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【十二の星の華】変心のエメネア

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【十二の星の華】変心のエメネア

リアクション



 図書館で重要な文献といえば、地階などの書庫に保管しているのではないか。
 そう考えた影野 陽太(かげの・ようた)は1階の床や壁、棚を調べていく。
 床や壁の中に階段や通路が隠されているなら、他の部分より音が変わるだろうと、コツコツと叩いて、音を確かめる。
 また、棚の配置を見て、おかしな配置の棚があれば、動かせる範囲で動かしてみたりしてみた。
 けれど、フロアを半分調べてみても、それらしきものは見当たらない。
(ないかもしれないけれど、それはそれで、地階があるという選択肢を潰せるわけですし……)
 半ば諦めながらも残り半分を調べ始める陽太であった。



 制服の上だけをチュニック風に着込んだ九弓・フゥ・リュィソー(くゅみ・ )は、古代図書館である以上、移動の難しい文献が多いであろうことを考えて、動画を撮影できるよう、ビデオカメラとそれに付随する道具を持って来た。バッテリーなど、重たいものは空飛ぶ箒に括りつけて、引き歩いている。
 九鳥・メモワール(ことり・めもわぁる)は、小型飛空挺に乗り込んで照明役も兼ねて、天井近くを移動している。
「んー、この辺りの一角は、学校の図書館にもある本ばかりのようですわ」
 比較的新しく、崩れの少ない本を見つけたマネット・エェル( ・ )は、学校の図書館で見た覚えのあるタイトルに、肩を落とす。それでも背表紙は全て、映像に残し、更に歴史的価値のありそうな本を求めて、3人は更に奥へと進んだ。
 本棚の角を曲がったところで、3人はネズミ型モンスター十数体と出くわした。
 すぐさま、マネットが試作型星槍を構える。小型飛空挺の上で、九鳥も星輝銃を構えた。
 モンスターに向かって、槍と必殺の拳を繰り出すマネットが纏う白いファーコートと同色のドレスが、薄暗い図書館の通路で舞う。
 彼女が討ち漏らしたモンスターを上方から、九鳥が放つ銃弾で、倒していった。
 あっという間に片付いたモンスターたちは放っておいて、3人は文献を探して、奥へと進む。
「この辺りはとても古そうですね。背表紙も古代文字のものと、今の文字のものが入り混じっていますわ」
 新たに見つけた本棚の本を撮影する九弓に合わせて、マネットがコメントを添える。
「ほら、上がお留守よー?」
 上方で照明役をしている九鳥の目の前の辺りに、本があることに気づいて、声をかける。
「忘れてないわ。下を終えたら、撮影するつもりだったの」
 九弓は空飛ぶ箒にまたがって、その上方にある本の背表紙も映像に収めた。
 形の残っている本を比較的力の弱いマネットが手にする。それでも、中のページを止めている紐や糊は意味をなさなくなっており、バラバラとページが散らばると共に、埃を巻き上げた。
「けほけほっ」
 巻き上がる埃に、マネットは咽る。
 散らばったページをかき集め、ページ1枚1枚の静止画も残した。



「階上うるさいよ!」
 騒がしい最上階に対して、一ツ橋 森次(ひとつばし・もりつぐ)は声を上げる。上げたところで、静かになるものではないのだけれど。
「何かが出たのはないですか? 廃墟だというのに、怖いです……」
 少し離れたところで、彼のパートナー、セシル・グランド(せしる・ぐらんど)が呟いた。
 セシルが保護結界を施し、離れていても森次に危険が迫れば分かるようにしておいて、それぞれが本棚を見て回った。
「虫食いなら、飛ばし飛ばしで読めるかも」
 手にした本が崩れないことが分かると、森次はそっとその本を開いた。
 中はところどころ虫に食われているけれど、確かに読めなくはない。
 ただ、飛ばして読んでみると、文章が繋がらなかったりするために、理解できないところもあった。
 後で、虫食い部分を考えてみようと、食われていないところを森次はメモに書き留めていく。
 壊れた銅像も気になったため、館内に同じようなものがないかと探して回ってみたけれど、内部にはなかった。



