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【2019修学旅行】斑鳩の地で寺院巡り

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【2019修学旅行】斑鳩の地で寺院巡り

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●トヨミちゃん唐招提寺を案内する

「はーい皆さーん、ここが唐招提寺でーす。中国の高僧鑑真が晩年を過ごしたお寺ですねー。今では世界中、それどころか別世界にすら簡単に行けますが、当時は船で大陸横断といったらもう命懸けだったんですよー。……私は空を飛べたので楽々、でしたけどね」
 「唐招提寺は学校のイメージです」と言っていたトヨミが、学校の先生らしくスーツに眼鏡をかけた格好で、さらりと問題発言をしつつ、観光は続いていく。

「あの、遥からトヨミさんは、日本で初めての史実に残る歴史上の女性君主だと聞いたのですが、やはり女性ということで、民衆を統治する上で苦労などあったのでしょうか?
 南大門をくぐり、正面に金堂、その背後に講堂を見ることができる場所で、ベアトリクス・シュヴァルツバルト(べあとりくす・しゅう゛ぁるつばると)が早速質問を投げかけてきた。
「ベアトリクス、突然そのような質問をしては失礼ではありませんか?」
「あっ、も、申し訳ない……興味が先走ってしまって、つい……」
 支倉 遥(はせくら・はるか)に窘められ、ベアトリクスが萎縮する。
「大丈夫ですよー。そうですねー、ウマヤドとウマコが頑張ってくれましたから、私は特に何もしてませんよー。……あの二人の面倒を見る方が、よっぽど気を使いましたけどねー」
「優れた馬も、手綱さばきが下手では力を発揮できません。貴女様の器量あってこそ、かの者たちも相応の実力を発揮できたのではありませんか?」
 伊達 藤次郎正宗(だて・とうじろうまさむね)が、やはり天皇という地位にある者の前だからか、普段の粗暴な印象をひそめて受け応える。
「そうだといいんですけどねー。結構私が思いつきで事を言って、ウマヤドを困らせてしまった記憶が多いんですよー。だからウマヤドには感謝なのです」
「……随分と、信頼しているのですね」
「はいー。あ、でも、私はウマヤドの『母』でもありますからね。ちゃんとしないと、です。……もう、どこに行ったんですかねー」
 ウマヤドのことを思うトヨミを、三人が見守っていた。

「今日はフィルと、竜花ちゃんと神山君と一緒に来てるんです。久々の日本……やっぱり平和っていいですね!」
「そうですかー。ええ、平和っていいですよねー。一日のんびりして過ごせたら、それだけで幸せですよー」
 久しぶりの日本を、友達と満喫している宮本 月里(みやもと・つきり)に、トヨミがのんびりとした口調で話しかける。
「竜花さん、疲れていませんか?」
「うん、大丈夫、ありがとね。……うわー、あれ凄いね! ねえ月里、もっと近くに行ってみよう?」
 フィリップ・アンヴィール(ふぃりっぷ・あんう゛ぃーる)の言葉に応えた各務 竜花(かがみ・りゅうか)が、目の前に現れた荘厳な建物に目を奪われる。
「寺巡りったって、何が面白いんだかちっとも分かんねえよ。……なあフィリップ、お前だってホントは、月里ともっと二人でイチャイチャしたかったんだろ?」
 退屈そうな様子の斗羽 神山(とば・かみやま)が、ニヤニヤした表情でフィリップをからかいに走る。
「そ、そんなことはありません。月里が幸せそうなら、僕は――」
「そんなんだからいつまでたっても月里に気づかれねーんだろ? なんなら俺が一騒ぎして、各務と月里をはぐれさせてやろうか? そうすりゃお前も堂々と月里と二人っきりに――いてっ!」
 何やら悪巧みを話していた神山が、トヨミのツッコミを受ける。
「こら、それは堂々とは言いませんよ? もしでしたら、願掛けを一緒にお書きになる、というのはいかがでしょう。あ、願掛けとは例えばこのような……」
 言ってトヨミが、掌にぽん、と小さな木札を出現させる。
「これにお願い事を書いて、飾るんです。これでしたら堂々と、に相応しいと思いますよ?」
「願掛け、ですか……いいかもしれませんね」
「えー、めんどくせえよそんなの。それならあそこのナントカ像に相合傘でも落書き……いてっ!!」
「だから、そういうのはダメですよ?」
 二度神山がツッコミを受けたところで、様子に気付いたらしい月里と竜花が戻ってくる。
「神山、トヨミちゃんに迷惑かけたでしょ!? 問題行動起こしたら、タダじゃすまさないからね?」
「まだ何もしてねーよ!」
「まだ、ってことはこれからする予定だったんでしょー? まったく、油断も隙もないわね!」
「竜花ちゃん、そのくらいにしてあげましょうよ、ね?」
 ぷんぷんと怒る竜花を、月里が優しげな笑みで宥める。
「……月里がそう言うなら、仕方ないわね」
「へへっ、話が分かるじゃねーか月里。んじゃ俺はちょっくら」
「って、やっぱり放っておけないわ! 待ちなさーい!」
 駆け出す神山を追いかける竜花、何だかんだで二人きりになった月里とフィリップが、苦笑しつつ並んで歩き始めた。

