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【四州島記 完結編 二】真の災厄

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【四州島記 完結編 二】真の災厄

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第八章  闇対闇

「むくろ。いま、あくろかられんらくがあった。かおるはぶじだそうだ。だがまだ、せんのうはとけないらしい」
「そうか」

 九段 沙酉(くだん・さとり)の報告に短い応(いら)えを返すと、三道 六黒(みどう・むくろ)は、やおら立ち上がった。
 主の意志を感じ取ってか、魔鎧となっている葬歌 狂骨(そうか・きょうこつ)が、カタカタと音を立てる。

「どこへいく?」
「あやつと、決着を着けに」
「あやつとは、かげつぐのことか?」
「そうだ」
「なら、ワタシもいく」
「駄目だ」
「なぜ?」
「おぬしは、足手まといだ」
「あしでまといには、ならない。やくそくする」
「駄目だ。それに――」
「それに?」
「おぬしに、頼みたい事がある」
「たのみ?」
「そうだ」

 六黒は、懐から小刀を取り出すと、やおら自分の唯一残っている目に突き立てた。

「――!!」

 息を呑む沙酉を他所に、六黒は自分の目をくり抜くと、それを沙酉に向かって差し出した。
 沙酉の見ている前で、六黒の手の上の目玉が、見る間に石化していく。
 六黒が、《ペトリファイ》をかけたのだ。

「受け取れ」

 六黒に言われるがまま、沙酉は恐る恐る、石となった目を受け取る。
 六黒は、今度は【大帝の目】を取り出すと、たった今空になったばかりの自分の眼窩にはめ込んだ。
 大帝の目は、まるで調整か何かをするかのように、二度三度と回転を繰り返して、落ち着いた。

「その目を、薫流に渡してくれ」
「これを、かおるに……」
「そうだ。そして、こう伝えるのだ。『この目を通して、儂は、常にお主を見ている。お主が、一国の主として国を率いると誓った、あの誓いを守っているかどうか。儂の手駒として、役に立つかどうかを。そして、お主が役に立たぬと判断した時には――お主の首を刎ねに現れる』と」
「むくろ……」
「それと、こうも伝えろ。『もしお主が、見事あの誓いを果たしたならば、お主の首飾りは返してやる。儂の目と、引き換えにな』……わかったか?」
「わかった……」

 力なく応える沙酉。
 その目は、六黒の手に握られた首飾りに注がれている。
 それは、水城 薫流(みずしろ・かおる)由比 景継(ゆい・かげつぐ)に攫われた際、落としていったものだ。

「……なぁ、むくろ」
「なんだ」
「むくろは、かおるがたいせつなのか?」

 沙酉の言葉は、少し震えていた。
 まるで、六黒の答えを恐れるかのように。

「……儂に、大切なモノなど無い」
「さとりのことも、たいせつではないのか?」
「……そうだ。だから、儂のコトは早く忘れろ。いいな」

 六黒はそれだけ言うと、一人歩き去っていく。
 沙酉に許されているのは、その背中を見つめることだけ。
 例えどんな理由があれ、六黒の命令は、沙酉にとっては絶対なのだ。

「……うそつき――……」

 沙酉は、ポツリと一言そう言って、泣いた。



「しかし景継様。あの小僧、殺さなくても良かったのですか?」
「殺してしまったら、首塚大神はまた第二第三の分霊(わけみたま)を創り出す。封じてしまえば、それも出来ん」
「なるほど。流石は景継様」

 由比 景継(ゆい・かげつぐ)は、三田村 掌玄(みたむら・しょうげん)と、幾人かの配下と共に、首塚大社から攫って来た猪洞 包(ししどう・つつむ)をとある場所に封印すると、再び首塚大社を見下ろす崖の上に戻ってきた。ここからなら、首塚大社を一望できる。
 首塚大社の周りでは、幾つもの灯りが瞬き、せわしなく動いている。
 恐らく、包を探しているのだろう。

「では、始めるぞ」
「はっ。皆の者、散れ」

 掌玄の命で散った配下の者達が、周囲の警戒に当たる。
 景継はその中心で、『解理の鏡』を首塚大社の方に向けると、結跏趺坐の姿勢を取った。
 半眼になり、深い精神集中に入る。
 景継は、首塚大社にいる首塚大神を、解理の鏡の中に封じようというのだ。
 今の首塚大神は、依代となっていた雄信を失い、また幾多の怨霊や眷属を無秩序に喚び出したせいで、力の大半を使い果たしている。
 この状態の首塚大神であれば、解理の鏡に封じるコトが出来る。
 無論それには、膨大な魔力が必要となるが、その魔力の源となる膨大な量の魂を、景継は既に手に入れている。
 一旦鏡の中に封じてしまえば、いつでも好きな時に喚び出し、使役することが出来る。
 つまり、より多くの死と破壊をもたらす手段を、景継は手に入れるのだ。
 だがそれには、この術を成功させることが必要だ。
 そして、術を施している時の景継がもっとも無防備である事を、三道 六黒(みどう・むくろ)は過去の戦いから知っていた。


