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第四師団 コンロン出兵篇(第2回)

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第四師団 コンロン出兵篇(第2回)

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 湖賊たちに幽霊船を任せた輸送船は、無事先にミカヅキジマに到着した。
「……出番、ありませんでしたね」
 地上に降り立ったユーシスは、複雑な表情で呟いた。
「無事に着いたんだから、それでいいじゃないか」
 後に続くシャウラはのほほんとしている。
 降ろした物資を車両に積み替え、クレセントベースに向かうと、入り口近くでは、黒乃 音子(くろの・ねこ)ダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)鷹村 真一郎(たかむら・しんいちろう)少尉とパートナーのヴァルキリー松本 可奈(まつもと・かな)らが防御陣地の構築に邁進していた。少し離れた場所では、橘 カオル(たちばな・かおる)とパートナーの剣の花嫁マリーア・プフィルズィヒ(まりーあ・ぷふぃるずぃひ)、獣人ランス・ロシェ(らんす・ろしぇ)、ゆる族野川 れい(のがわ・れい)、そして比島 真紀(ひしま・まき)のパートナーのドラゴニュートサイモン・アームストロング(さいもん・あーむすとろんぐ)が訓練を行っている。
「おお、既に結構色々作ってあるんですね」
 既に出来上がっている防柵や櫓、土塁などを見て、ユーシスが声を上げた。黒乃が率いているながねこ工兵部隊がにゃーにゃーと声を上げながら輸送車両に向かって手を振る。
「おーい、物資運んで来たぞ……うおぅあ!?」
 大空洞の入り口前に着いた輸送車両から降りようとしたシャウラは、いきなり誰かに飛びつかれて叫び声を上げた。はずみでステップを踏み外し、ドアの脇についている手すりにぶら下がった格好になる。
「待ってたよっ! 間に合って良かったー!」
 飛びついたのはルカルカ・ルー(るかるか・るー)で、腕一本でぶら下がっているシャウラに気付かずにしがみついている。
「ルカルカさん、ちょ、立てないっ……つか、苦しいっす……ぐえ」
 ぶら下がられた上に思い切り抱きしめられて、シャウラはうめき声を上げた。
「ルカルカ、それ以上力入れると締め落としちゃいますから!」
 気付いた鷹村が慌てて止めに入る。
「はっ! うわ、ごめん……」
 シャウラの顔が赤を通り越して紫色になり始めたのにやっと気付いて、ルカルカはぱっと手を離した。
「ぐふぇ……」
 シャウラはどうにか地面に降りると、そのままずるずると滑り込んだ。
「やっと甘いものと追加の装備が来た!と思ったら嬉しくて、つい力が入っちゃった」
 ルカルカはてへ、と舌を出す。
「あなたは教導団の最終兵器みたいなものなんですから、少し気をつけないと」
 鷹村がため息をつく。
「本っ当ーにごめんねっ。お詫びに、荷物降ろすの手伝うから!」
 ルカルカは深々と頭を下げると、チョコバーはどれかな〜♪と出鱈目な鼻歌を歌いながら、輸送車両の荷台からひょいひょいと荷物を降ろし、両肩の上に担ぎ上げて地下への階段を下りて行った。
「婚約者としては最後の安全装置になるべく心がけているんですが……申し訳ない」
 それを見送ると、真一郎はようやく顔色が戻って来たシャウラに手を貸して立たせた。
「荷物の搬入に人手があった方が良さそうですね。おーい、作業を中断して、荷物運びを手伝ってくれませんかー!」
 鷹村の声に、防壁や塹壕を作っていた生徒たちとながねこたちが集まって来る。
「はー、ルカさんの婚約者ですか……。ルカさんはシャウラの好みのタイプですが、あんな渋カッコイイ婚約者が居たんじゃね……しかも相手も少尉。勝ち目ゼロデスネ?」
 その間に、ユーシスがひそひそとシャウラに囁いた。
「くっ……」
 シャウラはぎり、と音がするほど歯を食いしばると、足音荒く輸送車両の荷台に向かい、
「うおおおおお、リア充なんて大ッ嫌いだー!!」
 と叫びながら、三段重ねの木箱に手をかけた。
 次の瞬間、シャウラの周囲に居た数名の生徒は、『ぐぎッ』という嫌な音を聞いたと言う。
「あっ、それは重い……!……ですよ?
 荷台に居た生徒が皆まで言うより早く、シャウラは脂汗を浮かべ、顔面蒼白になって再度地面に崩れ落ちた。
「衛生兵! 衛生兵は居ないか!?」
「何事ですの? 騒々しい」
 剣の花嫁アデライード・ド・サックス(あでらいーど・どさっくす)が、パートナーのロイ・ギュダン(ろい・ぎゅだん)が設営した、赤十字を掲げたから天幕から姿を現した。この天幕、外から見ると救護所に見えるが、中には塹壕が掘ってあり、兵を伏せられるように作ってある。
「荷物を持ち上げようとして腰を痛めた? 女性でも持ち上げられる荷物で腰痛とは軟弱な……」
 シャウラが持ち上げようとしていた木箱をまとめてほいほいと運ぶルカルカを目で示して、アデライードは眉を寄せる。
「いや、それは比較対象が間違ってますから……」
 鷹村がとりなす。
「……軟弱でも何でもいいから、早く何とかしてくれぇ……」
 身動き一つできずに、腰を押さえ、身体を丸めて倒れているシャウラが搾り出すように言った。
「……まあ、衛生兵である以上、いかなる理由によるものであっても、負傷者を放って置くわけにはいきませんわね。見て差し上げましょう」
 アデライードはふんと鼻を鳴らすと、シャウラの側に屈みこんで様子を見始めた。
「まったく、無茶しやがってですよ……」
 嘆くユーシスに、すすすす、と可奈が近寄って来た。
「治療を待ってる間、これをどうぞ」
 可愛い動物の形に抜かれたクッキーを差し出す。
「ありがとうございます。……!!」
 クッキーを齧ったユーシスは、口元を押さえてしゃがみ込んだ。
「この、岩塩を齧ったようなしょっぱさとじゃりじゃりとした食感はッ……!」
「可奈! これ以上そのクッキーで要救護者を出すなとあれほどっ……」
 鷹村が血相を変えて飛んで来る。鷹村的には可奈のクッキーは「食べられるもの」という認識なのだが、今まで多くの者を葬ってきているので、さすがに「自分の舌は他人とは違う」そして「可奈のクッキーを他の人間に食べさせるとまずい」ということは学習している。だが、可奈は平然と、
「そこでこのコーヒーを飲むと、とっても美味しく感じるのよー」
 と、水筒を差し出した。
「水、水ぅ……何ですかこりゃ、甘ッ!」
 ユーシスは思い切りむせて、口の中に残っていたクッキーとコーヒーを噴き出した。
「疲れた時には甘いものがいいからと思って用意したんだけど……」
 可奈は首を傾げる。どうやら、しょっぱすぎるものの後に甘いコーヒーだったので、やたらと甘く感じてしまったらしい。
「お願いです、誰か、ふ、普通の水を……」
 地面でのた打ち回るユーシスを見て、遠巻きに見ていた生徒が慌てて水を取りに走る。
「まったく、ルカルカといい可奈といい……」
 ルカルカはもちろん、可奈も真一郎が真面目な分、自分が皆のガス抜きをしようと頑張ってくれていることを知っているだけに、あまり強くは叱れない彼は、額に手を当ててため息をつくしかない。これが、可奈をパートナーに持ち、ルカルカの婚約者となった鷹村真一郎の運命なのかも知れない。