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燃えよマナミン!(第3回/全3回)

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燃えよマナミン!(第3回/全3回)

リアクション


【1】電子の海でショタコン一本釣り……3


「ヤンチャ系ショタとクール系美少年がケンカを! ああ、ここから友情が芽生えるのね! うわー萌える!」
 ふんすーふんすー! と、カラクル・シーカーは鼻息を荒くした。
 まぁこれはこれでオツなものだが、愛好家としては美しきものが傷付け合うのは堪え難くもある。
「……とか言ってる場合じゃないな。美しき少年たちが無用に血を流すのを止めるのが大人の努め!」
 ばぁーんとネカフェの奥の個室が開いた。
 店を出る身支度をしていた衿栖はポカンと呆気にとられた。
「う、嘘……こんな近くに? しゅ、朱里! 早く捕まえて!」
 慌てて戸を開けると、そこには真っ白な肢体を晒す、着替え中の朱里が。
「きゃあ! ちょっといきなり開けないで!」
「わわわわ……! 早く着替えて! こっちに走ってくる!」
「ええい、どけっ糞ビッチ!」
 毛布を外套のように纏うカラクルの目が妖しく光る。
「我が前に立ちはだかる愚者には地獄を見せてやろう。機甲八卦奥義『愛娘裸流出撃』!!」
 監視カメラに映る衿栖の首から下を、即座にネットの海から集めたセクシーアイドルの裸にすげ替える。
 それをそのままツイッターを通してバラまくという……ネット文化が生んだ魔性の技なのだ。
「パ、パソコンが勝手にツイートしてるよ、衿栖!」
「きゃあああっ! な、なにこの写真!?」
「酷いよ、衿栖はこんなに胸もないしくびれてもないのに……」
「それはどうでもいいの!」
「あん!」
 人のこと言えないスタイルの朱里を蹴散らし、これでも現役アイドルの彼女は慌てて火消しに奔走する。
「まったく敵を前にして心を乱すとは、まだまだ未熟だな」
 代わってレオンが立ちはだかった。
「でも、レオンのアイコラも流出してるよ! これなんてゲイ写真の一部がレオンの顔に……」
「はぁ!? ちょっと待て!!」
「どけどけっ!」
 社会的地位を人質にとられた彼女たちを横目に、カラクルは疾風のようにネカフェを飛び出した。


「バーカバーカ!」
「馬鹿っていうほうが馬鹿なんですー!」
 胸ぐらを掴み合い、ヒートアップする2人の前に、カラクルが颯爽と飛び出した。
「やめなさい! 争いをやめなさい! 君たちが争う理由なんてないのよ!」
 目をキラキラと輝かせ、ドサクサ紛れに2人を抱きしめる。
 かかった! と毒蜘蛛の如く和希とシャーロットは目を輝かせた。
「わぁ! わぁ! カラクルねーちゃんだ! ずっと捜してたんだぜ! サインしてくれよ、サイン!」
「ええ、勿論よ、やんちゃBOY! 私ので良ければアホほど!」
「カラ……ああ、ええと……おねえちゃん、誰?」
「そうね。私はずっと見てたけど、君はわからないわよね。さっきツイッターで道案内してたおねえちゃんよ」
「ああ、さっきの。どうもありがとう、おねえちゃん」
ま、眩し過ぎる! 少年たちの視線が眩しすぎる!
 だらしなく緩んだ口元からよだれをマーライオンのように流しながら、カラクルは我が世の春を謳歌している。
 普段、少年どころか人間との接触を絶っている彼女は、山奥に住まう修行僧と精神テンションが変わらない。
 故に必要以上にスキンシップが多くなってしまうのも仕方ないこと。
 イヌイットが食いだめするように、一生分の少年を触りだめしておこうと、変態覗き魔はペタペタと触りまくった。
「うわああっ!?」
「どうしたの?」
「いや、な、なんでも……」
 和希は慌ててカラクルから離れた。触られ過ぎて、巻いている晒が落ちそうなのだ。
 とその時「大丈夫?」と言いつつも、ふんすーふんすーと鼻息荒く伸ばした手が、和希の胸にふにゃりと触れた。
「……なっ!?」
 柔かすぎる感触に後ずさった……と今度は振り回した手が、シャーロットの胸に触れてしまった。
「……なななっ!?」
「あ、そう言えば胸誤摩化すの忘れてましたね……」
「き、貴様ら……!」
 みるみるカラクルの顔に邪気が満ちていった。
「やべぇ、バレた!」
「待って、カラクルさん! 話を聞いてください!」
「ああ!?」
「騙したことは謝ります。でも私は同じ女性でもカラクルさんならって、そういう覚悟でここに……」
 尚も食い下がるシャーロットだが、いきなりレズレズに目覚めるほどカラクルの守備範囲は広くない。
「黙れ! 貴様のような変態と一緒にするなっ!」
「ええー……ショタコンにそんなこと……って、うわっ!!」
「死ね! 潰れて死ね! 奥義『2トントラック拳』!!」
 2人に向かって次々とハンドルをジャックされたトラックが突っ込んでくる。
「ま、まずい! 逃げろ!」
「と、とりあえず路地裏に逃げましょう!」
「逃がすか、糞ども!」
 あちらこちらへ車が突っ込むものだから、通りは完全にパニック状態、当然の如く玉突き事故が頻発である。
 道路が塞き止められ、ボンネットから炎を上げる車や、亀のようにひっくり返る車で通りは溢れかえった。
「あの女、本気でブチきれてやがる……!」
「誰彼構わず巻き込むなんて……」
「いや、あそこまで怒らせたの、お前が変な感じに迫ったからだぞ」
「人の所為にしないでください。あなたの晒が外れなければこんなことには……」
いいから、まとめて死ね!
「うわああっ!!」
 しかしその瞬間、小次郎が間合いを詰め、スタンガンを背に突き付けた。
「ぎゃあああああっ!!!」
 強烈な電撃がカラクルの全身を駆け抜ける。
「ようやく見つけましたよ」と周囲を見回し「こそこそ隠れているのかと思えば、随分と派手に暴れるじゃないですか」
「き、貴様ぁ……」
「こちらとしては抵抗をしないことをお勧めします」
「ふざける……ぐわああああああっ!!」
 再びの電撃。
 そして動かなくなったところを、猿ぐつわとロープで完全に身体の自由を奪う。
「ふがふぐー(すぐに黒楼館の部下を出前してやる! 図に乗るな、糞が!)」
「はぁ?」
 カラクルの瞳が妖しく光る……がしかし、何も起こらなかった。
「ふぐ?(な、なんだ……? 回線に接続出来ない……?)」
「どうやらウィルスが回ったようだな」
 ガラガラーっとネカフェの窓を開けて、レオンが顔を出した。
 レオンの作ったウィルスはカラクルのPC経由でネットに広がり、周辺にある回線を片っ端からダウンさせていった。
 これでは遠く離れた黒楼館にアクセスすることは出来ない。
「なんだかよくわかりませんが、どうやらチェックメイトのようですね」