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【2019修学旅行】斑鳩の地で寺院巡り

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【2019修学旅行】斑鳩の地で寺院巡り

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●薬師寺巡り〜トヨミちゃん薬師寺を案内する〜

 薬師寺は、時の天皇が自らの皇后が病に伏した際、その回復を願って建立されたと言われている。
 病を治すとされる薬師如来を祀る寺院は、幾度の修復を受けて華麗な姿を今に残している。

「これが東塔と呼ばれるもので、この寺院の中で唯一、奈良時代に建てられたのよ。あ、奈良時代っていうのは、都が奈良にあった西暦七百十年から七百九十四年までの八十四年間を指しているわ」
「へぇ、そんな大昔にこれだけの建物が造られたんだな。……うお、高いなー、これ全部木でできてるなんて信じられないぜ」
「どれどれ……とと、見上げただけで目眩がしてしまうくらいに高いようですね」
 ガイドブック片手に、水神 樹(みなかみ・いつき)が自らの知識を交えてカノン・コート(かのん・こーと)カディス・ダイシング(かでぃす・だいしんぐ)に説明する。てっぺんまで見上げようと思ったら、病弱なカディスでなくともふらりと来そうな高さである。
「カディス、顔が真っ青よ。大丈夫? 少し休みましょうか?」
「そうだぜ、また倒れられたら大変なんだからな」
 樹とカノンが、常時真っ青な顔のカディスを気遣う。
「いえいえ、この程度いつものことですから――ゲホ、ゲホッ! ……それよりも、あれは何でしょうか?」
 咳き込んだカディスが指したのは、薬師三尊像が祀られている金堂であった。
「あの金堂は最近……四十年と少し前に再建されたもので、中に薬師三尊像が安置されているとあるわね。もしかしたらカディスの病弱も、お祈りすれば治るかもしれないわね」
「おっ、そりゃいいぜ。効果があり過ぎて今度は筋骨隆々とかになったら、それはそれでびっくりだけどな」
「そう簡単に治るものでもないと思うんですけどねえ――ゴホゴホッ! ……あぁ、世界が回ります……」
 再び咳き込んだカディスが、ふらついて地面に倒れそうになるところを、危うく樹とカノンが抱え上げる。彼らの薬師如来見学は少し先になりそうであった。

「メニエス様、あれは何でしょうか? おっと、これも気になるところですね」
「ミストラル、落ち着きなさい。ここは日本であってパラミタではないのよ、変に振る舞えば怪しまれるわ」
「そうなのは承知ですが、日本という場所にいるせいかどうも。ささメニエス様、急いで参りましょう早く参りましょう」
 初めての場所にはしゃいだ様子のミストラル・フォーセット(みすとらる・ふぉーせっと)を窘めながら、メニエス・レイン(めにえす・れいん)が佇む建造物を見遣って微笑む。
(……確かに、普段見慣れない物を見るというのは、それだけで楽しいものでもあるな。これら全てが皆あたしの物になるというならなおのこと楽しいが……そこまで無粋な真似はするまい。今日のところは新たな知識を得るに留めておこう)
 観光者向けのパンフレットを手に取りながら、メニエスはふと、今日出会った少女のことを思う。
(……そういえば、自分のことを魔法少女と名乗る者……トヨミといったな。あの者はこの出会いが偶然と言っていたが、これもおそらく何かの始まりに違いない。フフ……楽しくなりそうだ)
「メニエス様、何をしていらっしゃるのですか? 早く次の場所へ参りましょう」
 思考を遮るミストラルの声に、メニエスはため息をついて応え、その場を後にする。

「むむ、これは……そうね、二百年前に造られたものね!」
「正解は……残念、西暦八百五十年だから……約千百七十年前だそうよ」
「え〜! そんなに昔なの〜! うーん、見かけ以上に古いんだね……私もまだまだだなぁ」
 とある像の前で、それが何年に造られたのかを言い当てんとしていた陽神 光(ひのかみ・ひかる)が、パンフレットを読み上げたレティナ・エンペリウス(れてぃな・えんぺりうす)の言葉に愕然として、あはは、と笑う。
「そんなに昔からあるってことは、やっぱり盗賊とかがこっそり持ち出そうとしていたのかな? ……例えば私みたいにっ♪」
「こら、悪いことをしてはいけませんよ、光」
「えへへっ、冗談だよレティナ。……でもさ、いつかは私も、こうしてずっと遺されるお宝を見つけられたらなって思うんだ」
 光が、今もなお立派な姿を保ち続けている宝物を見つめて、期待の篭った言葉を呟く。
「……大丈夫よ、光。あなたならきっと、皆が幸せになれるような宝物を見つけることができるわ」
 光の横に立ち、肩に手を添えて、レティナが優しげに微笑む。
「うん、そうだよね! よーし、もっともっと磨きをかけるぞー! レティナ、次はこれ、当ててみせるからね!」
 何やら古めかしそうな物の前でうんうん唸る光を、レティナが微笑ましげに見守っていた。

