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燃えよマナミン!(第3回/全3回)

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燃えよマナミン!(第3回/全3回)

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【3】燃えよマナミン!……1


「マリエルーーッ!!」
 黒楼館道場の重い大扉が開いた。
 小谷愛美を先頭に、道場に雪崩れ込む万勇拳を、待ち構えてる黒楼館門下生が殺気でもって迎えた。
 互いに火花を散らし睨み合っていると、しばらくして黒装束の黒楼館門下生たちはサッと道を空けた。
 その先、道場の中央に座し、覇王マリエル・デカトリース(まりえる・でかとりーす)の姿があった。
「来たか、愛美よ。約束どおり、うぬが来るのを待っていたぞ」
「マリエル……!」
 刺すような覇気に、愛美はゴクリと息を飲む。
「この短時間で成長したとは思えぬが、我を倒す策ぐらいはろうじて来たのだろうな」
「……今のマリエルに比べたら、私なんて弱いよ。でも、絶対に戻してみせるから……!」
「ほう、口先だけではないことを期待しているぞ」
 双方殺気立つが、奈落人虚神 波旬(うろがみ・はじゅん)の憑依した三道 六黒(みどう・むくろ)が威圧する。
「鎮まれぃ!」
 波旬の迫力に大気が震えた。
「双方、決闘の邪魔する事はわしが許さぬ。万勇拳、並びに黒楼館、肝に命じて、その場から下がれ」
「な、何故止める! 万勇拳など総出で叩き潰せばいいではないか!」
「そうだそうだ! 少しくらい力があるからって図に乗るな! 余所者なんだから大人しくしてろ!」
「引っ込め、ひげじじー!
「もう一回言ってみろ、小僧」
「……あ、ええと」
 気迫に圧され、門弟は目を逸らした。
「決闘は何人にも侵されざる領域よ。無粋な真似をする輩は、わしが奈落の底に送ってくれよう」
「むむむぅ……」
 門弟たちは何も言えなくなった。
「万勇拳側もそれでよいな?」
「それでいいよ!」
 愛美は気合い充分で即答した。とは言え、誰の目にも愛美ひとりで勝てる相手ではない。
(マナミンの奴はやる気みたいだけど、アフリカゾウにナイフ一本で挑むようなもんだぞ、絶対無理だろ……)
 風祭 隼人(かざまつり・はやと)は不安そうに彼女を見た。
 すると父の風祭 天斗(かざまつり・てんと)がちょんちょんと肩を突ついてきた。
「なんだよ、親父?」
「お前の気持ちはわかるぞ、隼人。しかしな、こんなこともあろうと準備してきたんだ」
 そう言って、紙袋の中身を見せると、隼人はより不安そうな顔になった。
「いやでも、これ……」
「手段を選んでる場合じゃないだろ」
 肩をポンと叩いた。
「これでマリエルちゃんの胸とお尻に合法的に触れるぜ!(皆で優しかったマリエルちゃんを取り戻そうぜ!)
「……親父、本音と建前が逆になってるぜ……」
 ゴソゴソと何やらパートナーを巻き込んで準備をし、隼人と天斗は愛美の決闘に割って入った。
「その決闘ちょっと待ったー!!」
「ん?」
 愛美とマリエルのは振り返った。
「真っ赤な炎は情熱の証! 落とした女は星の数! 愛の戦士マナミン・レッド!」
 愛美のお面(天斗作)を被った天斗がビシィとポーズ。
「胸の話題は即射殺! 天然癒し系の皆のアイドル、マナミン・グリーン!」
 同じくお面のアイナ・クラリアス(あいな・くらりあす)もキュピーンとポーズ。
「え、ええと、ヒーローショーするからって呼び出されたんですけど……あの、マナミン・イエローです」
 同じくお面のソルラン・エースロード(そるらん・えーすろーど)がどうもとお辞儀。
「……マナミン・ブルー」
 お面の隼人はため息まじりに首を振った。
 それから四人は期待に満ちた眼差しで、愛美を見た。
「え、えええ!?」
 じーーーーーーーっ。
「……ううう、愛され上手の蒼空学園のエンジェル、マナミン・ピンクぅ」
 空気に押し負けて、愛美もぺろーんとポーズを決めた。
「五人揃って、マナミン得戦隊!(変態!)
「……親父てめぇ、只でさえ恥ずかしいのに、間違ってんじゃねえよ! 誰が変態だコラ!」
「痛たたたたたっ」
 ブルーがレッドの腹にパンチを入れた。
「……ま、まぁとにかく俺たちは全員マナミン。これなら助太刀しても問題ないはずだぜ!」
 無論、それで波旬が納得するわけないだろう。一休さんじゃないんだから。
「ふざけた真似を……! こういう奴がいるから、シナリオのシリアス度がガクンと下がるんだ……!
 波旬は怒りに震えた。
「構わん」
 マリエルは言った。
「このままでは戦力差があり過ぎてつまらん。雑魚は群れるぐらいでちょうどよい」
「……貴様がそれで良いと言うなら、わしは何も言うまい」
 マリエルは愛美に向き直り、押さえていた気を解放、決闘の幕が今上がった。
 真っ先に動いたのは天斗だった。