「なあ、スイコちゃん? 最近の魔法少女って、『魔砲をぶっ放して悪の野望を打ち砕く』的な、まるで特撮ヒーロー的なノリになってる気がするんだが、スイコちゃんは一昔前のような『普段は夢見る女の子が魔法を使って人々の悩みを解決する』タイプ? それともさっき言ったタイプ?」
 トヨミの傍にやってきた神代 正義(かみしろ・まさよし)の質問に、トヨミが苦笑しつつ応える。
「あはは……私は後者のつもりなんですよ? でもでも、それだけじゃ済まない時は仕方なく……」
「そうか……俺は魔法少女といったら、後者の方が好きなんだがな」
「そうですよねー……はぁ、もっと優しく接するようになるには、どうしたらいいでしょうか?」
「えっ、わ、私ですか?」
 傍にいたアリス・ハーバート(ありす・はーばーと)が急に話を振られ、どぎまぎしつつ思ったことを口にする。
「トヨミさんがどのような魔法を使われるのか分かりませんが、魔法って、願ったことを叶えるものですよね? でしたら、相手を傷つけない魔法だって使うことができるんじゃないですか?」
「おお! それならば、見た目は凄いが誰も傷つけない、そして相手の願いを叶えることになるのか? なんと素晴らしい!」
「簡単に行くかどうかは分かりませんが……そうですね、参考になりました。ありがとうございます」
「いえいえ、お力になれたのでしたら、私としても嬉しいです」
 トヨミがぺこり、と頭を下げるのを、アリスがにっこりと受け止める。

「おー、すげーなー。樹が樹以外の格好してんの初めて見たぜー」
「レオナ、ちゃんと見ておきなさいよ。これも何かの役に立つかもしれないんだからね」
「アーミス、どうしていつもそんなに偉そうなんだよ……」
 お堂を見上げて、ウトナピシュティム・フランツェル(うとなぴしゅてぃむ・ふらんつぇる)が単純に感動したような素振りを見せ、アーミス・マーセルク(あーみす・まーせるく)がえっへんと胸を張り、その様子にレオナーズ・アーズナック(れおなーず・あーずなっく)が呆れた声をあげる。
「ここも賑やかですねー。どうですか? 楽しんでますか?」
「あ、はい。なんだかすみません、アーミスが迷惑とかかけてませんか?」
「ちょっと! どうしてワタシが迷惑かけてることになってんのよ!」
 レオナーズの言葉にアーミスが食ってかかるのを宥めつつ、トヨミが言う。
「大丈夫ですよー。わいわいやりましょうって言ったのは私ですから。周りの方々に感謝の気持ちさえ持っていただければ、いいと思いますよ」
 言ってトヨミが、すれ違う観光客や坊主に一言声をかけていく。声をかけられた人たちは一様に笑顔を浮かべながら、にこやかに歩き去っていく。
「へぇ、人気者なんだな。……あれ? アーミス、ウトナを知らないか?」
 レオナーズが、さっきまでいたはずのウトナの姿がないことに気付く。
「もう! あの子またどっかふらふらと! レオナ、探しに行くわよ!」
「あいつの事だから、大丈夫じゃないのか?」
「何言ってるの! あんたあの子の管理者でしょ!? しっかりしなさいよね!」
「だから、どうしてそんなに偉そうなんだよ……」
「いいからさっさと行く! ゴメンねトヨミちゃん、また後でね!」
「すみません、失礼します」
「気をつけてくださいねー」
 アーミスが颯爽と、レオナーズがその後を渋々と付いていくのを、トヨミが見送る。

