シャンバラ教導団へ

百合園女学院

校長室

薔薇の学舎へ

【ロリオとジュエリン】愛とは奪い合うもの

リアクション公開中!

【ロリオとジュエリン】愛とは奪い合うもの
【ロリオとジュエリン】愛とは奪い合うもの 【ロリオとジュエリン】愛とは奪い合うもの

リアクション


第3章 Avec la nourriture l’attrape.-食べ物でホイホイ-

「あらあら、変わった食材が屋敷を囲んでいるわね♪」
 屋敷に攻め込もうとする黒光りする妖怪たちの集団を遠くから眺め、お料理メモ 『四季の旬・仁の味』(おりょうりめも・しきのしゅんじんのみ)は口元をニヤッと笑わせる。
 毎回、パートナーの椎名 真(しいな・まこと)が、面白い事件に遭遇していることを知り、遊びにきたようだ。
「しょっ、食材!?」
 彼女の言葉に彼はビクッと身を震わせる。
 孤島の施設の牢獄で見たアレにそっくりの生物を凝視し、思わず後退りをする。
「たっぷりの油で、からっと挙げたらスナック感覚になるかもね?」
「あのー・・・その空鍋は・・・?」
「はい、これ♪」
「いや・・・。はいって、どういうことかな?」
 ぽんっと鍋を手渡された瞬間、嫌な予感がしてならない・・・。
「これにいっぱい集めて料理するのよ。もちろん、まことんがね♪」
「―・・・えっ、ぇえ!?でも、料理といっても・・・」
「安心して。火術でちまちま加熱してあげるから。鍋を持ったままでも、さっと揚げるくらいなら出来るわよ」
「って、そういうことじゃなくって!―・・・アレを料理するのはちょっと・・・」
 拒否しようとするものの本気モードの彼女を目の前に、だんだんと小さな声音になっていく。
「それに。丁度いいヒミツハウスを用意しているし」
 真の拒否したい気持ちをスルーし、ちらりと百科事典 諷嘉(ひゃっかじてん・ふうか)を見る。
「ダンボールの床に、べったりと接着シートを敷いて・・・。ハウスっぽく屋根もセットするのですぅ〜♪」
「なぁ諷嘉、それってもしかしてアレか?」
 明らかに“トラップ”だと分かるソレを、滝川 洋介(たきがわ・ようすけ)が指差す。
「うん?そうですよぉ〜。アノ害虫におつむが似てるなら、かかると思うのですぅ〜」
 諷嘉は自分がかからないように、ハウスの両サイドに梯子をかけ、いそいそとテーブルや椅子をセットしていく。
「じゃじゃ〜ん!この格好なら怪しまれないですよねぇ」
 キグルミを被り、にゅっと手足を出す。
「顔も見えるですから、諷嘉と分かるはずなのですぅ〜」
「エサはどうするんだ?」
「ん〜、あっ!あれを使いましょう〜♪」
 食い散らかされたハンバーグやクッキーをテーブルの上に置き、芝生の上に戻ると梯子を退ける。
「誰のだ、それ」
「知らないですぅ、そこに落ちてただけですからぁ〜。見た目が悲惨なことになっていても、何でも食べるやつらですからぁ。コレで大丈夫なのですぅ〜」
「まぁ、エサがないとスルーされるかもしれないしな」
「これで準備万端なのですぅ〜♪後は、皆がやらをこっちに寄せてくれるだけですねぇ〜」
 オペラグラスを覗き込み、戦況の様子を確認する。



「むっ、門の外に誰かいますねぇ〜?」
 諷嘉の視界の先には、セレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)が群れを眺めながら考え込んでいる。
「きっと何か、駆除するための作戦を考えているに違いないのですぅ〜っ」
 彼女の真剣な眼差しに、そんな凄い作戦を脳内で立てているのか気になり、じっと見つめる。
 そんな諷嘉の期待を知らないセレンフィリティの思考は反れ始めていた。
「ジュエリンを狙っているやつって、やっぱアレよね。ネーミングからしてそうだし。もしもアレに捕まったら・・・」

