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空を渡るは目覚めし艦 ~大界征くは幻の艦(第3回/全3回)

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空を渡るは目覚めし艦 ~大界征くは幻の艦(第3回/全3回)

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    ★    ★    ★
 
『――バリア、後方展開するのだよ。攻撃は隙間から自由にやってほしいのだ』
『――裁、隙間から攻撃してください』
 メフォスト・フィレスからテレパシーで指示を受けたドール・ゴールドが、鳴神裁に伝えた。
 クイーン・メリーは、フリングホルニの真後ろで盾となるべくジャマー・カウンター・バリアを展開している。
「よおーし、荷電粒子砲、バンバン撃っちゃうよ〜。ごにゃ〜ぽ」
 でくのぼうに持たせた艦載用大型荷電粒子砲を構えると、鳴神裁が景気よくそれを発射した。
 同様に、さらに後方に位置したシュヴァルツガイストも、ビームファンを展開して敵の攻撃を一身に受ける盾となっている。殿に位置するため、敵ヴィマーナの攻撃はシュヴァルツガイストに集中していた。フリングホルニ艦隊を追い越さなければ回廊の崩壊に巻き込まれることを感じてか、敵ヴィマーナの砲撃が激しさをます。
「第82ブロック被弾。パージします」
 サツキ・シャルフリヒターが、シュヴァルツガイストの荷電粒子砲と要塞砲で応戦しながらも、被弾の酷くなったブロックは切り離して、そのまま質量兵器として敵ヴィマーナにぶつける。
「大丈夫か、サツキ。無理はするな」
 ロイヒテン・フェアレーターで敵ミサイルを迎撃してシュヴァルツガイストを守りながら、新風燕馬がサツキ・シャルフリヒターに言った。
「大丈夫。まだ、いけます……。もしものときは、お姫様だっこで助けに来てください」
 そう答えてはみたサツキ・シャルフリヒターだが、シュヴァルツガイストの損傷は激しくなるばかりである。被弾のたびに、じょじょに危険なブロックがパージされて、要塞がやせ細っていく。
「いかん、もう限界なのだよ」
 変わり果てたシュヴァルツガイストを見て、ザーフィア・ノイヴィントが、新風燕馬に言った。
 各ブロックの崩壊と共に、エネルギー伝導管やシステムをぼろぼろにされ、ブロック形状の維持ができなくなったシュヴァルツガイストが崩壊を始めていた。そこへ、容赦なく敵の攻撃が浴びせられる。サツキ・シャルフリヒターのいる、指令ブロックも例外ではなかった。
「サツキ!」
 新風燕馬が、シュヴァルツガイストに急行する。
『――まずいですな。クイーン・メリーを後方に移動させるのだ。シュヴァルツガイストの援護を』
 シュヴァルツガイストの状況を見たメフォスト・フィレスが、ドール・ゴールドに伝えた。
『シュヴァルツガイストの援護をしてくださいだそうです』
「分かったよ。ブラックさん、あれやっちゃおう」
 ドール・ゴールドに言われて、鳴神裁が黒子アヴァターラマーシャルアーツに言った。
「あれですか? すぐにエネルギー充填に入ります。それまでは、通常のミサイルポッドで応戦してください」
「りょーかいだよ♪」
 クイーン・メリーが後退してくる間に、崩壊して亀裂が入ったシュヴァルツガイストの司令室のフロント部分に、新風燕馬がロイヒテン・フェアレーターを突っ込ませた。
 急激な気圧変化に床に倒れていたサツキ・シャルフリヒターが顔をあげる。
 斜めになったスフィーダのコックピットハッチが開き、新風燕馬が飛び降りてきた。
 一目散に駆け寄ると、ひょいとお姫様だっこでサツキ・シャルフリヒターをだき上げる。
「まさか、本当に……」
「ザーフィア、クライマーだ!」
 驚いているサツキ・シャルフリヒターをかかえたまま、新風燕馬が叫んだ。
 ロイヒテン・フェアレーターのコックピットから、ザーフィア・ノイヴィントがクライマーのグリップを投げ渡す。首に両手を回してだきついたサツキ・シャルフリヒターを片手でささえると、新風燕馬がグリップをパシンと音をたててつかみ取った。スイッチを握りしめる。ワイヤーが巻き取られて、二人の身体が素早くコックピットにむかって引っぱられた。
 背後で、ついに司令室が崩壊を始める。先ほどまでサツキ・シャルフリヒターのいた床に大きな亀裂が走った。
「ザーフィア、脱出だ!」
 コックピットに飛び込むと、新風燕馬が叫んだ。
 逆噴射でロイヒテン・フェアレーターの機体が後退していくと同時に、コックピットハッチが閉まっていく。機首が抜け出た穴に、激しい風が吹きつけたが、すぐに分厚い装甲に被われて安定した。
 反転したロイヒテン・フェアレーターが、敵ヴィマーナの砲撃の間を縫って、フリングホルニの方に避難する。
 縦横にスパークを走らせて、シュヴァルツガイストが完全に瓦解した。
 攻撃によってバラバラのブロックに分かれると、広い範囲に散らばって敵艦隊にぶつかっていく。
「今だよ。ごにゃ〜ぽ☆これできめるよ♪ 堕天、発射!」
 鳴神裁が叫んだ。
 でくのぼうの巨大なバックパックのカバーが吹き飛ぶと、その下から無数のミサイルが姿を現した。次の瞬間、まるで巨大な仕掛け花火のように次々とそのミサイルが発射されていく。炎の尾を引いてミサイルが飛んでいく様は、巨大な火の華が咲き開いていくようである。ドーム状に広がった120発のミサイル群が、でくのぼうの上空で一斉に方向を変えた。まさに乱舞と呼ぶにふさわしい。滅すべき敵を求めて、ヴィマーナ艦隊の方へと襲いかかる。
 一瞬、回廊内が閃光につつまれる。
 敵先頭艦とシュヴァルツガイストの残骸にミサイルが命中し、爆炎と共に大小様々な破片となって敵ヴィマーナ艦隊全体に襲いかかった。それすら生ぬるいとばかりに、次々とミサイルが着弾、爆発する。
 飽和攻撃に、完全にヴィマーナ艦隊の足が止まった。
 そこに、回廊の崩壊が追いついた。
 まるで巨大な顎が噛み砕いていくかのように、ヴィマーナが次々と砕け散りながら漆黒の無の空間へと落ちていく。
「緊急脱出!」
 ぎりぎりまで後方へ下がっていたクイーン・メリーが、回廊の崩壊に巻き込まれそうになって、ブーストスラスターユニットを焼き切れるまで全開にして崩壊領域を離脱する。
「シュヴァルツガイストの消滅を確認しました」
 スフィア・ホークが、シュヴァルツガイストの識別信号の消失を逸早く察知して告げた。
「敵ヴィマーナ後方艦対消滅を確認。回廊崩壊速度変わらず。艦隊移動速度の調整を提案する」
 すべての情報をブラックバードで逐一中継しながら、佐野和輝がフリングホルニに伝えた。
 
