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インベーダー・フロム・XXX(第2回/全3回)

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インベーダー・フロム・XXX(第2回/全3回)
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【3】 Re:CHURCH【2】


「ノブレスオブリージュ、人に安らぎを与える人には施しを、が家訓ですの」
 礼拝堂に来た雷霆 リナリエッタ(らいてい・りなりえった)は、ナイツにエレガントに微笑んだ。
「こちらの教会に寄付を、と思って参ったのですけど」
「寄付ですか」
 なるほど、リナは貴族然としたドレスに身を包み、頭に小さなシルクハット。良家のお嬢様の出で立ちだ。
 パートナーのベファーナ・ディ・カルボーネ(べふぁーな・でぃかるぼーね)も皺ひとつ無い執事服を纏い、背筋を伸ばして付き従っている。
 ナイツはメルキオールに取り次ぐと言って奥に。しかし五分ほどして戻った彼の横には、メルキオールはいなかった。
「申し訳ありません。司教様は懺悔に来た方が多くて、しばらく離れられないとのことです」
「は?」
 リナは小さく舌打ちをした。
(なによ、ここの司教がイケメンって話だから期待してたのに。ふざけんじゃないわよ)
(化けの皮が剥がれてるよ、お嬢様)
 清楚の皮が剥がれかかった色魔に、ベファーナは注意を囁く。
 けれども、彼女の機嫌はすぐに治った。
「代理ではありますが、私がお話を伺いましょう。司祭の”ジョニー別府”です」
 海賊家業を営んでいそうなワイルドな風貌ながら、薄幸の人造人間のような繊細な雰囲気をも併せ持つ男前だった。
「……やだん、イケメン」
「は?」
「いいえ、何も♪」
 礼拝堂はエリスのライブでうるさかったので、リナたちは神官たちの宿舎に案内された。礼拝堂も立派だったが、宿舎もとても立派な建物だった。
「これは見事な。さぞかし建設には苦労されたのでしょう?」
 ベファーナは尋ねた。
「司教様の教えなのです。人々を導き照らすには、まず自らが輝いていなければならない、とおっしゃられまして、このように美しくきらびやかな教会を建てたのです」
「ほほう。それはそれは。司教様は素敵なお考えをお持ちのようですね」
「ええ、素晴らしいお方で……」
「ううっ!!」
 タイミングを見計らっていたリナは、今だ、と思って、胸を押さえてうずくまった。
「どうなさいました!?」
「む、胸が……」
「!?」
 胸元のボタンを外し、別府にブラチラを見せ付ける。
「……う、あ、その医者を呼びましょう」
「お医者様に見せるほどではございませんわ。少し休んでいれば治ります……」
「おいたわしやお嬢様……。申し訳ございません。勝手ながら、貴方の部屋で休ませてはいけないでしょうか?」
「わ、わかりました。こちらです」
 別府に抱きかかえられ、リナは部屋に運び込まれた。
 ベッドで休ませようとした……その瞬間、鬼眼で別府を怯ませるや、唇を奪いながらベッドに押し倒した。
「な、何をするんです!」
「ああもーね、我慢の限界なのよ。女神病って言って、男の人に愛を振りまかないと駄目になっちゃう病に侵されてるの」
「そ、そんな馬鹿な病気が……、し、執事さん、助けてください!」
「私ですか?」
 ベファーナはビデオカメラを回しながら、後ろ手で鍵をかけていた。
「ああ、女神役がお好みですか? でしたら、私がお相手して差し上げますが」
「違います!」
「そんなに嫌がらなくてもいいじゃない?」
 リナは下着姿で、別府に股がった。彼の上着を脱がせ、あらわになった胸を指先でなぞった。
「禁欲生活長いとたまってるんじゃないの?」
「わ、私は……超国家神様にお仕えする身、女性との関係は……うわああ! 私のワンダーランドに触らないでください!」
「女は男のダークシャドウな部分に触れたくなるものなのよ」
「うう……!」
 流石の神官も、リナの色香の前には信仰が揺らぎつつあった。
「あ、でもこんなとこでおっぱじめたら、まずいかしらね……? この壁大丈夫? 薄くない?」
「ま、まずいですよ……!」
「ふぅん……、じゃあもっと静かな場所に行きましょうよ、地下室とか」
 リナは不敵に微笑み、ここに来た目的に探りを入れた。
 けれども、別府は不思議な顔を浮かべている。
「地下室……? そんなものはありませんよ?」
「え? あるでしょーよ、なんか良い感じの秘密めいた地下室が」
「いえ、ありません」
 とぼけているのかと思ったが、どうも別府は本当に言っているようだった。しかし司祭を務める彼でさえ知らないとなると、この教会にいるほとんどの人間は地下の存在を知らないのではないだろうか。
「……どういうことなのかしら?」
「まぁ少なくとも、私たちがここから移動する理由はなくなったんじゃないかな?」
 性に餓えた二匹の野獣は、稲妻の如き眼光で別府を見た。
「ひっ!?」
「ま、知らないもんはしょうがないわよね」
「だねぇ。でも折角だから、頂いていこうか。据え膳食わぬはなんとかって言うし」
「食べ残すにはもったいないご馳走よねぇ」
 リナはペロッと唇を舐めた。
「た、助けてぇー!!」

