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伝説の教師の新伝説 ~ 風雲・パラ実協奏曲【1/3】 ~

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伝説の教師の新伝説 ~ 風雲・パラ実協奏曲【1/3】 ~

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第六章:イコン格闘大会・最終ステージ



 もう一度シーンをイコン格闘大会へと戻そう。
 イコンでの戦いは、激戦の末、残すところ準決勝と決勝を残すのみとなっていたが、その舞台裏では、大きく状況が変わっていた。
「もう、あとはバトルロイヤルでよくないか?」
 二日目も大会見物に来ていた馬場 正子(ばんば・しょうこ)がそんなことを言い出したのだ。 
 パラ実のイコンはもう残っていない。
 特命教師の動向は、別の契約者たちが探っている。
 大会の本当の目的も、大体予想はついていた。イコン戦闘のデータを取っていたのだ。この答えで間違いないだろう。
 これ以上、長々とトーナメントを続けてもあまり意味が無いのではないか。
 もちろん、大会の方針は運営が決めることだし、優勝者を出さないまま大会を終えるのも後味がよくない。優勝を目指してこれまで全力で戦った他の出場者たちの事を考えても、優勝者は出した方がいい。だが、一対一の戦闘にこだわる必要は無いのではないかとの考えだった。
 残りのイコンは4機。この数なら100m四方の狭いリングでも何とか全員が戦えるだろう。
 ルールはこれまでどおり。飛行はなし。リングから出るか10カウント動けなくなるかすると負けだが、全員が一斉に戦うのがいいのでは、という流れに変わっていた。
 客たちもそろそろダレて来ているし、時間短縮できるのでちょうどよかった。
「いいんじゃないでしょうか」
 大会運営の教師たちは、やる気があるのか無いのか。その提案をあっさりと呑んだ。
 金ワッペンを用意している決闘委員会も異存はなかったようだ。
「まあ、みんながいいならいいんじゃない?」
 審判の桂輔も特に反対する理由は無かった。
 かくして。
 ゲシュペンスト
 グラディウス
 ゴスホーク
 魂剛
 の4機がリング上に登場した。
「どうすんだ、これ? 敵が一気に三体になったぞ」
 ゲシュンペストの斎賀 昌毅(さいが・まさき)が溜息を漏らす。下手をしたら全員から集中攻撃だ。
「馬場校長先生、大会に飽きちゃったのかな? もうイキのいいのしかいないじゃない」
 グラディウスの小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)は、他の3機を牽制しながら言う。
 応援席のコハク・ソーロッド(こはく・そーろっど)も唖然だ。美羽が3機から一斉に袋叩きにあったらどうしようと心配もひとしお。彼女はそんなに嫌われてはいないが。
「いやむしろ、最後まで残っていたイコンが優勝なんだから、自分以外全部倒す感じで戦ってちょうどいいだろ」
 こちらはゴスホークの柊 真司(ひいらぎ・しんじ)だ。最初から誰が相手でも構わないと思っていたので困ってはいない。
「全員、こっちガン見なんですけど? もしかして、機体が一番大きいからまず最初に狙われるのは私たちでしょうかね」
 魂剛の紫月 唯斗(しづき・ゆいと)は、乾燥椎茸と米を手に入れるためミナゴロすつもりで攻撃準備完了だ。
「さて、皆さんお待たせ! 決勝戦は、4機によるバトルロイヤルだぁ! 最後にリングに立っていたイコンが優勝! もちろん、なんでもあり、だ!」
 審判の桂輔も、これが最後と盛り上げに掛かる。
 観客たちも、派手な試合に再び興奮を取り戻した。
「……」
 だが、今回はちょっと勝手が違った。
 その観客席の中に、怨念と敵意に満ち溢れた存在が密かに潜んでいたことだ。殺気立った視線が、最前列にまでにじり出てくる。
「では、決勝戦! 4機まとめて、レディー・ゴー!」
 桂輔の合図で、バトルロイヤル決勝戦が幕を開けた。
 4機のイコンが一斉に動いた。標的は自分以外の全てだ。やることは決まっている。
 グラディウスは、真っ先にガトリングガンと肩のミサイルポッドを所構わず全弾発射した。
