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地球とパラミタの境界で(後編)

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地球とパラミタの境界で(後編)

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間章 


・地球情勢


「必要なものはこれで全部……と」
 エミリア・パージカル(えみりあ・ぱーじかる)如月 正悟(きさらぎ・しょうご)から連絡を受けて、イタリアへと飛び立った。
 彼女が持ってくるように頼まれたのは海京周辺の海底図と、隠れることが出来そうな場所があるかどうか分かる程度の地図、そして地球の企業であるアスター・エアクラフト(AA)とフューチャー・エレクトロニクス(FE)の資料だ。
(……まあ、あの子が地球で何かしてるってことは、以前の【七つの大罪】レヴィアタンに搭乗した時の流れで、何かしらあったんでしょうけど)
 

* * *


 エミリアと合流した正悟は、自分が得た情報を彼女に伝えた。
「なるほどね。まあ、正悟の考えは理解も共感も出来る部分があるから手伝うわ。でも、正悟……十人評議会はもう――崩壊したんじゃないの?」
 彼女の視線が、正悟の首に下がっているロザリオに向けられた。
「というか……そのロザリオはどうしたの?」
シスター・エルザからもらったんだ。まあ、特に変わった部分はないけど」
 純粋な銀で出来ている以外、ただのロザリオとは変わらないものだ。
「十人評議会は、確かにもう存在しない。ただ、密接な関わりがあった人物の存在が厄介なんだ」
 ヴィクター・ウェスト。新世紀の六人の一人、バート・ウェストの息子。
「一応、司城先生から話を聞いといたわ」
 アカデミーからパラミタまでは連絡することが出来ない。そのため、エミリアを介して調査したのである。
「ウェスト家といえば、生物学の分野において知らぬ者はいないという名門よ。ただ、先生の話だと、ヴィクターは父親に反発して機械工学の道に入ったらしいわ」
「機械工学?」
「しかも、ホワイトスノー博士と同じ研究室よ。ヴィクターも飛び級で大学に入ってる。ロボットについてもそうだけど、彼はナノマシンについての論文も発表してる。でも、バートが死ぬ直前に、ヴィクターは生物学に戻ってるわ。ただ、その理由は先生にも分からないみたい」
 ホワイトスノー博士のせいで世間的には霞んでいたが、ヴィクターも非常に優秀だったという。
「最後に会った時には、学生時代とは別人のようになっていたそうよ。その時はクローン技術についての研究を進めてたって」
「クローン?」
 かつて、鏖殺寺院はクローン強化人間兵を投入していた。それだけでなく、イコンの量産体制もシャンバラに先んじて整えていた。そして、十人評議会との繋がり。
「……そういうことか」
 エルザの狙いが分かったような気がした。ヴィクターは世界のバランスを脅かすだけの技術と知識を持った存在だ。ホワイトスノー博士がいなくなった今、彼に対抗出来る者はいない。ホワイトスノー博士の後継者と目される司城 雪姫は、まだ未知数である。
(俺にヤツを始末しろ、そう言いたいわけだな)
 彼女が直接干渉することは出来ない。かといって、軍であるF.R.A.G.やアカデミーの生徒を使うわけにもいかない。何より正悟は「俺は自分なりに世界の歪みを潰して回るだけだ。……たとえ一人だとしても」なんて彼女の前で言ってしまった手前、動かざるを得ないのである。
「とはいえ、今は情報が必要だ。お願いしといたもの、いいか」
「FE社とAA社の資料ね。これよ」
 エミリアからそれらを受け取り、チェックしていく。
「AAはヨーロッパ、FEはアメリカを中心にシェアを広げているな。FEなんて、日本のSURUGAと肩を並べるところまできてる。だけど、怪しい資金や人材の動きは見当たらないな」
「表から分かる情報だけじゃ、こんなものよ。かといって、調べるには内部に入り込むしかないわ」
 FEの企業パンフレットに描かれているアメリカ製イコンの試作機を眺めながら、しばし考える。アメリカ政府を主要取引先にしているとなると、迂闊に手を出せない。
「AAの本社はロンドンか。イギリスとなると、色々引っ掛かるんだよな……」
 あの評議会の男の影響が残っているなら、あるいは――。
「そういえば、天学の生徒会選挙は明日だっけ?」
「そうよ」
 今の天学に対し外部から仕掛ける者がいるとは思えないが、選挙当日はゴタゴタしていて手薄な部分が出てくるだろう。もちろん、それを考慮して対策はしているだろうが、それでもその裏をかく者がいるかもしれない。新体制下でも学院の生徒による不祥事を未然に防げなかったことを考えれば、不安を覚えずにはいられない。
「一度、学院に戻ろう」
 エルザからクルキアータの使用許可は得た。【レヴィアタン】ではないが、正悟の要望により水中にも対応させてくれたようだ。
「……杞憂であればいいけどな」