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インベーダー・フロム・XXX(第2回/全3回)

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インベーダー・フロム・XXX(第2回/全3回)
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【2】 ROUNDABOUT【4】


「大文字先生は世間に言われるようなトンデモ学者じゃないわ。目指すところは荒唐無稽に見えるけど、それを実現するための手段を論理的に思考してる。この間、みんなと研究室で見せてもらった企画書もよくできていた。そもそも、ただのトンデモ学者なら未だに学園に籍を置けるはずがないもの」
 イーリャとその娘のヴァディーシャ・アカーシ(う゛ぁでぃーしゃ・あかーし)は、大文字を探して普通科校舎にいた。
「あの時、一瞬だけ見えた”G計画”の企画書、あれを思い出せればいいんだけど」
「ママの記憶術でも思い出せないですか?」
「一瞬だったから……」
 考え込んでいると、カフェテリアから研究室に戻る途中の大文字と出会った。
「おお、イーリャ君ではないか。今日はよく人に会う日だな」
「……ちょうど良かった先生。先生にお話があって探していたところだったんです」
「ん?」
「研究室で名前が出たG計画のことなんですけど」
「!?」
 G計画の”G”を発音したあたりで、大文字は全力で目を逸らした。
「最近、海京騒がせてる殺人事件、その被害者と先生が関係があるのではないか、と噂になっているんです。いえ、私が言ってるわけじゃないのよ。先生がこそこそ隠しているG計画が、この事件と関係があるんじゃないかって、生徒たちが疑って調査を始めてるらしくてね。まぁ私はそんなはずはないって、止めたんだけどね、勿論。ただ、同僚としてその辺の事情は知っておきたいのよ。まさかとは思うけど……」
「ば、馬鹿を言うな! 悪を憎む心はあるが、悪に染まる心はない!」
「でも、事件と関係はあるですよね?」
 ヴァディーシャは言った。
「この間見せてもらった企画書……”閉鎖空間発生装置”、これってアイリさんの言うクルセイダーが使っている技術じゃないですか。もしかしてG計画は対クルセイダー用の研究とかなんですか!?」
「クルセイダーだかなんだか知らんが、そんな聞いた事もないものとは関係ないぞ」
「……ともかく、不審に思われているのは事実よ。疑惑を晴らすためにもG計画の内容は明らかにしたほうがいいんじゃない?」
「うぐ……い、いやー、別にいいんじゃないか、明らかにしなくても。ほら、ちょっと調べれば、私が犯罪に関わっていないことはすぐわかるだろうし」
「……そういう態度が疑われる原因なんだけど。
 大体、水くさいじゃないの、同僚である私まで蚊帳の外なんて。そんなに大きな計画なら、研究者として関わりたいと思う気持ち、わかるでしょう。私もバーデュナミスやBMIの研究に携わっていた一人だから、少しは役に立てると思うわ」
「むぅ……」
「ママはフィーニクス量産にも関わったイコン工学の権威ですから、力になれるはずですよ!」
「し、知らーーん!」
 足早に逃げようとした大文字だが、その前に柚木 桂輔(ゆずき・けいすけ)が立ちはだかった。
「先生、俺にもG計画を教えてくれ!」
「け、桂輔……?」
 燃える眼差しで大文字を射抜くと、彼の胸ぐらを掴んで訴えた。
「秘密は守る! 手伝える事ならどんな事でも手伝うから!」
「お前までなんで急にG計画を……」
「この間、企画書見せてくれたろ」
「見せとらん。見せたのはあれだ、閉鎖空間発生装置とかイコン三身合体案とか時空断裂弾のほうだろ。手伝うならこっちのほうがいいんじゃないか。三身合体とかな」
「いや、俺は絶対G計画がいい。G計画じゃなきゃ嫌だ」
「な、なんで見てもいない企画にそこまで入れ込むんだ?」
「だって、見てないから!」
「!?」
「そしてあの時、先生焦ってただろ。俺、ちゃんと見てたんだからな。よっぽど大事な企画なんだろ、俺にも手伝わせてくれよ!」
「く……よく見てる奴だ。し、しかし期待してるようだが、G計画なんてつまらん企画だぞ、絶対イコン合体させてるほうが楽しいぞ。うん、そっちにしよう」
「嫌だ!」
「ぬぅ! 揺るがない……!」
「教えてくれ! 教えてくれるまで帰らないからな!」
 桂輔はゴロゴロ転がってだだをこねた。
「我が弟子ながらうざいこと山の如し……!」
 付き添いで来たアルマ・ライラック(あるま・らいらっく)は、パートナーの見事な”だだ”を見守っていた。
「……まったく一度決めたら頑固なんだから。無茶して身体壊さないようにね。倒れられたらこっちが困るんだから」
「うぉい。君も止めろ!」

