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古の白龍と鉄の黒龍 第1話『天秤世界』

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古の白龍と鉄の黒龍 第1話『天秤世界』
古の白龍と鉄の黒龍 第1話『天秤世界』 古の白龍と鉄の黒龍 第1話『天秤世界』

リアクション

 
 ザナドゥ第二の都市、ロンウェル。その中心にある魔神 ロノウェ(まじん・ろのうぇ)の居城は、普段と違った緊張感に満ちていた。
 パイモン・ナベリウス・アムドゥスキアスがザナドゥを離れているため、ロノウェが唯一の権力者として全ての街を管轄していたためである。

「リュシファル、ゲルバドル、アムトーシス、そしてここロンウェルに、私の部下をそれぞれ配置したわ。あなた達も顔合わせしているから、分かるわよね。あなた達は彼らからの連絡をまとめて、私に寄越して頂戴。私が下した判断を伝える作業も、同時にお願いするわ」
 職員が各地へ飛んだため、普段より人員の少なくなった部署で、ロノウェが神崎 優(かんざき・ゆう)神崎 零(かんざき・れい)神代 聖夜(かみしろ・せいや)陰陽の書 刹那(いんようのしょ・せつな)に指示を送る。……彼らは、ロノウェがここロンウェルでザナドゥの管理とイルミンスールからの情報提供の処理、その他細々とした事を全てやろうとしていた所にやって来て、『ロノウェの手伝いがしたい』と申し出た。

 ◆   ◆
「俺達にも何か手伝える事があるんじゃないかと思って、ここに来た。
 それに貴女の事だから、何かと一人でやろうと考えていそうだしな」
「…………ふぅ。見抜かれては、嘘でごまかすわけにいかないわね。
 でも、あなた達だって決して、人数に余裕があるわけじゃないんじゃないの?」
 『天秤世界』での行動も、一人二人でどうにかなる代物ではない。それなのにここに4人で来て大丈夫なのか、と尋ねるロノウェに、優は持ってきたお守りを渡して、こう答える。
「俺達だからこそ気付ける事があるかもしれないと思う。天秤世界に行った人達は心配ではあるが、俺達はきっと大丈夫だと信じている。……ロノウェ、あなたも彼らと同じ、共に手を取り合う仲間だ。だから憶えていて欲しい。貴女は一人じゃない。俺達や、貴女を慕って共に付いてくる仲間がいる事を。
 躓いた時や立ち止まった時は、これを見て思い出して欲しい」
 お守りを受け取り、意思の篭った言葉をかけられて、ロノウェは反応に困ったような顔を見せる。
「もう……それが言いたかっただけじゃない……」
 言葉とは裏腹に、受け取ったお守りをしっかりと抱いて、ロノウェは微笑む。
 ◆   ◆

「アムトーシスの様子に、特に変わった点はないとの事です。……ただ、どこで知ったか分かりませんが、天秤世界の事を知りたいという声が一部の住民から聞こえるようです。創作の種にしたいそうです」
「ゲルバドルの方も問題はないみたいだ。『天秤世界の住民とスポーツが出来るのか』という声が住民から寄せられているとは言っていたが」
 刹那と聖夜がそれぞれ、アムトーシスとゲルバドルに飛んだ職員からの報告をまとめ、ロノウェに報告する。
「……地上と交流するようになって、街の住民が外の事を知る機会が増えたのはいいことだけど。私としては街の人の『知りたい』という声に応えなければいけないのが大変だわ。……そうね、ある程度は公開することにしましょう。追って情報を送るのでその旨職員に伝えておいて頂戴」
 了解の意思を伝え、刹那と聖夜がロノウェの部屋を後にする。直後、優と零が少し急いだ様子で入ってきた。
「街の中で、住民同士の喧嘩が発生しているそうです。天秤世界の件とは無関係との事ですが、放っておけば街の建物に被害が出る可能性があると」
「怪我人や建物の損傷が起きてからでは遅いわね。あなた達、直接行って可能ならその場で抑えてきてくれる?」
「分かった。行こう、零」
 頷いた零を連れ、優が居城を出、街中へ向かう。
「さて……今の内に、イルミンスールで纏まっている情報を把握しておかないとね」
「はいなのです。イルミンスールからの情報はヨミがまとめておいたのです」
 ぱたぱた、と副官であるヨミがやって来て、契約者が得た情報をまとめた書類を置く。
「ありがとう、ヨミ。……やっぱり、余裕があるわね」
 書類に目を通しながら、ロノウェは彼らが手伝いをしてくれている事に密かに感謝するのであった。


