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リアクション
【激突――共闘】
貴賓席でそんな騒動が起きていた同じ時、ステージ上もまた騒然となっていた。
初撃を回避された刹那の背中に庇われるにして、ピュグマリオンに添いながらステージへ降り立った少女は、既に倒されてしまった留学生に紛れた仲間や、待てども観客席側から立ち上がって来る気配のない協力者達や、陽動役の筈だった天樹 十六凪(あまぎ・いざなぎ)が用意したオリュンポス特戦隊の姿が見えないのに、呆れたように溜息を吐き出した。
「……同士諸兄は、既に捕縛されているようですわね……ふん。使えない奴等ですわ」
侮蔑の言葉を漏らしながら、しかし焦った様子もなく少女は口元を歪める。恐らく元々、さほどには当てにしていなかったのだろう。「ですが……問題はありませんわね」と、その声がふふっと笑いを零した瞬間、すいっとピュグマリオンの手が翳されたかと思うと、何処にいたものか、上空から急降下して会場へ飛び込んで来たのは、アンデッド化した龍騎士だ。続けて、今まで大人しく被害者に回っていた一人の魔導師がすっと少女達の方へと寄る。
数こそ少ないが、それぞれが強力な戦力が整ったのに、ピュグマリオンはにこりと笑った。
「それじゃあ……後はお任せしますね。私は、この身体の配置をしてこなければなりませんから」
「ええ、判っていてよ」
ピュグマリオンの言葉に少女が頷くと、少年の指が冷たい皮膚の上をなぞり、柔らかな髪をそっと掬って口付けた。
「あなたの憎悪と魂を、同じ対価を必ず支払わせて差し上げます……それでは、また“後ほど”」
そんな言葉を囁き、何処を目指すのか踵を返そうとしたピュグマリオンに「行かせるか……!」と、刀真が反応して飛び込もうとしたが、そこへ強襲をかけてきたのは龍騎士――の骸だ。無理やりに動かしているのか、着地と同時に龍の骸が崩れ落ちるのに、刀真が眉を寄せる中、きっと彼らを睨んだのはイコナだ。
「わたくしはあと二段階のサラダを残してます……この意味が分かりますわね?」
気が動転したままの戸惑った中、口を滑ったのは本人も良く意味の判らない言葉だった。当然、龍騎士の骸たちに伝わる筈もなく、ただ自分達に戦意を向けた相手だと認識して、その槍を構えたのにぴゃっと思わずイコナは退いて、美羽の後ろへと隠れた。
対して、美羽の方はその武器を皇剣アスコルドに持ち替えると、やはり日輪の槍に持ち替えたコハクと共に、真剣な顔で並んで前へと踏み出した。
「来たね、「ゲスト」さん」
そんな言葉を合図に、バーストダッシュによって飛び出したのは美羽だ。飛び込みがてらの一撃が、ぶつかり合ってガギッと音を上げる。続けて、もう一体の龍騎士の間合いへと滑り込んだのは刀真だ。
「悪いが、お前達の出番は長くは用意してやれないぞ」
そう言って、光条平気と白の剣を構えた刀真は、観察するように目の前の龍騎士を見やった。死体として操られているからか、その存在を目の前にしても強烈なプレッシャーを感じはしないが、元々身体能力の違う相手が更に痛覚をなくしているのは厄介だ。振るわれる重たい一撃をかわし、その軌道を横に滑りぬける動きで、武器をとる腕を狙ったが、深く抉ったつもりでも答えた風もなくそのまま横なぎに払って来る。ぶん、と咄嗟に身体を沈めたおかげで、槍が頭の上を通り過ぎて行くのを感じながら、人間と思わない方がいいな、と刀真は相手への対応基準を書き換える。
相手は最早、間合いに入ったものを排除しようとする機械と同じだ。その証拠に、怪我の具合、こちらのフェイントにも構うことなくその槍を降りまわすといった単純な攻撃ばかりだ。勿論、その一撃一撃が、当たれば死に直結しそうなほどに重い、というところは、警戒しなければならないが。
そうして、はたから見るとダンスでもしているのだろうかという程、絶え間のない攻撃をするするとかわし続ける刀真は、ちらりとその視線を美羽たちに向けた。彼女らは彼女らで、それぞれ龍騎士相手に立ち回っていたが、そちら側にいるキリアナは本職の龍騎士だ。剣速は他を圧倒し、飛び込んだ唯斗の援護を受けながら着実に削っている。
とは言え、相手は死なない身体を持つアンデッドである。余り戦いが長引けが、体力切れのない方が優位になるのは明らかだ。パートナーと頷きあい、刀真たちへも目線を送ると、コハクはその槍を大きく振りかぶる形で構え、それを合図に刀真は一気に龍騎士の懐へと飛び込んだ。振るわれる騎士の槍をギリギリでかわすと、体を捻ったその勢いを殺さぬまま、振りぬかれた二刀――目にも留まらぬ剣速を誇る神代三剣が、龍騎士の身体をばらばらにするように走る。キリアナたちもまたその力を一気に解放して、深く大きく傷を与えると同時、コハクがその槍を龍騎士達の骸へと振り下ろした。
目を焼く太陽のように放たれた激しい光は、傷ついて倒れていく龍騎士達を包み込むと、その身体を二度と動かぬ本来の骸の姿へと戻していく。
そんな中、最初は戸惑いを見せていたエリュシオンの留学生たちへ「そら、ぼうっとしてる場合じゃないぞ」とはっぱをかけたのはノーンだ。
「あれはどう見ても敵だろう? 敵を前に、エリュシオンの騎士足るもの、立ち向かわずして如何するのかな、んん?」
その言葉に、はっと目を瞬かせ、直ぐに表情を切り替えた留学生達は、さすが選手に選ばれるだけあってその応対はすばやかった。戦況を見るエドゥアルトの声を受け、かつみやナオと共に龍騎士達の骸へと槍を向ける。龍騎士候補生にとっては、自分達が将来座すだろう、高き相手だ。それでも怯むことなく、シャンバラの契約者達と挑んでいく姿に、ノートはうんうん、と頷いた。
「先ほどまでの敵同士が協力して『共通の敵』に立ち向かう。いやー美しい光景だなー」
半ば以上棒読みではあったものの、その光景は確かに、両国の新しい関係を垣間見せるものなのだった。
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