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星影さやかな夜に 第三回

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星影さやかな夜に 第三回

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 優勢だったはずの戦場。特別警備部隊がぶり返し――それを喜ぶ者が一人だけ居た。
 ルクス・ラルウァ。
 アウィスの命令によって中々戦闘が出来なかった彼は、今までの鬱憤を晴らすように敵味方関係なく暴れていた。

「あああ、素晴らしい! ようやく、待ち望んでいた展開が目の前に広がっているよ!」

 歓喜の声を上げながらルクスは右腕を振るい、敵も味方も吹き飛ばして空の薬莢が中空に飛んでいく。
 そんなルクスの前に、現れた奇襲部隊の一部。奇しくもその全員が、ルクスの顔見知りだった。

「おー、来てくれたんだ!」

 夥しい死骸の中心で手をぶんぶん振るルクスに、蓮見 朱里(はすみ・しゅり)は生理的嫌悪で顔をゆがめる。

「なんで……! そこにいるのは貴方の仲間でしょう! なんでそんな簡単に殺せるんですか!」
「なんで? そんなの楽しいからに決まってるじゃないか。お酒を飲むのが好きな人は飲酒をするし、美味しいものを食べるのが人が好きな人は美味しい料理を作るレストランに行く。僕は人を殴り殺すのが好きだからそうしているだけだよ?」

 朱里が何を怒っているのか理解できないと言ったようにルクスは不思議そうな顔をする。
 その表情を見て、朱里の顔はさらに不快感を色濃くしていく。

「自らの遊びの為に、笑いながら多くの人を殺した貴方だけは……絶対に許さない!!」
「理由なんてなんでもいいよ! さぁ愛し合おうじゃないか!」

 ルクスは甲高く叫びながら右腕を振り下ろすと、迎え撃つように朱里はホワイトアウトを発動。
 冷気と光の乱反射で視界を奪われるが、ルクスは左腕を伸ばし、嬉しそうに唇を吊り上げた。

「アハハッ、じゃあ開戦と行こう! 最っ高に愛が詰まった戦闘を、僕らの劇場で堪能しようか恋人たち!」

 青白いフィールドが膨張し、強引に吹雪を押し退けた。
 視界が晴れる。
 ベルトから抜き取った薬莢を右腕に装填し、ルクスは拳を握って前進。
 まず最初に立ち向かってきたのはアイン・ブラウ(あいん・ぶらう)だった。

「まずは君が僕を愛してくれるんだね!」
「……その腐った根性で愛を語るな。下種が」

 アインはそう吐き捨て、魔法陣を展開。スカージを発動させ、まばゆい光を放った。
 その光は、スキルを封じる厄介な攻撃。
 普通の精神を持つ相手ならそれを回避するのだろうが、ルクスは避ける素振りも見せなかった。
 それどころか、スカージの光に自ら突っ込む。

「あはっ。またその手かい?」

 パァンという炸裂音が響き、ルクスの尺骨神経に沿うように伸びたエキストラクターが空薬莢を掴みだした。
 カートリッジ推進力により加速された爆速の右拳が、アインの胸部目掛けて伸びる。
 必殺の一撃。
 アルマを絶命させた一撃。
 アインはそれを英雄の盾で受け止める。凄まじい衝撃により、盾に拳跡と深いヒビが走った。
 ルクスはさらに一歩前に進む。
 左手を盾に置く。

「スキルなんてなくても、僕の愛は止められないよ」

 転瞬、圧殺の壁がアインに殺到した。
 全身を襲う恐ろしい衝撃。盾の亀裂が深くなり、派手に軋み、体が吹っ飛ぶ。
 削り取るように地面を転がり、アインは数十メートル飛ばされた。

「トラックにでも轢かれた気分でしょ! 下衆の愛を受けた気分はどうかなぁ、劣等!?」

 ルクスはスーツの右袖を捲くると、ご機嫌な様子で義腕を操作した。
 バシュッという音をたて、空薬莢を排出。それを足元に転がし、新たな薬莢を右腕にこめて準備は完了。
 右腕をぴんと伸ばし拳を握る。