「うむ、これだけ集まれば、初回の調査としては上出来じゃないか?」
『ルカルカさんもそうですし、他の契約者の皆さんも努力されている証ですね』
 ザカコから情報を受け取った夏侯 淵(かこう・えん)が、その内容の充実ぶりに満足気な笑みを浮かべる。
『ところで、そちらの様子はどうですか? 何か変わった所などありませんか?』
「ああ、こちらは何も問題ない。ルカ殿はロノウェ殿の事を大切に思っているからこそ、俺をロンウェルに寄越したのだろうが、杞憂だったようだな。俺の他にもロノウェ殿の力になりたいと申し出た者がいてな。俺は手持ち無沙汰だ」
『なるほど、それはそれで、いいことではないですか』
「ま、そうなんだけどな。……んじゃ、俺はこの情報をロノウェ殿に提供する。また何かあったら、よろしく頼む」
『はい、それでは』
 通信を切り、夏侯淵が椅子に背を預け、息をつく。天秤世界の面々は大変ではあるが、充実しているようだった。
「さて……ルカ殿から預かったチョコバーを差し入れにでも行ってやろうか」
 チョコ好きの副官はどういう反応をするだろうか、そんな事を考えながら夏侯淵が席を立つ。

『そして、新たなる事態へ加速する』

 契約者が初めて『天秤世界』に足を踏み入れてから、暫くが経ったある日の事。

「リンネさん。龍族の方が面会を求めています」
 博季がリンネに、ケレヌスとヴァランティと名乗る龍族が契約者に面会を求めている旨を伝える。
「分かった、みんなを呼んで、すぐに行くよ」
 頷いたリンネが、拠点にいる者たちに声をかけに飛び出す――。

「……率直に言おう。今日我々がここに来たのは、あなた方の力を借りるためだ」
 机を挟み、対面するパラミタ側の面々に対し、ケレヌスは契約者の協力を要請した。今日より5日後、龍族は『執行部隊』を編成、東方の中立区域を移動して鉄族の勢力範囲に攻勢をかける作戦を予定していること、そのために契約者の力を必要としている事を伝える。
「ダイオーティ様も、あなた方が力を貸してくれることを期待しているわ。ここで鉄族の勢力範囲に橋頭堡を築き、龍族はまだ戦う意志がある事を鉄族に印象付ける。……良い返事を、期待しているわ」


 その2日後。今度は鉄族の“紫電”“大河”と名乗った者が、契約者の拠点を訪れた。

「フィル君。二人の事……どう思う?」
「そう、ですね……。男性の方は実力はあるけどお調子者。女性の方はおっとりしていて実はしっかりしている……そんな印象を受けます」

 会談に向かう途中で、フレデリカとそのような会話を交わしたフィリップが、リンネ達と合流して会談の席に着く――。

「知ってるかもしれねぇが、オレ達鉄族の所にオマエ達と同じ契約者が仲間に加わった。んで、“灼陽”サマはたいそうゴキゲンでな」
 そんな調子で会話を始めた“紫電”が、今日から3日後、鉄族は『疾風族』を先頭に西方の中立区域を移動して龍族の勢力範囲を攻撃する作戦を予定していると伝えてきた。同時に、契約者にさらなる協力も要請してきた。
「皆さんはとてもお強い方ですので〜、力を貸していただけると、嬉しいです〜」


 2つの種族の来訪、そして、同じ日にそれぞれが相手の勢力範囲への侵攻を計画していることを知らされた契約者。
 近い内に、一戦ある……その予感を感じ取った契約者の一部は、それぞれの長にある組織の活動許可を願い出る。