「ヘルの嗅覚には期待していますよ」
 パートナーの強盗 ヘル(ごうとう・へる)と共に、ザカコ・グーメル(ざかこ・ぐーめる)は特殊なフィルターを貼った布を纏い、不要な戦闘を避けながら、1階から順に文献を探して回る。
「匂うぜ……お宝の香りがよ」
 嗅覚、もとい、宝物のありそうな場所を感で探り当てるスキルを使用しながら、ヘルは本棚がぎっしりと並ぶ通路の間を奥へと進んでいく。
 辿り着いた一角には、いくつか形の残る本が残っていた。
「お? この本なんて高く売れそうじゃねえか?」
「売る売らないの問題ではありませんよ」
 装丁の豪華な本を手に、ヘルが告げると、ザカコは眉を寄せた。
「固い事言うなって。それに風化したりモンスターに破られるより、今俺達が保護した方が有意義だろ?」
「それもそうかもしれませんが。中身も大事です。見せてください」
 ヘルからその本を受け取ったザカコは、ところどころ剥がれそうになるページに気をつけて、目を通していく。
 女王器に関する記述は書かれていない。
「古い文献としての価値はあるかもしれませんが、求める情報はありませんね……」
「んじゃ、ま、確保しとくか」
 人目に触れないように、身に纏う布の中へとヘルは隠す。
 ザカコは希少価値のある本を求めて、次の本へと手を伸ばした。



「てか広―ッ! どんだけデカイんだよこの遺跡!」
 1階だけでも広かったというのに、更に2階3階とあるのだ、あまりの広さに2階へと上がってくるなり、大野木 市井(おおのぎ・いちい)は声を上げてしまう。
「誰かも言ってましたが、ここは図書館だったみたいですね…尤も本の類は殆ど残ってないようですが」
 1階を軽く歩いて回った結果、大した成果が得られなかったマリオン・クーラーズ(まりおん・くーらーず)が呟く。
「それにしても、えらく上が賑やかだなぁおい。山葉が脱いだか?」
 3階から微かに聞こえてくる話し声を耳にして市井はぼやく。
「まあ、かなりの人数が登ったみたいだし全裸になる前に止めが入るだろう」
 涼司が脱いだこと前提で、納得すると、1階同様、2階を探索すべく、歩き出した。
「女王器はさ、シャンバラ女王の印だったわけだよな? 日本の三種の神器みたく、だったら」
「ええ、その情報を表の書庫に出しておく、なんて事は考えにくいんです。ですからどこかに積層書庫の類があるかと」
 市井とマリオンの2人が探しているのは隠された書庫だ。1階にはそれらしきものは見つからなかった。
「2時の方角からネズミが迫っています! 急いで逃げてください!」
 本棚の間の通路を進む2人の後ろから、カモノハシの頭部を持つ獣人――加茂乃橋 三郎太(かものはし・さぶろうた)がやって来た。
 彼のパートナーであるアーキス・ツヴァインゼファー(あーきす・つゔぁいんぜふぁー)は、2階と3階の踊り場から、2階の様子を眺めている。学生たちが危険な目に合わないように、護衛のために。
「ネズミだって!?」
「敵襲ですか!? そこはこのクッキーを1つ……」
 隠れてやり過ごそうとする市井に対して、マリオンは手作りクッキーを取り出そうとした。
「クッキーなどでモンスターがつれるとは思いません! 急いで……!」
 三郎太に促され、マリオンは取り出したクッキーを渋々仕舞いこんだ。
 そこへネズミ型モンスターが現れる。
「やべ、もう来た!!」
 慌てて隠れる市井。
 しかし次の瞬間、現れたモンスターへと機関銃の弾が降り注ぎ、弾幕が貼られた。
 その幕に隠れるようにして、三郎太は2人を階段の辺りまで導いていく。
「戦う気がないなら、さっさと逃げろ。邪魔になるだけだ」
 階段の踊り場からかけられる声はアーキスのものだ。
 教師として学生を心配する傍ら、厳しく当たることで危険な遺跡の中だということを知らせようとしているのだ。
「はい」
「すみません……」
 市井とマリオンは頷き、アーキスがモンスターを退治し終えてから、また通路の間へ、隠し書庫を求めて、歩き出した。



「ふむ、女王器の情報は貴重な情報として扱われていたであろう……ということは、遺跡の中でも厳重に保管が可能なように、部屋が分かれていたと考えられる」
 四条 輪廻(しじょう・りんね)が考え抜いた先もフロアにある本とは別の書庫の存在だ。
 パートナーのアリス・ミゼル(ありす・みぜる)と共に、遺跡内を歩いて回り、ノートにフロアの造りを書き記していく。
 フロアそのものは柱で支えられているだけの大きな1部屋だ。隠されているような空間はない。
「特に隠しはしていないのか?」
 作成した地図を睨むように眺めた後、輪廻はそう答えに辿り着いた。
 それでも諦めず、隠された空間がないか探しながら、通路を進む。
「……読めないのです、つまらないのです」
 適当な1冊を手に取ったアリスは、ミミズののたくったような文字を前に、ぼやいた。
「……機械工学の本とか、漫画とか、同人誌ないですかね」
 最初は兎も角、あとのものはないのではないだろうか。
 そんなことを思いながらも輪廻は、彼女と共に、本棚の間の通路を突き進んだ。



