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七不思議 秘境、茨ドームの眠り姫(第3回/全3回)

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七不思議 秘境、茨ドームの眠り姫(第3回/全3回)

リアクション

 
 

再起動

 
 
「進路上に未確認物体。巨大です!」
 シグルドリーヴァのレーダーを監視していたオペレーターが、ノート・シュヴェルトライテ(のーと・しゅう゛るとらいて)艦長にむかって告げた。
「随伴している各艦に連絡、隊列を維持しつつ警戒態勢に移行。以上」
 指揮官帽を被ったノート・シュヴェルトライテの隣で、風森 望(かぜもり・のぞみ)がオペレーターたちに指示する。
「本艦は直進。第一種警戒態勢。以上」
「進路変更なし。速度維持。よーそろー」
 操舵手が、進路を謎の巨大な黒い球体にむける。
「いったいなんなのかしら、あれ」
「見てください、光が!」
 風森望が問いかけかけたとたん、ノート・シュヴェルトライテが叫んだ。
 行く手を阻むようにして近づいてくる巨大な黒い球体の表面に、いくつものリング状の模様が、不規則に重なり合うようにして輝き現れた。ラインではなく、複雑な模様のリング、まさに魔法陣によく似た模様だ。同時に、球体全体がうっすらと青みを帯びて光につつまれる。
「各艦、シグルドリーヴァの後方へ移動。全艦防御態勢!」
 
    ★    ★    ★
 
「お、お茶があ、零れますー!」
 持っていた紙コップの中の紅茶が零れそうになって、『地底迷宮』 ミファ(ちていめいきゅう・みふぁ)があわてた。
「落ち着くのよ。ちょっとゆれただけよ」
 『空中庭園』 ソラ(くうちゅうていえん・そら)が、がしっと『地底迷宮』ミファの肩をつかんで支えた。
「なんだか、ずいぶんとゆれるのだな……」
 輸送艦に乗っていたジュレール・リーヴェンディ(じゅれーる・りーべんでぃ)も、館内の壁に手をついて身を支えながら、怪訝そうにつぶやいた。
 イルミンスールの森の大火事と、それに続く遺跡の出現で、イルミンスール魔法学校からは大型飛空艇を使った物資輸送が行われている。先行した緊急用物資と救急船に続いて、焼け跡の整備や調査用に重機代わりのイコンと装備を積んだ大型飛空艇船団が順調に現場へとむかっているはずなのだが。何か起こっているのだろうか。
「きっと、またあの悪いイコンが出て来たのよ。格納庫に急ぎましょ」
「はい」
 『空中庭園』ソラに言われて、『地底迷宮』ミファがうなずいた。
 
    ★    ★    ★
 
「参りました。まさかこんな展開になるとは……。とにかく、一人ではどうしようもないですね。とりあえず誰かを探さないと……」
 すでに地上から数十メートルも離れてしまった遺跡の入り口で、レギーナ・エアハルト(れぎーな・えあはると)が地面を見下ろして言った。外壁を調べつつ、ちょうど入り口内部に足を踏み入れたときに、突然遺跡が大きくゆれ出したのだ。外に出ては危険だとそのまま地震が収まるのを待っていたのだが、まさか遺跡が空に浮上した振動だとは思いもしなかった。
 風が強い。飛ばされないように、レギーナ・エアハルトは奧へと引っ込んだ。
 少し中へと進むと、壁に背をぴったりとつけてゆれをやり過ごしていた希龍 千里(きりゅう・ちさと)を見つける。
「少し、安定してきました?」
「そうですね。しかし、まずいことになった。これでは、閉じ込められたも同然です」
 希龍千里に聞かれて、レギーナ・エアハルトが軽く肩をすくめた。
「大丈夫。外には、私のパートナーが待機して情報を整理しているはずです」
「そうですね。とにかく救援を要請することが第一でしょう。それに、まだ中には大勢の人たちが取り残されたままでしょうから、彼らとも協力して脱出を考えないと」
「ええ。そうしましょう」
 落ち着いて状況を確かめながら、二人は情報を整理し始めた。
 