「【蒼十字】による医療活動、ですか」
 提案を受けたダイオーティが、瞳を閉じて考え込む動作を見せる。ニーズヘッグの付き添いを受け龍族の本拠地『昇龍の頂』を訪れた赤城 花音(あかぎ・かのん)ウィンダム・プロミスリング(うぃんだむ・ぷろみすりんぐ)が、『蒼十字』の説明を行う。
「蒼十字による医療活動とは、相手の所属に関わらず、負傷者の治療を公正に行う、医療活動の事。
 ……誉められる話じゃないけど、ボク達の世界でも過去、戦争があったんだ。その時に『蒼十字』はやっぱり同じ理念を抱いて活動して、戦後のお互いの関係修復に大きな役割を果たした。……ボクは、その理念をもう一度復活させたいんだ」
 花音の心の中には、あの時のような素晴らしい結果になる可能性は、低いのではないか、という思いがあった。それと同時に、前を向いて行動を起こさなければ始まらない、何も得られない、とも思っていた。だからこうして、一種族の長に対して堂々と、自らの意思を表明している。
「私達契約者は、さっき見てもらったと思うけど、治癒魔法を扱えるわ。戦場で傷ついたあなた方を、私達は治療することが出来る。
 もちろん、所属に関わらないと謳っているから、鉄族も同じように治療する。……それでも、龍族の方が傷つき、苦しみながら死んでいく光景は、減ると思う。ダイオーティ様も、助かる命は多い方がいいとお思いですよね?」
 ウィンダムの言葉に、ダイオーティは表情こそ変えなかったものの、心を射抜かれていた。
「……あなた方の決意は、理解しました。……では、具体的に私達は、何を認める必要があるのですか?」
「それはね、まず、“蒼十字医療活動の表明”。今から活動をしますよ、というのを分かってほしい。
 後は、蒼十字の紋章、旗を掲げた拠点、建物、移動体、そして腕章を着けた人への“不可侵協定の提案”。この2つを、認めてほしい」
 声が途切れ、辺りに沈黙が降りる。言葉を待っていた花音へ、ダイオーティの判断が下る。
「いいでしょう。あなた方『蒼十字』の活動を認め、意図的な侵略行為を厳禁することを、ダイオーティの名において宣言します」

「お初にお目にかかります。高峰結和と申します。
 鉄族の長である“灼陽”様に、お話と、お願いがあって参りました」
 同じ頃、“灼陽”の下にアメイアの付き添いを受け、高峰 結和(たかみね・ゆうわ)が挨拶に伺う。居並ぶ鉄族の面々に対し、エメリヤン・ロッソー(えめりやん・ろっそー)申 公豹(しん・こうひょう)が護る中、結和が『蒼十字』の説明を行う。
「私たちに、『蒼十字』として鉄族の皆さんの治療をする許可を頂きたいのです。
 『蒼十字』は、相手が誰であれ、どんな方であれ、治療したいと考えています。健やかであって欲しいと願います。自らの身を欠いて苦しいことは、龍族も鉄族も変わりません。どんな相手にもその苦しみを味わって欲しくないし、可能な限り小さくしたい。
 ……私は、その思いから活動をする事に決めました」
 ――そう、これは、私にとっての戦い。ここが戦いの場なら、争わせる世界なら、きっと私がすることはひとつ。それは今までも、これからもきっと、ずっと同じ。
「ふむ……なるほどな。戦場で損傷することがあっても、治療を受けられるとなれば士気を維持出来る。
 だが、本当に私達を治療することが出来るのか? 治療が出来ることを証明してみせろ」
 “灼陽”が指示すると、一人の鉄族がベッドに載せられて運ばれてくる。時折うぅ、と苦しそうに呻く姿は、痛々しい。
「彼は戦場で損傷し、今までこの状態だった。さあ、お前に彼を治せるのか?」
「……分かりました」
 決意を固め、結和が一歩を進み出る。後を付いて行こうとするエメリヤンを制し、背後で公豹が鞭を構える中、結和が怪我人の元へ歩み寄り、両手をかざして治療の力を送り込む。
「……う……お? なんだ……身体が軽い、それに……動くぞ?」
 それまでは自分の意思で動かせなかった身体を動かし、鉄族の彼が喜びの表情を見せる。治癒魔法が効果を発揮することを知ってホッとした結和に、“灼陽”の言葉が降る。
「よかろう。『蒼十字』の活動を許可する。
 ……だが、こちらから侵攻することはないが、護ろうとすることもない。怪我人を治療するつもりで自ら怪我人にならぬよう、注意することだな」
 “灼陽”の警告を含んだ言葉に、結和が深々と礼をして応える。

「『蒼十字』の活動許可が、龍族より下りたと花音から連絡がありました」
「うん、こっちも下りたって、結和から連絡があった。良かった、この船の準備が無駄にならなくて済みそう」
 花音、結和のそれぞれから結果を報告されたリュート・アコーディア(りゅーと・あこーでぃあ)アンネ・アンネ 三号(あんねあんね・さんごう)が安堵の表情を浮かべ、自分達が今整備している“病院船”、ドール・ユリュリュズの内装を見遣る。かつてパラミタの空を飛び回り、怪我人の治療に奔走した船が、今度再び蒼十字の紋章を付け、天秤世界の空を飛び回ることになるであろう。
「じゃあ、結和と花音さんが帰ってくるまでに、僕たちで出来ることはやってしまおう。リュートさん、その機器を向こうの処置室に運んでくれないかな」
 分かりました、と返事をして、リュートが機器を指示のあった場所へ運びに行く。部屋の整理をしながら、三号は自分のしていることについて思いを馳せる。
(治療をする結和のサポートをすれば、少しは僕のしたことに償いになるかもって思いもないわけじゃないけど……。
 何よりまず、僕は結和の力になりたいという願いと思いがある)
 大切にしたい思いと願いを抱いて、三号が作業を続ける。

