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学園水没!?

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学園水没!?

リアクション

 雨は、全てを等しく濡らしていく。無論、小型飛空挺もその類に漏れることはない。
「重いです……」
 顔をしかめて銀枝深雪が飛空挺を操る。機体を傾けると、たまった雨水が小さな滝となって落ちた。
「池は大丈夫でしょうか……」
 双眼鏡を片手に、操縦桿をもう片方の手に。銀枝深雪は池に近付いた。


 
 木々の先に、溜池があった。増水し茶色く濁った水は池の淵まで達しようとしている。
「このへんだねぇ……池が決壊したら大変だし、かったるいけど、ウチの嫁のためにがんばるかねぇ」
 持っていた地図と荷物を下ろし、伸びをするのは佐々良 縁(ささら・よすが)
「ワタシだって、よすがのためにがんばるもん!」
 彼女の隣で拳を固く握りしめる佐々良 皐月(ささら・さつき)。可愛らしい決意に茶色の目を細めつつ、佐々良縁は斜め後ろを振り返った。
「てる兄、嫁さんと既成の土のうを並べてくれないかなぁ」
「わかった。グレーテル、行くぜっ」
「うん! 急いで池を補強しなくちゃね!」
 元気よく応じるにみ てる(にみ・てる)グレーテル・アーノルド(ぐれーてる・あーのるど)。そのまま持ってきた土のうを並べに走る。
 佐々良縁は佐々良皐月と共に池淵からやや離れた場所で土のう袋に土を詰める。スコップを使って土を掘り返し、泥だらけになることも構わず土のうを作っていく。
「置いてきたぜ!」
「とりあえず弱そうなところを重点的に補強したよ」
 ほどなくして、にみてるとグレーテル・アーノルドが戻ってきた。
「おぉーさすが仕事が早いねぇ。こっちも続々できるから、バケツリレーみたいにして運ぼうかねぇ」
「おう!」
 土のうを作り、運ぶ作業が続く。と、何かを引きずってやってくる影が彼らに近づいた。
「遅くなりました。持ってきましたよ」
「土のうって重いんだね。運ぶのに苦労したよー」
 土のうやスコップ、地図を片手に風森 巽(かぜもり・たつみ)ティア・ユースティ(てぃあ・ゆーすてぃ)がやってきた。
「今のところ妨害はないようですね」
「油断は禁物ですわ」
 スコップと土のう袋を手に、イリス・カンター(いりす・かんたー)が風森巽に通る声を向ける。
「警戒しつつ、着実に堤防を作り上げるでござる」
 頷く椿 薫(つばき・かおる)。既成の土のうをリアカーに乗せて持ってきていた。その様子に佐々良縁が笑みをこぼす。
「結構あったんだねぇ土のう。助かるなぁ」
「まだまだあるよ」
「あるものは使わないとね」
 鷹谷 ベイキ(たかたに・べいき)十倉 朱華(とくら・はねず)も土のうを携えてやってきた。
「みんなありがとー。じゃあ、土のうをバケツリレーで運んでくれないかなぁ」
「土のう作りにも参加して!」
 のんびりした佐々良縁と元気なグレーテル・アーノルドの指令に、全員が頷いて配置につく。土のうは次々と池の周りに積み上げられる……。