    ★    ★    ★
 
「ちょっと待てよ、何が起こってるんだ!?」
 突然の地響きに、アキラ・セイルーン(あきら・せいるーん)が身をかがめて構えた。火事がおさまって戻りかけていた鳥たちが一斉に飛びたち、再び彼方へと避難する。
「地震ネ。地震ヨ。コワイ、コワイ!」
 アキラ・セイルーンにつかまりながら、アリス・ドロワーズ(ありす・どろわーず)があたふたした。
「いや、地震じゃない。あれを見ろ」
 始まったときと同様に、突然ゆれがおさまる。そして、彼らの目の前に、森の中から巨大な壁がせり上がってきた。どんどんと空へとのびていく壁は、やがて全体が見えるようになり巨大な球体であることが分かる。
「光ったネ!」
 アリス・ドロワーズが叫んだ。黒々としていた球体が、突然青白い光につつまれたのだ。
「騒がしくなってきやがった。何っ、今度はイコンか!」
 遺跡と呼応するように突如姿を現した数機のイコンを見て、アキラ・セイルーンが言った。唐突な現れ方は、いかにも今まで隠れていましたという感じだ。
 その中の一機が、前に進み出たかと思うとやにわに肩からミサイルを発射する。
「奴ら、この火事を起こした犯人の仲間か? これ以上させるかよ。ピヨの所に急ぐぞ」
「分かったネ」
 アキラ・セイルーンは、アリス・ドロワーズの手を引っぱると、遺跡近くに展開していたベースにむかって走りだした。
 
    ★    ★    ★
 
シトゥラリが再起動しましたか。では、我らも行きますよ』
 ルビーが、配下の者たちをうながした。
 今まで静かに姿を隠していた五機のイコンが光学迷彩を解除して姿を現す。
 彼が乗るスイヴェンは、強奪したイーグリットがベースとなっている。曲面で構成された真紅の装甲につつまれ、全体的に炎をモチーフとした意匠が施されていた。フラムベルク型の長剣と、V字型の意匠が表面に浮き出ているヒーターシールドで武装している。背部には、折りたたまれた状態の赤く輝くレイウイングを装備していた。
 随伴するアトラウアは、すでにエメラルドが学生たちの前に姿を現している機体だ。キラーラビットを素体としているが、カエル型のシルエットはすでに別物と言っていい。明るい緑色の機体は、全体をジェルアーマーでコーティングし、銃弾や剣などの物理的攻撃を逸らすようにしてある。背部に設置された二門のキャノンはアイシクルランスという多弾頭冷凍弾を発射する。また、口内にあるタングランスは、可変型の槍や鞭として使用可能だった。
 弟のアクアマリンが乗るのは、焔虎をベースとしたシパクトリだった。クリスタルブルーのどっしりとした機体で、デザイン的には焔虎と極端にシルエットは違わない。両肩には、大型の連装ミサイルコンテナを装備している。装填されているのはクラスターレインと呼ばれるマルチプルコンテナミサイルだ。また、両腕には大型のニードルスプレーガンが装備されていた。
 ジェイドが乗るのは、アルジェナをベースとした深緑のアウカンヘルだった。張り出した両肩に、四つずつのホーンがついたオクトストライクという武装を装備している。また、両腕には収納式のライトニングウイップが隠されていた。背部には甲羅状の分厚い装甲があり、頭部は鳥の嘴のように鋭角的な奇妙な形をしている。
 オプシディアンが乗っているのは、シパーヒーをベースとしたイツパパロトルで、スリムな黒騎士を連想させるシルエットであった。大剣の切っ先はなく、スリット状にへこんでいる。また、キラキラと輝く黒いマントが印象的な機体であった。
 もう一機のイコンであるミキストリは、アラバスターによって現在は遺跡と思われていた巨大イコンの格納庫の一つにいる。こちらは玉霞をベースにしたとは思えない重装甲の射撃型イコンで、漆黒の無骨な装甲に被われている。肩にはビームキャノンが二門あり、ソードを内蔵したバインダーキャノン、ガトリングキャノン、スプレーミサイルポッドなどの火器が満載されている。
『トラロック、接近してくる船団を頼みますよ』
『任せてください』
 ルビーに言われて、アクアマリンが元気よく答えた。前方から接近してくるイルミンスールの大型飛空艇船団の方に数歩シパクトリを進める。脚部アウトリガーを展開して機体を固定すると、シパクトリが、両肩のコンテナミサイルを発射した。