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ナラカの黒き太陽 第一回 誘いの声

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ナラカの黒き太陽 第一回 誘いの声
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リアクション

 セレフィリティとセレアナ、そしてリアとレムテネル・オービス(れむてねる・おーびす)の4名は、最初に熱源反応のあった地下へと向かうことにした。
 そのとき、ふっと廊下の電気がつく。いくつかは破壊されていたが、まだ残されていたものもあったらしい。
『機械設備について、可能なものは復旧しました。引き続き、捜索を続けてください。……所員の方々に告げます。救援部隊が到着しました。もう少し、持ちこたえてください』
 放送設備から聞こえたのは、そんなウィリアムの言葉だった。
「よかった。聞こえたよな」
 リアの呟きに、「ええ」とレムテネルは強く頷いた。
「……ところで二階の奥って、なんの部屋だっけ?」
 セレンフィリティの問いかけに、「所長室よ」とセレアナが答える。
「ジェイダス様の?」
 リアの言うとおり、この研究所の所長はジェイダスである。基本的にはジェイダスは自身の館にいるが、時々はこの所長室で研究成果を精査していたようだ。
「データを守るため……のようですね」
 階段の手すりに触れて、【サイコメトリ】からレムテネルが読み取ったのは、そんな映像だった。
 窓を突き破り、侵入してくる黒い靄。それから逃れるために、急いで階段を上る三人の研究者。映像は切れ切れで、何を話しているかまではわからないが、必死の形相はなにかを守ろうとする時のそれだった。
「急ごう!」
 残されていた映像と同じように、四人は素早く階段を駆け上がる。だがそこに、待ち伏せしていたかのように幽鬼が襲いかかってきた。
「邪魔よ!」
 セレンフィリティが咄嗟に装備している機晶爆弾に手をかけそうになるのを、セレアナが手で押しとどめる。
「これ以上壊す気?」
「あ、そっか」
 壊し屋セレンといえど、ここは押さえておかねばならない。すぐさま冷静になると、セレンフィリティは身をかがめ、するどい眼差しを幽鬼に向けた。
 彼女の視界のなかで、一瞬先の幽鬼たちの位置が読める。そこを狙うようにして、セレンフィリティは【放電実験】のたたき込んだ。その瞬間、眩しい放電が激しい音をたてて炸裂する。
 全身を痙攣させ、幽鬼の姿がちりぢりにほどけるように消えていく。わずかな生き残りは、すぐさまセレアナが【光術】で処理をした。
 その後も同じように邪魔者を排除し、四人は研究所の廊下を一目散に走り抜けていく。
 やがて目的地までたどり着くと、リアは大声で内側へと呼びかけた。
「薔薇の学舎のリア・レオニスだ! 大丈夫か!?」
 やがて、ガタリ、と音がする。念のためセレアナは【殺気看破】で警戒を続けていたが、どうやら変わり身といったことはない様子だ。
 内側から弱々しくドアが開き、リアの顔を見ると、中から出てきた所員の一人はほっとしたようにその場で崩れ落ちるのを、リアが抱き留めて支えた。
「しっかりしろ! 他には?」
「中に……二人……」
 人数はあっている。セレアナとセレンフィリティが中に入り、セレアナは【神の瞳】を発動させた。眩しい光が残っていた黒い靄を浄化し、同時に所員たちに不審がないこともはっきりと確認できた。
「すま……ない……」
 所員たちはある金庫の前で蹲っていた。一人は顔面蒼白で、もう一人はすでに声もあげられないようだ。
「応急処置をします。動かないで」
 セレアナが【ヒール】を、さらにリアが【命のうねり】を使い、所員たちは一応の命を取り留めた。
「なにがあったの? 他の人たちは?」
 セレンフィリティが尋ねると、切れ切れに所員たちは話を始めた。
 変化は突然だったということ。
 突然黒い靄が外に発生し、瞬く間に研究所を取り囲んだ。同時に幽鬼の類いが、外から襲いかかってきた。所員たちは、一部は地下室に向かい、彼ら三人は、途中でこの所長室に戻ったのだという。
「何故ですか?」
「この……鍵を……。中のデータを、……守ってくれ」
 レムテネルの手にねじ込むようにして、鍵が渡される。彼らはこの金庫の中のデータを移動しようとしてここまで来たものの、そこで力尽きて倒れていたのだという。
 なんとか生き延びられたのは、ジェイダスが念のために彼らに与えていた護符のおかげらしい。
「わかりました。ご安心ください」
 レムテネルは彼らの手助けをして金庫を開かせ、中にある記憶媒体ディスクを取り出した。重要な研究データだ。なんとしても、守らなければならない。
「こちら、所長室で三名を発見、応急処置をしたわ。彼らによると、残りの研究員は、地下にいる模様。至急向かって。また、こちらはこれより移送開始するわ。なお、他に重要とおぼしきデータを回収済みよ。こちらも、保護のうえ、本部まで送り届けるわ」
 HCで、セレアナが現状をウィリアムに報告する。
「了解いたしました。本部に連絡いたします。帰還時も、くれぐれも警戒を怠らぬよう」
 ウィリアムからの返答を受けて、リアは最初に手をかした所員に肩を貸し、立ち上がった。セレアナとレムテネルも、同じように手を貸す。セレンフィリティは、いざというときの戦闘要員として、あえて身軽なまま戻ることにした。
「全員助けるから、落ち着いて移動しよう」
「ああ……ありがとう。しかしこの黒い靄は……なんなんだ?」
 所員に尋ねられ、リアは「まだわからない」と慎重な答えを返した。
「けど、すぐにわかるよ」
 リアは、そう心から答えた。きっとレモが、なにか情報を得てきてくれるはずだ、と。
 彼がリアたちを信じてくれたように、リアもまた、レモが必ず目的を遂げると信じていた。