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リアクション
【4】 Re:NOAH【1】
「いざ、敵に向かって進めーーっ!」
どちらが魔法少女でどちらがマスコットか、厳正なるじゃんけんで決めた結果、高崎 朋美(たかさき・ともみ)はサラブレッド(馬)のマスコットになった。そして見事、魔法少女の座を射止めた高崎 トメ(たかさき・とめ)(外見年齢68歳)を背に乗せ、未だ戦闘状態が続く礼拝堂に突撃する。
「魔法老女★メロディアン・トメ参上!」
魔法少女を名乗るには少しばかりお姉さん過ぎるトメの、無駄に露出度の高い、赤い腰巻モチーフな萌え衣装に、信者たちは彼女の枯れた肉体同様、しなしなと無性に心が萎えた。
「……な、なんという見応えの無さ」
「なんでこんなにも損した気分に……」
「あたしの魅力に皆参ってしもうとるみたいどすなぁ。罪深くてえろうすんまへん」
「この調子でクルセイダーの奴らも畳んじゃおう、おばあちゃん!」
「それ、さーびすしょっとどすえ!」
トメは蠱惑的なせくしーぽーずを放つ。
「その隙に……食らえ! 馬に蹴られて死んでしまえアターーーック!」
ところが、渾身の朋美の蹴りはあっさりと躱されてしまった。一般人の気力を次々に削いだトメのせくしーぼでぇも、クルセイダーには通用しなかった。
「ま、まさかこの人たち、とんでもない熟女好き!?」
そういうことではない。
「我等の敵に安らかなる眠りを!」
クルセイダーはアシュケロンを鞭に変え、朋美を激しく打つ。全身をほとばしる痛みに耐えかね、トメを振り落として、彼女は床に転がった。
「きゃあああっ!」
「……だっ! こ、腰が!」
床に叩き付けられたトメも腰を押さえてもんどりを打つ。
「ご老人に鞭を打つのは気が引けマスガ、ご安心クダサイ。すぐに安らかに眠れるよう息の根を止めてご覧にイレマス」
「め、メルキオール……!」
クルセイダーに守られながら、微笑を浮かべる彼の姿を、腰を摩り摩りトメは認めた。
「あんさんの好きにはさせまへんで……!」
「アナタは誤解されていマス。ワタシは自分の都合で行動しているわけではありマセン。定められた未来に従っているのデス。我等が神が定めたもうた”未来”に」
「”未来”はいつも不確実で不確定なもんでっせ。それを作るのは未来から来たあんたらではない。”今”を生きる人間の仕事や」
「そうして人は迷うのデス。正しい道を指し示すのがワタシの役目デス」
そう言いながら、メルキオールは澄んだ瞳をきらきら輝かせる。
「……へ、屁理屈ばかり並べて」
目に涙を浮かべて、朋美は彼を睨む。
「そんな面倒くさいこと言ってると、君たちの用意した爆弾爆発させて、カミカゼアタックしちゃうよ? 君たち死んだら、遺族が揉めるよ? 遺産分割の遺言書とかは書いてきた?」
「ワタシ達の死後、財産は全て教団に納められマスノデ、揉める事はありマセン」
「これだから宗教は!」
(……探しに行く手間が省けましたね)
月詠 司(つくよみ・つかさ)はメルキオールを見つめ、小さく呟く。
少女の姿になった彼は、シオン・エヴァンジェリウス(しおん・えう゛ぁんじぇりうす)と姉妹のフリをして、信者に紛れ込んでいた。グランツ教への内偵を行った直後、この事件が発生したため、船に乗せられる信者に紛れるのはそう難しいことでもなかった。
(何となくワタシの実家のヒト達と似てるとは思ってたけど、ここまで同じだと流石にね。メルキオールにはガッカリだわ……)
妄信的な実家を思い出し、シオンは辟易する。
(彼がこちらに気付いていない今が絶好の機会です。奇襲を仕掛けましょう。ミステル君、お願い出来ますか?)