「お、お前は――三道六黒!?」

 全身が朱に染まり、まるで地獄の使者のような六黒の姿に、掌玄は戦慄した。
 護衛達は既に、全滅していた。

「き、貴様!何故ココが!?」
「コイツが、案内してくれたのでな」

 六黒は、ドサッと何かを投げてよこした。
 それは、六黒に殴打され、意識を失った天樹 十六凪(あまぎ・いざなぎ)だった。
 魔神討伐に手を焼く南濘を見限った十六凪は、景継と手を結ぶべく、独断で行動を起こした。
 その動きに気付いた南濘の犯罪組織が、悪路に報告をし、悪路は十六凪に徹底したマークをつけた。
 最終的に、《ナゾ究明》で景継のいる場所を突き止めた十六凪は、自分でもそうとは知らず、六黒を景継の元に案内してしまったのである。

「どけ。貴様に用はない」

 十六凪を死体だと思い込み、腰を抜かした掌玄が、必死に這いつくばって逃げていく。
 六黒は、結跏趺坐の姿勢のままの景継に歩み寄った。
 しかし、景継は微動だにしない。ただその身体から湧き出す瘴気だけが、怪しく蠢いている。
 六黒は【梟雄剣ヴァルザドーン】を振り上げた。

「死ね、景継」

 六黒は無表情なまま、ヴァルザドーンを振り下ろす。
 だがその刃が、景継を捉えることは無かった。

「ぐぬぅ……。き、貴様等……」

 景継の身体まで後数ミリと言うところで、ヴァルザドーンは止まっていた。
 景継の身体を取り巻く瘴気と思われたのは、実は、景継が喚び出した怨霊たちであった。
 景継は、無防備な自分を守るための、最後の手段を残していたのだ。
 怨霊たちは、あっという間にヴァルザドーンをすっぽりと覆い尽くすと、そのまままるで意志をもった粘体か何かのように、六黒の腕をスルスルと登って行く。

「が……ガァ……!!」

 怨霊に包まれた六黒から急速に体温が失われ、刺すような痛みが走る。
 怨霊たちが、六黒の生気を吸い取っているのだ。
 その痛みは、《痛みを知らぬ我が躯》であるはずの六黒の身体にも、伝わるほどだ。
 渾身の力を込めて、剣を引き抜こうとする六黒。
 だが、一体どんな魔術によるものか、六黒の怪力をもってしても、剣はおろか、腕をわずかに引き抜く事すら出来ない。

(こ、このままでは……)

 六黒の腕をドンドンと上の方へと登って行く怨霊たち。
 それと共に、六黒の力も急速に失われていく。

(かくなる上は――!)

 六黒は、もう片方の腕振り上げると、思い切り振り下ろした。
 今度は景継の上ではなく、地面目掛けて。
 既に人外の域に達している六黒の一撃を受けて、大地が砕けた。

(行ける――!!)

 六黒は【黒檀の砂時計】を発動させると、通常の数倍のスピードで、大地に拳を打ち付ける。
 たちまち、大地にヒビが走り、ヒビは裂け目へと成長していく。
 そして、とうとう――。

 ビシビシビシッ!!

 大地の裂け目が亀裂となり、左右に伸びていく。
 その亀裂が崖を左右に貫いた時、ついに、崖が崩落した。 

 ガラガラガラガラッ!!