「とりあえず、まず女王器っていうの一体なんたるかということを図書館で調べなくっちゃね♪」
 実を言うと女王器に関して、あまり知っていない岬 蓮(みさき・れん)は、そう意気込んで、遺跡の奥へと来ていた。
 読めない文字が背表紙を飾っている中、漸く辿り着いた読めそうな1冊の本。
 それを手にした蓮は、早速、中を開いてみる。
「……難しい文字ばっかり、知らない文字ばっかり……あーあ、この辺に漫画とかないのかなぁ……」
 言葉の言い回しの難しさ、難読漢字など、読んでいて頭の痛くなるような内容に、早々に蓮は音を上げる。
「ねえ、アイン――」
 難しいことはパートナーへと任せてしまおうと蓮は振り返った。
「言ってる暇があんなら、黙って調べろや……後、こんな古い遺跡に漫画なんてあるはずないわ……」
 彼女の後ろで、別の本へと目を通していたアイン・ディアフレッド(あいん・でぃあふれっど)が振り返った蓮に向けて、喝を入れる。
「ご、ごめんなさい……」
 アインのすごみに負け、蓮は頭を垂れ、反省する。
 神話が好きだという蓮に、そういった方向から調べようかと提案し、2人は調べる本棚を変えるため、移動した。



 女王器に関する情報を調べることは他人に任せて、自分たちは皆が調べものに集中できるようにモンスターを退治しようと、霧雨 透乃(きりさめ・とうの)とパートナーの霧雨 泰宏(きりさめ・やすひろ)は、遺跡の中を歩き回っていた。
 既に多くのネズミ型モンスターや見えないモンスターを相手にしている。
「1階にはもう居ないよね?」
「2階に上がるか……ん?」
 辺りを見回して呟いた透乃に応えた泰宏は、ふと壁の間に微かな亀裂を見つけた。
 透乃に伝えて、少しだけ押してみると、外の景色が見える。入り口とは丁度南北間逆のところにある。裏口といったところか。
「念のために退路は多い方がいいよな」
 言って、泰宏が扉を完全に開け放った。
 扉が開いた先には、左右に四角い台座があり、その上にそれぞれ石像が鎮座している。
 石像の形は、コウモリのような翼を持つ怪物のようだ。
「ガアアァァァァァァァッッ!!」
 左右それぞれの石像がぐるりと内回りで首を動かし、遺跡の中から現れた2人の姿を見つけると、襲い掛かってきた。
「門番ってところね。襲い掛かってくるなら、倒すまで!」
 透乃は扉を蹴って、泰宏と石像の怪物を挟み撃ちにすべく、背面へと回った。
 怪物の片割れが、背面へと回った透乃の方を向き、鋭い爪の生えた腕を振るってくる。
「っ!」
 咄嗟のことに避けきれず、透乃はその爪を喰らってしまうけれど、爪が強化スーツを貫くことは出来ず、痛みは受けない。
「いくぜえええええ!!」
 泰宏の掛け声と共に、2人は同時に武器を続けざまに繰り出した。
 ハルバードが石像の腕を削る。盛夏の骨気を装着した拳が、その腕へと叩き込まれれば、火柱が上がった。
「やっちゃん、続けてやっちゃうよ〜!」
「ああ」
 石像の怪物へと、反撃のタイミングを与えないように、次の攻撃を繰り出す。
 それでも怪物は時折、タイミングを見計らって、反撃を仕掛けてきた。その攻撃を受け流し、確実に痛みを重ねていく。
 十数分後には、2人の前に、砕けた石像が転がっていた。



 ブラックコートを纏った桐生 ひな(きりゅう・ひな)は、誰かと回るでなく、1人、1階を歩き回っていた。
 彼女は支柱の位置を調べては、その支柱の周りに油を撒いていく。
 モンスターと出逢うことで戦わなければならない時間もロスだと思ってしまい、ひなは常に近付いてくる害意へと注意を向けた。少しでも害意を感じれば、調べていない支柱であろうと、回避していく。
「あとは、あちらとその4本くらい先の柱に撒きましょう」
 全ての支柱を把握することは、1人である以上難しいだろう。
 壁よりの場所からフロア全体を見回して、ひなは要所の確認をすると、その要所である支柱に向かって、歩き出した。