(そうねぇ〜、メルキオールにはぁ、くだらねぇ事にアタシ達を巻き込んでくれた責任を取って貰わないとねぇ〜。いいわ、やったげるぅ〜)
花飾りのように司の頭に寄生する花妖精ミステル・ヴァルド・ナハトメーア(みすてるう゛ぁるど・なはとめーあ)は、眠り花粉をそっと撒き散らし、傍にいる神官や信者を眠らせる。パタパタと意識を失って床に倒れ込むと、司とメルキオールの間に遮るものは何もなくなった。
「……貰った!」
と思ったその瞬間、逆に背後からクルセイダーの不意打ちを食らった。
「うわあああああああっ!!」
強烈な蹴りを浴びせられ、司は目の前にあった木製の座席に突っ込んだ。
シオンは素早く銀鳩のマスコットに変身し、強襲したクルセイダーに視線を飛ばす。
「……ワタシ達の存在に気付いてたわね?」
司の奇襲は本来なら完全に成功するタイミングだった。失敗に終わったのは、初めから司が敵にマークされていたからに他ならない。
「不審な人間は全て確認してある。浅知恵で欺けるほど、我等の目は節穴ではない」
「く……っ。ツカサ、早く立って。魔法少女CQCパート5よ」
「パート5って、ま、待ってください」
「待てない。早く」
「うう……」
魔法少女CQCパート5とは。少女への変身を解除することで、魔法少女から魔法装女(魔法の衣装で女装した男の意)になり、その酷過ぎる二段階変身をエサにして、敵に思わずツッコミを入れさせると言うもの。その隙に、シオンとミステルが攻撃するのだ。
「うう……マジカルモードチェンジ! 男子のボディをマジカルエプロンでプリティコーデ! 魔法装女☆ツカサ! 君のハートをきゅんきゅんさせちゃうゾ!」
白のエプロンドレスの裾を軽く上げて、ラブリーにポーズを決める。その姿にはどこか、やけくそ、と言う言葉を彷彿とさせるものがあった。
しかし彼の努力虚しく、クルセイダーはツッコミを入れずに、鬼のような掌打を叩き込んできた。
「がっはぁ!!」
再び座席に突っ込む。
「何してるのよ、ツカサ! 隙を作ってくれなきゃ攻撃しようがないじゃない!」
「そ、そんな事言われましても……」
「こうなったら、魔法少女CQCパート6しかないわ!」
「え、ええー……」
「すぐやる!」
「うう……」
魔法少女CQCパート6とは。攻撃と同時に女装男のパンチラを見せ、敵の動揺を誘うと言うもの。例によってその隙に、シオンとミステルが攻撃するのだが、パート5同様、敵よりも自分のメンタルをアサルトしてしまいそうな技である。
「うう、ほらぁ魔法装女のパンチラですよぉ!」
ツカサはこれ見よがしの連続ハイキックを繰り出す。蹴り上げるたびに、エプロンの裾がめくれ、何の価値もない彼のパンツがあらわになる。
しかし、彼には申し訳ないが、クルセイダーはやはり動じる事は無かった。手刀で蹴りを叩き落とし、カウンター気味のハイキックで、ツカサの顔面を蹴り飛ばす。彼は空中を錐揉みしながら、三度目となる座席へのダイブを果たした。
「何してるのよ、ツカサ!」
「あ、う……」
しばらく目は覚めそうもない。
「……不甲斐ないぞ、お主ら!」
ドスの利いた声が響く。
「ババアのセクシーポーズだの、野郎のパンチラだのと。ナメてかかって勝てる相手かどうか、見りゃわかるじゃろうが。どいつもこいつも戦いっちゅうもんをナメとるけぇ。ここはわしが見本見せたる!」
清風 青白磁(せいふう・せいびゃくじ)は睨みを利かせ、ポーズを決める。
「泣き虫で甘えん坊な皆の衆の妹、魔法少女☆ソウカイヤー!」
顔面893の仁義なき魔法少女姿は、震えるほどにプリティだった。
「どう見ても一番ナメてるでしょ!」
朋美とシオンから非難が上がったが、彼にとってそれはとても小さきこと。
「運が無いのぅ、クルセイダー。わしは更にもう一段階変身を残しておる。この意味がわかるかな?」
「?」
「ソウカイヤー・アルティメットフォーム!」
魔法少女コスチュームが、ペガサスの衣を纏った究極形態に変わる。
「これで筋肉痛が2日後でなく、翌日に来る! どうじゃ、若々しいわしの姿は!」
「眠れ、安らかに」
クルセイダーはアシュケロンを長剣に変え、迫った。
「わびさびのわからん奴じゃ。しかし、お主ではわしには勝てん。何故ならわしには仲間がいる。同じ魔法男の娘の仲間が。そいつらの看板を背負ってここにいる以上、無様に負けるわけにはいかんのじゃ」
ここにはいない心の友に思いを馳せる。
「大文字、山葉……わしに力を貸してくれぇい。大魔法を奴らに見せちゃるけぇ!」
一方的に男の娘仲間にされた可哀想な二人の名前が出たが、そんなことはさておき、ソウカイヤーは大魔法を発動させるべく拳銃を構える。
「スナイプ、スナイプ、スナイプ!」
クルセイダーの頭部を狙って怒濤の射撃をおみまいする。
「物理やん! それ完全に物理攻撃やん!」
どこからか、つまらない指摘が飛んできたが、それは彼にとって小さきこと。
「ぬおおおおっ! 往生せぇやぁぁぁ……あ、あれ?」
クルセイダーは素早く両手を閃かせ、飛来する弾丸を素手で叩き落とした。クルセイダーの使うアンボーンテクニックである。
近接戦闘を主とする彼らにとって遠距離攻撃への対策は必要不可欠。気を張って受けさえすれば、銃や矢の類いをまともに食らうことはない。
「我等が敵に祝福を!」
「ぐわっはぁっ!」
クルセイダーの鉄拳が直撃する。ソウカイヤーも錐揉みしながら宙を舞い、気を失っているツカサの上に突っ込んだ。
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