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燃えよマナミン!(第3回/全3回)

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燃えよマナミン!(第3回/全3回)

リアクション


【2】開運龍脈風水……5


 五重塔最上階。
 白木で組まれた祭壇の上に、蒼き炎がゆらめいていた。
 黒楼館の用心棒となった神崎 荒神(かんざき・こうじん)は階段を上がってくる足音に「来たか」と呟いた。
 黒装束の黒楼館門下生も身構えた。その瞬間、四階を守る門弟の悲鳴と激しい打撃音が轟く。
「うおおおおおお!!」
 鋼鉄巨人マグナ・ジ・アース(まぐな・じあーす)が敵を蹴散らしながら現れた。
 鋼鉄の身体を震わせ、立ちはだかる敵を、槍のひと薙ぎで吹き飛ばす。
「正義と大地の戦士マグナ・ジ・アース、鋼鉄の身体と烈士の誇りの下、万勇拳の友として助太刀に参上!」
 それから同じく槍術の使い手である白砂 司(しらすな・つかさ)も階下から飛び出した。
「黒楼館許すまじ!」
 狭い空間を縫うように繰り出される突きが敵を圧倒する。
 しかし槍を振るう司の顔には苦渋がにじんでいた。
(ネコ師匠……あんなにふかふかだったのに雨に濡れた子猫みたいになってしまって……)
 その目にメラメラと闘志が漲る。
「もはや空京での己の立場など、気にするべきときではない! すべての格闘家獣人のために戦うべき時だ!」
「はっ、万勇拳ごときが調子に乗るな!」
「ここは黒楼館の深部、そこを守る我らは黒楼館の中でも才に長けた者ばかり。貴様らなどに遅れはとらんわ!」
 マグナと司は互いの隙を補うように槍を構えた。
 そこに、サクラコ・カーディ(さくらこ・かーでぃ)リーシャ・メテオホルン(りーしゃ・めておほるん)も階段を上がって来た。
「狭い部屋に大勢で……。流石、万勇拳相手ともなると手厚い歓迎ですねぇ」
「さて、どうしたものかしらね。ひとり、危険そうな奴が混ざってるけど」
 リーシャは荒神を見つめた。
 練達の拳士たちの中にあって、彼の放つ闘気は頭ひとつ抜けている。同じく練達した戦士だからこそそれがわかる。
「策は簡単だ。俺とマグナで道を開く。そのあとはお前達2人で祭壇を潰せ」
「大地の力を奴らに見せてくれよう!」
「さて、そう上手くいくかねぇ?」
 荒神はポリポリと頬を掻いた。
槍術これ即ち武術の覇王! 我こそはジャタの森が一番槍、白砂司! 舐めていると痛い目を見る!
 槍の尖端にまで気合いを漲らせ、司は研ぎすまされた突きを放った。
「……当たるかよっ!」
 敵は上に飛び、槍を避けた。
 それから司の顔面を吹き飛ばすべく蹴りを放つ。
 しかし司は動ぜず槍をくるんと回し、真上に引き上げて、哀れな敵の股間を激しく柄で打ち付けた。
「だあっ!!」
「幸運に頼り己の未熟さに目を背ける門下生どもが破る可能性など、天地が返っても万に一つもありはしない!」
「よ、よくも!」
「おっとお前の相手はこの俺だ!」
 司に迫る門弟を、マグナの鉄拳が吹き飛ばす。
 不意の一撃にふらついたところへ、渾身の槍で一撃、瞬く間に敵を打ち倒した。
 すると今度は荒神が前に出た。
「……さぁて、そんじゃ俺もそろそろ仕事するか」
「押し通る!」
 司の渾身の突き……しかし荒神はそれを紙一重で躱した。
「逃がさん!」
 横に薙ぎ払おうと力を込めるが、何故だか切っ先がちっとも動かない。
 見れば、不運にも先端が柱に突き刺さっている、いや、幸運にも荒神は守れたと言うべきか。
