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【八岐大蛇の戦巫女】消えた乙女たち(第3話/全3話)

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【八岐大蛇の戦巫女】消えた乙女たち(第3話/全3話)
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●仁科耀助、行動に移る

 時間をさかのぼること、小半時。
 場所はツァンダ。瀟灑な街並みだが、そこを往く人びとは決して優雅な様子ではない。
 それもそのはずだ。サイレンが鳴り響いているのだから。
 緊急退避警報である。謎の生命体が多数、この街に押し寄せていることが語られた。争乱続きのこの地とはいえ、街がダイレクトに危機にさらされるのは珍しい。
 ただ、この地にある人々は覚悟はしていたと見え、恐慌状態とまではいえなかった。避難経路確保して整然と移動している。
 ところがその流れに頓着せず、いやむしろ、あえて逆方向に向かっている少年がある。
 それが仁科 耀助(にしな・ようすけ)であるのは、冒頭で語った通りだ。
「はーいナンパ系イケメン。騒がしい街でナンパって楽しい?」
 サイレンの鳴り響くツァンダの街でも、ウィンドウショッピング中と変わらぬ口調と歩調で、耀助に近づく女性があった。
「お、リナリエッタ姉さん♪ 楽しいかって? もっちろん! よければそこらでお茶でもしない?」
 耀助だって口調は軽い。
 けれど雷霆 リナリエッタ(らいてい・りなりえった)の目と顔は普段より少し険しかった。笑顔ではあるが表層だけだ。それは耀助も同じである。
「いい話ね……って、言いたいけど、ちょっとそんな余裕はないみたい。お店も臨時休業じゃないかしら」
「残念だなあ。まあオレも今から用事なんだけどね。大蛇関係の……。一緒に来たい?」
「イケメンの誘いは断れないなあ。なんか勝算あるの?」
「ないわけじゃないんだ、これが」
 ふっふ、と耀助は作り笑いして、ごく簡単にその計画を語った。
「ふぅん、つまり、いまツァンダに押し寄せてるやけに生々しくてエキゾチックな軍団のボスの中に飛び込んで、力を内部から抑えて封印すればハッピーエンドって感じかしらあ?」
「さすが姉さん、話が早い」
「バッチリ対策を用意してくるなんて、漫画やアニメの天才博士みたいねえ」
「こんなこともあろうかと! ……なーんてな。けっこう必死でかけずり回ったんだよな〜、これでも」
 勝算あり、といった表情を彼は浮かべていた。
 耀助は、生身のまま大蛇の精神世界に入る方法を見出したと言ったのだ。
 実地で試したことはもちろんない。出たとこ勝負の一発本番だという。
「ねえ、そんな感じだけど……聞こえた?」
 ぐっと耀助は振り仰いで声を上げた。
「聞こえましたー!」
 ててて……と駈けてくるその小柄な姿は、少女の忍者フレンディス・ティラ(ふれんでぃす・てぃら)ベルク・ウェルナート(べるく・うぇるなーと)忍野 ポチの助(おしの・ぽちのすけ)も一緒である。
「耀助さん! 私、先のお約束を果たして頂きたく参上致しましたよ」
「そりゃ話が早い。約束ってのはデートの話だったよね。それとも誰か女の子紹介してくれるってことだったっけ?」
「えぇ!? そんな約束してましたっけ!?」
「おい騙されるな。ていうか耀助も騙すな!」
 ベルクがびしっとツッコンだので、失敬失敬……と耀助は頭をかいた。いつも反応が新鮮なので、どうもつい、フレンディスのことはいじりたくなるのである。
 それと察してフレイは興奮を抑えがたい様子で、
「と……話を逸らしても駄目なのです! 八岐大蛇さんの成敗助っ人とのこと、どこへでも参りますゆえに遠慮なく巻き込んで下さいませ!」
「だけどな、真面目な話、危ない橋は渡ることになるよ。かねりね……考え直すなら今のうち、と言っておこう」
「無理だろ」
 ぽん、とベルクは耀助の肩を叩いた。
「……まぁ、あれだ耀助。こうなってる状態のフレイは、説得時間が無駄になるだけだからな。諦めてくれ……」
 それに今度の話は、大きくはツァンダの運命が掛かった闘いであるが、そればかりではなくフレイの友人、鬼久保偲が危険にされされている事件という側面もある。
「たとえ火の中水の中、どこであろうと付いていきます!」
「そういうわけだ。断っても勝手に行くからな」
 フレイ、ベルクに同調するように、豆柴犬ポチの助もバウワウと吠えた。
「地獄へ道連れ、ってことになりそうだなあ……この賑やかなメンツで、ワイワイ騒ぎながらの地獄行きかあ」
 ぐるりと耀助は同行者を見回した。
 リナリエッタはウインクし、緊張気味ながらフレイはうんうんと頷く、ベルクは口元だけでニヤリと笑い、ポチの助は上気して舌を出した。
「……けど、そーいうのってさ、オレに似合ってると思わないか? もちろん、この酔狂に付き合うみんなにとっても、な」
 じゃあ行こうか、と耀助は言った。