル(ひるでがると・しゅなーべる)が口を開いた。
 彼女もまた銃で応戦しているところだ。
 隠れ身を使って位置把握を難しくしながら、ライフルで騎兵の接近を阻むように射撃している。
「さっきまで先頭車両に集まってたのに、急にこっちに群がって来たわ……、もしかして……」
「ああ、間違いなく車輪を狙ってきてる。ヤバイな……」
 近づけさせまいと弾幕を張るがしかし……如何せん敵に対して味方が少なすぎる。
 多くは先頭車両の防衛にかかりきりで、車輪の防衛に手が回るのは彼ら四人だけだったのだ。
 とその時、小型飛空艇ヘリファルテで迎撃に出ていた旭が、飛空艇ごと車両に激突した。
「だ、大丈夫か、旭さん?」
 もぞもぞと這い出した旭は服の汚れを払ってこう言った。
「……オレは細心の注意を払って防衛にあたっていた。不寝番で集中を途切れさせず、庇護者で防御に徹した」
「ああうん……、それを疑う奴はいないと思うぜ」
「飛空艇を駆り破邪の刃で幾度か攻撃を退けた。そこまではなかなかに善戦していたと思う」
 そして、苦渋に満ちた顔で言った。
でも、四人で全車両の車輪を守るとか無理だろ!
 それを否定するものは誰もいなかった。
「くそっ! こんな時にラーメン友達のハヌマーン達がいてくれたら……!」
 誠治は壁を殴った。
 一応突っ込んでおくと、ラーメン友達なるジャンルに入れられてることを、ハヌマーンは自覚してないと思う。
 ガキンと鼓膜を震わせる金属音が車内に響く。
 おそるおそる窓から顔を出すと、車輪が一輪遠ざかっていくのが見えた。
「ほ……ほら見たことか……!」