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VSゴブリン7

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VSゴブリン7

リアクション

【1・視覚対決!】

 そんなこんなで場所は校庭に移り。
「それでは、第一の勝負。視覚対決を始めたいと思います。代表者、前へ!」
 白井さんの声で、一歩歩み出るブルー。
「さて……まずはワタクシがお相手させて頂きましょうか」
 そして対する生徒側は、七尾 蒼也(ななお・そうや)ペルディータ・マイナ(ぺるでぃーた・まいな)鬼灯 歌留多(ほおずき・かるた)ジョーカー・トワイライト(じょーかー・とわいらいと)デューゼ・ベルモルド(でゅーぜ・べるもるど)コーディ・スコット(こーでぃ・すこっと)の6人が歩み出た。
 ふと、ブルーはその中で歌留多がずっと目を瞑ったままなのに気がついた。
「よろしくお願いしますね」
 着物に身を包みふんわりにこりとした笑顔を見せつつも、やはり閉じられたままの目の歌留多に、ブルーは彼女の意図に気がついた。
「なるほど。心眼使いですか、確かにそういう戦い方をしても結構ですよ……ワタクシもまさに全身が目といっても過言ではありませんからね」
 意味深なブルーの発言をよそに、白井さんが進行を進めていく。
「ではルールを説明します。寄ってきた鳥の数を正確に数えていき、最後まで当てられた側の勝ちです。公平を期すため回答はわたしの合図で同時にお願いします。なお、参加者同士で答えの相談はしないでください。よろしいですね?」
 それに頷きで応える一同。
「それでは、少し待ってくださいね」
 餌がまかれ集まり始める鳩たち。その間、参加生徒たちは雑談を始めていく。
「いや〜、楽しみですねー皆さん。がらにもなくドキドキしてきましたよ。私、こーいうイベントには目がないんですよねぇ。のほほほほほ」
 そう言って笑っているのはシルクハットにタキシードを着、そして道化を模した不気味な笑顔の仮面をつけた出で立ちのジョーカー。格好は奇妙だが、セリフはなんだか軽快であどけない感じであった。
 それに対し歌留多がまたぺこりと会釈する。
「共に全力を尽くしましょう」
「おう! 一緒に勝ち上ろうぜ! みてろよゴブリン、俺の視力をみせつけてやるぜ!」
「やれやれ……ま、やるからには勝ちたいところだけどな」
 のりのりのコーディと、明らかにコーディに付き合わされた感があるデューゼ。
「鳥は魔獣使いにとっては味方も同然! これは負けられないぜ」
「あたしは機晶姫だから、視界に入ったものは一瞬で記録できるわ。この勝負はもらったも同然ね」
 自身の力に自信満々な様子の蒼也とペルディータ。
 そして、
「さて、まずはこんなところですかね。制限時間は十秒、振り向くと同時にスタートです。では……はじめ!」
 合図と共に7人が振り返ると、鳩たちがポルックポルックと鳴きながら縦横無尽に歩き回っていた。それを必死で目で追う7人。
 そんな彼らの集中力を高める方法は様々だった。歌留多は刀を握り締め音や気配の特徴を捉え、蒼也は持ってきたコントローラーを手にゲームモードで挑んでいた。そして他の生徒達もブルーも、十秒間緊張を切らさなかった。
「はいそこまでです」
 白井さんはその言葉と共に、どこから持ってきたのか大きな幕を広げて視界を遮る。
「それでは皆さんよろしいですね? では、お答えを……」
「ピンポーン! 13羽だ!」
 いきなり口でピンポン叫びながら答えを言うのは、すっかりクイズ番組感覚のコーディ。
「いや、あの……説明は聞いてましたよね? 別に早押しクイズじゃないんですから、皆さん同時に答えていただかないと困るんですが」
「ああ、すいません。ったく、なにやらかしてんだよおまえは」
 そしてコーディは呆れ調子のデューゼに怒られていた。
「仕方ありません、次からは気をつけてくださいよ。それでは、そちらと違う答えの方はいらっしゃいますか?」
 他の生徒をはじめブルーも首を振る。全員一致のその答えに、
「ハイ、その通り正解は13羽でした。やはり少し易しすぎましたね。では難易度を上げていきましょうか」
 そしてまた皆に後ろを向かせて餌をまく白井さん。更に多くの鳩が集まっていく。