 ゴスホークと魂剛は、お互いが面倒な相手と見て取ったかともに狙いを定めて攻撃を仕掛ける。
 ゴスホークは【ファイナルイコンソード】で、魂剛は惜しげもなく【神武刀・布都御霊】を発動させた。正面から斬り合う。両者力任せのゴリ押しだ。
「……」
 ゲシュンペストは、流れ弾に当たらないように距離をとった。
 武装を持ってこなかったのがつくづく悔やまれる。だが、逆にそれが功を奏した。このバトルロイヤルでは、驚異的な敵とは見なされていないため、攻撃が後回しにされたのだ。このまま、最後まで逃げ切るしかない。
 そこへ。
「 =====================================================!!」
 声にならない叫び声を揚げながら、リングに乱入してくる人影があった。
 イコンを憎み、イコンは全て滅ぶべしと大会そのものを破壊しにやってきたシルフィスティ・ロスヴァイセ(しるふぃすてぃ・ろすう゛ぁいせ)が我慢しきれずに飛び込んできたのだ。
 イコンでの大会や模擬戦。そう聞くたびに走る頭痛。すべては凄まじいまでのイコンアレルギーを発症し後先考えず暴れ回るのが半ば習慣となってしまっていた。
 出発するのが遅かったため大半のイコンは見逃してしまったが、ちょうど良かった。リングにいる4機全てを葬り去って、気分すっきり帰りたいものだった。
「あ〜、フィス姉さん。やめてよ〜(棒)」
 シルフィスティのマスターのリカイン・フェルマータ(りかいん・ふぇるまーた)が、やる気の無い声で制止する。
 合体したら少しはシルフィスティの衝動が抑えられるかもしれない、と【ユニオンリング】を渡しておいたのだが、リカインに留める気はなかった。そのまま吸い込まれるように合体し、完成形になってしまっていた。
 そのまま正面にいるゲシュンペストに突進した。
「オレかよっ!?」
 昌毅は、ボクサースタイルの華麗なステップを踏みながら間合いを取った。
「ウシャーーーーーーーーーーーーーー!」
 シルフィスティが吼える。
「ストップ! 試合中断!」
 突然の乱入者の出現に、審判の桂輔が試合を制止しようとした。放っておいたらめちゃくちゃになる。
「侵入者を退場させるまで、全員待機して!」 
 だが。
「構わん。乱戦上等!」
 真司は言う。大暴れするつもりできたのだ。こんな演出もちょうどいい。
「しかし」
「審判よ。この大会で試合中に、例えば障害物に躓いて転倒した場合、試合を中断するのですか?」
 気合のノリが違う唯斗は、問題ないと頷く。リング上にあるものを全て排除すればいいだけのこと。最初からの計画だ。
「乱入者はいわば障害物! 何かあっても、石に躓いて転んだのと同じことでいいではありませんか」
「そんな無茶な」
「紛れがあっていいじゃない。試合続行よ、審判」
 戦闘モードの美羽はここで水を入れられると気迫が霧消する、と試合を継続するように言った」
「……」
 昌毅は上空を見た。ウィスタリアのアルマが溜息をついて頷く。シルフィスティに照準を合わせて、極力試合運びに支障をきたさないよう仕留めることにした。
「なんとか排除します」
「ええい、こうなったら本当に何でもありだ! その代わり、これが原因でリングを割ることがあっても、文句は言うなよ!」
 昌毅はヤケクソ気味に試合続行を宣言した。
「ヒャッハー!」
 障害物呼ばわりされたシルフィスティは、標的を魂剛に変えた。
 いつもよりパワーアップしていて調子がいい。一発当たれば致命傷だからと防御は捨て、スピード特化でとにかく死角を突くよう動く。
【ポイントギア】、【ゴッドスピード】と【アクセルギア】などを活用し肉眼視認を徹底的に避けて回り込む。普通なら捕らえきれない移動だ。
「前の試合で戦ったパワードスーツ隊のほうが、早かったぜ」
 ゴスホークは、余裕で【ファイナルイコンソード】を当ててきた。
「!」
 避けきれないと判断したシルフィスティは【アブソリュート・ゼロ】で攻撃を受け止める。相当な衝撃だが耐えられないことも無い。
「 ================================================== !!」
 シルフィスティは、もう一度咆哮した。イコン本体にではなく、操縦者たちにダメージを与えて怯んだ隙に攻撃を加えるのだ。