    ★    ★    ★
 
「シュヴァルツガイスト、轟沈! けれども、後部敵艦隊は消滅しました」
 フリングホルニのブリッジで、リカイン・フェルマータが報告した。
「なんだ、これは……」
 突然全艦を襲った正体不明の振動に、グレン・ドミトリーが確認を急がせた。
「強力な重力波です。敵ヴィマーナ艦隊の中心から発せられています。おそらくは、ゲート間の重力波通信と同種の物だと思われますが、でたらめな出力です」
 シーサイド・ムーンが、分析データを報告した。
 ゲート間の超空間通信はブラックボックスのため、既存の物を利用することしかできないが、おおよそは重力子の運動を利用した物と推測されている。グラヴィトンとグラヴィティーノが11次元の膜宇宙を通過する際のゆらぎを利用した物であろうとされているが、推測の域を出てはいない。光速を越えられないバーデュナミスの量子通信技術とは、また異なる物だ。
 ゲートに装備されている装置しか現物が存在せず、また、正確な場所や形状も確認されてはいないため、現状では艦艇に積み込んだりコピーを製造することは不可能である。
 回廊内では、通信状況は常に変化して不安定なため、目視できないほどの長距離通信は、このゲート間通信に限られていた。
 このシステムに近い物をヴィマーナの母艦は有しているらしいようだが、詳細は不明のままであった。ただ、ソルビトール・シャンフロウがヴィマーナ母艦から、何らかの信号を発し、その余波が通常の重力波としてフリングホルニ艦隊に振動を与えたのは確かなようだ。
「ソルビトールの怒り……というところでしょうか。ヴィマーナ間の通信としても、こちらでは確かめようがありませんが。ただ、何か変化があったのであれば、ゴアドー島のゲートの方で察してくれることを祈るだけです。後手に回るか、先手に回るかは……彼らを信じるしかないでしょう」
 グレン・ドミトリーが、エステル・シャンフロウに言った。