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第二章 決壊阻止・真相究明

 雨に濡れながら、二機の飛空挺が宙を舞う。
「あなたは何をしているのですか?」
「何って、写真撮ってるだけだよっ。あたしのできることをしてるだけだもん……ダメ?」
 銀枝深雪が問いかけると、色無美影が首を傾げた。
「いえ……ダメというわけでは……」
「キミこそ、何をしてるの?」
「私は……監視をしているのです。真相を確かめるために」
「ふーん……」
 そっか。と言いながら色無美影はカメラを構えた。話しつつ、飛空艇は池に近づいていた。
「池の様子も撮らないとね!」
 カメラを動かし、シャッターに手をかける色無美影。
 二人の眼下に、土のうに囲まれた池の姿が広がった。




 ぬかるんだ土を踏みしめ、ティア・ユースティと風森巽が池の周りを歩いている。
 遅れて池の外へ視線を向けるガゼル・ガズンも歩を進めていた。
「今のところ大丈夫そうだよね」
「しかし油断は禁物。万一土のうが崩れてしまっては元も子もないですから」
「その通り。周囲への警戒もまた然りというわけだ。俺達が見回りをやってやるからこそ、皆が作業できるのだよ」
 会話を交わしつつも視線は池とその周囲に走らせる。ティア・ユースティが首を傾げた。
「えっと、班の皆が作るのって、かすみてい……だっけ?」
「そうです。霞堤……古の武人が考えた堤防の一種ですね」
「霞堤とはもともと川の流れと逆の流れを堤防で形成することで決壊を防ぐものだ」
「画期的ですよね。今回は川ではないので、川も作る必要があるみたいですけど」
「応用するんだね! あ、だから皆『もどき』って言ってたの?」
「そのようだな」
 三人で語り、注意を配って歩みを進める。彼らの頭上を、小型飛空挺が駆け抜けた。

「……池の位置は、先に指示した通りだ」
「了解だ」
 アーサー・オルグレンと櫻井恭介の会話を受けて佐々良縁がスコップを持って集まったメンバーを見渡した。
「小川とそれに連なる枝状の堤、第二の池を作っていこうかぁ」
「そうだな! 俺は縁達と池を作るぜ!」
「私は引き続き監督と指示を担当するね!」
 にみてるとグレーテル・アーノルドが頷く。 
「拙者はイリス殿と共に枝を担当するでござる」
「小川は俺が作ります」
「僕もやるよ」
 椿薫、安曇真幸、鷹谷ベイキが進み出て言う。
「オレは枝をやる。あんた、一緒に組むか?」
 櫻井恭介が十倉朱華に語りかけた。
「うん、そうしよう」
「私達も枝を作るですぅ」 
 メイベル・ポーターがセシリア・ライトと頷きあう。
「あたしも全力で枝を作るで!」
 御槻沙耶は手を掲げた。
「私もあんたを手伝うよ。頑張って枝作ろうか!」
「お譲様、やりましょう!」
 ラティア・バーナード、サテラ・ライトが御槻沙耶に言い意気込む。
「担当箇所を作り終えたら、どうしますか?」
「そうだね……じゃあ他のチームの補助に入ってもらうってことで、よろしくね!」
 安曇真幸の問いに答えたグレーテル・アーノルドの指示を受け、作業を開始する。

 
「掘って掘って掘るですぅ♪」
「メイベルちゃん、無理は禁物よ!」
「大丈夫ですよぅ! 堤をつくるのですぅ」
 セシリア・ライトの心配も構わず、メイベル・ポーターがせっせと作業を進める。適度な深さと幅を備えた水路を掘っていく。
「本線の太さはこのくらいでしょうか」
「いいんじゃないかな。水がうまく入ればいいわけだし」
 安曇真幸、鷹谷ベイキが相談しつつ小川を形成していく。スコップが土を抉る。
「本線は最終的に池に繋げるからねぇ。気をつけて掘ってよぉ」
 佐々良縁が本線をつくる二人に呼び掛ける。
「全体の指示はグレーテルに任せちまえよ」
「そうだよ、よすがー」
「そういうわけにもいかないよぉ。私が立てた作戦だからねぇ」
 にみてると佐々良皐月の注意に首を振り、スコップを土に突き刺した。
「幅はこれくらい……かな。長さは――」
「この線に沿って掘ればいいか?」
「そうそう。これ以上になっても危ないからね」
 十倉朱華、櫻井恭介が枝の一本を掘り進める。その対岸の片隅で、椿薫とイリス・カンターがこつこつと支流を掘っていた。
「イリス殿、泥だらけでござるよ」
「平気ですわ。どんどん掘りますわよ」
 放ちつつメンバーは順調に掘っていく。樹状の堤は休憩をはさみながら順調に成長を重ねた。


 太い幹と、斜めに伸びる枝。等間隔、同じ長さで作られた姿は大木の貫録。全員がせっせと掘ることで完全に成長を終える。
 最後に本線と池を繋げば、霞堤もどきの完成だ。
「完成だぜっ!」
 にみてるが声を張り上げ全員が歓声を上げる。水は溢れることなく、池の水位は下がった。
「ふわぁ……疲れましたわ……」
「イリス殿!」
 イリス・カンターがその場にぺたんと座り込んだ。重労働に、どの顔にも疲弊の色が浮かんでいる。
「お疲れ様ですぅ縲怐Bタオルのご用意がありますよぅ縲怐Bシャワーも借りておきましたぁ縲怐v
「さあ、みなさんお疲れでしょう。これを食べて疲れを取ってください」
「ついでに【美味しい物を食べたい部】もよろしくっ!」
 メイベル・ポーターがパラソルの下からタオルを、ラティア・バーナードとサテラ・ライトが桃の箱を持って呼びかけた。
「油断は禁物だよぅ、まだ雨は降ってるからねぇ」
 タオルと桃を受け取りつつ、佐々良縁が全員に言った。
「妨害者が現れる危険もあるね」
「交替で見回りながら警戒しましょう」
 十倉朱華、安曇真幸の言葉にメンバーの表情が引き締まる。……と、集まった面々の傍に飛空挺が静かに着地した。
「アーサー、お疲れ」
 櫻井恭介の言葉に小型飛空挺から降りたアーサー・オルグレンはこくりと頷いた。その背後からガゼル・ガズンと風森巽、ティア・ユースティが近づいてくる。
「あとは他の奴らが雨を止めてくれることを祈るか」
 にみてるの言葉に、全員が空を見上げた。
 空は変わらず灰色。落ちる雫は途切れることなく続いていた……。