 ・
 ・
 ・

「……ここまで来れば、追ってくるまい」
 イーリャと桂輔を振り切り、大文字は自分の研究室に戻ってきた。
 鍵かけて居留守を決め込もうと、ドアに手を伸ばしたその時、鋼鉄のロボットコア・ハーティオン(こあ・はーてぃおん)が呼び止めた。
「大文字博士!」
「おお、ハーティオン!」
 ハーティオン大好きな大文字は、嬉しそうに鋼鉄のボディをペタペタ触った。
「よく来たな、今日も勇ましい姿だ! 結構!」
「あ、ああ……」
 40男の嬉しくないスキンシップだが、ハーティオンは嫌な顔ひとつ見せなかった。と言うか、そわそわしている。
「その……きょ、今日はいい天気だな」
「天気? ん、まぁそうかもしれんな」
「「あ、いや……その……あ、暑いのだな、今日は」
「そうか? 昨日と大して変わらんと思うが?」
「う、むぅ……」
 ハーティオンはガリガリと金属音を響かせ、落ち着きなく頭を掻いた。
「じ、実は今日は大文字博士にお願いしたい事があってだな……」
「まぁ立ち話もなんだ、中でお茶でも飲みながら聞こう」
「い、いや研究室の中ではなくここでお願い致したい事で……!」
「はぁ?」
 寿子のようにあわあわしながら、ハーティオンは露骨に研究室をチラ見した。
「中に何かあるのかね?」
「あ、あー! ”まだ”入ってはいけない!」
「まだ?」
「な、な、なんでもないのだ! とにかく話を聞いてくれ!」
「……さっきから様子がおかしいぞ、ハーティオン。何か悩みでもあるのか?」
「そ、そうなんだ! その、わ、私は……ろ、ロボットにも心はあるのだろうかという疑問があってだな! 貴方が将来ロボットを作った時に、その時はいかにして心というものを持たせるか教えていただきたいと……!」
「うん。ちょっと立ち話じゃ頭に入って来ない。中に入ろう」
「あーー! ま、待ってくれ!!」

「ぜーったいあの馬鹿正直には隠しごと無理だと思ってわよ、あたし」
 柱の陰から見守る小さな妖精ラブ・リトル(らぶ・りとる)はうんうんと頷いた。
「ハーティオンにも話さないで、あいつも騙してた方がスムーズにいったんじゃないの? ぶち壊したら皆の邪魔になっちゃうわよ?」
「あれはあれでいいんじゃない? 下手に隠されるより、知ってて知らないフリする方が腹も立たないし」
 高天原 鈿女(たかまがはら・うずめ)は言った。
「ふーん。ま、中途半端な嘘つきよりは、アレぐらいに嘘がつけない方が可愛げはあるけどね♪」
「……それにしても、大文字博士の鈍感さね」
 挙動不審なハーティオンを前にしても、大文字はハーティオンの意図に気付いていないようだった。
「まぁそれならそれでいいんだけど」
「どっちも馬鹿正直なのかもね」
 それからラブは大文字のところに飛んでいった。
「さて、ハーティオンからかってこよーっと♪ 博士博士〜。しってる〜? ハーティオンって基本ド真面目だから嘘つけないのよ〜♪ だから、怪しいときはズバッと隠してる事を聴くとメッチャ面白いわよ〜?」
「ら、ラブ! 余計な事を言うのはやめてくれ! わ……私は……た、確かに隠している事が……うおおおお!」
 大文字を騙すことに、ハーティオンの正義の心は耐えきれず、頭をがんがん壁に打ち付けた。
「……こ、これは酷い。どこかネジが外れてるんだな、すぐに私が修理してやる」
「ううん、仕様よ♪」
「ところで大文字博士」
 鈿女は言った。
「これからハーティオンとそれと合体するドラゴランダー、そして支援メカのキングドラグーンを天学の設備を使って調整と整備をしようと思うんだけど、お忙しく無ければ手伝ってくれないかしら? なんせあたし一人じゃ手が足りなくてね」
「なにーっ! 合体だとー!!」
「え、ええ」
 想像通り、いや想像以上に喜ぶ大文字だった。
(ま、これで時間は稼げそうね)

「ウオオン……(整備するからと鈿女に呼ばれて来たものの、格納庫で待ってろとはどういう事だ……。我はじっとしているのは苦手なのだ……。)」
 絶賛待ちぼうけを食らっている恐竜型ロボット龍心機 ドラゴランダー(りゅうじんき・どらごらんだー)は、整備科格納庫で暇そうにネジを転がして遊んでいた。
「……オオン(ようやく来たか)」
「待たせてすまなかったな」
「ウオオオン(遅いぞ、ハーティオン。さっさと整備を終わらせて……む?)」
 ドラゴランダーは見慣れない人間が一緒にいることに気付いた。
「ウオオン(なんだその後ろの暑苦しい人間は。しかも、なんかキラッキラした目で我を見ているのだが……)」
「これが合体メカか! なんてカッコイイ恐竜メカなんだ!」
「ウオ!(ひいっ!)」
 遠慮と言う言葉を置き去りに、大文字はドラゴランダーをペタペタ触りまくった。
「お、ここはドッキングの連結部か?」
「ウオオオン!(おい……おい! ちょっと待て! 我の体を勝手に開けるな!)」
「こっちもパカパカ開くな。ちょっと見せてくれ」
「ガオオオン!(ハーティオン! こいつを止めろ! 通訳しろ!)』
「すまん」
『ウオオン!?(いや、”すまん”ではなくてだな!)」
「本当にすまん」
「ファイナルドッキング承認! ファイナルドッキング承認!」
「ウオオオオーウッ!(あー! ダメダメッ! そんな所を触るなー!!)」