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その正義を討て

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その正義を討て
その正義を討て その正義を討て その正義を討て

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第6章


 その頃のノーブル・ファントムこと佐々木 八雲。
「はー。今日はいい天気ですねー」
 重い荷物を苦労して運んでいたご老人の荷物を持ってあげて、お礼にお茶とお菓子をご馳走になっているところだった。
 縁側でお茶をすすれば、お日様がぽかぽかと気持ち良かった。
 (『その頃の高峰 結和』はお休みします)

「ふんっ!!」
 ヤンキーを一本背負いで投げ飛ばした男はマイト・レストレイド(まいと・れすとれいど)。自他共に認める『刑事馬鹿』である。
「ったく……器物破損と窃盗の容疑で逮捕だ」
 ちなみに投げられたのは山本 ミナギ配下のプリチー隊である。正義マスクが去った後も同様の正義、という名の無法行為を行なっていたプリチー隊であるが、刑事を目指して日々活動中のレストレイドに取り押さえられてしまったのである。
「今日はどうなってるんだ、一体」
 街に出たレストレイドは、あまりに街が混乱しているので一部暴れている連中を鎮圧するため自主的にパトロールしている最中だ。まだ正義マスクを着けたブレイズは誰かと戦っているのだろうか、遠くの方から爆音が響いてくる。
「……さすがにあれには直接手を出せないか」
 超人的な力で暴れまわるブレイズは、一人の力でどうにかなるものではない。
「大概にしろ! この!!」
 やや遠くに見えたブレイズに魔道銃をぶっ放したのは伏見 明子(ふしみ・めいこ)。通りすがりのパランディンとして市民の避難誘導を行なっていたのだが、刑事役のレストレイドといた方が効率的に動けるだろうと、行動を共にしていた。
 明子が撃った弾は当ったかどうかは分からないが、威嚇としては一定の効果があるだろう。とりあえずこの辺の住民が避難するまでは時間を稼ぎたい。

「……あの、ちょっといいかな?」
 その二人に声を掛けたのが天司 御空(あまつかさ・みそら)とパートナーの白滝 奏音(しらたき・かのん)だった。
 御空は偶然道に迷ったこの街で、正義マスクの騒動を聞いた。さらに銀行強盗や火事の話も。そして気付いた、物事があまりに集中しすぎていることに。

「……つまり、誰かが意図的に正義マスクというアイテムをばら撒いたってこと?」
 明子の問いに、頷く奏音。
「ああ。これを見てくれ。この街の地図なんだが、とりあえず片っ端から住民の話を聞いて回って印をつけてみた――正義マスクの出没ポイントだ」
 見ると、赤いバツ印が付けられた地図は、確かに円を描いている。
「つまり銀行強盗には黒幕がいて、正義マスクをばら撒いて街に騒動を起こし、その隙に銀行強盗を手引きした奴がいるってことだな?」
 レストレイドは刑事魂を燃え上がらせた。そんな奴は即刻逮捕だと息巻いている。
「そうだと思う……それで、地図上はここが怪しいと思ったんだ」
 そこは、一軒の廃工場だった。
「なるほど……たしかに敷地は広いし、あまり人も近づかない。隠れ家には持ってこいってわけね」
 明子はひっそりと三人の後ろに着いて来ている。御空の考えが正しければここには真犯人がいるはずなので、魔道銃をその手に構えていた。
「そうなんです……さあ、突入ですよ!」
 同じく魔道銃を構えた奏音の合図で、一同は廃工場に突入した。
 中には、昔は工場として使われていたのだろう、様々な機械が打ち捨てられている。その中に一人、たたずむ男がいた。
「お前は!!!」
 レストレイドが叫んだ。
「知っているのか?」
「ああ……先月、脱獄した囚人の一人だ。こんなところに潜んでいたとはな」
 ごくりと、唾を飲む。その男は、ゆっくりと喋り出した。

「――あれだけ陽動したのに、ここが見つかるとは思わなかった。とんだ名探偵がいたものだな」
「動くな! 脱獄に強盗に放火に……聞きたいことは山ほどあるが、署で話して貰おうか!!」
 警告するレストレイドだが、男は意にも介していない。
「……君が名探偵かね。」
「天司 御空だ。観念しろ、警察にはもう連絡してある、逃げられはしないぞ!」
 男は、喉の奥でクックックと笑った。
「何がおかしいのですか!!」
 奏音の構えた魔道銃もまるで見えていないかのようだ。
「今さら、警察が何の役に立つというのだ!? 大した名探偵だったが、考えなかったのか?」
 何を? という疑問の前に、男は懐からひとつのマスクを取り出した。

「正義マスクをばら撒いた者が、それを上回るアイテムを持ってないとでも思ったのか!!!」
 そのマスクは黒く、正義マスクと同じような形状だが、その雰囲気は禍々しく、負のオーラに満ちている。
「いかん!!」
 レストレイドの声を合図に、明子と奏音の魔道銃が火を吹くが、マスクを装着して宙に浮いた男には全く通用しない。
「これは『クライム仮面』!! 劣化版として作られた正義マスクを私がばら撒いたのさ!!」
「何だと!?」
「く……すごいパワーだ」