「それ、一回戦で私の対戦相手だったモヒカンがやってたっけ」
 美羽はもう慣れたもの、とばかりに耳を遮断していた。
 素手より【22式レーザーブレード】での攻撃の方が有効と見て取ったシルフィスティは装備を展開する。
 それより先に、ゴスホークが更にもう一撃、【ファイナルイコンソード】を命中させていた。
「!」
 さすがにたまらずシルフィスティは場外へと吹っ飛んだ。観客席に激突してめり込む。
 だが、彼女にとってそんなことは関係なかった。試合など関係ないのだ。場外判定も無いので、倒れるまで戦えばいいだけのこと。敵が滅びるまで何度でも攻撃する。
「まだまだ、ヒャッハー!」
 ワールドメーカーであるリカインの【レゾナント・テンション】の影響で、イコンとでも互角以上に戦える。敵が一般的なイコンならハンデにはならない。
 瓦礫を掻き分けて起き上がってきたシルフィスティ。ちょっと本気を見せる時が来たようだ。敵に張り付いて操縦者を狙う手もある。
 だが、残念ながら、この場に残っているのは、もはや“ただのイコン”ではなかった。厳しいトーナメントを勝ち抜いてきた選りすぐりと、あらゆる勝負を見届けた審判たち。
「場外へさえ出てくれたら、もう試合の邪魔にはならないので遠慮はいりませんね」
 アルマは、ウィスタリアのウェポンから【艦載用大型荷電粒子砲】、【グラビティキャノン】、【要塞砲】を立て続けに発射した。
「とりあえず、消し炭になるまで撃っておきますね」
 ドドドドドドドドドドドドド!
 観客席が丸ごと吹っ飛ぶ。
 見物客たちも、すでに慣れていた。とっくに避難しているか、一緒に吹き飛ばされても、その後何食わぬ顔で戻って来れるツワモノたちばかりだった。
「……」
 すっかり動かなくなったリカインとシルフィスティを、運営のボランティアがどこかへ運んでいった。これにて一件落着。
 そうこうしているうちに、試合は意外にもサクサク進んでいた。
「はいはい、ゴリ押しゴリ押し」
 魂剛の問答無用の連続攻撃がゲシュンペストに命中していた。
「畜生! 次に来る時は絶対に完全装備で来てやるからな!」
 無念の叫び声を上げながら、ゲシュンペストは場外へと転落していた。
 一機脱落。だが、武器無しでよく戦った。お疲れ様。
 返す刀でゴスホークへと迫る。
「面倒そうなのから、先に行く!」
 美羽のグラディウスは【デュランダル】を装備していた。
 天御柱学院のエースパイロットが操縦するスーパーカスタムイコン。装備もスキルも戦術も練られて抜群。登場した時から優勝候補の一角だったのだが、もちろんこんな危険なのと最後まともに一騎打ちしたくない。倒すなら、二機残っている今だ。
 魂剛とグラディウスの連携攻撃に、さすがのゴスホークも防戦一方だ。
「くっ!?」
 2機の強力無比なイコンの隙の無い攻撃に煽られ、ゴスホークは余力を残したままリングを割っていた。
「やられちまったな」
 このルールでは仕方が無い。真司は肩をすくめる。
 更に一機脱落。残るは魂剛とグラディウスの一騎打ちとなった。
「……」
「……」
 長い長い戦いだった。
 圧倒的戦闘力を誇る魂剛と技で勝負をかけるグラディウス。
 最後に勝負を決めたのは、操縦者の腕前の差、なのだろう多分。
「これで、終わりよ!」
「!?」
 激しすぎる戦闘に耐え切れず原形をとどめていないリングが、砕け散っていた。
 後退した魂剛の足の下には、もうリングが残っていなかった。力いっぱい踏み抜いていたところは、リングの外。
「あらら」
 唯斗は苦笑をもらした。
「場外。勝負あり」
 昌毅は決着を宣言していた。
「勝者、グラディウス!」
「やったー!」
 美羽はサブパイロットのベアトリーチェと手を取りあい喜んだ。
「……」
 観客席のコハクは、熱戦の感動で涙の無言だ。良く戦ったパートナーたちに拍手を送る。
「イコン格闘大会、優勝はグラディウス!」
 昌毅は、もう一度勝者の名を呼んでいた。
 最後まで素晴らしい戦いだった。観客たちが惜しみの無い喝采と拍手を送る。
 そして、結局最後まで試合を裁いた昌毅とアルマも、最大の功労者の一人と言ってよかった。
「これにて、イコン格闘大会を終了する!」
「……」
 アルマは、上空から全ての参加者たちに拍手していた。