「さぁ、もっと愛をちょうだい。そんなんじゃあ足りないから、まったく足りないから……もっともっともっと!」

 白のイメージから遠く離れた歪な笑みを浮かべ、ルクスは大声で言葉を続ける。

「もっと愛を感じさせて! もっと愛で満たして! 僕を、僕を、もっともっと愛しておくれ!!」
「……うるさいなぁ」

 そう吐き捨てたのは、相田 なぶら(あいだ・なぶら)だった。
 なぶらは光明剣をかかえ、ルクスに単身で突撃する。

「やられっ放しは嫌だから、付き合ってもらうよ」

 なぶらは先日のアルマ戦で発覚した弱点――頭に向けて、剣を振るった。
 もちろん、ルクスはそれを防御。両腕を交差して、光刃から頭を守った。

「君も馬鹿の一つ覚えだねぇ。そんな直線的な攻撃じゃ、愛は届かないよ?」
「分かっているよ、それぐらい」

 今度は脆弱であろう関節部を狙って、なぶらはさらに剣を打ち込んだ。
 甲高い音を響かせ、火花が咲く。
 渾身の力をこめてなぶらは繰り返す。
 義腕が砕けるまで何度も、そう何度も。
 
「アハハッ、なるほどね。僕の腕を壊す気かぁ……でも、残念」

 交差した腕の隙間から、ルクスがなぶらを見つめた。

「そんな攻撃、無敵の僕には効かないんだなぁ」

 なぶらが剣を振り上げたのを見て、ルクスは右腕の義手が作動した。
 正面からの全力攻撃。
 金属と金属が高速でぶつかり合う甲高い音。
 その数瞬後、なぶらの光明剣が弾き飛ばされた。

「意外と軽いね、君の愛は」

 よろめきながら後退するなぶらに、ルクスはゆったりと左腕を伸ばした。

「吹き飛べ!」
 
 青白いフィールドが膨張し、恐ろしい勢いでなぶらに殺到する。

(斥力のフィールドなら……左腕を場の中心として力線は放射状に広がるはず!)

 なぶらは頭をフル回転させ、瞬時に計算。
 すんでのところで左腕と飛びたい方向を結んだ直線上に体を滑り込ませ、フィールドの直撃を受けた。

「あぐっ……ぐッ」

 全身を襲う斥力の力が、肉を潰し骨を軋ませた。
 その激痛に耐え、計算通りの着地点に飛ばされたなぶらはすぐに立ち上がる。

「アハハッ! すごいじゃん! 着地点を計算するなんて!」

 ルクスは平然と笑い、賞賛を贈った。
 対するなぶらは、光明剣を構えなおして地を蹴った。

「あはっ。まだ立ち向かってくるんだ?」
「虎穴に入らずんば虎児を得ずってね。それに、立ち止まるわけにはいかないんだよ」

 なぶらは剣を抱えながら、ルクスに肉薄した。
 剣を持った片腕が跳ね上がる。それは閃光とさえ錯覚するほどの速度。上段に掲げられた剣は、なおもってそれ以上の素早さで振り下ろされた。
 一撃目は左の関節部に、二撃目は右の関節部に。
 それはルクスの鋼鉄の義体に弾かれるが、少しずつだけれど確実に義腕を壊していく。

「精神が尽きるまで何度でも――」

 なぶらは流麗な剣舞を繰り広げつづける。
 一条、二条、三条……白銀の軌跡がルクスを斬り込んでいく。

「俺の精神とキミの体、どちらが砕けるのが早いかな?」

 ルクスはその言葉を聞き、歓喜に打ち震えだした。
 後ろに大きく飛び退き、右腕に薬莢をこめて準備を完了。

「ああ、ああああ、ああ――最っ高! 最高最高最高! 最っ高の愛だよ!!」

 ルクスは拳を握って前進。
 なぶらは剣を握って前進。
 何の迷いも無く、両者は前へ。
 そして、息もつかせぬ戦いが、また始まった。