「推古天皇が魔法少女だったことにビックリですけど…ちょっと安心しました。あの…魔法少女って言ってましたけど、何をしていらっしゃるのですか?」
 須田 桃子(すだ・ももこ)の問いに、トヨミが思案しつつ応える。
「今は寺院のお掃除の手伝いとか、そうですね、家政婦さんとあんまり変わらないかもしれませんね。……昔はドタバタしてたのは否定しませんが、それが本業ではありませんので」
 最後の部分だけちょっと強調しつつ応えるトヨミであった。
「そうですか。私もどうしてか魔法少女やらされているので、気になっていたんです」
 桃子とトヨミの世間話が続く横で、蓮実 鏡花(はすみ・きょうか)がどこかうっとりとした表情で二人を見つめていた。
(か、かわいい……! やっぱ魔法少女ってかわいいなあ……それに比べて私はこれだもんなあ)
 自らの身なりを見つめてため息をつく鏡花が顔を上げると、そこにトヨミの顔があった。
「わ! ……えっと、何でしょうか?」
「あ、なんだかため息をつかれていたので、どうしたのかなと思いまして。せっかくの可愛らしい顔が台無しですよ♪」
 トヨミがにっこりしながら言うその言葉に、鏡花が慌てふためく。
「か、か、かわいいわけないだろぉっ!? 私なんかこんな――」
「そうですか? 女性は皆可愛いと私は思いますよ?」
「それって、私もですか?」
 桃子の問いにトヨミが頷き、桃子が笑顔を見せる。その横で鏡花が、「かわいい……私が?」とうわ言のように呟いていた。

「はふぅ、疲れてきましたねー……ウマヤドも見つかりませんし、どこに行ったんでしょう……」
 立ち止まり、浮かんできた汗を拭き取るトヨミの耳に、ちりんちりん、と自転車のベルの音が聞こえてくる。
「壱与様、どうかお待ちになってくれはります?」
「そなたがトヨミさんでいらっしゃいますか? わたくしはイヨと申します。お疲れになられているようでしたらどうですか? 少しの時ですがご案内いたしますわよ?」
 追いかけてくる清良川 エリス(きよらかわ・えりす)の声を無視して、邪馬壹之 壹與比売(やまとの・ゐよひめ)がトヨミに声をかける。
「気持ちは嬉しいのですが、敷地内は乗り物禁止ですよ」
「あら、そうですの。では、エリスさん。わたくしとトヨミさんを載せて、自転車を押しなさい」
「なんで私が――」
 反論しかけるエリスをにっこり笑顔で黙らせて、そして壹與比売とトヨミの会話が交わされる。
「魔法少女はいつまでも魔法少女、いいですわね。女性はいつまでも少女、それでいいではありませんか」
「わ、私もその魔法少女のなり方とか、知りたいどすわぁ」
「むしろ私が知りたいですよー……これから皆さんに講義をしなくちゃいけないみたいなんですけど、どうしましょう……はぁ」
 トヨミが、自ら招いた発言とはいえ、その行為の浅はかさに少しだけ憂鬱げにため息をついた。