 紆余曲折あったものの、こうして無事にイコン格闘大会は幕を閉じたのである。



 ところで。
 熱戦が繰り広げられたリングの真下に、イコン基地があることを誰もが知らなかった。たった一人を除いては。
「自分としたことが。今日は調子が最悪だったようであります」
 この地下基地へと葛城 吹雪(かつらぎ・ふぶき)がたどり着いたのは、本当に偶然だった。
 なんということか、分校内では吹雪が望んでいたような賭け事は行われていなかった。皆が皆、ワッペンでのポイントのやり取りのみで、資金になりそうなタネ銭は動いていない。出し物も、ほとんどが本当に他愛の無いものばかりだった。なんというタダの高校の文化祭。
 挙句の果てに、騒ぎを起こそうとしておかしなお面モヒカンたちに追いかけられて逃げてきたのだ。
 吹雪にだって、こんな日もある。きっと来るべきクリスマスのためのチャージ期間なのだろう。
「……」
 無念のあまりのうつろな目で、吹雪は地下基地をぼんやりと眺めていた。
 シーツのかぶせられた、不思議な姿のイコンがそこには鎮座していた。禍々しい魔力を纏った凶悪なシルエット。普段の吹雪なら共鳴するようなどす黒い存在は、今日に限って無縁に思えた。
「帰って寝るであります」
 校内の調査結果もはかばかしくなかった。出直すとしよう。
「……」
 吹雪は、もって来ていたありったけの爆弾を仕掛け、発動させる。悪夢のような一日を消し去るのだ。
 ドドドドドドドドーーーーーン!
 轟音と衝撃が辺りを震わせて、天井を突き破り格納庫を丸ごと吹き飛ばしていた。謎のイコンも大破して無残な屍を晒していた。
「……」
 首を上に向けると、空が見える。
 リングでは、ちょうど表彰式が行われている真っ最中だった。
「ちょっと上がって来い」
 ゲストとして賞状を読み上げていた馬場正子が、くいっくいっと指で吹雪を促す。正子は一部焦げていた。
「……」
 吹雪の笑顔は痛々しかった。



「地下格納庫にあった正体不明のイコンは、分校内で極秘に開発されていたもののようですね」
 制裁を受けた吹雪が担架で運ばれていったのを見届けてから、パートナーのコルセア・レキシントン(こるせあ・れきしんとん)は何食わぬ顔で正子に報告する。
「喪悲漢を改造したものであることはわかるが、性能的に相当凶悪な機体だな。今日の大会に出場していたら優勝候補の一角だった」
 残骸を調べていた正子は言う。
「これを誰が造り、何をしようとしていたのか」
 正子もコルセアも知らなかった。吹雪が爆破したパラ実のイコンが、本来なら今日の決勝の後に登場する予定だった秘密兵器であることを。
 特命教師たちが研究していた実験機で、大会に出場したイコンたちのデータが全て注ぎ込まれていた未完成体。乗り手はこれまた秘密の選手たちで、イコンが秘めたるパワーは最強だった。
リングどころか観客席まで巻き込んで自爆するシーンまで用意してあった。それが都合上割愛されたのだ。
 吹雪の不調が、皆を救ったのだった。
 結局、良くわからないまま、事件は終わった。

 
 後は短く記そう。
 表彰式はその場で催され、優勝したグラディウスのメインパイロット美羽には、優勝商品の米20俵と乾燥椎茸一年分が贈られた。
 アイテムとして扱われることは無いが、いっぱい食べて、色々といい具合に成長してほしい。
 さらには、決闘委員会から金ワッペンが授与されることになった。
 極西分校の最高峰。校外生初の獲得にして、4人目の金ワッペン保有者の誕生であった。
 なんでも、このワッペンを持っていると、分校では王様として崇められるほど凄いのだとか。だが、残念ながらこれもアイテム扱いにはならない。
 称号になるのだが、これまた困ったことに一人に称号を二つ同時に与えることができない。協議の結果(?)、優勝称号は美羽に、金ワッペンはサブパイロットのベアトリーチェに与えられることになった。ご了承願いたい。

 優勝はできなかったものの、参加者たちには豊富な収穫物を手にすることができた。
 二番手だった唯斗には、なぜか牛一頭与えられた。食べて欲しいとの事だが、どうやって捌くのだろう。それぞれがそれなりに満足して帰っていった。
 客たちも興奮冷めやらぬまま、充実した一日を終えて帰路に着く。
 第一回の大会にしては上々の結果だった。
 囁かれていた陰謀の影も現れないまま、夕日が落ちる……。

 

 この大会は、伝説になるだろう。