「時間は同じく十秒です。それでは、はじめ!」
 皆が更に増えた鳩達を数える中、蒼也はおもむろにブルーへ近づくと、
「気になってたんだけどな、おまえゴブリンのくせに語尾が『ゴブ』じゃないのか?」
「うん? ふん……そんなダサい語尾、この蒼い狙撃者ゴブ・ブルーには似合いませんよ」
「ぷっ、登場した時も言ってたけどそのふたつ名の方がよっぽどダサいぜ」
「……余計なお世話です。それより、口より目を動かしたほうがいいのではないですか?」
 そんな蒼也の挑発を受け流すブルー。そうこうしている内に、
「そこまでです」
 白井さんが再び幕を引いた。
「さてさて、ワタクシはまだまだ余裕ですがそちらはどうでしょうか」
「心配しなくても、ちゃんと数えてたさ」
 睨みあうブルーと蒼也。そして、答えが告げられる。
「「「「「「21羽」」」」」」「22羽!」
 6人は同じだったが、ひとりだけ数が違う人物がいた。コーディだった。
「正解は21羽です。そちらの方、残念ですが脱落です」
「え! ちょっと待て! ぜったい22羽だったって、あんたちゃんと数えてたのか?」
「よせ、コーディ。俺も21で同じ答えなんだし、正々堂々勝負してんだ。そういうのはなしにしようぜ」
 なおも白井さんに文句を言おうとするコーディだったが、デューゼに止められ渋々待機中の他の生徒達のほうへと下がっていった。
「こほん、よろしいですか? では続きを始めましょう。ここからは更にレベルをあげていきましょうか」
 そして同様に餌をまく白井さんだが、今度は少し多めに鳩を集めていく。
「さて。このくらいでいいでしょう、では。振り返ってください」
 迎えた三回目の勝負。
「げっ」「おっと」「わ」「……!」「こいつは、また」
 参加者はさすがに声を漏らした。鳩の数は先程より倍近くも増えていたのだから。更に雀やカラスも中に加わり更にわかりにくくなっていた。
「今度の時間は十五秒です、でははじめ!」
 数を数え始める一同だが、さすがに鳥達があっちこっちに歩き回りひしめきあって、これは容易にわかるものではなくなっていた。
「くそ、こうなったら奥の手を使うか……」
 蒼也はぽつりとそう呟くと、スキルの適者生存を発動させようとする。そして、パートナーのペルディータは、それを察して反則をとられないようにするため、
「カ〜ラス〜なぜ鳴くの〜カラスはや〜ま〜に〜♪」
 唐突にカラスの歌を歌い始めた。審判の注意をそらせるという目的のその行動は、確かに白井さんも「?」という様子でそちらに目をむけていた。
「か〜わい〜い七つの〜子がいるか〜らよ〜♪」
(あれ? 蒼也までこっち見ちゃだめでしょ!)
 ただ、打ち合わせしていなかったので、蒼也までそっちに若干気を取られていた。
 だがすんでのところで我に返り、目論見の適者生存を発動させる蒼也。途端、鳥のほとんどはビクリと身体を震わせるやそのまま空へと舞い上がっていってしまった。
「あ……」
 それに気づき、白井さんが声をあげる。
 その場に残ったのはわずか9羽ほどになっていた。
「参ったなぁ……なんでか知らないけど、鳩たち飛んでいっちゃったな」
「そうね。困ったわ」
 すっとぼけてそんなことを言う蒼也達。白井さんもこれには困り顔だったが、
「おやおや、そちらの方は今のを数え切れなかったのですか? ワタクシはきちんと数え切りましたが」
 ブルーのその言葉に、蒼也達は驚いて顔色を変えた。
「白井、ワタクシはちゃんと数えました。答えを言ってもよろしいですか?」
「え? ええ、まあ確かに多少なりとも数える時間はありましたしね……それで答えがわかったというのなら答えあわせをしてみましょうか」
 そして、そのまま白井さんは皆に答えを聞いてみると。
「38羽です」「38羽でしょうか」「38羽ですかね〜」「38、か?」
「40……」「35羽、よ」
 ブルー、歌留多、ジョーカー、デューゼの4人は一致したが。
 蒼也とペルディータは自信なさげに別の答えを呟いた。
「これは驚きましたね。38羽で正解です」
 結果、一気にふたりの脱落が決まった。
「くそっ……作戦が裏目に出ちまった」
「ううん。あたしもいけなかったわ、歌うのに夢中で鳩の方を見ていなかったもの」
 悔しそうにさがるふたり。
