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リアクション
【6】お前らに食わせるもんはねぇ!……3
薫気功。
気で体臭を変化させることの出来る秘技である。
色物奥義と侮ることなかれ、臭いを殺人レベルにまで高めることすなわち、証拠を残さぬ暗殺を可能とする。
古来よりコンロンでは要人を震え上がらせた恐るべき殺人術なのだ。
「黒楼館に逆らうやつはゆるさないだぁー!」
五大人のひとり、ラフレシアンは己の体臭を増幅させ、敵も味方も巻き込みながら臭いを撒き散らす。
逃げ遅れた黒楼館拳士がバッタバッタと気を失ってもおかまい無し、極悪である。
「町の人からあなたの臭いについて苦情が出ています。おとなしくお風呂に入りなさい」
ウィング・ヴォルフリート(うぃんぐ・う゛ぉるふりーと)は言った。
万勇拳の殴り込みに紛れてやってきた彼であるが、万勇拳の門下生というわけではない。
中華街の住人から、ラフレシアンの悪臭をなんとかしてくれと依頼を受けてやってきたのだ。
そんな彼は身体の周りに風のバリアを張って臭いから身を守っている。
「風呂に入るのも入らないのもオデの自由だべ」
「人の迷惑になる自由など犬に食べさせてやりなさい」
なるべく相手に触れたくないと居合拳で真空波を飛ばす。
しかしラフレシアンも達人。放たれる拳圧を自らの拳で撃ち落とす。
「なら、これはどう?」
「!?」
翌桧 卯月(あすなろ・うづき)は無数の矢を素手で投げつける。
ラフレシアンは手刀で矢を叩き落としながら、卯月に「はああああああ〜〜!!」と吐息を浴びせる。
「心頭滅却すれば火もまた涼し……と思うんだけど、げほっげほっ……! す、すごい臭い……!」
「どうだべ、オデの桃色吐息は!」
「見事に吐きそうよっ」
ここが女子トイレなら遠慮することなく吐いてるレベルの強烈さだった。
「一ヶ月に一回しかお風呂に入らないなんて、人としてどうかと思うの。不潔だし、病気の原因になったりするのよ」
「うるさいべ。おめぇはオデの母ちゃんか」
「それに、髪の毛も髭も伸び放題……。あ、あと歯も磨いてないわよね、絶対!」
「男はちょっとぐらいワイルドなほうがカッコイイんだべ」
「……まずはその根性を直すのが先みたいね」
「おい、気を付けろよ。奴は秘孔を付く攻撃も持ってるらしい。間合いはちゃんととれ」
日比谷 皐月(ひびや・さつき)は言う。
彼らも万勇拳の門下生ではないが、どうも卯月が不潔を極めるラフレシアンを気に食わない様子。
指導しようとしてる間に、乱闘に参加する羽目になってしまった。
そして自ら進んで乱闘に参加したほうはと言うと……。
「ぐわああああっ!!」
ラフレシアンの放つ体臭をまともに吸い込んで、緋山 政敏(ひやま・まさとし)は悶絶した。
殴り込みと言うことで顔を隠すためマスクを装着してきたが、この強烈な腐敗臭はそんなもの余裕で通過してくる。
「それ、これでも食らうだぁ」
「ぐ……っ!」
ラフレシアンの太い指先がどすどすと政敏の秘孔を突く。
その途端、政敏から三日三晩煮込んだカレーのようなスパイシーな臭いが立ち上った。
「ぐっふっふっふ! 今日からしばらくの間、カレー臭い男として女子の痛い視線に晒されるがいいだぁ!!」
「じ、地味につれぇ!!」
真っ向勝負で戦っている彼は、ウィングや皐月と違ってラフレシアンの技にモロに晒されている。
しかし政敏はこの男をどうしても憎みきれずにいた。
花妖精でこのルックス……、きっと仲間の妖精たちから奇異な目で見られて来たはずだ……。