「この辺で、いいでしょうか」
 運んできた機器を置き、リュートが一息つく。船の中はまだ乱雑な状態で、かつどの道具が何処にあるべきなのか、把握しているものは少ない。
(正直、医療活動に実績のある方に比べれば、至らない点は多いと思いますが……)
 その事を自覚しつつも、リュートはこの『蒼十字』による医療活動を原案として提示した。そこに、かつて蒼十字として医療活動に従事していた結和が加わり、こうして形となって実現しようとしている。
(僕たちにとって、新しい挑戦……結果を恐れず踏み込んでいく、何かを掴もうとする姿勢……。
 ふふ、これは花音のが移ってしまったのでしょうか)
 苦笑しつつも、それはとても大事なことだと、リュートは思う。
(後は、蒼十字の紋章と、旗、それに腕章ですか。紋章はこの『ドール・ユリュリュズ』に取り付けることとして、旗と腕章は数が足りないですね。
 ……ルーレンさん辺りに、増産を手配できるよう頼んでみましょうか)
 その時にもしかしたら、『蒼十字』で活動することにした理由を話すことになるかもしれない。――もしそうなったとしても、今の僕には蒼十字で活動する理由が確かにある――。
 時間が空いた時に連絡を取ってみよう、そう思い至り、リュートが三号の下へ戻る。


 ――龍族と鉄族、それぞれが新たな行動を起こそうとしている。
 この事態に、果たして契約者たちはどのような行動を取り、そしてどのような選択をするのだろうか。

 まだ、彼らの冒険は始まったばかりである――。

古の白龍と鉄の黒龍 第1話『天秤世界』 完

担当マスターより

▼担当マスター

猫宮烈

▼マスターコメント

猫宮です。
『古の白龍と鉄の黒龍 第1話『天秤世界』』リアクションをお届けします。

各方面の流れを、以下に簡単ですがまとめます。
(詳細は今後、マスターページにてまとめます)

・拠点の整備
 拠点の構築が完了し、ある程度の襲撃に備えられる作りになっている。

・龍族・鉄族の勢力範囲
 鉄族の勢力範囲には、現在位置を知らせるであろう機械があちこちに設置されている。はぐれた鉄族がひっそりと暮らしている場所がある。
 龍族の勢力範囲には、かつての戦いで生き残った種族が暮らしている街がある。

・龍族、および鉄族寄りの中立区域
 デュプリケーター以外は、ほぼ(例外もあるにはある)他の生物は生存していない。
 龍族寄りの中立区域にて、デュプリケーターを束ねていると思しき少女が目撃された。デュプリケーターはパラミタの巨大生物を捕獲、戦力として利用している事が判明。

・龍族の長/鉄族の長への面会
 龍族の方は、契約者の行動が引き金となり、鉄族の勢力範囲への襲撃作戦に協力するよう(誠意を見せるため)指示される。
 鉄族の方は戦力の増強を素直に喜び、そのノリで龍族の勢力範囲への襲撃作戦が決定され、契約者にも協力を要請しに来る。

・イルミンスール/他
 イルミンスール以外の他地域での危険事は、特になし。


また、次回への流れの概略を、以下に記載します。

・龍族は鉄族の、鉄族は龍族の勢力範囲にある基地襲撃作戦を展開する。
・デュプリケーターも彼らの行動に合わせるように、活動を活発化させる。
・全体の流れとして、『龍族について鉄族を撃退する』『鉄族について龍族を撃退する』『龍族と鉄族のどちらにもつかない』のいずれかを選択することになる。


なお、イコンには色々と種類があるようですが、ここでの扱いとしましては、
種別:本拠地……エネルギーの補給を考えなくてもよい。また、発電施設として利用することも出来る。だが、敵に発見されればまず第一目標に設定される。(そしてイコンに対しては、大きさの関係上不利)
種別:それ以外……エネルギーの補給を考える必要がある。発電施設としては利用出来ない。
としたいと思います。(他のシナリオでは適用されません)


第2話は、年明け以降を予定しています。
やや間が空いてしまいますが、次回の展開を楽しみに、お待ちいただければ幸いです。

それでは、また。