 そしてまた新たに餌をまいて鳩を呼び戻しつつ、白井さんは進行を再開する。
「えー。では追加ルールとしまして、鳥の数は最初に集まっていた数で計測します。飛び去ったものもきちんと数に入れてください、ただ、途中で飛んできたものはカウントなしで結構です」
 残るは、ブルー、歌留多、ジョーカー、デューゼの4人。
「それにしても先程のアクシンデントにも対応し、数を把握しておいでとは。少し感心致しましたよ」
「いえ。元よりわたくしは、目に頼らず数を見極めていますから、むしろあれだけ動いてくれたほうがわかりやすいくらいですわ」
「私は奇術や芸を嗜むもので……動くものはボールやカードを目で追ったりして慣れていますからね、目にはそれなりに自信があるんですよね〜」
「べつに誉められることでもない。運がよかっただけだ」
 それぞれ受け答えをしながらも、さすがに全員余裕がなくなり始めていた。
「さて……それでは、鳩も集まりましたので。勝負を再開します、はじめ!」
 始まる四回戦。
「10、20、30、40、と。ふふん、まだまだ余裕ですね」
「あら、あの子は彼女が気になっているのかしら……ふふ」
「このくらいなら、まだトランプの方が数が多いですからね〜」
「戦場にはこのくらいの敵はいたが、斥候の類は俺の役割ではなかったからな……」
 それぞれの感性でカウントをしていく彼らが十五秒後に告げた答えは、
「「「46羽」」」「45羽」
 またも分かれていた。唯一別の答えをしたのはデューゼ。彼が正解なら生徒達チームの勝ちだが、彼はやや眉根を寄せていた。
「正解は……46羽です!」
 無情にも告げられる白井さんの答え。
「くそ、1羽見逃してたか。俺もまだまだだな」
 潔く諦め、コーディの元へとさがるデューゼ。
 そして白井さんは更にまた餌をまき、集まり続ける鳥達。ここまでくると、もう辺りが鳥だらけになってえらいことになっていた。鳥の糞とか掃除が大変そうだな……と見物中の生徒達は思うのだった。
「さあ、はじめ!」
 そして始まる五回戦。ここまでくると奥の方にいる雀などは、若干隠れてしまい見ることさえ困難な状況になっていた。それにカラスに押されて飛び去ってしまう鳥も増えていく。つまりは地面と空と、両方に意識を向けねばならず、
「…………」
 もはや喋る余裕なしでブルーは目を上下左右くまなく動かし、数を数えていく。
「慌てず焦らず、落ち着いてやれば問題ありませんわ……」
 目をきつく閉じ、刀を水平に構え、スキルの超感覚や殺気看破を併用する歌留多。
「動体視力にも自信はありますが、さすがにここまでくるとキツいですね〜、のほほほ〜」
 口調こそ軽快だが、ジョーカーの額にも数滴の汗がにじみ出ていた。
 参加者には短く、他の見物人には長く思える十五秒が経過した。
「そこまでです! では、お答えを……どうぞ!」
「60羽です」と、ブルー。
「59羽ですわ」と、歌留多。
「61羽ですね〜」と、ジョーカー。
 三人の回答に、辺りにどよめきが走った。
「おっと……答えが分かれました。ついに勝負に決着がついてしまいました」
 答えを唯一知る白井さんに、注目が集まる。
 勝ったのは果たして……?
「では、ここで一旦CMです」

 …………。

「誰もツッコミ入れてくれませんでしたね。すいません、ボケがスベリました」
 そんなKYな白井さんに痛い視線が向けられた後、ついに答えが発表される。
「正解は…………60羽です!」
 おぉおおおお! と歓声や悔しそうな声がそこかしこからあがる。
「これにより、視覚対決は我らゴブリン7の勝利となりました!」
「負けてしまいましたわね……」
「ええ。紙一重といったところでしょうか〜」
 白井さんの声に落胆するふたり。そんなふたりに、視線を向けるブルー。
「よい勝負でした。アナタの心眼も、アナタの動体視力も、常人を遥かに超えるものでしたよ。数があれ以上増えていたら、負けていたのはワタクシの方だったかもしれません」
 その言葉と共に、最初の対決がまず終わりを告げたのだった。

          *
《途中経過》
          生徒達VSゴブリン7
視覚対決      × ―― 〇
聴覚対決   
触覚対決   
嗅覚&味覚対決
第六感対決   
           0 ―― 1