 六黒や景継を乗せたまま、崖は幾つもの岩塊にわかれ、数十メートル下の大地目がけ一気に落下していく。
 それきり、六黒や景継を見た者はいなかった。



「ん――……?」
「良かった、気がついたんですね!!」
「こ、ここは……?」
「ここは、守部良泰(もりべ・よしやす)殿お屋敷です。大丈夫ですか、薫流さん。起きられますか?」
「え、ええ……大丈夫……。有難う……」

 源 鉄心(みなもと・てっしん)ティー・ティー(てぃー・てぃー)の手を借りて、水城 薫流(みずしろ・かおる)
は上体を起こした。
 身体がひどくダルく、頭もぼおっとする。

「なんだか、長い夢を見ていたような気がするのだけれど……」
「貴方は、由比 景継(ゆい・かげつぐ)に操られていたんです」
「景継に?」
「もっと正確に言うなら、景継に支配された、水城 永隆(みずしろ えいりゅう)の怨念かな」

 ティーの言葉を、安倍 晴明(あべの・せいめい)が補足する。

「大殿様の!?」
「そう。あの人の、現世への執着は、並大抵のモノじゃなかった。その為、景継に殺された後怨霊となってしまい、挙句に景継に支配されてしまったんだ」
「そして、薫流さん。貴方を操るために、利用されたんです」
「永隆の霊を支配していた景継の力が急に弱くなったんで、除霊出来たけど、あのままだったら、俺にはムリだったな」

 晴明が、ヤレヤレと言った感じで肩を竦める。

「景継の力が弱まったって……。景継に、何かあったんですか?」
「どうやら、六黒と相打ちになったようなんだ」
「相打ち!?」

 薫流の顔が蒼白になる。

「正確な所はわからないけれど……。六黒が景継に戦いを挑み、二人は崖崩れに巻き込まれた。その後、みんなで手分けしてその現場を探したけれど、六黒も、景継も、見つからなかった」
「そんな……六黒さん……」

 鉄心の言葉に、呆然とする薫流。

「あの……。薫流さん。これ……」

 茫然自失の体の薫流の前に、ティーがおずおずと包みを差し出した。

「何ですか、これ……?」
九段 沙酉(くだん・さとり)さんが持ってきたんですけれど……。六黒さんから薫流さん宛の、預かり物ですって」

 包みを開く薫流。
 中には、短い手紙と、丸い石が入っていた。
 手紙を読み進める薫の目に見る間に涙が溜まっていき、やがて薫流は関を切ったように嗚咽し始めた。

「薫流さん……」

 声をかけようとするティーを、鉄心がそっと手で制する。

「六黒さん……六黒さん……!!」

 泣き崩れる薫流を残し、皆、そっと部屋を出て行く。
 薫流は、手紙と石を掻き抱いたまま、いつまでも涙を流していた。

担当マスターより

▼担当マスター

神明寺一総

▼マスターコメント

 皆さん、こん○○は。神明寺です。今回も、祖母の急逝といったアクシデントがあったりして締切に遅れてしまいましたが、何とか8月中にリアクションを公開する事が出来て、ホッとしています。
 また、前回のリアクションと今回のガイドとの間に、内容的に大きな飛躍があった点につきまして、この場を借りてお詫びさせて頂きます。
 本来ならば、シナリオ1本使って取り扱うべき内容ですが、残り少ない時間の中で、何とか最後まで話を持っていくための、苦渋の選択だとご理解頂ければ幸いです。

 という訳で、完結編第二章のお届けです。
 今後の予定ですが、完結編終章のガイドを9月頭に公開して、リアクションを9月中に公開。
 そしてすかさず四州島記の番外編のガイドを公開して、9月末日に滑り込みセーフといったカンジで考えています。

 さて、次でいよいよ四州島記も完結ですが、張ってあった伏線もほぼ回収済みでして、マスターとしてもう、終わりに向けて残った話を淡々と書いていくだけ――といったカンジになります。
 そこで提案なのですが、プレイヤーの皆さんからアンケートを取らせて頂ければと思います。
 皆さんが、今後四州島記でキャラクターにやらせたい事(あるいは、読みたい事)を、この第二章のリアクションの、感想掲示板にお寄せ下さい。それを元に、終章のガイドを作成したいと思います。期間は、このリアクションの公開から、次のガイドの公開まで。可能なものは出来る限り採用して、今までお付き合い頂いた皆さんに少しでも恩返し頂けるような展開にしたいと思いますので、是非ネタバレを恐れず(笑)ご協力をお願い致します。
 また、他の方の書き込みに対するご意見ご感想などは、トラブルの元になりかねませんので、基本避けて頂くよう、お願い致します。
 という訳で……今回はここまで!

 時間がないので個別コメや称号の授与はほとんど出来ませんが、何卒その点はご容赦下さい。

 また、いつものように誤字脱字名前の取り違え等文章の不具合がありましたら、お手数ですが運営さんまでご一報下さい。
 すぐに対応させて頂きます。 

 ではまた、終章でお会いできる事を楽しみにしております!!

 平成甲午  夏葉月


 神明寺 一総