 ・
 ・
 ・

「消防点検?」
 一方そのころ、斎賀 昌毅(さいが・まさき)マイア・コロチナ(まいあ・ころちな)は消防点検を装って宿舎を訪ねていた。
「大陸から来られたからご存知ないのでしょうが、日本では消防点検を抜き打ちで行うものなのです。ここは海京。日本領ですから。きちんと日本の法律に従って頂かないと」
「そ、そうなんですか?」
「それに、最近はテロとか多くて物騒でしょう。もしもの場合の確認はしとかないといけませんから」
「わ、わかりました。中へどうぞ」
 神官の後ろを歩きながら、2人はにやりと笑った。
「上手くいきましたね」
「ああ。にしても、自分たちが起こした事件が、俺たちを招き入れる口実を与えちまうとは、ざまぁねぇな」
 前回、クルセイダーとの戦闘の所為で恥ずかしい目にあったことを、昌毅は根に持っているようだ。
「クルセイダー共め。前回はマイアも俺も(精神的に)随分な目に合わせてくれやがって……この恨み簡単に晴れると思うな。尻尾を掴んでやる」
 不審に思われるのを避けるため、点検の専門家は雇ってある。
 施工管理技士に本格的な消防点検は任せ、昌毅とマイアは地下室の場所捜索を始めた。
「ところで、役所に提出した資料に、虚偽報告はありませんね?」
「きょ、虚偽報告?」
「例えば、地下室があるのに隠している、とか?」
「そ、そんなハズありません!」
「そうですかぁ。そうだといいんですがねぇ」
 壁を不躾なほどがんがんと叩いて回る。こうして直接調べても文句を言われないのは消防点検の強みだ。
「……昌毅」
「ん、何か見つかったか?」
「管理技士が、地下に埋め込まれてる電線を見付けたみたいです。外からは見えないように引かれてるものが、真っ直ぐ建物の下に向かってるようなんです」
「ほう」
「それから、気になる壁があると……」
 そこは一見、何の変哲も無い壁だが、叩いてみると空間のある響きが返ってきた。
「よし、マイア。この壁が火災時に倒壊しないか、テストしてみよう」
「了解です」
 マイアはパイロキネシスで壁を発火させた。
「うわあああーーっ! な、な、何をしてるんですか!!」
「消防点検だが?」
「燃え広がってるじゃないですか!!」
 あっと言う間に炎は天井に達し、勢いよく陣地を拡大させていった。
「……よく燃えるな。この程度の炎でこれではいけませんね。この壁は消防法に抵触している可能性があります」
「そう言う問題じゃ……うわ、は、早く逃げないと! 」
 神官は避難を呼びかけながら、走っていった。
「……さて、邪魔者も消えたところで、いよいよお出ましだ」
 炎で崩れ落ちた壁の先に、深い縦穴があった。
 この建物の二階部分から、光も届かない地下に続いているようだ。
「……見つけたぜ」