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インベーダー・フロム・XXX(第3回/全3回)

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インベーダー・フロム・XXX(第3回/全3回)

リアクション


【2】 NOAH【3】


(……寿子さん、聞こえる? 私よ、リナよ。今お話しできるかしら?)
 雷霆 リナリエッタ(らいてい・りなりえった)はテレパシーで寿子……ポラリスに呼びかけた。どこにいるのかわからないが、ゴールドノア方面に出撃したのは知っている。聞こえていれば返事が……。
(リナさん……? もしかして街で会ったお嬢様の?)
 返ってきた。
(ああ、良かった。無事でしたのね)
 リナは胸を撫で下ろす。高層建築の上階にいる彼女の前を、ちょうど戦闘の始まったゴールドノアが通り過ぎようとしていた。
(実はグランツ教という宗教団体の事を少し調べたので、寿子さんに教えようと……)
(きゃあああっ!)
(え?)
 次の瞬間、目の前のガラス窓を突き破って、ポラリスが突っ込んできた。それは正に彼女が飛空艇から落下した瞬間だったのだ。
 リナは咄嗟に彼女を抱きしめ、床に叩き付けられる事から守った。
「うっわ、くそ驚いた……じゃなくて、だ、大丈夫かしら?」
「あ、ありがとう、リナさん」
「どういたしまして」
 微笑んで彼女の小さな身体を強く抱きしめる。
「ああ、そうそう。教団のことなんだけど……」
「あ、うん。それならもう知ってるんだ」
 ポラリスはこれまでの捜査で明らかになった事を手短に説明した。今回の事件の黒幕がグランツ教だったこと。彼らが爆弾を使って海京の街を脅かしていること。
「そうでしたの……。では、私も一緒に戦いますわ。魔法少女として」
「リナさん……」
 魔法少女仮契約書がまばゆい光を放つ。
「守れ、純潔! 命をかけて! 清楚可憐ヴァージン・リナ!」
 リナはお嬢様然としたおしとやかな魔法少女衣装に変身した。
「私が先行して安全な場所を確保して参ります。合図を送りますから、寿子さんはそれから潜入してくださいませ」
「準備は整っております、お嬢様」
 男装の麗人型マスコット・ベファとなったベファーナ・ディ・カルボーネ(べふぁーな・でぃかるぼーね)が空飛ぶ箒を持って現れた。ベファは小声でリナの耳元に囁く。
(まったく、何が守れ純潔なんだか……)
(合コン一発決めるまでは、清楚なお嬢様で通すのよ!)
 海京のエリートと合コンする際の女子メンバー捜しから、気が付けば海京の命運を分ける大事件に巻き込まれる羽目に。人生万事塞翁が馬、何が起こるわからないものである。
 そして、リナは合コンを決めるまでは、普段のくそビッチな本性を隠して、百合園のお嬢様で押し通すらしい。

「……まさか海京にあんな恐ろしい怪物が現れるなんて……」
 ゴールドノアの通路に教団の司祭・ジョニー別府の姿があった。
 序列の低い彼はガーディアンと教団の繋がりを知らない。ガーディアンと沈みゆく海京から、非常時に備え用意されていた飛空艇でグランツ教徒だけが脱出を果たす、教団の描いたシナリオを疑う事無く、神の奇跡と信じている。
 気分が悪くなった信者を連れ、医務室に向かう途中だったが、不意に目の前に見覚えのある二人組……リナとベファが立ちはだかった。清楚可憐とは程遠い表情のリナと、その手に持った拳銃に身体が固まる。
「ごきげんよう、別府さぁん」
「あ、あなたは……!」
「この間撮影したあなたのビデオの事、ばらされたくなかったら、クルセイダーが待機してない倉庫でもトイレでもいいから教えなさい」
「そ、そんなこと言われましても、わ、私もこの船の存在は知ったばかりで何もわからないんです」
「……ふん、すっとぼけるなら、こっちに訊くわ」
 リナの合図で、ベファは目深に被った信者のローブのフードを上げる。その下から出てきた顔に、不敵に笑っていたリナの顔が凍り付く。
「く、黒崎さん!?」
 その信者とは、黒崎 天音(くろさき・あまね)だった。
「どうしてこんなところにいるの?」
「……僕を知っているのか?」
「へ?」
 怪訝な顔を浮かべる天音に代わって、別府が説明する。
「彼は記憶喪失なんです。失った記憶を取り戻したいと教団に救いを求めて来た信者でして……」
「き、記憶喪失ですってぇ?」
「うう、身体が重い……。力が抜ける……」
 天音は苦しみ始めた。どうやら、シャドウレイヤーに適応出来ていないようだ。
「彼は教団に来たばかりなので、洗礼を受けていないのです。司教様の話だと、洗礼を受けていればこの空間でも問題ない、とのことなのですが……」
「う、ううう……はっ?」
 うずくまった拍子に、服から一枚の紙がすべり落ちた。そこには”ロッカーの槍をサイコメトリせよ”と彼自身の字で書いてある。
「ロッカー?」
「そ、そうです」
 別府が声を上げた。
「船に乗せられた時に、荷物預けるのに使ったロッカールームがあります。信者と神官は広間に集められていますし、あそこならクルセイダーも行かないのでは……?」