「西塔は、東塔と対称的な位置に建っている。東塔は千三百年その姿を保ち続けているが、西塔は約六十年前に再建されたそうだ。本来は同じ高さに設計されているそうだが、東塔に材木の撓みと基礎の沈下があり、西塔の方が高く見える……とあるが、どうなのだろうな?」
 ガイドブックからの引用を読み上げながら、白砂 司(しらすな・つかさ)がそれぞれの塔を見遣って首を傾げる。隣で話を聞いていたロレンシア・パウ(ろれんしあ・ぱう)が、ならばとばかりに提案をする。
「なあに、せっかく確かめられる場所にいるのだ。それにご丁寧にも説明をしてくれるガイドがいるではないか。トヨミに話をして、それが本当かどうか確かめてみればいい」
「そうか……そうだな。よし、確か向こうもここに来ているはずだ。ロレンシアの言う通り、聞いてみるか」
 言って歩き出そうとする司の手を、ロレンシアが握って引き止める。
「待て。あそこで売られているものが、私にはとても美味しそうに見える。あそこで休んでから行こう」
「お、おい、だからってそんなに引っ張るな――」
 司の言葉を聞かなかったフリをして、ロレンシアが先導するように歩いていく。司もやれやれとばかりに一息ついて、しかし楽しげに後を付いていくのであった。

「もっと食べたい! もっと遊びたい! もっと騒ぎたい……はオシオキが怖いから控える……けどなんかしたい!」
「私より昔の時代に、このようなものが建てられていたなんて……あ、アレはなんですか? 垂、教えてください!」
「お、おまえら……少しは節度ってものを考えたらどうなんだ!?」
 両手にあれやこれやとお菓子を提げたライゼ・エンブ(らいぜ・えんぶ)と、歴史書を片手に興味津々の里見 伏姫(さとみ・ふせひめ)が、もう既に相当へばり気味の朝霧 垂(あさぎり・しづり)にこれでもかとばかりに取り付く。
「え〜、だってだって、こ〜んなにおいしいモノがあって、不思議なモノがあるんだよ? 節度ある行動とか自重とか言われても困っちゃうよ!」
「そうです、せっかくの機会なのですから、できるだけ物を見て、知っておきたいと思うのは当然のことではありませんか?」
「そ、そう言われちまうとなあ……ハァ、これだったら、教導団の任務の方がよっぽど楽だぜ……」
 せめてもの反論も、ライゼと伏姫の連携プレーにあっけなく返されてしまい、垂がどっと疲れたようにため息をつく。
「……お? 確かありゃあ……」
 そこに、生徒を引き連れたトヨミの姿を発見した垂の表情が、まさに好機とばかりに煌く。
「おいおまえら、あそこに楽しそうなことをしてくれそうなガイドが居るぞ? 構ってほしかったらあっち行って来い。俺はここでのんびりしてるから」
「む〜……勝手にどっか行っちゃ嫌だからね!」
「では、少々失礼します」
 垂とトヨミを見比べつつ、興味に負けたのか二人がトヨミのところへと向かっていく。
「……ふぅ、これで少しはまったりできるかな……それにしても、いい天気だ」
 ようやく喧騒から解放された垂が、青く澄んだ空を見上げて柔らかな笑みを見せた。

「はーい皆さーん、ここが薬師寺でーす。……建立された時にはもう私はいなかったので、あまり詳しいことは分からないんですけどねー。あ、でも、火災は怖かったですよー。私も皆さんに混じって消火活動をしたんですよー」
 一行をここまで案内してきたトヨミが、何故か看護師の格好をし、旗の代わりに何やらとても大きい注射器を携えながら、えっへんとぺたんこの胸を張る。
 本人曰く、「薬師寺は病院のイメージですから。あ、注射器は皆さん以外には見えないようにしてありますから安心してくださいね。疲れた人には優しくお注射しちゃいますよー。イタズラした人には激しくお注射しちゃいますよー?」だそうである。