「……クライム仮面……正義マスクといい……あなたが名付けたの?」
 恐る恐る聞く明子。
「いかにも」
 大きくうなずくクライム仮面。自分では気に入っているのだろうか。

「……センスないわね、あなた」

「やかましいーーー!!!」

 廃工場は、一瞬にして怒りの炎に包まれた。とりあえずその場を逃げ出す一同。逃げながらも、明子は言った。
「あららららら、気にしてたのかな!?」
「言ってる場合か!!!」
 総ツッコミであった。


                              ☆


 それより少し前。
 ルルールの触手のおかげで図らずも自由の身となったブレイズを、建物の陰から呼び止める女性がいた。リリィ・クロウ(りりぃ・くろう)だ。

「あの……ちょっとよろしいですか、ご相談がありまして」
 正義マスクの力ですっかり回復したブレイズ、か弱い女性が相談ごととあっては放っておけない性分だ。
「おう、なんだ?……暗いな」
 昼なお暗い建物の陰では、リリィの顔もうっすらとしか見えず、その表情は読めない。見ると、手にはフェイスフルメイスを持っている。護身用だろうか、とブレイズは思った。
 実際、少なくとも外見的には品が良く、清楚な雰囲気を醸し出しているリリィがそのメイスを振るう姿を積極的に想像はできない。
 だが、彼は見落としていた。良く見るとそのメイスには細かい傷が多く、実は使い込まれた一品であることを。
「わたくし、僧侶として修行している者ですの。今日はお買い物でこの街に来たんですけれど……何だか凶悪な事件が多くって……」
「ああ、そうなんだ。だが心配ねえ。この正義マスクがいる限り、すぐに悪党どもを蹴散らしてやるぜ!」
「……まあ頼もしい。けれど……そうやって暴れられますと、正直言って迷惑ですのよ?」
「え?」
 いつの間にかリリィが間合いを詰めていた。そして相談事をしながらもリリィの利き腕はスムーズに動き、まったく殺気を感じさせずにその手に持ったメイスでブレイズを殴打する!!
「ただでさえ、パラ実というだけで世間からは色眼鏡で見られますでしょう?」
 殴打する!!
「課外活動に熱心なのはよろしいのですけれど……」
 殴打する!!
「もうちょっと場所を選んでいただかないと……」
 殴打する!!
「もっと荒野とか山奥とか、周りの迷惑にならないあたりで……」
 パワーブレスをかけてさらに殴打する!!

 殴られているブレイズは、相談事をされているのか殴られているのかもう良くわからない。
 何しろ僧侶としての修業を重ねているリリィ、その口調はあくまでも穏やかで耳に心地よく、またリリィ本人もあくまでブレイズを懲らしめたいだけなので、殺意や憎しみ、怒りなどの感情がなく、結果として殺気を感じさせない攻撃となる。
 まあ『最近野菜が高くってねえ』というようなテンションで攻撃されても困る、という話だ。

「ちょ、ちょっと――」
 待てよオイ、とブレイズが何らかの反撃を試みたその時、二人に影を落としている建物の上からブレイズ目がけて、リリィのパートナーであるマリィ・ファナ・ホームグロウ(まりぃ・ふぁなほーむぐろう)が飛び出してきた。
 血煙爪の独特なエンジンを響かせつつも、マリィはブレイズの脳天目がけて振り下ろす!
「受けてみやがれっ! こん畜生っ!」
 いわゆる闇討ちである。
「――!!」
 咄嗟に、ブレイズは両腕をクロスさせて頭上をガードした。腕に付けられたリベットが血煙爪の刃に当り、激しい火花を散らす!!
「受け止めた!? ――でも構うもんかっ!!!」
 だが、マリィは建物から落下してきた勢いを利用してそのまま血煙爪を押し込んでいく。エンジンの駆動音が周囲に鳴り響き、暗がりの中で激しく飛び散る火花がマリィの赤く染められたロングヘアーを照らした。がくり、とブレイズの片膝が落ちる。
 リリィと買い物に来ていたマリィは、人が集まる前に片付けたくて闇討ちによるスムーズ&サイレントな解決方法を提案したのだが、こうなっては仕方ない。
「このまま、腕ごと叩き切ってやるーーー!!!」
 物騒な台詞と共に勢いを増す血煙爪。だが、ブレイズもただやられっぱなしではない。
「切られて……たまるかよ!! 正義スパーク!!!」
 ブレイズの全身から激しい電撃が発せられた。血煙爪とリベットの火花と相まって、もの凄い騒音と閃光である。

「でりゃあああ!!!」
「うおおぉぉぉ!!!」

 もはや人目につかないようにという当初の目的もどこへやら、マリィはますます勢いを増していくが、血煙爪が正義スパークの電気でバチバチとショートしかかっていることに気付いた。
「――やばっ!」
 だが、電撃も長くは続かなかった。電撃と火花に照らされたリリィが、がら空きになったブレイズの胴体にバニッシュを仕掛けたのだ。
「フッ!!」
 そして間髪入れずに両手で持ったメイスによるフルスイング!!!
「うおわぁぁぁ!?」
 神聖なる神の力を無理やりねじ込むバニッシュストライクに、ブレイズもたまらず野地裏から放り出された。そのままゴロゴロと転がって行く。
「――ふぅ、少しは反省して下さるかしら。マリィ、怪我はありませんか?」
「へっ! そんなヘマするあたいじゃねーよ! 姉貴ヅラすんなバーカ!」
 軽口を叩きながらもマリィの顔は笑っている。なんだかんだで最近はそこまで仲の悪くない二人なのだ。

