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リアクション
・1月22日(土) 13:00〜
「これから君達の支援を行う! 誠心誠意、君達を応援するから存分に戦ってくれ」
土日であっても、選挙活動を行う者達はいる。
伯 慶(はく・けい)はそういった人のために、住民居住区である東地区で演説用舞台装置や温かい飲み物の手配などをしていた。
冬場の海京は、かなり冷え込む。人によってはその寒空の下で演説をするのだから、風邪を引いたりしないよう、手助けをしてあげたいものである。
「こちら、どうぞー」
土曜日ということもあり、仕事が休みなベネティア・ヴィルトコーゲル(べねてぃあ・びるとこーげる)も彼と一緒に支援活動を行っていた。
選挙活動の様子を見に、現生徒会役員だけだなく極東新大陸研究所の人間や各企業の人もやってくる。そういった中で、自社の製品をアピールするというのも、一つのやり方だ。生徒でなくとも、こうやって新体制との接点を持ち、関わっていくことは可能なのである。
「お疲れ様ー。今日はどんな感じかしら?」
眼前に、現生徒会長であるあやめの姿があった。彼女は同じ現行生徒会役員らしき少年と話している。
この科学都市海京で、純和風な着物姿というのはいささか目立つ。また、学院の中にいる時と異なり、口調も砕けたものとなっている。
「生徒会長、五艘 あやめとお見受けする。会長立候補者のドクター・バベルだ」
会長の姿を発見し、ドクター・バベル(どくたー・ばべる)は彼女に声を掛けた。和服とドレッドヘアーが並んだ様は、どこか異彩を放っている。
「あら、どうしたの?」
「投票に向けて、提案があってな。ただ最終演説を行い、投票を行うのではなく、もっと天学全体を巻き込んだイベントを起こしたい」
「例えば?」
「巨大用紙や会場設営を行って、イコンで投票・開示をする。学院らしさは、あってしかるべきだろう」
なぜ、休日にあえて触れ回っているかといえば、そのための関係者を集めるのにちょうどいいからだ。人が集まれば、そこに議論は発生する。技術のみに目を向けるのではなく、技術の先にいる人達に目を向け、活発な議論の中で様々な人間の多面的な意見を取り入れつつ、自らの施策を伝える。
「アイデアとしては面白いけど、それに関する予算の見積もりについては考えてるかしら?」
「そういうお祭りごとってのには賛成だ。ただ、一つ忘れてないか? 学院にいる全員が全員、イコンを操縦出来るわけじゃない。それに、イコンサイズのペンとインク、どうするんだ? 今から発注したんじゃ、厳しいぜ?」
会長、副会長は極めて冷静に判断していた。
「役員の発表くらいだったら、大丈夫そうね。それと、顔見せはちゃんと生徒総会でやっておきたいところだし、それを学院内だけじゃなく、対外的にも……姉妹校のアカデミーには特に、示しておきたいところね」
「次の代表会議の検討事案に入れとくか?」
「宜しく。貴重な、会長候補からの意見でもあるしね」
会長が逆に、バベルに提案をしてきた。
「各立候補者、皆ビジョンはしっかりしているわ。でもそうなってくると、私は求められる三つの要素を挙げたけど、それを確認する必要があると思うの。生徒会には戦闘能力は必要ないけど、意志と判断力があるかは試さないといけないような気がしてね。『自分が試される』ということも踏まえた上で、何か意見はない?」
バベルは考えた。
「各ビジョンが本当かどうかは、それが実際に起こらなければ分からないだろう。かといって、前もって『試す』と言ってしまえば、事前に対策が出来てしまう。先の戦争でもそうだったが、『その瞬間』にいかに対応出来るかが重要だろう」
今すべきこと、今出来ること、今したいこと。それら三つは不可欠であるが、一人で同時にさばくのは難しい。だからこそ、誰も一人にしないしさせず、協力出来るようにしたい。
「ありがとう。じゃあ、選挙活動頑張ってね」
バベルには、なつめや聡ほどの知名度はない。だが、それは問題にならない。生徒会選挙は人気投票ではないからだ。
バベルの掲げる二大公約、最高技術の導入と技術者の倫理教育の実現。後者に関しては、学院内の政治的バランスは、倫理と周囲への興味を喚起することで、自浄作用として高めることが出来ると考えてのことだ。
「お疲れ、バベル」
あやめ達との会話が終わったところで、ノア・ヨタヨクト(のあ・よたよくと)は飲み物とSPタブレットを差し出した。
天才を演じているバベルも、普通の人の子だ。奇異な目で見られることもあるが、それでも真摯に頑張っている姿というのはきっといい影響を及ぼしていることだろう。生徒会長も、興味深げに彼女の話を聞いていた。
バベルにとっていい結果になるよう、ノアは彼女を支えた。