「へぇ、ここが薬師寺かぁ。あっちとこっちで姿形が変わってるのって、向こうが火事で焼け落ちちゃって、修復されたからだよね?」
「ああ、そのようだな。俺は向こうの新しくなった方よりも、昔のままの方が見ていて落ち着くな」
 東塔と西塔を見比べながら、サトゥルヌス・ルーンティア(さとぅぬるす・るーんてぃあ)アルカナ・ディアディール(あるかな・でぃあでぃーる)がそれぞれ感想を口にする。
「あら、私は綺麗になった方がいいわぁ。ねぇサトゥ、あっちに行きましょうよ。ついでにトヨミのほっぺたプニプニしに行きましょうよ」
「カー姉、僕はそのつもりはないよ。行くならアル君と行ってきたらどうかな?」
 しなだれかかってきたカーリー・ディアディール(かーりー・でぃあでぃーる)に、サトゥルヌスがアルカナの方を向いて言う。その本人はカーリーの接近と同時に素早く距離を置いていた。
「んー、そうねぇ、それもいいかもね。アルー、いらっしゃーい、お姉さんがあなたのあんなとこやこんなとこまでプニプニしてあげるわよー?」
「おやおや、何をするのでしょうねぇ、楽しみですねぇ」
 カーリーがアルカナを呼ぶ……もとい、連行するのを、銭 白陰(せん・びゃくいん)が微笑ましげに見守る。
「や、止めてくれ姉さん、俺はそんな……おい、ビャクも見てないで何とかしろ」
「いえいえ、私は老人ですから」
「都合のいい時だけ老人ぶるな! ……って痛ッ! 姉さんそれ『プニプニ』というレベルじゃないだろ!」
「あら、愚弟にはこのくらいがちょうどいいわよ、ねぇ?」
 言って、カーリーが秘孔を突かんばかりの勢いでアルカナを弄る。
「姉弟愛っていうのかな? 微笑ましいね」
「そうですねぇ」
 サトゥルヌスと白陰が楽しげに見守る中、カーリーの一方的な愛情? の行使がなおも続いていた。

「色々と教えてくれた礼だ、自分もウマヤド探しに協力しよう。……ところで、貴殿の名乗る『魔法少女』とは一体何なのだ?」
「何だおまえ、知らなかったのか? ……で、どうなんだ?」
 トヨミのところにやってきた比島 真紀(ひしま・まき)サイモン・アームストロング(さいもん・あーむすとろんぐ)が、注射器に身を預けながらうーんと考え、そして口を開く。
「歴史書には、私がシャーマン的能力を持っていたんじゃないか、って書かれているみたいですね。魔法少女はそこから出てきたのではないでしょうか。私が少女の姿な理由とかは、私を皆さんと出会わせた人の嗜好ですよ、きっと」
「そ、そうなのか……魔法少女とやらも色々と大変なのだな」
「いまいち話が見えねえ気がするが……ま、いっか。んじゃ、もうちょっとウマヤド探しに行ってくるか」
 言って二人が立ち去るのと入れ替わるように、先に薬師寺を巡っていたと思しき夜薙 綾香(やなぎ・あやか)がやってくる。
「一通り回ってみたが、ウマヤドらしい影は見当たらなかったな。悪巧みをしようとしている者もいないようだ」
「そうですか、ありがとうございますー。悪いことをしようとしている人は、これでお仕置きですからねー」
 注射器を振り回すトヨミを見遣って、綾香が問いかける。
「気になったのだが、当時の医術、それにここで行われていた医療は、どのようなものなのだ?」
「えーっとですねー、お注射一本ではいかんりょー、では全然なくて、言いにくいんですけど仏頼みでしたー。薬にしたって草や木の実をすりつぶしたものですし、今の医療技術を知ってしまうと、恥ずかしくて口にできないものばかりですよー。……でも、皆さん不思議と治ったりしていたんですよー。きっと想いの力が届いたんですね! 想いの力って凄いと思います!」
 何やら感動するトヨミに、綾香を始め他の者は何ともいえない表情を見せるのであった。