 -セレンフィリティの妄想劇・放映-

 政略結婚の婚約者とはいえ、互いを大切に思っている恋人が引き裂かれる・・・。
 それを聞いただけでも、十分な悲劇!
 よりによって人から嫌われる生物、アレから求婚されてしまうとは。
 無理やり連れ去られそうになる彼女・・・。
 あまりにも残酷で酷過ぎる!!
 アレは人のものを勝手に奪っていく略奪者。
 さらに人の恋人だろうと、平気で略奪愛まで・・・!
 しかも捕まれば、アレに組み敷かれて身も心もズタボロに・・・・・・。

「こっちに来ないですねぇ?」
 門の前に突っ立ったまま、なかなか参戦しようとしないセレンフィリティたちを見つめ、諷嘉が首を傾げる。
「それなら俺がやつらを片付けてやるまでだ。悪党は格闘家に弱いって昔から言うしな!いや、奴らは虫かぁ、ならば俺の炎で焼きつくすぜ!」
 同じツラをした集団に向かって洋介がビシッと指を刺す。
「おいこら、人を指差すな!」
「黙れ!そもそも虫っていうか、害虫の部類だろっ」
 どんなに人の姿を真似ても所詮、害虫は害虫だというふうに言い、フンッと鼻で笑い飛ばす。
「えーっと、何つ子?」
 真は鍋を抱えたまま、同じツラの兵たちを、きょとんとした顔をして見つめる。
「人じゃない、ゴキの妖怪だ」
「へっ、ぇえ!?」
 洋介の言葉に“みんなアレなのか!?”と、驚愕の声を上げ、目の前で人の姿になっていく兵にぞわっと鳥肌を立てる。
「俺のこの手が真っ赤にバーニング!お前ら倒せと魂叫ぶぅぅぅっ!爆熱ッ!神のぉぉ!ゆびぃぃぃぃぃッ!!燃えぇっ!尽きろっ!」
 バーストダッシュか!?と思うほど、恐ろしいスピードで迫る兵に、洋介が爆炎波を放つ。
 ドゴゴゴォオオーーッ。
 火柱が立ち燃やされた兵が悲鳴を上げる。
「はぁ・・・はぁ、どうだ。バーベキューにしてやったぜっ」
 SPが尽きた彼は膝をつき、息を切らせる。
「まだ生きてるけど!?」
「くっ、しつこいやつらだ!」
 真の声に燃えながら原型に戻って飛んでくる兵を睨む。
「―・・・だが、俺の体力はもう・・・っ」
「そんなぁあ!?もうちょっと頑張ってよ!」
「すまない・・・、後は・・・任せた・・・。―・・・っ」
 ドサァアッ。
 そう言うと洋介は顔面から地面の上へ倒れ込む。
「しっかりして、洋介さん。洋介さぁああんっ」
「じゃあ頑張ってね、まことん♪」
「四季さん酷っ!?1人だけ安全地帯に避難しないでよ!あんなの霜橋でも・・・っていうか、接近戦なんて無理だよっ」
 一歩間違ったら火が自分たちに燃え移ってしまうと、真がぎゃぁぎゃぁと騒ぎ立てる。
「こっちに来るっ。うわぁあああっ!!」
 もうお終いだ・・・。
 諦めかけたその瞬間・・・!
 プシャァアアアーーーッ。
「・・・・・・G、殲滅あるのみ・・・・・・」
 氷殺殺虫剤で凍結した虫たちが次々と死滅する。
 駆けつけてくれたセレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)が真たちを救ってくれた。
 ―・・・のだが。
「―・・・・・・G風情が。擬人化して略奪愛なんて・・・」
 殺虫剤を搭載した改造型散布機の持ち手を、ぎりぎりっと握り締めて死骸を見下ろす。
「何だと小娘が!我々の王子が、恋をしてはいけないという決まりがあるのか!?」
 セレアナの態度に腹を立てた兵たちが、ズンズンと彼女に詰め寄ろうとする。
「殲滅殲滅殲滅ーっ!」
 迫り来る大嫌いな集団を眼前に、理性の箍が吹っ飛ぶ。
「―・・・はっ!?想像している場合じゃないわね。早くやつらを全滅させてやらないと!」
 彼女の騒ぎ声にようやく、セレンフィリティは約20分の放送を停止する。
「あらら。セレアナが完全にキレちゃってるわ・・・。でも、その方がいいかもねっ」