「!?」
「なるほど。コイツが龍脈の力ってヤツか」
 用心棒となっている以上、彼にも龍脈の加護があるのは当然だ。
「よくやった、用心棒! このまま奴を仕留めるぞ!」
 門弟の繰り出した拳打が司を打つ。よろめいたところに、荒神も拳を繰り出し、左右から打ちのめす。
「し、しまった……」
 槍を封じられた今、防戦一方、危うしと思われたその時、ぎゃあと悲鳴が上がった。
 おそるおそる見れば、気を失った門弟が倒れている。
「……な、なに?」
「やべーやべー。夢中で拳振り回してたら当たっちまったよ。悪いな……って言っても聞こえてねぇか」
 荒神はバツが悪そうに舌を出した。
「なんだか知らんが、間抜けな奴!」
 マグナは槍を構え、渾身の突きを放……とうと踏み込んだところ、腐った床板に足をとられてスッ転んだ。
「ぬおおおおおおおっ!!」
「……すげぇな、龍脈の加護」
 荒神はポリポリと頬を掻いた。
「よーし、今だ! ぶっ殺してやる!」
 門弟は跳躍し、必殺の飛び蹴りを放った。
 ところが、何を思ったか荒神も回し蹴り一閃。ちょうどマグナの上に飛び込んだ彼を吹き飛ばして壁に叩き付けた。
「ああ、なんだよ。俺が攻撃しようと思ってたのに。邪魔すんなよ」
「……な、なんだ?」
 むくりと起き上がったマグナは目をパチクリさせた。
 様々な疑念が飛び交いつつも、司とマグナは顔を見合わせる。
もしかして、こいつ、わざと……?
 とその時、サクラコとリーシャが飛び出した。
「隙あり!」
「風水祭壇……もらったぁ!」
 荒神の真横をすり抜ける、しかし、その前に残る門弟たちが立ちはだかった。
「待て待てぃ! 祭壇には指一本……」
「触れさせないって?」
 森の中に一本だけ種の違う木が生えているように、鮪のお刺身に一切れだけ鰹が紛れ込んでるように。
 忍者紫月 唯斗(しづき・ゆいと)も、誰に気付かれることなく、門弟の中に紛れ込んでいた。
「い、いつの間に……!」
「いつだっていいんだよ、そんなことは」
 唯斗はカッと目を見開き、集中力向上。左から降り掛かる拳を武産合気で流し、右から襲いかかる敵に叩き付ける。
 正面から突っ込んでくる奴は豪流旋蓮華で投げ飛ばし、床に打ち付けられたところに間髪入れず抜山蓋世を放つ。
「がはっ!!」
 衝撃は敵を突き抜けて、床板をぶち破った。
「こいつ……!」
 数秒の間に力を見せつけた彼に、他の門弟は思わず後ずさりした。
「……人が武仙に至るため修行してたってのに邪魔しやがって。老師が病院送りじゃ修行もままならねぇじゃねぇか」
「し、知るか!」
「まぁその分、こうして実地で修行を積ませてもらうがな」
 唯斗は忍法・呪い影で、影を三つに別けて実体化させ、更に、分身の術で姿を五つに分けた。
「……だが、お前らの相手は後回しだ。忍びの仕事は迅速に、がモットーなんでな」
「ま、待て!」
 唯斗は祭壇に向かった。八方からの同時攻撃で祭壇を狙う。
「八卦封脈陣、一人バージョンってトコかな?」
 しかしその前に、門弟たちは捨て身で攻撃の軸線上に割って入った。
 ほとんど勝ち目のない賭けだったが、幸運にも八撃中四撃を防ぐことに成功し、祭壇は未だ健在だ。
「ぐ……」
 そして、彼らにとっての幸運はそれだけではなかった。
 攻撃によって砕けた祭壇の木片が、偶然にも唯斗の脇腹を深く突き刺したのだ。
「な、なるほど……。これがコンロン仕込みの龍脈風水ってヤツか。確かにやばい代物だな、これは……」
「わ、我らのほうが一枚上手だったようだな……!」
 分身の攻撃を受けてズタボロになりながらも敵は勝ち誇った。