「な、なんだべ、その憐れむような目は!?」
「やめるんだ、ラフレシアン! おまえの力は人を苦しめるために使うものじゃない!」
「!?」
「『何、あれって加齢臭?』『あれ、●●さんから……うそ、そうなんだ』電車や会社でヒソヒソ言われている人達がいる。キツイ体臭になればなるほど、心は涙する。それでも身なりを正し、香水をつけて努力する人達を俺は知っている」
「そ、そんな辛い思いをしてる人が……?」
「わかるか!? てめぇのクンフーは暗殺向けじゃねー! 世の中の中年男性の救世主なんだよ!」
その言葉にガガーンとラフレシアンの心は揺れた。
「そ、そんなこと言われたの初めてだ……」
彼の人生において「臭い」「風呂入れ」以外の、ましてや賞賛の言葉をかけられたのは初めてだった。
「オデの力は役に立つって言われて黒楼館に入ったけんど、黒楼館以外でも役に立つことがあるんだか?」
「ああ」
げほっげほっと臭いにむせながら、政敏はバシッとその尻を友のように叩いた。
「……むっ、ラフレシアンの動きが止まりましたね」
様子を窺っていたウィングが動いた。
「貴方が人の秘孔を突くならば、私は大地の秘孔を突きます!」
「なんだぁ?」
残念ながら臭いを避けるため距離をとっていたので、政敏の言葉がラフレシアンを止めたことなど知る由もない。
「これぞ異界で覚えて使いどころがなかった拳、喰らえっ『漢掘閃(カンケツセン)』!!」
振り上げた拳が地面を打つ。
叩き付けた拳からピシパシ床が割れ、亀裂が蛇のように走ってラフレシアンの足元まで伸びる。
と次の瞬間、床板が砕け散り、下から温泉が噴き出した。
「うわああああっ!! なんだべぇ!!」
「ちょ、ちょっと待って! 俺も巻き込まれ……ぶっ!! お湯が!!」
「なんか今、ラフレシアン以外の人影も見えた気もするけど、きっと気のせいだから、オレも加勢する!」
今度は皐月が流体金属槍で天井を走る水道管に一撃。
どぱぁーと大量の水が滝のように降り注ぐ。そこにこいつはおまけだ、と厨房で見つけた台所用洗剤を放り込んだ。
下から上からの水柱に揉まれ、あっという間に周囲は泡まみれになる。
「うわああああっ!! 石けんの良い匂いがするだぁ!!」
「ぶくぶく……」
「とどめ! 『雷禍破凰撃』!!」
ウィングの放った電撃の拳が、ラフレシアン(ともうひとり)を貫く。
「うぎゃあああああああ!!!」
「よーし、今だ。さっき臭いのを浴びせられた借りを返してやれ」
「言われなくても!」
気を練りに練った矢が、ラフレシアン(ともうひとり)にプスプスと次々に刺さっていく。
「いたいいたいいたいっ!!」
その時、リーン・リリィーシア(りーん・りりぃーしあ)のワイヤークローが政敏も含め、ラフレシアンを拘束した。
それからSっ気のある目で見下し、リーンはデッキブラシを構えた。
「清い心は、清い体に宿るのよ」
「ちょ、ちょっと待つだ。ま、まさかそれ……」
「ブラシの仕事はたったひとつ。洗うに決まってるじゃない」
リーンは飛びかかり、すっかり泡に包まれたラフレシアンをごしごしと洗い始めた。
「オレも手伝おう」
皐月も流体金属槍の形状を変化させ、ずぼらに伸び放題になっていた髪や髭を奇麗に刈り取ってあげた。
五分も洗えば、世紀の不潔男もスッカリ清潔である。
呆然と戦意喪失するラフレシアン。その横で、グッタリ横たわるのはたぶん政敏とか言う人。
リーンは浄化の札をペタペタ二人の顔に貼付けた。
「よっし! 完璧! 社会のゴミを浄化したわ!」
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