「さてマリエルちゃんよ、大人しく胸とお尻をこのマナミン・レッドに突かせなさい」
「なんだ、貴様は?」
「何? 嫌? ならば強引に突くまでだ!」
 ご機嫌で飛びかかる天斗だったが、マリエルは容赦なく厳しく剛拳で迎撃した。
「ぶべっ!!」
 顔面にいいのをもらった彼は、ぴゅーと鼻血で弧を描きながらふっ飛ばされた。
 ごろんごろんと床を転がり、ガクガクと震える腕を上げて親指をおっ立てた。
「な、ナイスパンチ……。さ、最後に万勇拳の裏奥義を見せてやろう……チェ〜ンジ(選手交代)」
「……なにやってんだ、あの馬鹿親父」
 隼人は倍勇拳で炎のオーラを身に纏い、マリエルに嵐のような拳打を浴びせた。
「おらおらおらおらっ!!」
「ほう、さっきの間抜けよりは期待出来そうだ」
 けれど敵もさるもの、彼女は素早く掌を動かし、繰り出される拳をぺしぺしと止めた。
 とは言え、並の攻撃じゃ覇王に触れることすら叶わないのは想定済みである。
「ここはとにかく手数を増やして、動きを封じねぇと……おい、イエロ……ええい、ソルラン! 手ぇ貸せ!」
「ええっ、僕ですか??」
 ソルランは辺りを窺いながらおどおどしている。
「こ、これ、本当にヒーローショーなんですか?危険な匂いしかしないんですけど!?」
「うるせーなー、細かいことはあとで説明してやるから!」
「え、ええと……塾に行かないといけないので早退していいですか?」
「あ、てめー!」
 そろそろ後ずさりしたその時、ソルランの身体を激しい閃光が貫いた。
「ぎゃあああああっ!!」
 倒れた彼に、アイナが近付く。
敵前逃亡は許さないわ。戦って生きるか、戦って死ぬか、二つに一つよ
「そ、そんなぁ……」
「ほら、昔の人も言ってたでしょ? 『覇王孔、皆で挑めば怖くない(5・7・5)』って」
「言ってないですよ!」
「……身内ながら、随分と頼りない得戦隊ですね」
 隼人の兄、風祭 優斗(かざまつり・ゆうと)はポリポリと頬を掻くと、マリエルの元に駆け出した。
「優斗!」
「得戦隊は勘弁ですけど、兄の手で良ければ貸しますよ、隼人」
 優斗は目を細め、マリエルを見つめた。
 狙うのは一点、事前にカソを脅して聞き出した人体を麻痺させると言う秘孔『感電孔』
 動きさえ止めてしまえば、平凡孔を突くのも簡単……なのはわかるのだが、ひとつ大きな誤算があった。
「はあああああっ!!」
 指先に力を込め、優斗は秘孔に迫った。
 しかし触れる刹那、マリエルは素早く躱し、必殺の拳撃で優斗を叩きのめす。
「がはっ!!」
 床に叩き付けられ、優斗は悶絶する。
 そう、普通に平凡孔を突くのに苦労してるのだから、感電孔を狙うのも同じくらい困難なのは自明の理。
「迂闊でした……。なら……!」
 それでも優斗は闘志を失わず果敢に挑む。
「何度来ても同じこと、我が拳撃の前に砕け散れ! 覇道拳奥義『覇道轟衝波』!!」
 繰り出された剛拳は、防御する優斗の両腕を粉砕し、そのまま胸をも打ち砕いた。
「フフフ……、骨もくだけたかっ!!」
「ぐ……っ!」
 防御すら無効化する絶対的暴力の奥義、だがしかし、技の矢面に立たされても優斗の目から光は消えていなかった。
「肉を斬らせて骨を断つ……、食らえ!!」
 直撃の刹那、優斗は自らに電撃を放っていた。身体を覆う電撃は、彼に触れたマリエルにも伝う。
「ぬううううううう……!!」
 青白い火花がマリエルからほとばしった。
「これしきで覇王は倒れぬ!!」
 電撃に耐えぬき、再び覇道轟衝波を優斗に放つ。
 とそこに、隼人が割って入った。
「うおおおおおおおおおっ!! 四倍だぁーーーーっ!!!
 四倍倍勇拳で繰り出された拳を受け止めた。
 それでも常軌を逸した一撃に、技を受ける彼の腕は砕け散りそうだ。
「ぐ、あああ、あああ……、い、今だ、マナミン!!」
「う、うん!!」
 愛美もまた倍勇拳で自身を炎のオーラで包み込んだ。
「はあああああああっ!!」
 神速の踏み込みで、一気に間合いを詰め、マリエルの胸に人差し指を突き付けた。
「や、やった!」
 愛美の顔から笑みがこぼれる。
 だが喜ぶのはちょっと待ってほしい、平凡孔は胸と尻、計3カ所にある秘孔を同時に突かねば意味がないのだ。
 優斗は腕が砕けて満身創痍、隼人は轟衝波を押さえ込むの精一杯(しかも既に限界)、となると……。
「そ、ソルラン……!(もしくはアイナ……!)」
 しかし残念ながら、彼はアイナになんとか家に帰してもらえないか相談していて、こっちなど見ちゃいなかった。
 次の瞬間、轟衝波に耐えきれず、隼人は優斗ごと吹き飛ばされた。
「隼人さん、優斗さん!」
「貴様も余所見をしている場合ではないわ! 覇道轟衝波っ!!」
「よ、四倍……!!」
 その拳は砲撃に匹敵する。
 愛美は咄嗟にまともに防御したら死ぬと判断、後ろに飛んで拳圧を殺しつつ四倍倍勇拳でガードした。
 それでも威力は凄まじく、愛美は道場の端にまで錐揉み回転しながら飛んでいった。
「きゃあああああああっ!!!」