「へぇ。それは興味深い話だね」
 今から数日前の昼下がり。海京の港で、天音は風紀委員の鈴木と釣りを楽しんでいた。鈴木とは、スーさん、アマちゃんと呼び合う釣り仲間なのだ。
 その時、鈴木の話したグランツ教への不信と、海京に現れたガーディアンの件に、天音は関心を示した。
「ガーディアンね……。僕が以前見た、パラミタの民をイコンにする実験の末に生れた”歪な天使”に似てるな。”オーソン”という元ニルヴァーナ人の話を聞いた事があるかい?」
「残念ながら初めて聞く名前です」
「そう。もし、関わりがあるとすれば、ガーディアンの正体は”信者”かもね。特別な才能もない信者に、広報以外の仕事があるなら、その可能性はあるよ。選ばれし守護者、という言葉を聞けば、どっぷり漬かった信者は喜んでその身を差し出すかも知れない」
「……あ、アマちゃん、引いてますよ」
 竿を上げる。
「……小さいな。ブルーズ海に帰してやって、それと新しい餌を付けてもらえるかい?」


「……思い出したよ。あれから僕は教団に潜り込んでいたんだ」
 教団に疑われる事を避けるため、自らの記憶を消して。ロッカーの中にあった忘却の槍に触れて、天音は記憶を取り戻した。
「心配させてしまったようだね」
「気にしないでいいわ」
 リナは肩をすくめた。
「それで、何か情報を掴めたの?」
「司祭である彼ですら何も知らないんだ。一般信者には何も教えてはくれないよ」
 そう言って、別府を見る。
「さ、さぁここなら人気もありませんし、問題ないでしょう。そろそろ私を解放してください」
「……ふぅん。ま、あなたの言うとおり、ここは安全そうね」
「で、でしょう?」
「じゃあベファ、あとは好きにしていいわ」
「え?」
「そう言えば、この前は女神役をして頂いてませんでしたね」
 はらりと荒縄を取り出す。
「ひっ!」
「ぐふふ。聖職者にXXXするというのはたまりませんね。フヒヒヒ、久々に萌えますなぁ」
「た、助けてーーーーっ!!」
 しばらくして個室からすすり泣きが聞こえてきた頃、テレパシーで連絡をとった寿子が窓から入ってきた。
「な、なんとか辿り着けたよぅ」
「さ、時間がないわ。私たちが囮になって暴れるから、クソッタレなシャドウレイヤー発生装置をぶち壊してくるのよ!」
「ありがとう。リナさんっていい人ね」
 言われなれない言葉に、リナは目をしばたかせた。
「……お礼なんていいわ。こんな事件、早く解決して、一緒にお食事に行きましょう。アイリさんも一緒に。あとパイロット科の優秀なお友達も呼んで、三対三ぐらいで」
「うん!」
 ポラリスは気付いていなかったが、それは完全に合コンの約束である。
「これをどうぞ」
 るんるん鼻歌を歌いながら、ベファは別府から奪った神官服を渡す。
「それを着れば目立たず行動出来るでしょう」

「……料理の腕は上がったかい、ブルーズ?」
 調理場で食事の支度をしていたブルーズ・アッシュワース(ぶるーず・あっしゅわーす)は、天音を一目見て、手に持ったパラミタオオヤドカリの肉をポトリと落とした。
 彼もまた潜入のため、記憶を消していたのだが、連れ添ったパートナーの姿に記憶が蘇った。
「そう。教団のシェフとして潜入していたのだったな……」
「放った下忍からの情報だと、もう何人か学院側の人間が船内に突入しているようだよ。僕らも彼らに協力しよう」
「ああ」
 そしてブルーズにもう一つ忌まわしい記憶が蘇る。
「そう言えば、シャドウレイヤー内にいるのに、何故、我は平気なのだろうと不思議に思っていたが、記憶を失う前に魔法少女にクラスチェンジさせられたのだったな……」
 どこからともなくリーンゴーン♪と鐘の音が響く。ブルーズは光に包まれた。
「グランツ教の野望が潰えるこの良き日に、ウェディング・ブルーズはとってもご機嫌ななめだわ!」
 豪奢なウェディングドレスがブルーズのマッスルドラゴンボディを包む。
「とても似合っているよ、ブルーズ」
「そうか」
 感情の無い声で答えると、ブルーズは天音とともに部屋を出た。