 ターゲットを睨み、弾幕援護で集団の視界を封じる。
「人の恋路を邪魔する者は、私たちに蹴られて飛んでいってしまえーっ!」
 ズガァアアンッ。
 飛来し突撃してくる者たちをクロスファイヤーで消し去る。
「そこから先は立ち入り禁止よっ」
 ピシュゥウウーーッ。
 氷殺殺虫剤を満載した背負式肥料散布機で、排水溝へ足を踏み入れると同時に瞬殺する。
「向こうにあるハウスへ、やつらを追い込んで欲しいのですぅ〜」
「おっけ、分かったわ!セレアナ・・・って、無理そうね」
 諷嘉に頷きパートナーに伝えようとするが、殺虫剤が切れてバーサークモードのスイッチオンしてしまったセレアナの耳にはもう届かない。
「もうっ、こっちのことも考えてよねっ。―・・・聞いてないわよね、やっぱり。ていうか、惨い・・・」
 角材を振り回すようにランスを振るう彼女の姿にどん引きする。
 チェインスマイトをくらい、ビシャッとランスに張りついた死骸に、思わず顔を顰める。
「そこにも・・・G・・・・・・!殲滅ーーーっ!!」
「きゃわぁあ!?諷嘉ですぅう!」
「今のセレアナには同じに見えるのよっ。そのままハウスの方へ誘導するしかないわね」
「ええぇえん、そんなぁ〜」
 黒い集団に紛れてしまった諷嘉も狙われ必死に走る。
「ちくしょう、あの中に逃げ込むぞ!」
「おっ、上手そうなものがあるじゃないかっ」
 テーブルに置かれたハンバーグとクッキーの匂いを嗅ぎつけた集団がハウスへ飛び込む。
 ぬちゃぁあっ。
「うぎゃっ!?なんだこれ、べたべたするぞ!?」
「あいつが来るぞっ」
「うぁあ、足がー!床にくっついて剥がれんっ」
「殲滅殲滅殲滅殲滅ーーーっ!!」
 ブォオンッ。
 ランスでぶったたかれた兵たちは、べったりと床に張りついてしまう。
「いやあぁですぅう」
 頭を抱えて諷嘉が芝生に伏せた瞬間、兵の頭部が粉々に吹っ飛ぶ。
「―・・・・・・っ!?あ゛ぁ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛あ゛あ゛ーーー!!!―・・・・・・」
 SPを使い果たしやっと理性を取り戻したセレアナは、眼前の屍に壮絶な絶叫をし、フッと気絶してしまった。
「セレアナ!!」
 ハウスの中に生き残っているやつを殺虫剤で始末した後、セレンフィリティは彼女の元へ駆け寄り抱きかかえる。
「これは・・・とても壮絶なシーンが撮れたわ!」
 パシャリッ。
 木の陰から美羽が2人の写真を撮る。
「いやぁ〜敵さんたちがぁ〜諷嘉よりおバカさんでよかったのですぅ〜。でも、セレアナ殿が向かってきた時は、ちょっとビックリしちゃったですけどねぇ〜」
 諷嘉は頬をぽりぽりと掻き、気絶しているセレアナを見ながら、いつも通りのまったりとした口調で言う。
「うふふ、新しいレシピがまた一つ・・・!」
 ゆっくりと近寄る四季に、身の危険を感じたのか、胴体を潰された兵が人の姿に変身する。
「・・・あら、人に戻っちゃったの?ダメじゃない甲殻類のフリして恋路の邪魔したら♪」
「いや四季さん。油虫は甲殻類じゃなくて、昆虫・・・」
「どっちでもいいわ。調理するんだもの、まことんが♪」
 真の突っ込みを無視し、ニッコリと黒い笑みを浮かべる。
「―・・・あっ、四季さん!あそこに珍しい食材が!」
「えっ、どこ!?」
「あのー・・・食材にされる前に退散したほうがたぶんきっといいかなぁ・・・と。君たちのことは・・・正直、苦手だけどね・・・」
 四季が余所見をしている隙に、真が逃がしてしまう。
「んもう。どこにもないじゃないの。って、あら。まことん、もしかして逃がしちゃったの?ふふ、お灸にはなったかしら?」
 “諦めたなら逃げてもいいわ”というふうに、口元に片手を当ててクスクスと笑った。