「ふむ……この木造建築とやらは、石のそれとはまた違った雰囲気をかもし出しているな。静謐にして荘厳な点は、西洋の寺院と変わりないのだが」
「そうですね。それとこの微笑み……アルカイックスマイルといいますか、不思議な魅力がありますね」
 収められた像を前にして、クレア・シュミット(くれあ・しゅみっと)ハンス・ティーレマン(はんす・てぃーれまん)が思ったことを口にする。
「微笑みは安らぎと、そして平和の証でもあります。皆さん、平和が一番だって思っていたから、こうしてたくさんの仏像が作られたんだと私は思いますよ」
 トヨミが言うその言葉の裏には、この世が決して楽園ではないということ、平和ではないからこそその平和を願って像が作られたのだということを示していた。
「……確かにな。争うこと自体を否定はしないが、人の笑みまで失わせるような戦いは、見たくはないな」
「クレアの言う通りですね。そして、こうして穏やかに観光ができることに、感謝しなくてはなりませんね」
 事情あって戦いに赴くことがあっても、最後には再び笑っていられるように。佇む仏に目を伏せた二人の中に、そのような言葉が浮かんでそして消えていった。

「おお! これが地震と台風の国において千三百年近く建ち続ける木造建築ですと!?」
 東塔に足を運んだ一行の中で、青 野武(せい・やぶ)が驚きの声をあげ、近くにいたトヨミに勢いのまま質問を浴びせる。
「あそこのあの木組みはどういう構造になっておるのですかな?」
「構造計算や荷重計算はどうやってやったのですかな?」
「『柔構造』という発想はどこから出てきたのですかな?」
「はわわ、そ、そんなこと聞かれても私には分かりませんよー」
 すっかり困り顔のトヨミ、流石に材料力学や建築学のことを聞かれてもちんぷんかんぷんである。
「陛下、自分も質問よろしいですかな? 陛下の御世に、『施薬院』という病院を置かれたそうですが、そこではどんな治療を行われておられたのですかな?」
 横槍を入れるように、黒 金烏(こく・きんう)の質問が飛ぶ。これも別段医学薬学に詳しくないトヨミにとっては、「仏頼みでしたよー」という他に詳しいことを言えないため、対処に困る質問であった。
「はふぅ……皆さん勉強熱心なのですね。私ももっと勉強しておいた方がよかったでしょうか」
「いえいえ、スイコちゃんは頑張ってると思いますよ。私はただ、このような素晴らしい建物を見ることができて感激ですけどね。オゥ、ブラヴォー! トレビヤン!」
 ため息をついて項垂れるトヨミを、シラノ・ド・ベルジュラック(しらの・どべるじゅらっく)が慰める。
「西塔の色褪せない美しさも素晴らしいですが、これもなかなか……どちらもなぜここまで持ち続けたのでしょうか?」
「……西塔は最近建て直されたからですよー!」
「オゥ、ブラヴォー! トレビヤン!」
 シラノのボケにトヨミが、注射器でのツッコミを見舞う。……それは多分に八つ当たりなのだが。

「ねーねートヨミちゃん、やっぱり【終身名誉魔法少女】って肩書きついてるくらいだから、とっても凄い魔法少女なんだよね!? あたしにも何か教えてくれないかな!?」
「え、えっと、その……どうなんでしょう? どこが凄いのか私にもよく分からないのですが、えっと……はい、私でよければ教えます。他の方からもそのような意見をいただいたので、その方々とご一緒でよければ、後で場所を用意しますね」
「やったー! 楽しみにしてるね、トヨミちゃん!」
 トヨミに約束を取り付けたメリエル・ウェインレイド(めりえる・うぇいんれいど)が、上機嫌で傍にいたクローディア・アンダーソン(くろーでぃあ・あんだーそん)アロンソ・キハーナ(あろんそ・きはーな)の話に混ざる。
「そういえば、どうして魔法少女って言うんだろうね? 魔法使いとか魔女とかじゃないのかな?」
「さあ、個人の問題なんじゃない? それともここが日本だからじゃない? 大した問題じゃないと思うわよ」
「だが彼女はかつてその日本を治めたことのある女帝なのであろう? だとすればその魔法少女とやらの肩書きも相当な価値を持つのではないのか? ……むぅ、そのような尊きお方を護衛できること、このドン・キホーテ・デ・ラ・マンチャ、光栄の極み! 喜んでお傍にいさせてもらおう」
「キミはいつも通りね……まあいいわ、騒ぎは起こさないようにね」
「むむ! 我輩を誰と思っての狼藉か!? このドン・キホーテ・デ・ラ・マンチャ、他国で騒ぎを起こすような真似はせぬ!」
 一行を差し置いて騒ぎ出す三人を、遠くから眺める二つの影があった。
「お疲れのようですねー。……それも分かるような気がします」
「……分かってもらえたなら、もう少し落ち着くように言っていただきたいところだが……流石にそこまで求めるのは酷ですな」
「はい……すみません、お力になれなくて」
「いえ、大丈夫です。……はぁ」
 エリオット・グライアス(えりおっと・ぐらいあす)の吐いたため息が、そっと空に昇っていった。