「それはどうかしら」
「お前は……」
 リーシャは傷付いた唯斗を引きずって後ろに下がった。
 その先では、サクラコが万勇拳奥義『自在』で創造した巨大なオーラガントレットを構えている。
「!?」
「はあああああああああああああああっ!!」
 錬気鋼体で練った気を、静の極み、鋼勇功で鋼の堅さに鍛え上げ、更に動の極み、倍勇拳で爆発的に踏み込む。
「ちょ、ちょっと待っ……」
自在! 私は、ここにあり!
 敵ごと飲み込む巨大な拳が一撃で祭壇を完膚なきまでに粉砕、勢いに任せ、壁を突き破って全てを一掃する。
 悲鳴を上げて塔から転がり落ちていく敵を見下ろし、サクラコは自在を解く。
「龍脈風水、破壊成功です!」
 荒神はその光景にニヤリと笑った。
 そして剥き出しになった壁から、眼下に集結する援軍の姿を確認し、ヒュウと口笛を吹いた。
 それは前回、及川 猛(おいかわ・たける)が根回しした反黒楼館の空京組織、森ガールや、鍋奉行達だった。
 森ガールを率いるのは、自然の代弁者C.W.ニコリーナ
 シボラの奥地で見つけた大量破壊兵器ゴリアテに乗って堂々参戦である。
 空京でも超絶警察にマークされてる反社会的組織なだけあって、森ガール達は全員マシンガンと手榴弾で完全武装。
 飛び交う銃弾とロケット弾が道場を阿鼻叫喚の戦場に変える。
「皆さ〜ん、アゲハの糞ビッチに遅れをとっちゃダメですよ〜。サーチ&デストロイでガンバですぅ〜♪」
「サー、イエッサー!」
 そしてこちらは空京スタジアム近辺のちゃんこ鍋屋の総元締鍋将軍
 配下の鍋奉行に加え、八百長問題で世間から白眼視されてるうらぶれ力士軍団を連れ、颯爽参上だ。
「鍋将軍様のおな〜り〜」
「鍋道とは修羅道と見つけたり。黒楼館だかなんだか知らないが、我が道を阻むものは獄門打ち首にしてくれる!」
「ははーっ!」
「そして……スタジアムで見つけた新たな仲間! 力士軍団! ここでいいとこ見せて信頼を取り戻すのだ!」
「ごっつぁんで〜す!」
 ちゃんこで作り上げた見事な身体で、黒楼館の門下生を次々に土俵際まで追いつめるのが見えた。
『……なんとか間に合ったようやな』
 魔鎧化中の猛が小声で言うと、荒神も「ああ、上出来だ」と小さく呟き、それから門弟に目を向けた。
「おい、ここはもうダメだ。こっちまでケツに火が点かねぇうちにおさらばすんぞ」
「あ、ああ……くそ、覚えてろよ、万勇拳!」
 黒楼館一派は撤退を始めた。
 空いた壁から荒神も撤退しようとすると、ふとマグナが呼び止めた。
「待て。お前……」
「俺に出来るのはこれぐらいだ。あとはお前らに任せる。俺は肉まんでも買ってお先に帰らせてもらうわ」
 荒神はひらひらと手を振った。
 ところが、状況の変化はそれを許さなかった。
 龍脈の加護が無くなった今、加護によって抑えられていたものが噴き出した。
「!?」
 先ほど不発に終わったレンとマーツェカの爆弾が今頃になって起動したのである。
 それだけなら階層が一部消し飛ぶだけで済むが、問題は、2人が相談して爆弾を仕掛けたわけではないと言う事だ。
 爆弾の威力は階層を吹き飛ばす程度に抑えられている。それ以上では階層どころか塔の崩壊を招くからだ。
 しかし、階層を吹き飛ばす威力の爆弾が二発分、しかも同時に爆発したらどうなるだろうか。

 ドオオオオオオオオン!!!

 同時爆発による相乗効果は、一瞬にして、五重塔を木っ端みじんに吹き飛ばしてしまった。
 勿論、塔にいた全ての万勇拳門下もろともに。
「のわああああああああ!!!」
「どわあああああああああああああ!!」
「きゃああああああああああ!!!」