「――くそっ!! なんつう僧侶だ!!」
 転がって通路に出たブレイズを、見下ろしている女性がいた。ルナティエール・玲姫・セレティ(るなてぃえーるれき・せれてぃ)である。
「……探したぞ、お前がブレイズか」
「へっ……今日は来客の多い日だな」
 ルナティエールの視線を見れば、好意的な用事でないことはすぐに分かる。立ち上がったブレイズはファイティングポーズをとる。
「正義の名を盾に力のみを振るい、多くの人々を脅かすお前を、見逃すわけにはいかない!」
「……」
「その悪行、セレインナーガが裁く! 変身!!」

 ルナティエールが神楽鈴による舞を始めると、同行していた魔鎧エリュト・ハルニッシュ(えりゅと・はるにっしゅ)が装着されていく。
 瞬く間に、しなやかなボディは紫のボディスーツで覆われ、優美な白い軽鎧に包まれていた。見ると、白蛇の装飾が施されている。
 白い腕あてにハイヒール型具足、白いメットから覗いた口元には優雅な笑みがこぼれる。花びらのような翼のついたメットの奥では、紫水晶のような鮮やかな紫色の瞳が光り、月の光を思わせる長髪が風にたなびいた。
「オンステージ! セレインナーガ!!」
 
「……どいつもこいつも、正義の味方ってえのは力づくが好きなんだな」
「お前が話して分かる相手ならば、苦労はしない。それとも、今すぐそのマスクを外して迷惑を掛けた住民に謝罪する気があるというのか?」
「願い下げだね!!」
「ならば分からせるまで! 真の正義の舞、見せてやる!! サーペントバイト!!」
 強化型光条兵器のルミナスシミターである『サーペントバイト』を取り出すセレインナーガ。またも正義を名乗る者同士の戦いが始まった。

 ルナティエールのパートナーであるセディ・クロス・ユグドラド(せでぃくろす・ゆぐどらど)はその戦いの最中、仮面の白騎士・ディバインロードとしてセレインナーガを守りながらもブレイズに説く。
「ブレイズ、まだ分からんのか! 正義の味方と――ヒーローとなるならば、人が人を裁くという罪と哀しみを背負わなければならない!」
「うるせえ! 俺の知ったことか!! 俺はただ――正義の行ないを、人助けをしていただけだ!!」
「その意味を理解せず、その覚悟もないならば、お前はただのならず者に過ぎないのだぞ! 目を覚ませ!!」
 ディバインロードの紅蓮の槍とセレインナーガのサーペントバイトによるダブルアタック!!
「正義スパーク!!!」
 跳ね上がった空中でスパークする両者のパワー。正義マスクを着けたブレイズのパワーは衰えることを知らない。セレインナーガとディバインロードは見事なコンビネーションで補っているものの、そのパワー不足は明らかだ。

 その戦場に、突如一台のバイクが割り込んできた。
 男女の二人を乗せた大型のバイクは地の底から響くような轟音を轟かせ、ブレイズたちの前で止まる。
「よう、やってるな。セレインナーガ」
 緑の髪に金色の瞳。鋭い眼光の奥に優しさと強さを兼ね備えたその男――武神 牙竜(たけがみ・がりゅう)は、後ろの座席に乗ったパートナーの魔鎧、龍ヶ崎 灯(りゅうがさき・あかり)に静かに告げた。
「行くぞ、灯」
 右手に装着した変身アイテム、リュウドライバーに変身カードをセットする。
「はい! カードインストール、セットアップ!」
「変身! ケンリュウガー!!」
 バトルスーツ姿に変身した牙竜は、セレインナーガと交戦中のブレイズを睨みつける。ブレイズもまた、その視線を感じていた。
「――てめえも、俺に説教くれて、止めにきたってわけかい……」
「……」
「ちっくしょう……どいつもこいつも……」
 ぐっ、とブレイズはセレインナーガとディバインロードの攻撃を両手で受け止め、一瞬の溜めを作る。

「なんだってんだーーー!!!」

 激しい感情の爆発と共に、今までよりも一層激しいスパークがほとばしる。その威力に間を置くセレインナーガとディバインロードだが、牙竜はそのブレイズを指差し、告げる。
「俺たちは、パラミタで正義のヒーローを目指して戦ってきた。その中で救えた命もあれば……救えなかった命もある。正義の二文字に込められた重さ、お前にその重さを背負う覚悟があるか、ブレイズ・ブラス!!!」

「うるせえっつってんだよー!!!」

 ケンリュウガーの言葉にさらに逆上するブレイズ。戦いはさらにヒートアップし、もはや止められる者は誰もいなかった。