「この像は西暦六百八十八年制作説と六百九十七年制作説があるようですねー。他にも平城京に移った後作られたとする説もあるようです」
 トヨミの話を興味津々と聞いているリリス・チェンバース(りりす・ちぇんばーす)の横で、田桐 顕(たぎり・けん)が呆けた表情で呟く。
「……えっと、それ、どういうこと? 何年か分からないってのは分かったけど、何年かってのがいくつかあるってえぶっ!?」
「ワタシの楽しみを邪魔するな? 今度とぼけたことを言ったら、その頭真っ二つにしますよ?」
「い、いえ、もう殴って――ひいっ!?」
 殴られた頭をさすりながら反論しかけた顕のすぐ傍を、リリスの振り下ろした木刀が掠める。
「あわわ、お、落ち着いてくださいっ。……えっとですね、像には「何年に作りました」ってのが書いてないんですよー。で、誰も「この像は何年に作りましたよー」って記録に残してない、もしくは残っていても書いてあることがでたらめだったりするんですよー。だから、「この出来事がこの年にあったのだから、このとき作られたに違いない」といった発言になるしかないんですよー」
「へぇ、そうなのかー。何かそういうの聞くと面白いな! よーし、じゃあどんどん見て行こうっ!?」
「調子に乗るな!」
 リリスのツッコミを受ける顕を、トヨミが苦笑しつつ見守っていた。

「色々と見て回りましたが、これらは魔法との関連もあるのですか? ああいえ、あなたが魔法少女だというので気になったものでして」
 門の前までやってきた一行から、緋桜 遙遠(ひざくら・ようえん)がトヨミに声をかける。
「そうですねー、歴史的な建造物の中には、普通の人が持っていない力を授かった人が制作を指示した、というのがあるようです。その建物が皆さんの言っている魔法のような力を生み出すことはありますが、あくまで術者のサポート程度でしょうか。その建物自体が魔法を行使するようなことは、ないと思うんですよ……多分。もしあったとしたら、お化け屋敷もびっくりでしょうね」
 トヨミの話に、遙遠が感心したような頷きを返す。
「なるほど、そういう建物もあるのか。二年続けての京都・奈良だが、今回はそういう点も考慮して見学してみるのも、面白いかもしれないな」
「うんうん、それにトヨミちゃんだっけ? ボク一度本で見たことあるけど、こっちの方が可愛いね♪ でも昔の天皇さまなんだよね。そんな人にガイドしてもらえるなんて、なんだか緊張しちゃうなぁ」
「魔法少女というものは過去から今に至るまで、世界に多大な影響を与えていらっしゃったのですね。ぜひ記憶しておきたいと思います」
 その横で、早川 呼雪(はやかわ・こゆき)ファル・サラーム(ふぁる・さらーむ)ユニコルノ・ディセッテ(ゆにこるの・でぃせって)が一様に感銘を受けたような言葉を漏らす。
「あ、あの〜……ホントに、大したことはしていませんよ? 私、ずっとこの辺りでのんびりしていただけですし」
「いえいえ、魔法という英知を少女という段階で極めんとするその姿勢、尊敬に値します」
「そうだ、せっかくだから写真を撮ろう。構わないな?」
「さんせい〜」
「では、失礼ながら私も」
「はうぅ〜、な、なんだか恥ずかしいですねー」
 その場に居た面子もひっくるめて、そして中心にトヨミを据えて、シャッターが切られた。

「はぁ……ここにもいないようですねー。では皆さーん、次の観光地へ向かいますよー」
 ため息をついたトヨミが、気を取り直して次の場所へ一行を案内する。