「俺にも手伝わせてくれませんか?」
 やや半数が積み上げられたとき、安曇 真幸(あずみ・さねゆき)が姿をあらわした。その背後にさらに影。
「あたし……参上!」
「沙耶共々、手伝わせてほしいですわ」
 御槻 沙耶(みつき・さや)嵩乃宮 美咲(たかのみや・みさき)が飛び出るようにして来た。
「のんびりいきたいところだが、こればっかりは急がないとな」
 ゆっくりと歩いてやってくる櫻井 恭介(さくらい・きょうすけ)。その黒い瞳は池を睨んでいる。
「私を頼らないなんて、水臭いよっ」
 金髪を揺らしラティア・バーナード(らてぃあ・ばーなーど)が走ってやってきた。背後でサテラ・ライト(さてら・らいと)が小首を傾げる。
「お嬢様、水臭いのはこの場所のせいではないですか?」
「そーいうわけじゃないんだけど」
 笑っていると、透明の合羽の下に百合園女学院の制服を揺らしてメイベル・ポーター(めいべる・ぽーたー)セシリア・ライト(せしりあ・らいと)が続いてやってきた。
「水没なんてさせないのですぅ」
「僕も頑張るっ!」
 力強い少女たちの言葉に、全員の決意が固くなる。
「他校の人まで手伝ってくれるんだね! すごい!」
 佐々良皐月が瞳を輝かせた。と、彼らに一つの小型飛空挺が近づいてきたかと思うと、
「……俺は上空から指示を出すぜ」
 一言だけ言ってアーサー・オルグレン(あーさー・おるぐれん)が再び上空に浮かび上がった。
「ベイキ、しっかり働け」
 池に背を向けるガゼル・ガズン(がぜる・がずん)。鷹谷ベイキは慌てて頷き、メンバーに向き直った。
「ガゼルは妨害者がいないか見回りするらしいよ」
 わかった、というように佐々良縁が頷く。そして集まった【決壊対策班】を見渡す。
「集まったようだし、始めようか?」
「おぅ!」
 にみてるに続き、全員が拳を掲げた。同時に作業を再開。


「あのあたりが弱そうね。補強をお願い!」
「……南側が危ない」
 グレーテル・アーノルドとアーサー・オルグレンの指示が飛ぶ。
「あそこでござるな! 了解でござる」
「急ぎますわよっ!」
「我も同伴させていただこう」
「さぁて、ボク達の出番だもんね。頑張っちゃおう」
 椿薫、イリス・カンター、風森巽、ティア・ユースティが、グレーテル・アーノルドの示した先へ向かう。
「あたしは南側に行くでー!」
「私も行くよ!」
「お嬢様、気をつけてください」
 御槻沙耶、ラティア・バーナード、サテラ・ライトはアーサー・オルグレンの指示に従い駈け出した。
「僕は土のう作りに回ろうか?」
 二組を見送った鷹谷ベイキが手早く土のうを作る佐々良縁と佐々良皐月に語りかける。
「そうだねぇ。頼もうかなぁ……」
「四人じゃちょっとキツイもんね」
「土のう作り、頑張るですぅ」
「メイベルちゃん、無理は禁物だよっ!」
 二人の背後ではメイベル・ポーターとセシリア・ライトがせっせと土のう作りを続けている。
「バケツリレーの態勢は整ったみたいだぜ。土のうを貸してくれないか」
「はい、こちらですわ」
 櫻井恭介の問いかけに、リアカーに乗った土のうを指し示す嵩乃宮美咲。彼女は大きなパラソルが広がる簡易テーブルの横に立っている。
「あんたは何をしてるんだ?」
「私は皆様のサポートをいたしますわ。メイベルさんにご用意頂いた飲食物で、疲れた皆様をお迎えするのですわ」
「そうか。あとで世話になるかもな」
 手を振って櫻井恭介がリアカーを勢いよく押す。待ち構えた椿薫達に受け渡して戻り、今度は作られた土のうを肩に担ぎ走っていく。
「わたくしにも土のうを! まだまだ足りないですわ!」
 息を切らせてイリス・カンターが土のう作成チームに近づいた。
「はいですぅ。頑張って持っていってくださいですぅ」
 メイベル・ポーターが鼻歌交じりに言って土のうを差し出した。
 雨はやむことなく降り続いている。佐々良縁は作業しつつ晴れることない空を見上げた。
「足りないねぇ……」
「よすが?」
「このままじゃ、池が……」
 何かを堪えるように俯く佐々良縁。その時、一台のトラックが突っ込んできた。